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ちょこっと! ~異世界パティシエ交流記~  作者: 笹桔梗
第2章 サイファートの町探索編
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第77話 コロネ、生誕祭の準備をする

「コロネさん、今日も朝から色々と作っているのですね」


 バナナプリンを作っているところに、ピーニャがやってきたので、また作業を手伝ってもらった。まあ、お手伝いという名の、作り方説明だけどね。

 今はプリン作りもひと段落して、朝食を食べているところだ。

 オサムとジルバのふたりもいつの間にか合流している。


 ちなみに、リディアが帰ったあとで、すぐにアストラルがやってきて、プリンの器を渡してくれたのだ。おかげで、今日のプリン作りにも間に合ったので、かなり助かっている。今のうちに、新しい器に関するもチェックできるから、言うことなしだ。

 念のため、オサムの茶碗蒸しのでも作ってはいる。

 見た目きれいでも、加熱に耐えられなかったら、意味がないから念のため、ね。


「それを言ったら、ピーニャの方がいそがしいと思うけど。パン工房の合間に、わたしの手伝いとか、大変だよね?」


「そうでもないのです。新しい料理を覚えるのは楽しいのですよ。バナナに関しては、青空市での入手が難しいのですが、今、ついでで作ったジャムを食べて、はっきり思ったのです。これはオサムさん経由で入手すべきものなのです。甘いパンに使えそうなのですよ」


 さっき作ったのは、バナナプリンとバナナのコンフィチュール、要するにバナナジャムだ。作り方は基本のプリンとジャムと、それほど変わらないので、ほとんどが分量と味のバランスについての説明になっちゃったけど。

 まあ、せっかくなので、プリンについては二種類のやり方で試している。

 普通にバナナを潰して混ぜるのと、焼いたバナナを潰して混ぜるのの二種類だ。


「本当は、生クリームを使った方がいいんだけどね。まだもうちょっとかかるから、そっちはこの次の機会だね」


「なのですか。それにしても、コロネさん。このバナナってすごいのですね。普通に食べても甘いですし、ただ焼いただけなのにものすごく香ばしい甘さになるのです。もうちょっと早く興味を持っておけばよかったのですよ」


「まあ、生えている地域が限定的だからなあ。あまり積極的には入手しようとしてなかったしな。パン工房で使うとなると、向こうの村の連中とも相談してみるか。栽培ついでに種無しのバナナまで頑張ってみるのもありだろうしな」


 オサムがジャムパンを食べながら、笑みを浮かべる。

 本当に、甘いものに関しては、色々と後回しにしていたみたいだ。

 たぶん、オサム自身はあまり甘いものが好きじゃないんだろう。


 ちなみに、今日の朝食のメニューは、ジャムパンとサンドイッチ、それにオサムがカレーと一緒に作っていたカレースープだ。甘いのと辛いので落差が激しい取り合わせになっている気がするね。


「なのですか。果物の種をなくすることなんて、できるのですか?」


「うん、わたしたちの故郷だと、バナナとかぶどうで、そういうことをやっているよ。より美味しく、より食べやすく。そのための品種改良の努力を忘れないのが、農業をやってる人たちだよ。種をなくすのもそうだけど、同じ果物でも、その中からより甘いものを掛け合わせていくと、新しく、より甘い品種が誕生することがあるの。自然になっている果物より、そういう努力をした方が美味しくなるのね」


「へえ、やっぱりコロネちゃんのいたところって進んでるのね。というか、話を聞いてると食べ物へのこだわりが度を越している部分があるわよね。マスターも味の探求には、一切妥協しないし」


 少しだけ呆れたように、ジルバが苦笑する。

 今のままでも十分美味しいのに、と。


「町の北部で、色々と放牧してるのもマスターの発案でしょ? 普通は、はぐれモンスターに美味しいごはんを与えるなんて発想は出ないわよ。まあ、実際、お肉が美味しくなったけどね」


「えっ!? そんなことまでやってるんですか? オサムさん」


 食材になりそうなはぐれモンスターには、食べ物を与えているのだとか。まあ、すぐに襲い掛かってくるので、与えるというか、その区画に置いて行くだけらしいが、やっていることは、普通に大規模な放牧だよね。


「まあ、放っておくと、リディアが倒しまくって数が減ってしまうしな。そうならない程度には養殖しないといけないだろ。その過程で、ついでに美味しくなってくれるなら、言うことなしだ。俺も本業じゃないから、正しいやり方かどうかは知らんが、現にちょっとずつ味が変化しているから、まあ、いいだろ」


「なのです。とは言え、こんなことが許されるのは、ここがサイファートの町だからなのです。普通は、はぐれモンスターを増やそうとしただけで、犯罪レベルなのですよ」


 だよね。モンスターが町を襲撃したりするって聞いたもの。

 その辺りも王都が黙認しているから問題ないそうだが、ちょっとでも叛意を疑われたら、テロやクーデターと取られてもおかしくない話だし。


「まあ、料理人とか、美食家ってのは罪深い職業だってことさ。その辺りは弁えているぜ。ただ、だからといって諦めるかというと、それは別問題だ。わかった上で、俺はこの道を突き進むだけだ。綺麗ごとを言うつもりもないし、言い訳をするつもりもない。だからこそ、食に対する感謝は忘れてはいけないってことでもある」


 生物が生きる上で、他の生物の命を頂かなければならない。

 まあ、エルフなどの一部の例外はあるだろうが、それが現実なのだから。

 だから、そのことにどう折り合いをつけるかは、個々の判断になる。

 美食自体を罪悪とする向きもあるのも事実だ。


 だが、それでも、とコロネは思うのだ。

 美味しいものが幸せにつながっているのも事実である、と。


「どっちみち、襲い掛かってくる以上は倒すしかない。まあ、色々と考えながらも、料理人とモンスターの関係は続いていくってことだな。ま、それについては心に秘めておく必要はあるだろうな」


「ですね。料理人である以上は」


「まあまあ、難しく考えたって疲れるだけよね。結局、生きるってことはきれいなだけじゃいられないのよ。少なくとも、お肉をさばいている人に対して、『野蛮人!』とか言ってる貴族のお嬢ちゃんみたいなことを言わなきゃいいの。あれはもう笑うしかないもの。自分だってお肉食べてるのにね」


 ジルバがやれやれといった感じで苦笑する。

 まあ、向こうの世界の多くも、そういう認識なのかもしれないけど。


「まあ、言ってみれば、自然の恵みには感謝しましょうってことだ。その上で何ができるか。何をすべきか。俺は、喜んで食べてくれる連中のために、美味い料理を作る。それだけさ」


「はい。そうですね」


 シンプルな答えだ。

 だけど、それが料理人というものだと、コロネは思う。


「ところで、話は変わるけど、コロネちゃんはこの後のお祭りに参加するの?」


「はい。プリンを届けたあとは、ちょっと見て回ろうと思ってます。昨日、ニコさんと約束しましたしね。歌の舞台を見に行きますって」


「ふうん、そうなのね。あたしもちょっと知り合いが来てるから、挨拶しに行くのよ。向こうで会った時はよろしくねー」


「へえ、お知り合いの方ですか」


 何でも、ジルバの昔からの友達だそうだ。

 たまに、サイファートの町にやってきては、青空市でお店を開いているらしい。


「ちょっと変わっていてね。変なものを集めるのに目覚めちゃった感じなのよ。もしタイミングが合ったら、紹介するわね。案外、コロネちゃんなら興味を持つかもしれないしね」


「ああ、ジルバの知り合いって、例のやつか。確かに、コロネも売っているものに驚くかもしれないな。こっちの連中にはピンと来ないだろうが」


 オサムも知っているお店のようだ。

 何だろう。ちょっと気になるね。

 ジルバもどの辺りに出店しているかまでは知らないそうのなので、コロネも適当に探してみよう。興味がありそうなものって何なのかよくわからないけど。


「まあ、コロネにとっては、初めての祭だろ。気軽に楽しんでくるといいさ」


「はい、わかりました」


 オサムの言葉に頷きながら。

 そんなこんなで朝食の時間は過ぎていった。





「うわ、今日も結構な人出だね」


 バナナプリンが冷えたのを見計らって、青空市へとやってきた。

 今日は、昨日よりもさらに人が増えている。やっぱりこっちの世界だと、平日という感覚はあまりないのかな。農家とか、生産職の人とか、お店をやっている人は別だけど、それ以外の人は働きたいときに働いているといった感じなのかも。

 特に、冒険者の人とかはそうなのだろう。

 周りも、それらしい人たちがかなりの数いるみたいだし。


「お、コロネ。今日もちゃんと来てくれたか。おじさんはうれしいぞ」


「あ、ボーマンさん、こんにちは。ちょうど良かったです。はい、こちらがオサムさんから預かっているアイテム袋です。一応、わたしが頼まれていたものも一緒に入っていますので、お願いします」


「おお! それはありがたいなあ。これで大食い大会も盛り上がるぞ。いそがしいところに仕事させて、すまないなあ。後でおじさんからも報酬を上乗せしておくぞ」


 アイテム袋を受け取りながら、ボーマンが笑う。

 やっぱり色々とサプライズがないと、企画がマンネリ化してしまうのだそうだ。

 新しい参加者を増やすためにも、こういうことは必要とのこと。

 色々と考えているんだね。

 もはや、商人なんだか、イベント企画屋なんだか。まあ、どっちもなんだろうけど。


「とりあえず、これでコロネも大食い大会の関係者だぞ。じきに始まるだろうから、楽しみにして欲しいぞ。まあ、それまでは屋台の方でも回ってみるといいかもなあ。今日は、町の料理人たちも店の開店時間をずらして、出店してくれているしな」


「あ、そうなんですか?」


 知らなかった。それなら、あちこち顔を出してみようかな。


「まあ、今日は『生誕祭』だからなあ。ほら、ドムなんかは本祭りの時は、王都に行ってしまうだろう? だから、サイファートの町にとっては、案外、今月の方が盛り上がったりするんだぞ。いや、来月は来月で、オサムが何かしでかすだろうがなあ」


「それはそれで楽しみですね」


「まったくだ。それじゃあ、おじさんはこの中身を届けてくるから、コロネは『生誕祭』を堪能してもらいたいな。しっかり満喫してくれると、おじさんはうれしいぞ」


「はい、ありがとうございます」


 そう言って、お祭りの本部の方へとボーマンは行ってしまった。

 さて、それでは色々と見て回りますか。

 ちょっとわくわくしながら、コロネは喧噪の中へと入っていった。

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