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ちょこっと! ~異世界パティシエ交流記~  作者: 笹桔梗
第2章 サイファートの町探索編
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第85話 コロネ、大食い大会を観る

「さあ、参加者が一斉にカレーライスを食べ始めたようだが、今日の展開予想はどうなんですかい! 解説のプリムさん、どうぞ!」


「そうですね。カレーライスと言えば、過去の大会でも速い展開が人気になっておりましたね。比較的飲み込みやすい食材ということもあり、一見すると、ハイペースで食べられるように見えますが、その分、限界に達するのもすぐですので、各々、ペース配分には注意が必要な題材だと思います。侮れません」


「なるほど! なお、参加者に改めて伝達だぜ。おかわりの際は、食べ終わった証明として、挙手の上、自分の口で『おかわり』と言ってもらうよう頼むぜ。なお、次から次へとやってくるおかわりコールに対応するのは、商業ギルド有志の『ハイスピード裏方軍団』だ! 今日も彼らのおかげで、大食い大会が成り立っているってわけだ! そっちの動きにも注目してもらえると、よりいっそう楽しめるぜ、こんちくしょー!」


 うわ、大食い大会って目の前で見たのは初めてだけど、思ったよりもすごい迫力だね。みんな、鬼気迫るというか何というか。

 一皿一皿に盛られたカレーライスの量もけっこう多めのようだ。

 向こうのテレビとかでいうところの倍くらいの量が入っている。

 それをそれぞれが、自分なりのスタイルで食べ進めている。リディアの横にいた細身の女性は顔と同じ高さに皿を持って、スプーンを平行に動かしているし、『三羽烏』のトライはカレーのルーとライスを最初に全部混ぜてしまってから食べているね。ラビは水を交互にとって、一気に流し込む作戦かな? へえ、色んな食べ方があるんだね。

 一方のリディアはというと、普通に食事を取るかのように淡々とスプーンを口に運んでいるようだ。特に食べ方に工夫はないみたいだし、しっかり咀嚼もしているようだ。まあ、運ぶペースと飲み込むまでの速さが尋常じゃないんだけど、それでもスプーン一杯の山盛りがスッと口の中に消えていくのは、見ていてきれいな食べ方だ。

 むしろすごいよ。


「おおっと! 早くもおかわりが出るか!? 開始からまだ一分も経っていないぞ、こんちくしょー。さて、ここで最初のおかわりが出る前に、サプライズについて、公開許可が出たから話すぜ。次のターンではカレーのおかわりと同時に、プリンが供されるということだ。……あん? おい、そこでカンペ出してるスタッフ。プリンってのは何だ!?」


「ちょっと待ってください! わたくしも聞いておりませんよ!? 何ですか、バナナプリンって!? また新しい神の食べ物ですか!? ちょっと失礼!」


「ああ! プリムさん! スタッフの首絞めないで! あなたも味見していいって、指示が出てますから! 舞台を壊さないで! お願いだから、こんちくしょー! って早! 一瞬でプリンとやらを持って、解説席に戻ってるし! ていうか、ここまで取り乱したプリムさん、初めて見たよ、俺様! ええと、ああ、そうだそうだ、プリンについての説明だな。ええと、何々? 今回は甘い物の料理人から協力が得られたので、この場でサプライズとして、新メニューを提供してもらったってわけか。ああ、成程成程、俺様は町を離れていたから、直接は知らねえが、例のオサムんとこの新しい料理人か。で、そのプリンだが」


「そこから先は、プリンの奴隷ことプリンソムリエのわたくしにお任せを。プリンというのは、パティシエのコロネ様が作っている、お菓子という甘いジャンルの料理のひとつです。基本はたまごとミルクと蜂蜜などによって作られているそうです。冷蔵庫で冷やして食べる冷たい料理ですね。一口にプリンと言っても、材料や製法によって、千差万別。無限の味わいが楽しめます。食感もぷるんとしたものから、とろりと口の中へと消えていくものまで、ちょっとした夢心地のような感じが致します。今日用意されたプリンは、わたくしも初めて食べましたが、今までにない果物の甘さが口いっぱいに広がって、ああ……何とも言えず、幸せな感じになれますね。そして」


「ちょっと! ちょっと待って! プリムさん、少し落ち着いて!」


「何ですか。まだまだ語り足りないですよ。わたくしの邪魔をするというのでしたら……」


「いや、そうじゃなくて、もうおかわりが出始めているんだってば! そっちが本来のお仕事でしょ!?」


 うわあ、何だろう、この混沌とした状況は。

 何というか、プリムのプリンに対する本気度が違う。いや、こっちも彼女が解説をしているなんて知らなかったもの。これ、わたしのせいじゃないよね? うん、とりあえず、そう思うことにしよう。


「仕方ありませんね……プリン教の布教は次の機会にしますか。気を取り直して、おかわりですね。というより、実況も司会のお仕事でしょう。手早くしてください。わたくしはプリンを食べる方に集中することにします」


「ああもう! 俺様の扱いひどすぎない!? わかったよ、こんちくしょー! おかわりの先陣を切ったのは、意外や意外、『黒き石工』ビアンコと『痩せの大食い』シャーリーのふたりだー! それに『大食い女帝』リディア、『時間制限がなければいいのに』ガーナ、『書類仕事はもう飽きた』ドラッケン、『カレーは飲み物』リッチーと続くー!」


 何だか、プリンのせいで軸がぶれちゃった気がするけど、何はともあれ、大食い大会だ。最初のおかわりはリディアじゃないみたいだね。ビアンコがさっきの黒人の人で、シャーリーってのが始まる前にリディアと話していた女性の名前のようだ。

 そして、ガーナってのが象の獣人の人だ。それにしても、大食い大会だと、参加者それぞれに二つ名みたいなものがついているみたいだけど、途中からの紹介にはグチみたいなのも混じっているよね。もはや、大食いと関係ない気がする。


「なお、このターンに限り、プリンをおかわりしてもいいそうです。一応、五十個ほど用意されておりますので、ひとり一個確保して、余った分はおかわりとして開放すると、大会本部よりお達しが出ておりますね。食べた量はカレーライスの大食いとは無関係ですので、あくまでおまけ要素ですが。ふむ……それではわたくしも……」


「いや! わたくしもじゃないって!? ああもう、プリムさんは置いといて、プリンに関する情報を続けるぞ。すでに『グルメ新聞』の方でも載っていたらしいな。おかげで興味のあるものも多数だとさ。まあ、さっきプリンと言った時の観客の反応からもそれはうかがえるがな。おい、大会本部、もっと前にプリンの情報を出してたら、もっと参加者が増えたんじゃねえのか? あん? サプライズが決まったのは申し込みを締め切った後だ? 何だ、そりゃ!? こんちくしょー! まあいいや、で、その筋からの情報によれば、プリンの販売については今後も予定されていないという話だ。いやいや、待て待て! この話には続きがあってな。何でも、プリンの作り手が、ああ、コロネだっけか? そいつがプリンに関しては冒険者ギルドなどの依頼の報酬用とすることにしたらしい。今、サプライズ提供のお礼として、ここで告知をしておく、って、なるほどそういうことか」


 へえ、『グルメ新聞』の記事になっていたんだね。

 それは知らなかったよ。観客の人も知っていたってことは、王都だけじゃなくて、この町でも入手できるのかな? 今度、リッチーかアンジュに聞いてみよう。

 それに、告知って。

 そんなことは頼んだ覚えがないんだけど、誰がやっているのかな。

 もしかすると、ブランのクエスト依頼の件から、冒険者ギルドあたりから告知協力があったのかも知れないね。そういうことも手伝ってくれるって言ってたし。


「近日中に、クエストの依頼があるかも知れないそうです。興味のあるかたは、冒険者ギルドまでお越しください。以上がプリン関連の告知ですね。なるほど、近日中ですか……」


 プリムが告知を知って、真剣な顔で思案しているようだ。

 いや、プリムさん、あなたには取引があるから、普通にプリンを提供できるんですけど。もしかして、気付いてないのかな? それとも、別の思惑でもあるのかな。プリン教の布教とか、かなり気がかりな単語を口にしていたような気がするんだけど。

 うん。

 ひとまず、その辺りは棚上げしよう。色々とこわい。


「ああっと! 他の参加者も続々とプリンにたどり着いているぞ。そして、シャーリーは早くもカレーライスを二度目のおかわりだー! プリンを食べてほっこりしていたのは一瞬か!? ちなみに、プリンについては、プリムさんによる無言の圧力、『味わって食べないと許しませんよ』オーラがすごいせいか、誰もがゆっくりと味わって食べるという、大食い大会では不思議が光景が広がっているぞ! そりゃそうだ! このメイドさんに逆らおうって物好き、俺様も見たことがないぜ、こんちくしょー!」


「あんまり人聞きの悪いことを言っていると潰しますよ? さておき、シャーリー様はなかなかの良いペースですね。リディア様のライバルを自称しておられますし。おそらく参加者の中でも最も冷蔵庫に近い方ですね」


「一方、シャーリーからライバル視されている女帝はというと、延々とプリンをおかわりしているぞ!? しかも、ゆっくりと味わっているようだ。ちょっと、今のうちに声を聞いておこうか。おい、リディア。そんなにゆっくりで大丈夫か?」


「ん、しっかり味わう。美味しい。そうしないと作った人に失礼」


「おい! 聞いたか、皆の衆! 大食い大会にも最低限の品位ってものが大事だってことだぞ。闇雲に食い散らかすだけじゃ、この王者には勝てねえぞ、こんちくしょー!」


「うるせえ、ピッケ! んなことはわかってんだよ!」


「そもそも、品位を保って勝てるなら、もう勝ってるじゃないの!」


「リディアと同じ土俵にあがったら、勝ち目ないもんね。今のピッケの論理は、強者が弱者に正々堂々を強要するくらい卑怯なことだよ?」


「ふうむ、道理ではありますがね。この用意されたカレーもぐらうまです。本来ならゆっくりと味わいたいところではありますが……」


「はっはっは。リディアがプリンでゆっくりしてもらっている間に、規定量を食い切って、先行逃げ切りが一番可能性がありそうだ」


「あー、プリン美味しいね。出てよかったね、ラビ」


「つーか、ナズナだけだと心配だから、俺も出たけど。出た以上は、冷蔵庫を目指すぜ! まあ、それはそれとして、このプリン美味いな」


「まあ、とりあえず、何だ。司会者は引っ込んでろってことだあな」


「相変わらず、俺様への対応、ひどくない? ねえ、ちょっとだけ泣いてもいい? 俺様のチキンハートもそれなりには傷ついているんだぜ?」


「はあ。まあ、適当に泣いていてください。さて、現在の状況ですが」


「だから、流すなよ! こんちくしょー! わかったわかった、現在の状況だな。食べ始めて三分の一の時間が経過したぞ。プリンのせいか、いつもよりもカレーライスのペースがゆっくりだな。トップがシャーリーの五杯で、それに続くのが、ビアンコというのは変わらず、ここで、プリンを食べ続けているリディアを抜いて、ドラッケンと、おおっと、『三バカ』のトライも上がってきたか!? ちょっとガーナは遅れているようだな、まあ、仕方ねえ、ガネーシャは量は食べられるがスピードはゆっくりだしな。長時間の大会に期待と言ったところか。リッチーは味わう方へとシフトしてしまったのかー!? 『カレーは飲み物』じゃなかったのか!?」


「ん、カレーは飲み物じゃない。しっかり味わう」


「おおっと、王者から至言が飛び出したー! そしてリディアがついに動くか!? その気配を感じて、他の参加者のペースもあがっていくぜ、こんちくしょー!」


 これでそろそろ、大会も残り時間が半分くらいだね。

 参加者同士での応酬もちょっとずつ増えているようだ。

 そして、食の細い者の手がゆっくりになってきているのも見える。

 さすがに、ラビやナズナは他のメンバーと比べるとちょっと厳しいかな。

 と、その時、ナズナが席を立った。


「じゃあ、そろそろ本気で行くよー。スキル『半獣化』」


 途端にナズナの姿が、変身していく。あ、こういうのが変身系のスキルなんだ。

 ほとんどの人は『人化』をしてしまった後だから、初めて見たよ。

 そうして、ナズナの下半身が馬のように変化した。


「おおっと! 『ほんわかケンタウロス』ナズナが本領発揮か!? この姿になることで、食べる量を増大させる作戦だー!」


「これで、胃と腸の容量がアップだよー。それじゃあ、追い上げるよー」


 そう言って、カレーをハイペースで食べ始めるナズナ。

 瞬く間に、今食べているお皿を空にして、おかわりしていく。


「さあ! 残り時間は半分を切ったぜ! ここからは、各人のスキルラッシュになるか!? 切り札は見られるのか!? そして、遅れているリディアの巻き返しはどうなんだ!? まだまだ目が離せない展開だぜ、こんちくしょー! そして、残りのカレーとごはんの量はどうだ!? 空になるのか先か、時間いっぱいになるのが先か!? さあ、どうなる、今回の大食い大会の結末は!?」


「続きは告知の後で」


「いや、もう告知ねえよ! こんちくしょー!」


 そんなノリのまま、大食い大会が続く。

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