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ちょこっと! ~異世界パティシエ交流記~  作者: 笹桔梗
第2章 サイファートの町探索編
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第58話 コロネ、お酒を受け取る

「では、そろそろ行きましょうか。長居をしてもお店に悪いですし」


 すでにお皿は空になっている。

 ランチメニューはこれにて終了ということだ。

 うん、文句なしに満足できる内容だったよ。これで銀貨一枚、向こうでの千円なのだから言うことなしだ。


「ははは、俺たちは入り浸っているが、それなりに色々頼んでいるからな」


 ディーディーの言葉にトライが苦笑する。

 さすがに一品で居座るのはマナー違反ということらしい。

 あ、そうだ。

 忘れていた。ちょっと聞いておきたいことがあったんだ。

 代金を受け取るためにカウンターまでやってきていたドムに、声をかける。


「ドムさん、ちょっといいですか?」


「なんじゃ、嬢ちゃん」


「鍛冶屋のジーナさんから、ここに蜂蜜酒を卸しているって聞いたんですけど、それを分けていただくことは可能ですか? ほとんどの在庫は卸しているから、今は飲む分と仕込んでいる分しかないって聞いたんですけど」


 お菓子作りに合ったお酒の調達についての話だ。

 ドムなら色々と知っているだろうし。


「おお、別に構わんぞ。それなら、ヘレスを呼んだほうがいいじゃろな。あいつは別にわしの手伝いで、バーテンダーをしとるわけじゃないからな」


「あ、そうなんですか?」


「そうじゃよ。わしはこう見えても、そこそこしか酒は飲めんのじゃ。だから、味についてはヘレスの意見を第一にしておるのよ。ああ見えて、あいつは酒にうるさい。特に強めの酒についてはドワーフたちよりも好きなんじゃないかの。おーい、ヘレス!」


 そうなんだ。

 この町だと、人は見かけによらないということを色々思い知らされるなあ。


「はいはい。どうしました、あなた?」


「コロネの嬢ちゃんが甘いものに合った酒を探しておるんじゃと。少し相談に乗ってもらえんか。わしだとそのあたりはよくわからんのでな。とりあえず、ジーナのところの酒については取りに行ってくる。後は任せてもよいか?」


「ええ、わかりました。それで、コロネさん、どういったお酒が良いとかあります?」


「ええと、わたしもこっちにどういうお酒があるのか、よくわかっていませんから。どれと言われると……さっきの食前酒、キルシュってさくらんぼのお酒ですよね。ちなみにあれはどうですか?」


 原料がさくらんぼと同じかどうかはわからないが、風味がほぼ同じだったし、何よりオサムが考案したと聞いている。間違いなく、向こうのキルシュだろう。

 だが、コロネの言葉にヘレスが申し訳なさそうに謝ってくる。


「ごめんなさい。キルシュは、オサムさんの言うところの原産地問題に引っかかる商品なの。この酒場は特例ということで販売しているけど、他に卸すことができません。今、あの人が取りに行っていますが、ジーナさんのお酒は大丈夫です。何より、ご本人の承諾があるということですので」


 お酒が、というよりも原料となる果物が引っかかるのだそうだ。

 コロネも今後何とかしていかなければならない問題である。

 そう言えば、お米や砂糖の他にもダメなものがけっこうあるって言っていたしね。

 となると、ラム酒なども存在したとしてもダメか。

 原料がさとうきびだし。

 うわあ、これは砂糖を何とかしないとけっこう大変だ。


「そうですね。コロネさんの場合、ここで購入するよりも、町の杜氏さんに相談した方が良いかもしれませんね」


「杜氏……お酒職人さんですか」


「はい。青空市には知っていますよね? その側に酒蔵、お酒を造る施設が並んでいるんですよ。もしかすると、見たこともあるかもしれませんが」


 そういえば、木造の建物があったような気もする。

 そうか、あそこでお酒を造っているんだ。


「私からの紹介ということでしたら、話を聞いてもらえると思います。あ、オサムさんの名前を出しても大丈夫ですよ? あそこでしたら、原料となるものを持ち込めば、新しいお酒を造ってくれるかもしれません」


「わかりました。ありがとうございます」


「お? 結局、酒蔵に行くことになったんじゃな。まあ、それもいいじゃろ。色々と知り合っておいた方が後々都合がよいからのう」


 そう言って、ドムがお酒を持って戻ってきた。

 ジーナのところで作ったお酒が二種類ともうひとつは高価そうなビンに入った見慣れないお酒、それぞれ一本ずつだ。


「ほれ、嬢ちゃん。ジーナのところの酒じゃ。強い方と弱い方を一本ずつ。あまり多いと持ち運びが大変じゃからのう。それぞれ試してみて、今後必要になったら言ってくれれば、塔まで持っていくからの」


 まず、二本のお酒が手渡される。

 朝、飲ませてもらった蜂蜜酒だ。これはお菓子作りで使えそうだ。


「そして、こっちはちょっとした秘伝の酒じゃ。コロネの嬢ちゃんには『ヨークのパン』を食わせてもらったからのう。それのお返しといったところかの。宮廷料理人の中でも一部のものしか、その存在を知らん酒で、『ベネの酒』という」


「『ベネの酒』ですか?」


「そうじゃ。酒と名がついておるが、錬金術の調合の際に、その製法にたどり着いたという曰くつきの酒じゃ。その作り方は秘伝での、わしも詳しいことは知らんのだが、単純に材料だけでも三十種類ほどで、その多くがマジックハーブでの。そのため、他の酒にはない特有の香りがある。その香気と効能が人を惹きつけるという、まあ、そういう感じの面白い酒じゃな」


 錬金術で作ったお酒かあ。

 さすがに向こうでは、そういうお酒はなさそうだよね。

 いやいや、そういう話じゃなくて。


「いや、そんな特別なお酒、まずいですよ」


「何、コロネの嬢ちゃんの新しいパンも大概じゃよ。それにな、わしなら、調達手段があるから、そこまで貴重なものでもないんじゃよ。まあ、意図的に情報は隠されておるが、この店にある他の酒と比べても、圧倒的に味が良いというわけでもないしのう。その辺は好みの問題じゃ。だから、気にせんでいい。むしろ、わしは嬢ちゃんには感謝しておるんじゃよ。惜しげもなく、自らの知る調理法を知らしめす、その行動に敬意を払ってのことじゃから、気にせんで受け取ってくれ」


「それに、この人言ってましたよ。コロネさんなら、『この酒を面白く使ってくれそうだ』って。どうせ、お店ではあまり出せませんので、お気になさらずに」


「……そうですか。ありがとうございます。使わせていただきますね」


 お酒もそうだが、ドムの言葉にも胸が詰まりそうだ。

 自分はどれだけの人に支えられているんだろう。


「あ、そうそう、コロネの嬢ちゃん。お酒についてはあまりアイテム袋を使ってはいけないことは聞いておるかの?」


「はい。小精霊が関与しているものは劣化するんですよね」


「そうじゃ、なので、ジーナの酒はそのまま運んだ方が良いがの。その『ベネの酒』はアイテム袋を使っても構わんよ。ビンに特殊な処置が施されておるからのう」


「えっ! そんなこともできるんですか!?」


 何でも、アイテム袋の効果も魔法による効果であるため、同系統の魔法などを組み合わせると、副作用を無効化できるのだそうだ。


「この場合、ビンに空間魔法と『定着』の魔法が施されておるんじゃ。まあ、こういうのは大事なものを運ぶ時くらいしかできんがの。金額もさることながら、その魔法の使い手があまり多くなくてな。普段使いできれば便利なんじゃろうが、なかなかうまく行かないもんじゃよ」


 なるほど。

 この高級そうなビンは見かけだけではないようだ。

 これ自体が処置のひとつなのだろう。

 せっかくなので、アイテム袋に『ベネの酒』をしまい込む。


「ビンは封を開けた時点で効力がきれるのでな、その後は気を付けるようにの」


「わかりました。何から何までありがとうございました」


「うむ、また、いつでも食事に来てくれい。今度は焼き魚の自信作を披露するからの」


「コロネさん、今後ともよろしくお願いします。許可がおりたものでしたら、お店のお酒を融通することができますので、そこまで頑張ってください」


「はい!」


 そこにいる皆さんにお礼を言って、コロネはドムの店を後にした。

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