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ちょこっと! ~異世界パティシエ交流記~  作者: 笹桔梗
第2章 サイファートの町探索編
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第79話 コロネ、うどんを食べる

「あ、太さはともかく、このうどん美味しい!」


 コノミの指導のもと、うどんを打ってみたわけだが、これがけっこう大変だった。

 こねる。ちょっと休ませて足で踏み込む。ちょっと休ませて、またこねる。そして、丸めて伸ばして、折りたたんで、包丁で適度な太さに切る、と。

 後は寸胴いっぱいのお湯でゆでれば完成だ。

 思っていた以上に力仕事といった感じだね。

 何というか、心地よい汗が出てきている。


 今回のうどんは、この町の小麦粉に塩を加えただけのシンプルな作りになっているが、うどんの場合、全粒粉でも、行程中にちょっと休ませると、大分、向こうで食べていたような食感に近くなるようだ。

 多少、プツンと切れやすくなっているけど、しっかりとこねたうどんは、想像以上にしっかりした歯ごたえがある。正直、全粒粉百パーセントとは思えないよ。

 途中の工程で、コノミが何やら魔法のようなものをかけていたので、その辺りに秘密があるのかもしれない。


「うまいなあ。これなら、俺もプロになれるんじゃねえかな?」


「あんまり、調子に乗らない。ラビのうどん、太さがバラバラじゃない。まだまだ先は長そうよね」


「でも、自分で作ったと思うとうれしいよね。やっぱり美味しいもん」


 ラビたち、周りの子供たちも、それを眺めていて、できたうどんを一緒に食べている大人というか、家族の人かな、そういった人たちも、一様に完成したうどんに舌鼓を打っているようだ。

 お店で出されたうどんとは、ちょっと違うけど、こういうのも楽しいよね。


「ふふ、どうやらうまくいったみたいで、良かったわ。たまごをまぶしたものも持ってきたから、よかったらどうぞ。つけつゆが足りない人はこっちから足してね」


 コノミが追加のゆであがったうどんと、つゆを持ってきた。

 うどんはどうやら釜玉うどんのようだ。

 へえ、生たまごも大丈夫なんだ。向こうでも生のたまごはダメって人が結構多いのに。たぶん、その辺りもオサムの影響かな。

 みんな普通に釜玉うどんも味見しているね。


「はい、コロネさんもたまごうどんをどうぞ」


「ありがとうございます。あ、半熟加減がいい感じですね。とっても美味しいです」


「そう、良かったわ。オサムさんから教わったやり方だから、大丈夫だと思ったけど、コロネさんにもそう言ってもらえると、うれしいわね。あ、そうだ。コロネさん、確かまだ、私の子たちと話したことがなかったわよね? ここで紹介するわ」


「え? ミキちゃんの他にもいるんですか?」


「いや、違いますわ。それ、わしらのことですわ。お初にお目にかかります、わしは式神の楽鬼というもんです。姐さんがお世話になってますんで、わしらからもお礼言っときますわ」


「で、俺が式神の活鬼だ。オサムの同類って聞いていたが、見た感じあんまり強そうじゃねえな。ひとつお相手願おうかと思っていたんだが、そういう感じじゃないようだな」


「おい、活鬼! すんません、こいつ、血の気が多くて。強いやつ目にしたら戦わんと気が済まないんですわ。何で、こんなんが姐さんの式神なんかなあ。正直、わしにはようわからんわ」


「俺が知るか。姐御にもそういうところがあるってことだろ。俺にしてみれば、貴様のそういう性格が気に食わん。仮にも式神があまり下手に出るな」


「あらあら、ふたりとも仲良くね?」


「へい、姐さん」「わかった、姐御」


 おお、何だか凄そうな感じだ。

 しゃべり方が特徴的な方が楽鬼さんで、眼光鋭そうな感じの方が活鬼さんだね。

 見た目は鬼さんというより、お寺とかで見かける風神雷神像に近いイメージだろうか。大柄で筋肉もしっかりついているし、着ているものも仏様というか、昔の高僧のような衣装を身に着けているし。

 楽鬼が少し背が低くてがっちりした感じで、活鬼は背が高くて、少しだけ細マッチョな感じかな。はっきり言えることはどちらも強そうな感じがするということだ。

 にも関わらず、コノミのことは姐さんなんだ。

 ちょっとびっくりだよ。


「はじめまして、料理人のコロネです。楽鬼さん、活鬼さん、よろしくお願いします」


「はいな。ま、見た目怖いかもしれませんが、中身はそうでもないんで、気にせんともらえると助かりますわ。こう見えて、活鬼も甘党ですねん」


「え、そうなんですか?」


「おい、やめろ! 恥ずかしいだろ。そういうことは黙して語らずだ」


「ふふ、ね? 意外とかわいいでしょ、この子たち。私の自慢の子供たちよ。もちろん、ミキもそうよ? 三人とも兄妹みたいなもんよね」


 コノミが、式神たちを見ながら、うれしそうに笑う。

 それにしても、随分と人間味にあふれているね、式神って。

 一応は妖怪種の一種だったかな。


「コノミさんは召喚師なんですよね?」


「ええ、私の家系はそういう血筋なの。他種族、特に妖怪種との親和性が高いから、それがそのまま召喚系のスキルに活かされているのね」


「でしたら、もしよろしければ、わたしにも召喚について教えて頂けませんか? ミケ長老からの見立てで、わたしも見てもらった方がいいって言われまして」


「え!? コロネさん、召喚師さんなんですか?」


 横で話を聞いていたミキが驚いたように、こちらを振り返った。

 そして、何かに気付いたように頷いて。


「ああ、そういえば、この間のアルバイトの時のって、召喚っぽかったですものね」


 例のチョコレートを出したときのことだ。

 とりあえず、マックスからも口止めをお願いしてもらっていただけに、それに関してはうまくいっているようだ。

 ちょっとだけ、ほっとする。


「でも、わたしもよくわからないんだよね。ミケ長老が何となく、惹かれるような感覚があるって言ってただけで、だからと言って、召喚師ってわけでもないみたいだし」


「そんなら、ちょっと失礼」


 そう言って、楽鬼がコロネの肩に手を置いた。

 少しの間、目を閉じるようにしていたが、すぐに手を離して、コノミへと頷く。


「ああ、確かにそれっぽいかも知れませんわ、姐さん。でも、どうなんかな。これは妖怪種を呼んでる感じとはちょっと違うんかな。わしにもはっきりとはわかりませんわ」


「そうねえ、そういうことなら、コロネさん、明日の早朝は大丈夫かしら? 今、色々といそがしいって話は聞いているけど、やるなら早い方がいいと思うの。今日はさすがにお祭りだから難しいけど、朝ちょっと早めに適正についてだけでも見ておきましょうか」


 あ、それは願ったり叶ったりだ。

 明日から、リリックを受け入れることになるけど、さすがに朝早くなら大丈夫だし。


「わかりました。それでお願いします」


「はい、よろしくね。それなら、明日の六時に私のお店まで来てね。場所はわかるかしら?」


「コロネさん、お母さんのお店は温泉のちょっと奥に入ったところです。クリーニング屋の方の入り口から見えるところですよ」


 ミキが場所について説明してくれる。

 なるほど、温泉からすぐ側にあるんだね。

 それなら大丈夫だ。


「ミキちゃんありがとう。それならたどり着けますね。明日の六時ですね?」


「ええ。念のため、動きやすい格好で来てね。あ、そのエプロンドレスでも大丈夫かしら。多少、汚れてもいいように、ミドリノモも呼んでおくわね」


「はあ、わかりました」


 というか、汚れてもいいように、って何をするのだろうか。

 あれ、召喚についてのレクチャーだよね?

 もしかして、コロネが勘違いしているだけで、実はけっこうハードな訓練なのかな。


「そんな不安そうにせんでも大丈夫ですわ。痛い目にあうってわけじゃないですから。ただ、念のためって話ですわ」


「あくまでも適性を見るためだ。その適性によってはどうなるかわからん。万が一、何か飛び出しても、俺たちが抑え込む。貴様はどっしりと構えていればいい」


「だから、あんまり変なこと言うのはやめんか。低い魔力でそんな大仰なもんが出てくるかいな。まったく、活鬼はいっつもそんなんかい」


「俺は可能性の話をしているだけだ。貴様も言葉を濁して誤魔化すな。はっきり言っておいた方が安心できるだろうが」


 そっか、何かが飛び出すかもしれないんだ。

 まあ、頼んだからには三人を信頼すればいいってことだよね。

 なるようになるでしょ。

 というか、このふたりの掛け合いが続いているね。


「大体、貴様は」


「はい、そこまで。ふたりとも、コロネさんのことを思ってのことなんだから、あんまり揉めないの。まあ、そうね。何かあっても、わたしたちで対応できるから大丈夫よ。ね、そうでしょ?」


「「はい」」


「というわけで、明日は適正チェックをします。そういうことで大丈夫?」


「はい、よろしくお願いします」


 その際に、式神などについても詳しく聞かせてくれるとのこと。

 こうなるとちょっと楽しみだね。

 そう思いつつ、コロネは笑顔を浮かべた。

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