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ちょこっと! ~異世界パティシエ交流記~  作者: 笹桔梗
第2章 サイファートの町探索編
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第65話 コロネ、小麦粉作りを依頼する

「調質で、一日よりちょっと長いくらい寝かせてから、小麦粉を粗めに砕くんだけど……この場合、石臼だと粉になっちゃうからね。これに関しては器具が必要かな」


 米の脱穀よりも、小麦の脱穀の方が難しいのだ。

 まあ、脱穀だけならいいが、粉をきれいに分離するためには、段階的に、少しずつ小麦の粒を小さくしていく必要がある。

 さすがにこの作業は石臼だけでは無理だろう。


「なるほどな。だったら、これに関しては俺が手伝おう。酒とか、油作りの工程で、原料を砕く装置があるから、そっちで代用してみようぜ。少し、金具の幅を調整すれば、砕いたものが出てくるようになるんじゃねえかな」


 オサムが言うには、搾るための器具があるから、それの機構部分に遊びを作れば、搾るというよりも砕く感じになるのだそうだ。


「あ、それは助かりますね。でも、いいんですか?」


 お菓子の材料集めには手を貸さないって言っていたのに。


「なに、そのうち、小麦粉のための専用の物も開発するだろ。そうなったら、俺も使うから、これでおあいこだよ」


「確か、塔の倉庫にも予備の器具があったのですよ。後で持っていくのです」


 なるほど。

 それなら、砕く工程はある程度大丈夫かな。

 まあ、良質な粉を作るのは、ロール製粉機やふすまの欠片を風で取り除く装置を作ってからになるだろうし、まずは代用で十分だろう。


「となると、粗く砕く工程は大丈夫だよね。なので、後はふるいを使って、粉を分離していく作業かな」


「この間、コロネさんがやっていた作業なのですね」


「うん。でも、あの時よりは簡単に分けられるはずだよ。調質も破砕もやっていない、ただの粉の状態だったから難しかっただけだもの。ブラン君、ちなみに、水車を使ったふるいわけって、それだけできれいに分離できるのかな?」


「すみません、コロネさん。うちの場合、その後でさらに人の手でもう一度やってます。どうしても、小さな石とかが残ってしまいますので」


 そっか。となると、どうしても人の手が必要かな。

 ただ、それに関しては、少し考えていたことがあるんだ。


「やっぱり、この工程には人手が必要ってことだよね。だから、この作業についてはクエストを依頼してみようと思っているんだ。さっき、冒険者ギルドで話を聞いてきたんだけど、その時に、わたし宛で甘い物を作ってほしいって依頼がけっこうあってね」


「そういえば、パン工房にもその件で問い合わせがあったのですよ。コロネさんの料理はどうすれば食べられるのかって、何人かやってきていたのです」


 そうだったのか。

 だったら、なおさら好都合だ。


「うん、だからね。わたしが『料理クエスト』を受けてもいいんだけど、それよりも別の方法がないかなあって考えてたの。例えば、今回の小麦粉作りの工程ね。これを『日常クエスト』として依頼を出して、その報酬にプリンを出そうかなって」


「なるほどな。プリンは販売するんじゃなくて、依頼の報酬用にするってことか。いいんじゃねえか。確かにプリンは材料集めは難しくないが、いざ作るとなると、冷蔵庫がネックになるはずだ。さすがにこの町の宿で冷蔵庫は完備してないからな」


「はい。ドムさんの言葉がヒントになりました。冷蔵庫があまり普及していないなら、プリンは報酬として成立しやすいんじゃないかって」


 作り方自体は、ピーニャを通じて広がっていくけれども、例えば冒険者の人たちが簡単に作るとはいかないはずだ。塔の調理場を借りるのにもお金がかかるし。大量に作っても保存が難しいからね。その日食べる分だけのために調理場を借りるのは効率が悪いだろう。

 となれば、わざわざ自分で作る人は少ないはずだ。


「数時間のふるいわけ作業で、プリン二個セット。これだと安いですか?」


「いや、最初はそのくらいでいいんじゃねえか? プリン単価が銅貨三枚以下にするのはあり得ないから、それなら少し報酬が高すぎるくらいだ」


 オサムの話だと、クエストには適正報酬というものがあって、それよりも高すぎても安すぎてもダメなのだそうだ。冒険者ギルドの方で調整が入るのだとか。

 もちろん、急を要する場合などは報酬をあげたりもできるのだが、極端な価格破壊は誰にとってもメリットがないため、ストップがかかるのだそうだ。

 クエストでは、ダメお金儲け、とのこと。

 それがしたければ、商業ギルドに行きましょう、と。


「むしろプリン一個を報酬にして、生産量に応じて追加報酬を出した方がモチベーションを上げられると思うぞ。うちのパン工房の場合は、頑張らないと追加にならない設定にしてあるが、コロネの場合、そこそこの頑張りで達成できるようにしておけば、プリン二個で最低量は保てるだろ? それに届かなければ、プリン一個でいいし」


「あ、それはいいですね。いっぱい小麦粉ができれば、更に追加って感じですか」


 そもそも、プリンを味見してもらいたいので、二種類をセットにするつもりだったんだけど、それはそれで良さそうだ。生クリームの方が追加報酬用かな。


「ですが、そうなるとコロネさんのプリンへの対価がないのですよ。ここは、ピーニャにお任せなのです。できた小麦の買い上げに関してなのです。パン工房で使う分とコロネさんが自由に使える分を合わせて、まとめて買い上げるのです。これなら、パン工房の予算から計上できるのですよ」


「それは、助かるよ、ピーニャ」


 この提案はかなりうれしい。

 オサムからお給料をもらっている手前、なるべくは素材集めについては、その範囲内で頑張るつもりだけど、事が大掛かりになると、予算が厳しいんだよね。

 

「あと、もう一点必要だな。なあ、ブラン、ちょっといいか?」


「はい、オサムさん」


「お前さん、パン工房のアルバイトから外れて、代わりに小麦粉の責任者の仕事を受けてもらえないか? これに関しては、俺の方で直接報酬を出す形だな。さすがにクエストとなると、コロネが直接担当しなければまずいんだが、そうなると、料理人としての仕事に影響が出てしまうだろう。小麦粉を集めるために他のことができなくなるのは、あまりよろしくないだろ。だから、クエストの発注を頼みたいんだ」


 そうか。クエストの発注者は必然、それを見届ける必要が出てくるものね。

 パン工房なら、ピーニャがやっていることだ。

 さすがにやってみないとわからないが、小麦粉が週一回で済むとは思えない。

 オサムはコロネのことは自由にさせてくれるが、それでも成果報告はきっちりやっているのだ。その辺りはなあなあにしてはいけない。

 仕事だから当然のことだろう。


「どっちみち、ブランのとこの小麦の話だから、責任者というよりは、対等な契約者といった感じだけどな。ただ、クエスト担当としての報酬は出すし、当然、できた小麦粉に対しても適正価格を支払うがな。あと、引き受けてくれたら、機材も回すから、うちとの契約以外でも自由に使っていい。その辺りが掲示できる条件だな」


「それは、もちろん、願ってもないことですよ。新しい小麦粉の作り方だけでもありがたいのに、機材まで。元々、家計の助けのために始めたアルバイトですし、僕としては大丈夫です。それにこちらの方が家業ですしね」


「ありがとうございます、オサムさん。ブラン君も引き受けてくれてありがとう」


 何だか、自分の仕事を押し付けるようで申し訳ないが、すごく助かる。


「いえ、コロネさん、考えてもみてくださいよ。これ、絶対に僕の方が得してますよ。むしろ、クエストの方を任せて頂くだけで申し訳ありません。それに、ひょっとするとうちの小麦から新しいパンができるかもしれないんですよ。こんなにうれしいことはありませんよ」


 そう言って、ブランがとてもいい笑顔を浮かべた。

 小麦農家冥利に尽きるのだとか。

 そう言ってもらえると、こっちもうれしい。


「それじゃあ、どうする? いつからクエストを始めるんだ?」


「そうですね。プリンのために、生クリームも作らないといけないので、最短でも二日は必要ですね。直接の担当はブラン君に任せるにしても、報酬の用意にそれくらいかかりますね」


 あ、そうだ。となると教会に行って牛乳を買ってこないと。

 アイス作りもあるから、ここからは毎日クリームを仕込む必要がありそうだ。


「あ、そういえば、なのです。コロネさんがいない間に、カウベルさんが牛乳を持ってきてくれたのですよ。何でも、少し早いですが、アイスの件でのお礼の分なのだそうです。今は保管庫に置いてあるのですよ」


「ああ、そうそう。プリムからもたまごを受け取っているぞ。今日の分の仕入れと一緒に持ってきてくれていたな。そっちも保管庫にあるから、大丈夫だぞ。コロネの分はわかるように置いてあるからな」


 あれ、そうなんだ。

 ありがたいことに、これで材料がそろってしまったよ。

 良かった。これなら、明後日の朝までにプリンが用意できるね。


「それでしたら、僕の方もそれまでに小麦の方を準備しておきますね。調質でしたか? その作業に関しては初めてですので、小麦の状態も見てみたいですしね。コロネさん、水の量や手順について、細かく教えてください」


 ブランに、調質の方法について説明する。

 後は、ここから試行錯誤していく感じだ。

 コロネも知識として、知っているだけだしね。


「で、寝かせるのは一日から一日半。二十四時間から三十六時間って感じだよ。後は、機材を調整して、小麦を砕いた状態にしておくってとこかな。クエストはそこから先の工程だね」


「わかりました。やってみますね。あと、オサムさん。クエストって前日からの申請が必要でしたよね?」


「いや、厳密に言えば、当日からでも大丈夫だ。ただし、新しい系統のクエストについては、受付などでも『こういうクエストがあるよ』って告知をしてくれるので、そのために一日前になっているだけさ。それに当日告知して、いきなり受けてくれるやつもいるかどうかわからないしな。まあ、明後日から始めるなら、明日のうちに申請しておくのが無難だな。もし何か問題があれば、ギルドが閉まる前に取り下げればいい」


 前日に取り下げれば、張り出されることもないので問題ないそうだ。

 割とそういうことはよくあるらしい。

 なるほどね。


「では、明日のうちに申請しておきますね。あ、コロネさん、追加の基準の量についてはどうしますか?」


「うーん、それはやってみないとわからないね。お試しでやってみて、それからかな」


 身体強化を使わないで、用意できた量が基準くらいに考えているけど。

 まあ、その辺は試してみてから調整しよう。


「わかりました。その辺りは伏せておきますね。でも、何だかわくわくしますね」


「なのです。小麦粉ゲットで、いよいよパン工房も新しい展開に突入なのですよ。頑張るのです!」


 やっぱり、みんなの目が輝いているのっていいよね。

 それを見てもっと頑張ろうと思うコロネなのだった。

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