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ちょこっと! ~異世界パティシエ交流記~  作者: 笹桔梗
第3章 初めてのクエスト編
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第97話 コロネ、訓練について聞く

「わたしはあまり力が強くないの、ね。だから、相手の裏をかくことを、戦闘の軸としているの。これは、たぶん、レベルの低い者にとっても、同じことが言えるか、な」


 少なくとも、サイファートの町周辺にいるモンスターは、今のコロネには太刀打ちできない種族ばかりだという。

 単純に、力や魔力を鍛えるだけだと、町の外に出るために必要なところまで能力アップするためには、かなり時間がかかってしまうとのこと。


「ラビとか、ミキとかだって、日々のトレーニングはしている、よ。あんまり子供だけで外に出ることは許されないけど、いつか、のために頑張っているってわけだ、ね。一朝一夕で、すんなり成長できるわけじゃないから。だから、コロネもあんまりすぐに外へ行こうって思わないことか、な。こと、命に関わるから、焦っちゃダメ。そうせざるを得ない状況なら仕方ないけど、好き好んで、自らの命をさらすようなことはしちゃダメだ、よ」


「わかりました」


 メイデンの真剣な口調に、はっきりと頷く。

 訓練を始めたからと言って、そう簡単に強くなれるわけではないってことだ。


「少なくとも、わたしがゴーサインを出すまでは、外に出ちゃダメ、ね。まあ、すぐに強くなることができれば、別だけど、ね。じゃあ、訓練を始めるわけだけど、まず、コロネに確認しておきたいのは、今のコロネには何ができるのかってこと」


「今のわたしにできること、ですか」


「そう。スキルでも、魔法でもいい。スキルには表示されないような、今まで培ってきたものでもいい、の。コロネだったら、料理とかもそうか、な。そういうのはスキルには現れないけど、割と応用できることもあるの、ね」


「え、料理とかもですか?」


 戦闘に料理って、何か役に立つのかな。

 ああ、オサムの場合も包丁技とかがあったか。あれ、でも、それは『包丁人』スキルの話だよね。ちょっとよくわからない。


「そう。今まで、どういう風に日々を過ごしてきた、か。実はそれらの積み重ねが戦闘には役に立ったりするの、ね。というか、何でも使えるものは使うってのが、わたしのやり方。だから、コロネにもそうしてもらうだけか、な」


 例えば、とメイデンが続ける。


「コロネは、お店の給仕をやっているよ、ね? あの時、どういう風にお店を見ているか意識して思い出せる?」


「えっ、給仕の時ですか?」


 ふむ、給仕の時の見方ねえ。

 改めて、そう聞かれると困ってしまう。

 そういう動きは無意識にやっていることだから、説明するとなると難しい気がする。


「わたしの場合、お店の全体に意識をはわせる感じだ、よ。テラスで食事をしているお客さん、パンを選んでいるお客さん、お店に来店するお客さん。それらの動きを何となく、万遍なく把握している感じだ、ね。あと、ピーニャたちがパンを焼いているところとか、料理人さんたちが追加を作っている状況とか、ね」


「ああ、そういうことでしたら、わたしもそうですね。オサムさんのお店の場合、食べ終わった後に追加注文とかもありますから、そちらを意識しながら、調理場からできあがった料理を運ぶ感じですね。リディアさんがひっきりなしにお代わりを注文しますので、そっちに対応しつつ、料理の出来あがりの状況と、お店の状況を全体的に見ていくと言いますか」


 メイデンが例えを出してくれたので、思い返しやすい。

 確かに、一点に集中しているというよりは、絶えず、全体に注意を広げている感じだろうか。


「うん。じゃあ、早速、ポイント。戦闘時、あるいは戦闘がなくても、町の外を移動しているときは、そういう視野の使い方を意識してみて。周辺視っていう使い方の応用か、な。なるべく、意識を広げていくのが大事。別に、常に緊張している必要はなくて、リラックスした状態で大丈夫だ、よ。コロネも給仕の時は、そこまで緊張していないよ、ね? 元々給仕経験があるって言っていたし、ね」


 慣れと経験で、ゆとりを持った状態で視野を広げることができるようになる、とメイデンが笑う。

 なるほど。


「ということは、普段、当たり前にやっていることでも役に立つことがあるってことですか」


「そう。実は、この視野の使い方は、不意をつかれないために、かなり重要な要素なの、ね。モンスターの気配や姿が見えない場所でも、どこからともなく、遠距離攻撃の魔法が飛んできたりすることがあるんだ、よ。たぶん、護衛とかつけていても、被害が出てしまうのは、こういう状況か、な」


 緊張が緩和した状態で、予告なく、遠距離魔法が来たりする。そんな時、何か他のことに気を取られていると、護衛でも不意をつかれることがあるのだそうだ。

 特に、対象が自分ではない魔法については。

 確か、メルも言っていたが、敵意がない魔法は回避がしにくくなるため、なかなか難易度が高いのだとか。


「あるいは、戦闘中に遠くから魔法が飛んできたりとか、ね。集中しなければいけない状況で、肩の力を抜いて、意識を広げるのは経験を積んでいても難しいことだから、ね。だからこそ、普段から意識できる場所で、そういう対応について、蓄積していくの。それがいざという時の明暗を分けることになるから、ね」


 なるほど。

 つまり、戦闘訓練という場、だけでなく、普段からも意識して感覚を磨いていくタイミングは色々あるってことなんだ。勉強になるね。


「だから、コロネはわたしとの戦闘訓練では、常に、給仕での視野の使い方を意識してみて。今日は初日だからしないけど、今後は不意打ち対策として、色々と仕掛けておくようにするから、ね」


「わかりました」


 うわ、色々と仕掛けておくんだ。

 おっかないけど、仕方ない。こういうのは、身体が反応できるまでは、ひたすら経験あるのみだろう。


「うん。今の説明は、戦闘などの際の意識の使い方について、ね。次は、コロネの持っているスキルや魔法がどんなもので、どのくらい使えるのか、その現状評価をしていく、よ。そうしないと、どのくらい成長したか、わからないから、ね」


 現状評価というのは、スキルの使用回数や、魔力の上限などの把握なのだそうだ。

 ステータス上には、数値が一切表示されないため、訓練などで教える立場にいる者は、教わる相手の能力を見定めることが大切なのだとか。

 確かに、そういうのは重要だろうね。

 それにしても、聞けば聞くほど、このステータスって役に立たないね。

 結局、何のためにあるんだろうか。

 冒険者ギルドの認証くらいしか、ほんと使い道がないみたい。


「それで、わたしはどうすればいいんですか?」


「コロネはまず、どういうスキルを持っているか、教えて、ね。あ、隠したいスキルがあったら、言わなくてもいい、よ? 基本、他の人のステータスはわからないようになっているから、言いづらかったら、隠すこともできるから、ね」


 あくまでも、自己申告以上のスキルまでは把握できないそうだ。

 まあ、隠すことによってメリットデメリット両方があるので、そのあたりは個々の判断でいいとのこと。

 とは言え、コロネの場合はけっこう、みんなに言ってしまっているから、今更だよね。それに教わる立場なのに、隠すっていうのも相手を信頼していないようで、何だかなあと思うし。まあ、相手によるけど、メイデンには伝えても大丈夫かな。


「今のところ、スキルはふたつです。チョコレートを生み出す『チョコ魔法』と『身体強化』。それだけですね」


 あ、『自動翻訳』も一応、スキルか。

 でも、これはさすがに関係ないよね。ふたつって言った後で気づいたけど、まあ、置いておいてもいいかな。うん。


「『チョコ魔法』……聞いたことがないけど、ユニークスキル? いいの? わたしが聞いちゃっても大丈夫? オサムの『包丁人』とか、応用性の高いものは問題ないだろうけど、特殊魔法はあんまり知られない方がいいかも、よ」


「メイデンさんが秘密にしてくれれば大丈夫ですよ。他にも知っている人が何人かいますし。わたしの場合、スキルが少ないですから、『チョコ魔法』についても相談しないと、どうしようもないですから」


 チョコレートの希少性から、あんまり大っぴらにはしたくないけど、塔の関係者なら話してもいいと考えている。そこで疑ってかかっても仕方ないし。

 心配そうにしているメイデンを見る限り、そういう心配は無用だろう。

 第一、協力してもらっているのはコロネの方なのだから。


「で、『チョコ魔法』っていうのは、わたしの故郷のお菓子、チョコレートを生み出す魔法です。それ以外にどういう使い道があるのかはさっぱりですね」


 一応、召喚魔法の可能性もあるんだっけ。

 それについては、明日の朝、コノミさんに相談することになっている。


「チョコレート、ね?」


「はい。あ、折角ですから、ひとつ食べてみます? どちらにせよ、魔法を見せる必要がありますよね?」


「うん、じゃあ、お願いできるか、な」


 メイデンの言葉に頷くと、手のひらに意識を集中させる。

 ポン、という音と共に、一口大のチョコがひとつ生み出される。

 うん。

 この魔法だけは、意識しただけで簡単に使えるんだよね。

 なんでだろう。本当に謎だ。


「はい、どうぞ。これがチョコレートです」


「ありがとう、ね。それでは……うん!? すごい……この甘さと複雑な味のバランス。今まで、コロネが作った料理を食べさせてもらったけど、この、チョコレート、それらと比べても全然違う、ね。うわあ、口の中に入れただけで、幸せな味だ、よ」


「まだ、材料不足で、今のわたしには普通に作れませんけどね。これは、わたしが元いた世界で作っていた料理のひとつです。いつか、こっちでもここまでたどり着きたいですね」


 やっぱり、今まで味見してもらったお菓子とは違う、よね。

 悔しいけど、今のコロネではこのチョコレートは作れない。

 本当は、リディアの注文に対して、チョコバナナとかも考えていたんだけど、やめておこう。魔法のチョコを使った料理だと、何となく悔しいだけだから。

 目の前で、嬉しそうな表情を浮かべているメイデンを見ながら、改めてそう思う。


「ねえ、コロネ。このチョコレートって、精神攻撃系の魔法じゃないよ、ね?」


 ちょっと美味しすぎる、とメイデンが言う。

 いや、さすがにそういうのではないと思うけど。


「ええと、向こうのお店の味と同じですから、さすがにそういうのはないと思いますけど……」


 ないよね?

 魔法の効果で、美味しく感じてましたってのは、嫌なんだけど。


「まあ、そういうのなら、さすがにオサムが気付くか、な。うん。ということは、このチョコレートって、こんなに美味しいんだ、ね。すごいね、コロネがいたところのお菓子って。今のでも十分美味しかったのに、更に上があるんだ、ね」


 そう言って、微笑んでいたメイデンだったが、すぐに顔を引き締めて。


「うん、じゃあ、改めて、この『チョコ魔法』の検証から行こうか、な」


 どういうことができるのか、そのチェックをするとのこと。

 そんなこんなで、コロネのスキルチェックが始まった。

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