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ちょこっと! ~異世界パティシエ交流記~  作者: 笹桔梗
第2章 サイファートの町探索編
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第82話 コロネ、がらくたに驚く

「号外、号外だよー。お祭り関連の時間新聞を配布中だよー」


 ミーアたちの屋台を離れてから、すぐのところでアンジュが新聞を配っているのを見つけた。ちょっと離れた場所にはリッチーもいる。

 どうやら、『グルメ新聞』の記者ふたりで、この生誕祭の時間新聞を担当しているらしい。そんな新聞初めて聞いたけど、イベントの時はたまに手伝うのだとか。


「はい、コロネさんもどうぞ。今日の大まかな屋台配置やオススメが書かれてます」


「どうもありがとう。うわ、ちゃんとマップもあるんですね。これはわかりやすいです」


 アンジュから新聞を一部受け取る。

 向こうの世界でいうところのパンフレットみたいなものだろう。

 もしかすると、商業ギルドでも用意しているのかもしれないけど、ふたりが配っているのは、各店舗のメニューや味についても書かれているため、とっても便利だ。

 ただ、どうでもいいことかもしれないけど、ちょっとアンジュの服装がセクシー過ぎるように見える。ノースリーブの半透明な布でできた服、そしてその下にはビキニの花柄水着って、これも仮装なのかな。

 汗でスケスケの服が肌に張り付いているせいか、単なる水着姿よりもいやらしい感じがしてしまうのだ。


「アンジュさん、何ですか、その透明な服は」


「あーうー、それについては気にしないでください。罰ゲームみたいなものです、ええ、そうなんです。まったく……あの子が逃げるから、私まで巻き込まれるんだから……ああ、もう……」


 心底疲れたような表情で応えるアンジュ。

 途中からは、コロネに言っているというよりも単なる愚痴みたいになってるけど。

 まあ、よくわからないけど、あんまり触れない方が良さそうだ。


「まあ、別に恥ずかしいわけじゃないですよ。このくらい普通ですから。しかしながら、記者として活動している時は、こういう格好ですと、色々と面倒なんですよ」


 色目使われたりとか、食欲とは別の方向に話が進んじゃうとか。

 そう言って、アンジュがため息をついた。

 ともあれ、本人はそこまで、この格好については嫌がっていないみたいだ。

 ふうん、こっちの世界の感覚って進んでいるんだね。

 さすがにコロネも人前で同じ格好をしろと言われると、ちょっと困るレベルだけど。


「へえ、ドムさんのところは串焼きをやってるんだ」


「あ、結構人だかりができてましたよ。どれでも一本銅貨五枚だそうです。なかなかのボリュームで、女性でしたら、一、二本でもおなかいっぱいになる量です。さっき行った時はリディアさんも来てましたけど」


「あれ、確か大食い大会も出るはずだったと思ったけど」


「まあ、あの人は規格外ですからね。軽い調整みたいなものじゃないですか。すごい串の量になってましたが」


 売り切れ注意ですね、とアンジュ。

 それにしても、リディアも話題に欠かないね。

 食べ物あるところにリディアあり、といった感じだ。

 まあいいや、それよりも何か変わった屋台はないのかな。


「商業ギルドによる、地酒の飲み比べコーナーに、ジーナさんのとこの調理器具販売かあ。あと、教会も出店しているみたいだね。それと……うん? ええと、これは……『がらくた屋』?」


 何だか、ひとつ変なお店、というか異彩を放っているお店があるね。

 何だろう、この『がらくた屋』って。


「ああ、それはある意味、イベントの名物みたいなものですよ。たまにやってくる外部の方のお店です。ちょっとめずらしいものを売っているみたいですよ。ほとんどが何に使うのかわからないガラクタばかりですけど」


「あれ、外部の商人さんがやって来ているんですか?」


 確か、商人については完全にシャットアウトと聞いていたんだけど。


「ああ、その方は商人ではありませんから。冒険者というか、トレジャーハンターですか? 私もよくは知りませんが、そういうお仕事の方らしいです。物を売るというよりも、コレクションを持ってくるだけ、といった感じです」


「へえ、ちょっと行ってみようかな」


 何だかよくわからないので、ちょっと興味がある。

 謎のお店って感じだね。


「でしたら、ここから向こうにもう少し行った、青空市の外れの方ですね。さすがに食べ物の屋台と並んでは出店できませんから」


「ありがとうございます。ではさっそく」


「いいえ。しばらくしたら、また新聞が更新されますので、どうぞよろしく」


 そんなこんなで、アンジュと別れた。

 その後で、ひとつ聞き忘れたことに気付いた。


「この新聞の印刷って、どうやっているんだろ?」


 何事もなく、受け取っていたけど、その辺りは謎だ。

 魔法か何かを使っているのかな。整っているから手書きっぽくないし。

 まあ、いいか。そのうち聞く機会もあるだろう。

 気を取り直して、『がらくた屋』に向かうことにした。





 地図の場所に着くと、確かに『がらくた屋』といった感じのお店があった。

 アンティークショップと言うと整いすぎているかな。それでも、ゴミ屋敷というレベルではないし。一応は、謎のジャンク類が所せましと並べられているようだ。

 これがコレクションってことは、保管はアイテム袋かな。

 食品系以外は、そういう使い方で問題ないって言ってたものね。


 お店には、コロネの他にも品物をのぞき込んでいるお客がちらほらといた。

 さすがに子供の姿はないかな。

 いや、おもちゃっぽいものもあるから、たまたまかもしれない。

 そう思いながら、コロネも並べられた商品をのぞき込んでみる。


「って、あれ? これは扇風機かな」


 随分と年代ものっぽい、使い古された扇風機だ。

 というか、なぜかコードのようなものがついている。

 あれ、こっちの世界だと、電気ってまだ使われていないんだよね? 確か、それっぽい電化製品チックなものも魔晶系のアイテムを組み込んでいたはずだ。

 コンセントプラグのついた魔道具など存在しないはずなのに。


 いや、よく見るとこのお店の品ぞろえはおかしい。

 何だこれ。


「これは……割れたコンクリートブロックかな? あ、これって、向こうの電池っぽい」


 ひとつひとつあげるとキリがないが、変なアイテムが目白押しだ。

 精巧に作られた材質のよくわからない頭蓋骨の模型。水晶ドクロというやつかな。

 あと、何かの大きなプロペラみたいなものや、船のいかりに、車の歪んだボンネットだけがポンと置かれていたり、焼け焦げた譜面のようなものもある。

 髪の毛、まげかな、人の髪で作られたヘアピースや、幾何学模様が描かれたじゅうたんに、三角形の謎の器具、ひもが結ばれた骨に、これは棺桶だろうか。映画とかで吸血鬼が使うような棺もある。かと思えば、ふにゃふにゃとした触感のだきまくらのようなものも置いてある。

 コロネにはまったく用途がわからないものもあるが。


「この、ものすごくきれいな板は何なのかな?」


 素材すら想像もつかないアイテムも多い。

 何、このお店。少しおかしいよ。

 全く見覚えがないガラクタばかりだったら良かったのだ。

 だが、この品ぞろえは、わかるものについては、コロネでも何となく理解できる品が混じっているのだ。これは、どういうことなのだろうか。


「あー、その板は、コウセイカンウチュウセンの外壁らしい。俺もよく知らんが、そういうのに詳しいやつが教えてくれた」


 ふと振り返ると、そこにはひとりの男性が立っていた。

 耳当てのついた革製の帽子をかぶり、ちょっと大きめの、ひびが入ったゴーグルをつけている。革製のジャンパーに古ぼけたジーンズというスタイルで、何となく機械技師のような印象を受ける。

 年齢についてはよくわからないが、さすがにコロネより下ということはないだろう。

 というか、ゴーグルのせいで目を合わせられないのだが。


「俺が、この店の店主だ。ワルツと言う」


「よろしくお願いします。料理人のコロネと言います」


「ああ、あんたがか。さて、料理に使えそうなものはあるかな。たぶん、オサムがあらかた買っていったと思うが」


 そう言いながら、ワルツはその辺りのものをガサガサとあさり始めた。

 そして、ひとつの道具をコロネに見せた。


「これは……ミキサーですか?」


「さてな、俺もよくは知らん。この前、来た時には見つけていなかったものだ。料理に関係するものらしいので、オサムに持ってきた」


 壊れかけのミキサーだ。

 いや、実際、壊れているのだろうけど。


「興味があれば、譲ってやろう。オサムに免じて、銀貨一枚でいい」


 何となく、ワルツの迫力に押されて、購入させられてしまった。

 まあ、ミキサーについては作ろうと思っていたので、ちょうど良かったんだけど。

 銀貨を払いながら、ちょっと気になったので尋ねてみる。


「このお店は何なんですか?」


「ん? ああ、この店は『ドリフトパーツ』の店だ」


「『ドリフトパーツ』?」


「ああ。俺が魅入られて集めている謎のアイテム。漂流物だ。いわゆる『流されてきたがらくた』のことだ」


 ワルツがそう言いながら、ニヤリと笑う。

 だが、コロネは彼の言葉に、胸がチクリと痛むのを感じた。

 漂流物。流れ着く。

 何かはわからないが、何かがおかしい。

 そう、コロネは感じた。

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