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ちょこっと! ~異世界パティシエ交流記~  作者: 笹桔梗
第2章 サイファートの町探索編
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第69話 コロネ、アイテム袋について聞く

「うわあ! すごいね! ここがドロシーのお店かあ」


 大きな樹のうろの中に一歩足を踏み入れると、そこにはファンシーな雑貨から、用途不明な謎の物まで色々と並べられたお店が広がっていた。

 お店は上の方まで続いており、うろの内側に沿って、ぐるっとらせん階段が続いている。どういう構造になっているのかな。うろのでこぼこに合わせて、上の方のフロアが右、左という風になっている。吹き抜けの踊り場がいっぱいあるといった感じかな。


「まあ、この樹はルナルの力だけどね。ルナルの成長と共に、異界そのものも成長してるんだ。ほんと、ちょっとした樹海レベルの大きさだよ」


「それにしても、色々なものが売られているんだね」


 改めて、並べられているものに目をやると、やっぱり魔女らしいものも多い。

 ほうきが並べられた区画もあれば、何かを煮詰めるような大きな釜もあるし、鏡ばっかりかけられたところもある。可愛らしいお人形がちょこんと座っていたり、馬のひづめみたいなものもある。不思議な紋様が織り込まれた布が並んでいるところもあるし、向こうに見えるのは下着のコーナーかな。ガーダーベルトだったっけ、それがなぜか色んな種類置いてあるし。

 本当に、コロネのような素人にとっては謎なものも多い。


「もうちょっと上の方に行ってみる? そっちに、アイテム袋とか、アミュレットとかが置いてあるから」


 そう言って、ドロシーがお店を案内してくれる。

 入り口のフロアに置いているのは、ほうきにしても、普通のほうきなどが多いのだそうだ。普通のほうきと普通じゃないほうきの違いって何なのかな。


「魔女と言えば、ほうきに乗って空を飛ぶってイメージがあるみたいじゃない? だからそれに沿った商品も売ってるんだ。普通は、幻獣の力を借りたりするから、ほうきじゃなくてもいいんだけど、良き想像は大事にしないとね。まあ、ほうきは『生活の魔女』のなごりみたいなもんよ」


「『生活の魔女』って何のこと?」


「もともと、魔法についての研究があんまり進んでいなかったころの魔女のことね。魔女というか、魔法を使える奥さんかな。今の魔法分類で言うところの、生活魔法ってやつ。一応、中級魔法の応用に相当するかなあ。風魔法と土魔法を使って掃除したり、有名なのは洗濯したものを乾かしたりする魔法だよ。お布団をふかふかにするのとかは便利なんだ」


 うわ、いいなあ。

 そういう魔法もあるんだね。

 生活魔法というのは、家庭でお役立ちの、主婦にとって垂涎の魔法だそうだ。

 つまり、そういう系統の魔法を普段使いできた人を魔女と呼んでいた時期があったらしい。今でこそ知る人ぞ知る魔法系統に収まっているが、その手のイメージから、魔女に家庭的なイメージがついて、ほうきがその象徴になったのだとか。

 鍋とほうきで、お母さんといった感じだろう。


「一応、上のフロアには普通のほうきとは一味違うものも置いているけど、物によってはちょっとばかり制御が難しいものもあって、そっちは使えるかどうかを見定めないと売れないんだ。ま、簡易的な生活魔法が組み込まれているやつなら、それほど問題はないかな。掃く時にゴミを吸寄せてくれるほうきとか」


「へえ、そんなほうきもあるんだね」


 何だか、ほうき型の掃除機みたいだ。

 上のフロアにいけばいくほど、道具に施された術式が複雑になっていくとのこと。


「ほら、この辺りがアイテム袋のコーナーだよ」


 いくつかのフロアを越えたところに、アイテム袋の区画はあった。

 そのフロアにはアイテム袋の他に、宝石が施された装飾品や、カードや風呂敷で包まれたようなものが置いてある。


「けっこう大きなアイテム袋もあるんだね」


 大体が持ち運びやすい小さめの袋だが、中には両手を広げたくらいの大きさの袋もある。あれ、値段はすべて時価になっているんだ。それだけ作るのが難しいのだろう。


「大きい袋は吸収機能がついてないやつだよ。中に入れちゃえば、重さは感じないしね。ちょっとかさばるけど、それでも、吸収機能付きのちっちゃい袋よりは安上がりだったりするんだよ。まあ、袋の素材によってピンキリなんだけど」


「一口にアイテム袋と言いましても、空間魔法が術式として組み込まれているものは全てそう呼ばれております。ですので、最低限必要な材料さえ集めれば、材料の組み合わせや作り手の工夫によって、その性能は千差万別というわけです。もちろん、作るためにはお嬢様のように、空間魔法に精通していることが条件となりますが」


「私の場合、作り方が魔女のやり方に沿っているからねえ。だから、儀式のために材料の数が最初から決まっているんだ。最小で三つ。あとは、五個、七個、九個、十三個って感じだね。魔女のやり方だと、素材の数は最大で十三個までかな。組み合わせは自在にできるけどね。あ、ちなみに袋の素材ひとつだけでも、一応をアイテム袋を作ることは可能だよ。ただし、袋に術式を組み込むだけだから、使うためには魔力とその制御が必要だけどね」


 なるほど。

 魔法の素人でも使えるアイテム袋を作るためには、最小で三種類の素材が必要なのだそうだ。魔法が使える場合は、ちょっと機構を減らしても大丈夫だから、ひとつでも可能なのだとか。


「でもねー、魔法使いとはいえ、袋素材だけのやつはどうかと思うよ? 魔法がある程度使えるなら、せめて素材を五つ集めようよって感じだよね。あ、ちょっと話が逸れたかな。それで、アイテム袋の主な素材についてだけど、まず、さっきも言ったけど、袋そのものの素材が必要だね。これはまあ、何かの革だったり、皮膚だったり、鱗だったり。あとは植物かな。繊維系の素材を布状にしても大丈夫だよ。何を使うかによって、耐久性とかに影響してくるってわけ」


 はぐれモンスターから得られるものだったり、たとえば竜の生え変わりの鱗をもらって来たり、ということも可能なのだそうだ。

 繊維系の素材は最低限、布に加工しておいてもらわないと、ここでは袋にできないそうなのだが。


「まあ、その辺は職人街に作れる人がいるから、この町だと心配ないけどね。で、その他の素材についてだね。まず、魔法を使えない人にとって必要なのは、魔晶系のアイテムと精霊金属。この二種類だよ。魔晶系のアイテムは、アイテム袋にとっての術式を維持するためのもので、精霊金属はその魔晶系のアイテムに魔素を充填するためのもの。ね、だから素材三つで作る場合は自動的に、魔晶、精霊金属、袋素材の三つになるの」


「あ、やっぱり魔晶系のアイテムって、エネルギーの補充が必要なんだね?」


「そうだよ。ほら、オサムさんのお店の魔道具も、大体が精霊金属も込みで作られているんだよ。うん、私から見ても、何というか、豪華な使い方をしてるよねって感じ?」


「ただし、誤解のないようにご説明いたしますが、サイファートの町やお嬢様のような魔女が知り合いにおられない場合、いわゆるアイテム袋と称されているものは、精霊金属が使われていないものがほとんどです。精々が魔晶を用いているものでしょうか。事実、その場合でも袋に加工することは可能です。ですが、その場合、使用期限がございますので、ご注意ください」


 ルナルがわかりやすく、補足を入れてくれた。

 まあ、そうだよね。

 精霊金属が手に入りにくいって話は、けっこう耳にしてるもの。

 逆に言えば、ドロシーのアイテム袋の基準は、それを含めていることでもある。

 確かにそれは、今のコロネでは難易度が高そうだ。


 それにしても、塔の調理器具は精霊金属製か。

 何だか、オサムの突き進み方がこわくなってくる話だ。


「あと、精霊金属に代替できるのが、幻獣種の疑似核のストックかな。魔女の場合、こっちを用いることが多いんだけど。普通の人には無縁のやり方かな」


「疑似核というのは、幻獣種が体内で蓄積した魔素を核の形にしたものです。異界空間を維持したまま、その外側に出るときなどに用います。それがあれば、異界を生成した幻獣がいなくても、疑似核が残っている限りは空間が維持されます。なお、幻獣の核が失われた際、代用として使うこともできますゆえ、わたくしどもは疑似核を常にストックしているのです」


 新しくダンジョンができる時、その疑似核が使われていることもあるのだとか。

 何でも、異界を作ってはダンジョンにするのが趣味の幻獣種もいるらしい。

 それは随分とはた迷惑な話だね。


「で、今言った三種類の他は、吸収機能のための素材だね。吸収のための素材、自動制御のための素材、思考認識のための素材、そういったものの組み合わせで吸収機能ができあがるんだ。まあ、自動制御と思考認識は、素材なしでも簡易的な術式で最低限のことはできるけど、大きなものを入れるとなると難しいんだ。袋に入れるまではいいけど、取り出せなくなることもあるし。その辺りを手抜きしちゃダメだって話ね」


 とりあえず、吸収機能が難しいということはよくわかった。

 そもそも、袋を作るための、袋自体の素材すら入手方法がわからないし。

 まあ、まだ焦ってはいけないってことだろう。


「まあ、アイテム袋についてはそんな感じかな。今の説明でわかってもらえると思うけど、純粋にお金で買おうとすると、金額が跳ね上がっちゃうのね。だから、コロネの場合、材料も持ってきてもらったほうがいいよ。そうすれば、格安で袋作りを引き受けるから」


「うん、そうするよ。ありがとう、ドロシー」


「まあ、コロネだったら、『ヨークのパン』を作って荒稼ぎってこともできるかもねー。ふふふ、甘いお菓子を高値で売りさばく女。その二つ名は『甘味の魔女』だー!」


「やだよ、そんなの」


 ドロシーが、冗談冗談、と笑っている。

 そんな彼女の姿に、毒気を抜かれて、コロネも苦笑する。


 こっちの世界でできた新しい友達は、冗談好きなかわいらしい魔女だった。

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