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ちょこっと! ~異世界パティシエ交流記~  作者: 笹桔梗
第2章 サイファートの町探索編
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第78話 コロネ、屋台をめぐる

「プルートのおじさん、やきりんごひとつちょうだい」


 ふと、目についた屋台で、ちっちゃな女の子が焼きりんごを買っていた。

 へえ、焼きりんごか。

 先程まで、焼きバナナを作ったり味見していたせいか、ちょっと興味が出てきて、のぞいてみると、大きなりんごが紙でくるまれた状態で売られていた。

 そして、りんごを売っている人はというとなぜか白い仮面をつけている。生誕祭と何か関係があるのかな。でも、他の人は仮面なんかつけていないよね。


「はい、まいど。銅貨五枚だね、確かに。はい、焼きりんご。つつみを開けると熱い空気が出てくるから、食べるときは注意してね」


「うん、どうもありがと」


 雪ん子のような恰好をした女の子は、そのまま笑顔でどこかへ行ってしまった。

 まだ、そんなに寒い季節じゃないけど、防寒具みたいなものを着ていて、ちょっと目についてしまったんだけど。

 さておき、焼きりんごだ。

 せっかくだから、ひとつ買ってみようかな。


「すみません、この紙で包まれているのが焼きりんごですか?」


「そう、イベント屋台限定の焼きりんごだよ。うちのちょっとした売れ筋商品だ。まあ、手頃な大きさのおばけりんごを焼いただけなんだけど」


 そう言いながら、仮面の人が笑う。

 興味深げに、その仮面を見ているコロネに気付いたのか、仮面を外して、ちょっとだけずらしてくれた。あ、若い男の人だ。二十代くらいだろうか。おじさんと言われていたので少し予想外だったよ。


「この仮面、気になるかな? ごめんね、ちょっと長時間太陽を浴びるとしんどくてね。客商売で顔を隠すのはどうかと思うんだけど、ま、そういう体質だから、勘弁してくれると嬉しいかな」


「あ、そうなんですか」


 なるほど、日光避けか。

 案外、吸血鬼とかそっち関係の人なのかな。

 まあ、あんまり詮索してもしょうがないので、それよりも焼きりんごだ。


「それじゃあ、焼きりんごひとつください」


「ひとつで大丈夫? さっきの子、アイちゃんは結構食べるから、ひとつまんまだったけど、そうでもないのなら、真似しないで六分の一サイズの方がいいと思うよ。おばけりんごって、割と大きいから」


 あ、よくよく値札を見ると、『一個銅貨五枚、六分の一個銅貨一枚』になっていた。

 確かに屋台の焼きりんごで、ひとつのまま丸かじりは大きいかもね。


「わかりました。六分の一の方をください」


 その仮面の人に、銅貨一枚を渡す。


「はい、まいど。それじゃ、こっちが焼きりんごだよ。この包んでいる紙は簡易耐熱が施されているから、持ち手は熱くないんだけど、食べるときは気を付けてね。一時間くらいは焼きたてが保てるから。開けてびっくりってやつ」


「はい、気を付けます」


 へえ、そういう紙も作れるんだ。

 これを応用すれば、暖かい料理もテイクアウトできるかもね。


「ちなみに、お兄さんはどこかでお店とかってやってますか? ええと、この包み紙を作っているとか」


「お店という感じではないね。ただ、工房みたいなものはなくはないかな。塔の地下一階に住んでいるから、そっちに来てもらえれば、相談には乗るよ。ね、コロネちゃん」


「あ、わたしのことご存知ですか?」


 地下の一階ってことはメルの家の近くってことか。

 まあ、さすがにどんな人が他に住んでいるかまでは聞いてないものね。


「そう、長老から聞いているよ。当然、メルちゃんからもね。ぼくの名前はプルート。ちょっとだけ日光が苦手なアルビノ体質の人間種だよ。あ、そうそう、りんご好きってので少し有名かな」


 ちょっとだけ冗談めいた感じで、プルートが笑う。

 何でも、町ができて、しばらくしてからこの町に住んでいるのだそうだ。


「この町は素晴らしいよ。食べ物は美味しいし、地下の町がここまで発達している場所は少ないからね。ぼくにとっては天国みたいなところだね」


 なるほど、確かに昼間あんまり出歩けない人にとってはいい町だろうね。

 夜もお店が開いているなんて、この町くらいだって聞いたし。

 それにしても、地下の町の話をこんなにオープンにしゃべってもいいんだろうか。まあ、周りの人も気にした様子もないし、気にしすぎかな。


「ぼくの住んでいる区画は、ちょうど水路のそばにあってね。それで、紙なんかを作ったりしているよ。普通に清流を使ったりするよりも、きれいなんだよね、ここの水路の水って」


「なるほど、紙職人さんですか」


「そう、紙だね。それをすくのがお仕事かな。けっこう大変だけど、割と重要な仕事だからね、充実はしてるよ」


 確かに、この町って紙が充実している感じはしていたね。冒険者ギルドでも大量のクエスト用紙があったから、何となくはそう思っていたけど。

 これがこっちの世界のスタンダードなのか、サイファートの町限定の話なのかはわからないけど、とりあえず、色々な種類の紙はあるようだ。


「ま、何か相談事があったら、ぼくの家までどうぞ。そっちだったら、仮面を外して対応ができると思うから」


「わかりました。また、後日よろしくお願いしますね」


 今日のところは、家の場所だけ聞いて別れることにした。

 焼きりんご売りに集中してほしいしね。せっかく、苦労して太陽の下でお店をしているんだし。


 さて、再び注意を周りの屋台へと向けると、色々なお店があるのに気付く。

 大きく分けると三種類くらいかな。

 普段もお店を開いている、食材や日用品を売っている常連さんのお店。

 お祭りの屋台っぽく、食べ物などを売っていたり、金魚すくいみたいな遊びを含んだお店。

 そして、それらとは違う、何だかよくわからないお店だ。


 お祭り屋台に、金魚っぽい何かを釣る屋台や、射的みたいなのが混じっているのは、明らかにオサムの息がかかっているような気がする。

 いや、射的って。

 こっちの世界に銃とかって存在するのだろうか。

 もしないなら、オサムもあんまりそっち系を想起するようなアイデアを出さないでほしいんだけど。


「後は……あ、料理の体験販売している屋台もあるんだ」


 少し行ったところで、子供たちを中心に町の人が、せっせと何かを踏みしめている屋台を発見した。あ、ちゃんと看板が出てるね。

 『式神うどん』。

 料理人のコノミさんのお店だ。


「はい、みんな、もう少しだから、頑張って踏んでみてね。あ、ラビくん、それだと力が入れ過ぎよ。身体強化をもう少し弱めてみてね。うどんの場合、力を入れ過ぎると逆に硬くなっちゃうの」


「えー、でも活鬼と楽鬼も力いっぱい踏んでるように見えるよ? あれは大丈夫なの?」


「ええ、ちょっとしたコツがあるの。あのふたりも力でこねているように見えて、ちょっとした魔法を使っているのよ。慣れないと魔法が暴発しちゃうから、体験コーナーでは同じ事はしないでね。お店で食べるのとは違うけど、自分で作ったうどんも個性があって美味しいんだから」


「そうそう、ラビ。お母さんたちと同じことをしようとしちゃダメだよ。活鬼も楽鬼もうどんのプロなんだから」


「そっかー。あ、ミキもやっぱり踏むのか上手だな。けっこう慣れてるのか?」


「まあね。いそがしいときは私も手伝うもん」


「でもいいなあ、ふたりとも、わたしもアルバイト始めようかな。身体強化きれちゃってヘロヘロだよー。ね、『半獣化』してもいい?」


「おい、やめろ、ナズナ。そんなふらふらで倒れたら、ミキのお母さんの屋台、壊しちゃうじゃん。そっちも手伝ってやるから、少し休んでろよ」


「あー、ラビったら、優しいー」


「そんなんじゃねえよ!」


 あ、何となく楽しそうだね。

 わいわいやりながら、みんなでうどんを作っているのを見ていると、ほっこりしてしまう。さっき、ナズナって呼ばれていた子もそうだけど、まだアルバイトとかでは見かけたことがない子供たちがいっぱいいるね。

 この中で知っているのは、ラビとミキくらいかな。

 そして、子供たちを教えながら、微笑んでいるのがコノミさんだ。

 一房束ねた黒髪に割烹着が似合う、きれいなお母さんといった感じだろうか。頬に手を当てて、『あらあら』とか言ってるイメージがある。

 おっとり、ほのぼの系の感じだ。


「あら、コロネさん、いらっしゃい。ちょうど今、うどんの体験コーナーを開いているんだけど、よかったらやっていきませんか?」


 こちらに気付いて、コノミがほんわかと声をかけてきた。

 その声で、周りも気づいたらしく。


「あ、コロネの姉ちゃんだ。こんにちは。姉ちゃんもうどん作りしにきたのか?」


「こんにちは、コロネさん」


「あ、アイスのお姉さんだ。こんにちはー」


 ラビやミキを皮切りに、ナズナや周りの子供たちも次々と、こんにちは、と挨拶をしてきてくれた。何となく、うれしいね。


「はい、こんにちは。遠くから見えていて、面白そうなのでのぞいてみました。うどんの体験コーナーですか?」


「そうなの。いつもってわけじゃないけど、生誕祭のときくらいはお店を休んで参加しているのね。今年はただうどんを出すだけだと面白くないからって、ボーマンさんとも相談して、こんな感じになったの」


 なるほど、ここもボーマンの仕業か。

 いよいよ、イベント企画屋といった感じだね。


「せっかくだから、コロネさんもどうぞ。やってみると面白いわよ」


 確かに、自分でうどんを打ったことはないかな。

 ちょっと興味深い。


「はい。ぜひやらせてください」


 そう、笑顔でうどん作りへと混じっていった。

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