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ちょこっと! ~異世界パティシエ交流記~  作者: 笹桔梗
第2章 サイファートの町探索編
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第73話 コロネ、面白い焼き物に出会う

「おっと、コロネさん、いらしていたんですね。お待たせしてすみませんです、はい」


「ぴぃー、ぴーぴー」


 コロネが店内を物色していると、アストラルが奥の方からやってきた。

 窯のチェックをしていたらしく、その顔にはすごい汗をかいている。それでも、青空市で会った時とは異なり、一仕事した後というか、何というか、輝いた表情をしている。薄茶色の髪と紺色の作務衣は少し煤がかっているが、今の方がかっこよく見えるね。

 うん、やっぱり職人さんといった感じだ。


 そして、そんなアストラルの横の空間に、一際目につく生き物が飛んでいた。

 炎を周囲にまとった鳥だ。

 いや、鳥というか、何というか。

 どちらかと言えば、ひよこのような感じに見える。

 手のひらサイズよりのちょっと大きいかな、くらいの大きさのひよこがパタパタと羽ばたきながら、宙に浮いているのだ。

 どう見ても、飛べるような羽ばたき方ではないんだけど、浮いているってことは魔法か何かなのかな。また謎な生き物とご対面といった感じだ。


「朝早くからお邪魔してます。先日のお約束通り、お店の方まで来させていただきました。さっきまで、ミストさんとエドガーさんに色々とお話を聞かせて頂きましたよ」


「エドガーさんが案内してくれたんだって。もう、帰っちゃったけど、後でお礼言っといてよね。お兄がざっくりとしかお店の場所を説明しないから、迷っちゃうのよ。せっかく、青空市に売りに行っても、こんなことじゃ、なかなかお客さん増えないじゃない」


 もうちょっと接客はきちんと、とミストがアストラルを叱っている。

 その言葉に慌てて、ペコペコと頭を下げる兄。

 ふたりの周囲をぴーぴー鳴きながら、飛び回る炎のひよこ。

 何だろう。

 こういう光景は嫌いじゃない気がする。

 どことなく、家族って感じがするからかな。


「まあ、それはいつものことだから良いとして。窯の方は問題ないの?」


「うん。ゆっくりと温度が上がっている感じだね、うん」


「え、今って、焼いている作業中なんですか?」


 コロネも詳しいことはわからないが、窯で焼く作業って、火力の調整に注意が必要なんじゃなかったかな。離れていても大丈夫なのだろうか。

 もしかして、他にも人手がいるのかな。


「あ、はい。一応、僕とこのヴィヴィだけで作っていますが、火の調整については離れていても大丈夫なんですよ。と言いますか、他の人の手を借りなくても陶器が作れるようになったのは、ヴィヴィが仕事を手伝ってくれるようになったおかげですね、はい。ですから、すごく感謝してます」


「ぴーー!」


「そうそう、わたしがダンジョンに潜っていたとき、たまたま卵を見つけて、そのままこの子がかえっちゃったんですよ。それでヴィヴィったら、わたしのことを親代わりと思ったらしくて、離れようとしたら泣いちゃって。で、結局、ダンジョンに置いていくのも可哀想なので、連れ帰って一緒に暮らしているんです」


 ミストが説明してくれた。

 そういう経緯で拾ったため、ヴィヴィについては未だによくわかっていないのだそうだ。モンスターなのか、他の種族の子供なのかについても謎なのだとか。


「何となく、意思疎通はできるんですけど、ヴィヴィはまだ生まれてから、それほど長くないので、言葉が話せないんですよ。仮に話せたとしても、自分が何者なのかわかっているかどうかも不明ですしね」


 それもそうだよね。

 親とか家族もなしに、自分は何者かって聞かれても普通わからないよね。


「成長しないと何とも言えませんが、特性からして、僕は炎系のモンスターの一種だと思っています。確か、火食い鳥の系統に近いものがいたと思いますし、はい」


「ぴーぴー!」


 あ、ヴィヴィもアストラルの言葉に頷いているみたい。

 そうだそうだ、って言っている感じだね。

 こうして見ると、モンスターだからと言って、こわいものばかりじゃないように思える。


「それで、はい。ヴィヴィが『同調』を使えるようになってくれて、僕にくっ付いて作業を見ているうちに、焼き物のための火の温度を覚えてくれたんです。今も、窯の中の空間と同調してもらってます、はい。何か様子がおかしければ、ヴィヴィが教えてくれますので、ちょっと作業に余裕ができて助かってますね」


 それまでは、窯の作業だけでも、十日以上火を管理し続けなければならなかったので、かなり大変だったのだそうだ。アストラルが仮眠をとる間だけ、ミストやさっきのエドガーの工房の人に手伝ってもらったりしていたのだとか。

 そっか。焼き物って気軽に考えていたけど、作るのにそんなにかかるのか。

 焼くだけでも、低温、高温、低温で十日から十五日はかかるらしい。

 それは大変な作業だね。


「おやっさん……あ、エドガーさんのことです、はい。そのおやっさんには、本当に面倒を見て頂きました。今の僕があるのは、おやっさんとオサムさんのおかげです。本当に感謝していますよ、はい」


「ちょっと、お兄。わたしとヴィヴィも手伝っていることをお忘れなく。というか、今だって、ヴィヴィにおんぶにだっこじゃないの」


「いやいや! もちろん、ミストとヴィヴィにも感謝してるって、うん。とにかく、本当に色々な人に自分は支えられているんだなあって思います。恵まれてますよ、はい」


 何となく、アストラルの気持ちがよくわかる。

 今のコロネもそういう思いでいっぱいだからだ。

 いつか、そのお礼ができるように、頑張っていきたいものだ。


「ところで『同調』の魔法って、人が相手じゃなくても使えるんですか?」


 少し気になったので、聞いてみた。

 確か、受け入れが必要な魔法だとジーナは言っていたような気がするんだけど。


「はい、『空間同調』と呼ばれる使い方ですね。人にパスを伸ばすのと同じ要領で、その空間自体の感覚をとらえるような感じです。ただし、普通の同調とは異なり、感情とか知識とかをつなぐことはできませんけど。温度とか、その空間の状態を把握しやすくなるといった感じですね、はい」


「でも、ヴィヴィの場合、危険が伴うタイプの使い方ですから、コロネさんは真似しちゃだめですよ。空間と同調した場合、つないだ先の環境がフィードバックします。今のヴィヴィが窯の中の空間とつながっていられるのは、ヴィヴィが『耐炎』スキルを持っているからですし。普通に、窯の中にも飛び込んでいけるから、任せていることです」


「ぴぴーー!」


 そうなんだ。

 あ、ヴィヴィが『良い子はまねするなよ』って言ってるみたい。

 窯の中に入って、アストラルが言うところのちょうどいい焼き加減を体得しているから、今のお仕事を手伝ってもらっているのだそうだ。


「はい。それで、コロネさん。何か良さそうなものは見つかりましたか?」


「一応、プリンの容器に使えそうなものを探しに来たんですよ。向こうの棚にあるのがオサムさんのところの茶碗蒸しの容器ですよね? 他にそれと同じくらいの大きさか、少し小さいくらいの器があるといいんですけど」


 味のある陶器は並んでいるのだが、いざプリンを作るのに使えそうな器となると、あまり多くないのだ。いっそのこと普通のお皿を買って、果物と盛り合わせてみるのも手だが、報酬として使うとなるとどうだろうか。

 それなら、プリンをチケットにしてしまって、パン工房の方に来てもらったほうがいいし。さて、どうしたものか。


「そうですね……確かに店に置いてあるのは、お皿や料理用の器がほとんどですしね。今はあんまり湯呑みのようなものは作っていないんですよ。熱燗用の小さいものはありますが、飲み物を入れるコップは、ガラスのものやティーカップのようなものに人気が集中してまして、売れないんですよ。ああ、一応、ガラスっぽく見えないかな、と思って作ってみたものが、こちらにありますが、はい」


 そう言って、アストラルがお店の端にある、特売品のコーナーへと案内してくれた。

 こっちは、形が不揃いだったり、作ったものの評判があまりよくないものを格安で販売しているコーナーとのこと。


「こちらですね、はい」


「え、これって、ガラスじゃないんですか?」


 特売品のコーナーの置かれていたのは、透明な小さめの湯呑みだ。

 焼き物で透明なものなんて作れるのかな。

 ちょっと見た感じでは、ガラスでできているように見える。


「ちょっと、触らせてもらってもいいですか?」


「はい、どうぞ。一応、透明な焼き物が作れないか、チャレンジしてできたものなんですよ、はい。素材に関してはミストに調達してもらったものを使ってますし、加工も僕だけだと苦手な属性が必要だったので手伝ってもらっています。けっこう手間はかかっているのですが、まあ、あまり評価していただけず、といった感じです、はい」


「うちのお客さんだと、焼き物独特の色味がいいみたいですね。透明ではあるけれど、ガラスほどきれいな透明さではない、というわけで結局、どっちつかずの評価になってしまってます」


 うわ、見た目は透明なのに、手触りはどう触っても焼き物のそれだ。

 あ、これは面白い。

 温もりのある質感なのに、透明な器だ。

 どうやったら、こんなものができあがるんだろう。


「これ、素材は何ですか?」


 土から作ったものが、ここまで透明になるのはあり得ない。


「これはミストが、この町の近くのダンジョンで見つけてきた土ですね、はい」


「コロネさん、『最果てのダンジョン』って知ってます? わたし、昨日もそのダンジョンに潜っていたんですけど。で、そこで入手した土というか、泥でできてます」


 へえ、そうなんだ。

 それにしても、冒険者っぽいと思っていたけど、ミストは『最果てのダンジョン』に行ってこれる人なんだ。なかなか難しいダンジョンだと耳にしていたんだけど。


「一応、妹は冒険者で作られたギルドに所属していますからね、はい。ギルド『竜の牙』の一員です。聞いたことはありますか?」


「え! そうなんですか!? 冒険者ギルドでディーディーさんたちから聞きましたよ。何でも、この町で最も頼りになるギルドでしたよね?」


「いやいやいや、それは違いますよ。本当の意味での実力者は別にいっぱいいますって。わたしたちではまだまだです」


 ミストが恥ずかしそうに否定する。

 ともあれ、立派な冒険者であることは間違いないね。

 背格好はコロネと同じくらいなのに、すごいなあ。


「つまり、これも土でできているってことですよね?」


「はい、そうです。ちょっと変わった土ではありますけど」


 アストラルの言葉に頷く。

 よし、決めた。少なくとも、コロネの琴線を刺激したことには間違いない。この器は面白い。透明な陶器。ふわとろプリンを入れるのにはピッタリだろう。

 何より、売値が安い。

 いや、別にそこだけが目的じゃないけど。


「ここにある湯呑みを全部ください。在庫もあれば、そっちもお願いします」


「はい!? 全部ですか?」


「コロネさんは気に入ってくれたんですか? 職人街の他のお店の人からも微妙な評価ばっかりでしたけど」


「ええ! この器は面白いです。かなり気に入りましたよ」


 驚いているふたりに対して、はっきりと繰り返す。

 これは良いものに出会えた。

 そう、コロネは満面の笑みを浮かべた。

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