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ちょこっと! ~異世界パティシエ交流記~  作者: 笹桔梗
第2章 サイファートの町探索編
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第87話 コロネ、プリンの報酬を受け取る

「リディアさん、優勝おめでとうございます」


「ん、まずまず。それにコロネのプリンも美味しかった。これは太陽の日も楽しみ」


 ちょうど、リディアと遭遇したので、お祝いの言葉を伝えておいた。

 コロネがボーマンに呼ばれてやってきたのは、お祭りの本部だ。

 ステージのすぐ側と言うこともあり、大食い大会に参加した面々もまだ何人か残っているようだ。すでにステージの方はというと、大食いのセットのようなものが片づけられていて、今度は歌などの催しに切り替えるようだ。

 早くも、ニコが準備がてらに、穏やかなテンポの曲を弾いており、それが魔道具を通じて、お祭り全体へと流されているようだ。ちょっとしたBGMといった感じだね。


 それにしても、準備や設営、解体までの流れが速い速い。

 確か、商業ギルドの有志一同という話だったけど、そういうお仕事もプロっぽい動きようだ。何だか、商業ギルドのイメージが、企画屋ボーマンとその仲間たちといった感じで固まってしまいそうだ。


「よーし、今回も盛り上がったなあ。おじさんはうれしいぞ。これもコロネの用意してくれたプリンのおかげだなあ。最近は、リディアが圧倒的な大差をつけて勝ってしまうことが多くてなあ、大会主催としても、いかに山場を持ってくるかが鍵になってくるからな。その点、今日のバナナプリンは足止めとしてはちょうどよかったぞ。食べ物の上限を設けているのと合わせて、リディアへのハンデといった感じだなあ。ギリギリの逆転劇が演出できれば、色々と盛り上がるぞ」


「あんまり露骨すぎると、不興を買いますので、それとなく、ハンデをつけるのがみそです。ボーマンさんもリディアさんもどんぶり勘定なので、他のギルドスタッフが毎回、一生懸命無い知恵しぼって頑張ってます」


 ボーマンの横に現れた女性が補足説明をしてくれた。

 というか、まずその服装に驚かされる。

 どう見ても、向こうで言うところの女性用のビジネススーツだ。

 背は低めで、キューティクルのあるマッシュルームカットに、真ん丸メガネをかけた、一生懸命系のできる女性といった感じの印象を受ける。


「あ、こちらが一方的に知っているだけですみません。商業ギルドの職員で、テトラと言います。種族は人間種です。一応、ボーマンさんが商売をやっていた頃、秘書として働いていました。その関係で、この町の商業ギルドでお仕事させてもらってます」


「こちらこそ、よろしくお願いします。料理人のコロネです」


 へえ、秘書さんなんだ。

 それなら、その格好も頷けるね。って、そんなわけあるかい。

 一応、恐る恐る、服装について聞いてみよう。


「ちなみに、テトラさんの服装って、こっちの世界でも秘書さんとしては普通の服なんですか?」


「あはは、たぶん、コロネさんもご察しの通り、オサムさんの発案ですよ。ただ、私の場合、この通り、ちんちくりんですので、この服のおかげで救われている部分がありますね。ちょっとした威厳じゃないですけど、初見の人でもきちんと話を聞いてくださるとか。ですから、気に入っていますよ」


 なるほど。

 普通は、どちらかと言えば、女性商人系の服装はこういうスーツ系ではなく、ちょっと色香が漂う系の服が主流なのだそうだ。ただ、そういったものはどうしても人を選ぶため、テトラの場合はきっちりしたビジネススーツというわけらしい。


「まあ、相手に舐められたら商売あがったりだからなあ。ハッタリも大事だぞ。能力ってのは必ずしも、外見ににじみ出るわけじゃないからな。まあ、おじさんみたいに一線を退いている者は別だが、商人においては見た目ってのは大切だぞ。少なくとも、意識して変えようと努力することで、簡単に伸ばすことができる部分だ。自分なりの魅力ってものを考え続けるのは、商人にとって必要なことだと、おじさんは思うぞ」


 ねじり鉢巻きにランニングシャツという出で立ちで、なかなか重要な話を語るボーマン。そこまで分かっているのに、自分はそういうスタイルなんだ。

 何というか、奥が深いね。

 そういうことにしておこう。


「あ、コロネさん、今のボーマンさんは逆です。侮られるための服装をしているんです。この町では商売する意志はありませんってことです。相手から一目置かれる衣装ではなく、親しみやすさを主眼とした衣装ですね。実際、この町ですと、侮られるということはありませんし、仮にそう思われても、商人としてのお仕事はしてませんから、関係ありませんしね」


「あ、そうだったんですね」


 それは失礼いたしました。

 やっぱり奥が深いね。色々と考えているんだ。


「あれ? ボーマンさんは今は商人じゃないんですか?」


 テトラの説明でも、確か過去形になっていたよね。

 確かにサイファートの町では、青空市くらいにしか関わっていないって話だけど、本職の方はないのかな。


「ああ、もうすでに商会の方は、息子たちに譲っているぞ。それなりに頑張っているようだなあ。おじさんの老後も安泰だと良いんだが、ま、商売のことだしなあ。何がどうなるかは、おじさんにもわからないなあ」


「ボーマン商会です。一応、王都でもそれなりには名の知れた商会ですよ。まあ、色々ありまして、ボーマンさんが上り調子の時期に、突然、『サイファートの町の仕事をもらったから、後は頼むぞ』って商会のトップから退陣しちゃいまして。今思い出しましても、あの時の騒動にはうんざりします。秘書の私に対応丸投げとか本気でやめてください。さすがの温厚な私も、『このクソ親父』と思ったことは忘れませんよ」


「はっはっは。あの頃はおじさんも若かったんだ。折角の面白い話を蹴るのも悪いからなあ。町から掲示された条件が、商会をやめることだったんだから、仕方ないぞ」


「いや、ですから、そういうことは事前に準備しておいてくださいって言っているんですよ。決断力と嗅覚は素晴らしいのに、ボーマンさん、そういうところはからっきしじゃないですか! 部下がものすごく苦労するんです、そういうの!」


 穏やかそうなテトラが、少しだけキレている。

 とは言え、言葉から受ける印象からは信頼も感じられるけどね。


「ああ、おじさんも優秀な部下に恵まれて幸せだなあ。まあ、実際、伸びる商会ってのはいい人材が肝だぞ。上にいる人間はそういう才能を潰さないのが大事で、そういった環境を整えるのが仕事みたいなもんだからなあ」


「まったく……さておき、話を戻しますと、ボーマンさんは商業ギルドに任じられて、この町の担当になりました。そのために、自分の商会から離れる必要があったわけです。実際、サイファートの町に商業ギルドを作るのは、本当に難しい話でしたしね。ある程度、信頼できる商人であることと、それだけの商人が自らの商会を手放すことは、本来、同時に条件を満たすことはありえません。それが商人ですから。最初はこの町は商業ギルドを作る気がまったくないと思っていたほどです」


「まあ、実際、必要ないしなあ。普通はそうなれば、商業ギルドによる締め付けでアップアップになるはずだが、この町の場合、商業ギルドが引いたところでまったく問題はなかったし、むしろ、はしごを外されたギルド側が困る話だったしなあ。結局、頭を下げて条件を飲まざるを得なかったってわけだぞ。まあ、王都のギルド連中にはいい薬だなあ」


 そう言って、ボーマンが楽しそうに笑う。

 今も、ボーマン宛てにギルド通達が色々と来ているそうだが、すべてのらりくらりとかわして、無視しているのだそうだ。


「まあ、この町で甘い汁を吸いたいだけの、何にも見えてないバカ商人に応じるつもりは、おじさんもないなあ。せっかく、町が繁栄して、結果的に商機が増えているはずなのに、それを活かそうしない連中が、ぶーぶー言って来ても、鼻で笑うだけだぞ」


 やっぱり、ボーマンはなかなかのやり手らしい。

 サイファートの町からの要求を満たしながら、商業ギルドとしての仕事も上手に回しているそうだ。


「ということは、ボーマンさんが、この町の商業ギルドのマスターさんってことですか?」


「うん? コロネには言っていなかったかなあ? おじさんが一応、ギルマスだぞ。まあ、青空市の管理以外は、大体が他の職員が全部やってくれるから、お飾りみたいなもんだがなあ」


「とは言え、元ではありますが、王都の商会序列の第三位ですからね。実態はどうあれ、ボーマンさんがマスターをしていることは大きな意味を持ちます。王側としても、サイファートの町を野放しにしているわけではない、という喧伝に使えますし、実情はさっぱりですが、表向きは商業ギルドとしての面目も保てるわけです。本当はお飾りではなく、もう少し頑張ってもらいたいところですが、そうしますと、今度は町側が提示している条件に引っかかるわけです。結局、ボーマンさんは、催しなどで町を盛り上げていく役割にいるのが一番無難というわけです」


 はあ、なるほどね。

 商業ギルドも難しい立場にいるんだね。

 確かに、外部商人が完全にシャットアウトという環境で、商人として町にいられるのは商業ギルドの職員くらいの話みたいだし。下手なことをすると追い出されてしまうのだろう。色々と大変だ。

 それにしても、ボーマンの商会が王都で、三番目の商会なんだ。

 けっこう、すごい人なんだね。


「そうそう、コロネにここまで来てもらったのは、他でもないぞ。プリンなどの報酬と盛り上げてくれたお礼を渡すためだぞ。必要経費については、わからなかったので、中を確認して、足りなかったら言ってほしいなあ」


「はい、こちらが報酬です。お受け取りください」


「あ、ありがとうございます。どれどれ……って! ボーマンさん、これが報酬ですか!?」


 テトラから小さな袋を渡されたのだが、中を確認して驚いた。

 金貨で十枚って。

 プリン五十個で十万円!?

 いや、さすがにこれはもらい過ぎでしょ。


「うん? 少なかったか? もう少し出しても大丈夫だぞ?」


「いや、むしろこんなにもらっていいんですか? 大食い大会は確かに盛り上がっていましたけど、それほど利益は出ていませんよね?」


「あっはっは、利益についてはコロネが心配しなくてもいいぞ。大食い大会は単なる見物だけじゃないんだなあ。ちょっとした娯楽も兼ねているから、そっちから収益が見込めるようになっているんだぞ。だから、これは正当な報酬分配だぞ」


「それに、このプリンの原料にはバナナが使われていますよね。そうなりますと、おそらくこのくらいで適正価格になります。サイファートの町周辺での入手が不可能な食材ですから。まあ、私たちも商売から足を洗っておりますので、現在の適正価格かと尋ねられますと難しいですが、王都でしたら、という基準で価格を設定してみました。ですから、お気になさらずに。この町で取引をする場合、儲けや欲は捨てないと危険ですから、その辺は気を遣っていますので」


「はあ……そういうことでしたら、ありがたく受け取っておきますね」


 やっぱり、バナナは希少価値が高いのか。

 オサムが頭を抱えていたから、何かあるとは思っていたけど。

 ということは、砂糖も同様にこの辺りでは入手不可能ということかな。バナナはリディアの手で取ってきてもらったから、価格についてはさっぱりだったんだけど、これで少しは把握できたかな。結果的に、大会に協力してよかったよ。

 そして、ボーマンの言葉から、やっぱり大食い大会の裏で何かやっていることは間違いなさそうだ。リディアが負けない限り、それも続いていくんだろうな。

 まあ、そのうち、コロネが知ることもありそうだ。


 なお、ボーマンたちと話をしている間にも、ステージの方では歌や踊りのイベントが始まっていた。先程は、くろきとしろきが空中でタップダンスを踊っていたし、ラビのお母さんのバーニーが歌を披露していた。

 バーニーは『反射』スキルというものも持っているらしく、歌を輪唱のような感じにして盛り上げていた。ちなみに、歌と踊りの伴奏はニコとアンプが引き受けているようだ。

 弾き語り以外にも、色々と手伝っているんだね。


「それじゃあ、手間をかけさせて、悪かったなあ。コロネは引き続き、『生誕祭』を楽しんでくれると嬉しいぞ」


「商売がらみで困ったことがありましたら、商業ギルドまでどうぞ。色々と相談に乗れると思いますよ」


「はい、ありがとうございました」


 ふたりにお礼を言って、コロネはステージの方へと向かった。

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