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ちょこっと! ~異世界パティシエ交流記~  作者: 笹桔梗
第2章 サイファートの町探索編
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第91話 コロネ、魔法医の話を聞く

「じゃあ、後は頼むわ。わたしも隊長のとこに戻んないといけないから、あいさつとかはまた今度ね」


 そう言って、ブリッツは町の外へと出て行ってしまった。

 あらかた片付いたそうだが、まだスタンピードが残っているそうだ。

 とは言え、チャトランの治療完了をもって、警報状態は解除されていたみたいだし、もう心配はないらしいけど。

 うん。

 相変わらず、スタンピードが何なのか、よくわかっていないんだよね。


「ようやく、落ち着いたから、説明できるねぇ。コロネ、スタンピードってのは、はぐれモンスター同士の小競り合いのことだよぅ」


「え、モンスター同士の小競り合いですか?」


 はぐれモンスターって、遭遇したら襲い掛かってくるとは聞いていたけど、モンスター同士でも、それは変わらないのかな。


「そうだよぅ。闘争本能が強いんだから、当然、モンスター同士も一触即発って感じだよねぇ。まあ、一対一くらいなら大したことはないんだけど、複数対複数とか、種族同士のバトルとか、各種入り混じったバトルロイヤルみたいな、広範囲にわたる規模のものを『スタンピード』って呼んでいるんだよぅ。いわゆる、制御不能の暴走状態ってやつ」


 メルが笑いながら、続ける。

 すでに血の付いた衣類は片付けられていて、メルも新しいきれいな白衣に着替え終わっている状態だ。処置をしていた部屋も、事後対応が終わったから入ってきてもいいとのこと。ちなみに、クリスとギンは移送のために、もうすでにこの場にはいない。チャトランを連れて病院へ行ってしまっている。


「まあ、細かい定義は置いといて、だ。この辺りで一番厄介なのがスタンピードだな。とは言え、警戒していれば遠くからでもわかるし、スタンピードが起こっているエリアを避ければ済むだけだ。少なくとも、サイファートの町周辺でスタンピードが発生することはほとんどないからな」


 メルの説明に、ダンテも補足をしてくれた。

 スタンピードが起こっている場所というのは、明らかに空気が変わっているため、慣れればすぐにわかるようになるのだそうだ。裏を返せば、それがわからないようでは、まだまだ半人前ということらしい。


「この町の周辺は大丈夫なんですか?」


「うん、この町の周りではまず起こらないかなぁ。孤児院の辺りまでは大丈夫。あ、ロンの商隊の倉庫のあたりは範囲外かなぁ?」


「いや、メル、ロンのところもマッドラビットたちの縄張りだから問題ないぞ。で、コロネに説明すると、この町と孤児院を含む一帯は、ダークウルフの縄張り認定がされているんだ。だから、はぐれモンスターも寄ってこない。もし、縄張りに気付かず、入ってきた場合は、すべて駆逐されるだろうしな。別に、ダークウルフが町のためだけに防衛してくれているってわけじゃなくて、そもそも、この辺りが彼らの縄張りの一部を許可を得て、使わせてもらっている状態なんだ」


 へえ、やっぱりダークウルフとこの町は友好関係にあるんだね。

 結果的に、町の防衛機能に寄与してくれているのだとか。

 うーちゃんとか言っていたかな。

 コロネもまた会ったときは改めてお礼を言っておいた方がよさそうだ。


「で、ロンのところは、ダークウルフとの折り合いをつけるために、その縄張りの外側に宿舎と倉庫を置いているんだ。あいつのところは子飼いのマッドラビットたちがいるからな。同格のモンスター同士の棲み分けってやつだ」


「マッドラビットですか」


「そうだ。元々は、獣人によって作られた砂の国、デザートデザートの辺りにいるモンスターだな。向こうでは、もし遭遇すれば生存を諦めろって言われている、かなり危険なモンスターらしい。もっとも、この辺りにいるマッドラビットはロンに従っているから、無差別に襲い掛かってくることもないし、危険はないけどな」


「うさぎ印の運び屋が一目置かれているのは、その足としてマッドラビットを従えているからなんだよぅ。見た目はダークウルフとおんなじくらいの大きさのウサギで、ものすごく速く動けるの。さっきの高速移動といい勝負かな。それくらいの速さを長い時間維持できるから、すごいよねぇ」


「まあ、瞬発力ではダークウルフより劣るが、持久力は高いからな。長距離を走る際の安定性は折り紙付きだ。何せ、この町から大陸中央部の王都まで、半日くらいで行けるからな。それに、連中の強みは、その連携力だ。マッドラビットは同族間でテレパスが使えるからな。今回、チャトランの事故が発覚したのも、同行しているマッドラビットから、危険信号が伝わったからだ。それがなければ、気付くのがもっと遅れた可能性もある。そういう意味では運が良かったな」


 何だか、話を聞いているだけだと、ものすごいウサギのようだ。

 あの高速移動をずっと続けられるのか。

 それに、マッドラビットもすごいけど、そのウサギたちを従えているというラビのお父さんもすごい。まだ会ったことはないけど、何者なんだか。


「で、話を戻すと、スタンピードはその規模によって、周囲への影響が大きく変わるんだ。小競り合い程度ならいいが、種族間闘争となると、辺りにもその余波が広がるんだ。最も注意すべきは『流れ魔法』だ。今回の怪我もそれが原因だな」


「この辺りのモンスターは魔法を使える種族が多いからねぇ。たとえ油断してなくても、直接の敵意のない魔法は回避しづらいから、そのあたりは要注意だよぅ」


「だから、大規模なスタンピードを見かけたら、その場から離れて、別のルートを通るように注意を促している。コロネも町から出ることがあったら、気を付けるんだぞ。今さっき、ロンからスタンピードを片付けたとの報告があったが、簡単に片づけられる規模でも油断すれば致命傷を受けることもある。亡くなってしまっては手遅れだからな、その辺は肝に銘じておけ」


「わかりました」


 たぶん、町の外に出るというのは、気軽に考えてはいけないことなのだ。

 特に、このサイファートの町の周辺の場合は。

 死んでしまっては助けられない。

 これは、心の手帳に刻んでおこう。


「まあ、逆に言えば、さっきのを見てもらえばわかるけど、致命傷になる前に間に合えば、何とかできるよぅ。だから、必要以上に怯えないでね。たぶん、怖がることで、対応や判断が遅れるから、そっちの方が危ないよ? ま、コロネもメイデンから色々教わるんでしょ? その準備のために、わたしのところにも来てたからねぇ。だから、メイデンから戦闘に関するイロハを教わっておくといいよぅ」


「はい。ありがとうございます」


 お礼を言いながらも、少し驚く。

 メイデンがメルのところにも行っていたんだね。

 この後、夕方から色々と教わることになっていたけど、もう準備などで動いていてくれていたんだ。知らなかったよ。


「後は、何だろうねぇ、説明が棚上げになっていたことが、いくつかあると思うけど。うん、ひとまず、魔法とかの話でいいのかなぁ」


 そう言って、メルが移動の際に使った魔法についても教えてくれた。

 『高速移動』というのは、そういう名前の魔法ではなくて、メルがいくつかの魔法をまとめて、高速で移動できるように組み上げた魔法のことらしい。


「コロネにかけたのは、『限定付与』っていって、付与魔法の一種だねぇ。本職である、魔法屋のフィナが使うような高レベルじゃなくて、あくまで、一時的に同行者に保護や障壁、強化系の魔法を伝えるって感じかな。わたしが使い手として、その効果範囲を広げて、同行者全体にまで効果を届かせるのが『限定付与』だよぅ」


 なるほど。

 確か、人魚種の『水中呼吸』も限定付与で可能になると言っていたかな。

 これらのスキルも高レベルの付与魔法なら、魔法そのものを伝授することも可能なのかも知れないが、少なくともそのレベルまで達している者はほとんどいないとのこと。


「あれ? メルさんの方が、フィナさんより魔法のポテンシャルが高いって聞いたことがありますけど?」


「いやぁ、ジャンルが違うものは色々だよぅ。わたしの場合、付与魔法はほとんど使う機会がなかったから、苦手な分野になるんだよねぇ。付与魔法は使っている経験による蓄積も必要だから、わたしもまだまだだよぅ。ふふふ、こういうのって楽しいよねぇ」


 伸びる余地があるということは嬉しい、とメルが笑う。

 それだけ可能性が広がるから、だそうだ。


「まあ、何だ、それでもメルは規格外だけどな。『高速移動式』は移動の際の反動を抑える術式だろ、確か。あれは風と土と水をバランスよくコントロールする必要があるからな。そもそも、フィナにしたところで、通常の付与は与えられないはずだぞ」


「あれぇ? そうだっけ?」


「と言うか、元々メルのオリジナル魔法だろうが。理屈を聞いて、あっさり使えるようになったフィナもフィナだが、どっちもレベルが高すぎて、俺じゃあついていけねえよ」


 呆れたようにダンテが苦笑する。

 この町そのものも大概だが、町の中での普通のレベルでは、そもそも、ふたりの魔法についていけない者も多いのだとか。まあ、当然、同様のレベルの者も少なくはないそうだが、少なくともダンテはその中には入ってはいないとのこと。


「でも、ダンテにはダンテの取り柄があるじゃないのー、わたしからすれば、『遠話』スキルの使いたい放題ってのは魅力的だよぅ」


「おかげで、いいように使われている感が否めないんだがなあ……まあ、それも人生か」


 苦労人っぽく、肩をすくめるダンテ。

 何だかんだで、ずっと門番をやっていることには思うところがあるのかもしれない。


「まあ、それはどうでもいいけど。そうだねぇ、後は医療魔法についてかなぁ。今回は『魔糸』くらいしか使わなかったけど、こういうものも作れるんだよぅ」


 ちょっと見てて、とメルが両手を広げて見せた。


「行くよー。『魔刃生成』。はい、こんな感じね」


「うわ! すごい! これって、メスですよね。メスと……もうひとつは何ですか?」


 両手にそれぞれ、医療用のメスと、コロネには用途のわからないノコギリのような器具が生み出された。何もないところから、器具が現れた感じだ。

 これも魔法で作られているのかな。


「外科用のメスと骨を切るための骨切りだよぅ。何回か切開する度に出し直さないといけないんだけどねぇ。こっちは強度が必要だから、『魔糸』ほどは維持できないんだよぅ。まあ、ちょっと疲れるかなぁ」


「いや、普通は周囲の魔素を使っても、こんなことはできないからな。コロネもメルの言うことをあんまり鵜呑みするなよ。こいつの基準はおかしいからな」


 ダンテが忠告してくれるが、さすがに目の前で起こっていることが異常であることくらいはわかる。メルがあっさりやっているからといって、こんなことが簡単にできるわけがない。

 そもそも、コロネは基礎四種でつまずいているのだ。

 魔法を使うことの難しさは誰よりもわかっているつもりだ。

 あんまり、自慢にならないけど。


「でも、オサムも言ってたよー。医療行為の場合、衛生面が重要だから、可能なら、このやり方が一番なんだって。感染の心配がないからねぇ」


「いや、可能なら、だろうが。まさか、本当に可能だとは思っていなかったろうに」


 もう完全に呆れきっているダンテを尻目に、能力はすごいが、突っ込みどころ満載のメルによる説明が続いていくのだった。

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