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ちょこっと! ~異世界パティシエ交流記~  作者: 笹桔梗
第2章 サイファートの町探索編
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第57話 コロネ、冒険者について知る

「まあ、冒険者には顔が利くから、困ったときは言ってくれ」


 トライが笑顔で言ってきた。

 普段は一日中、ドムの店にいるのだそうだ。『三羽烏』は仕事の時だけ一生懸命で、後はだらだらしているのが好きなメンバーが集まってできているとのこと。

 なお、ドムとヘレスは他のお客さんの対応で行ってしまった。

 お昼時はけっこう忙しいのだ。

 冒険者だけでなく、町の人も利用する人気店だし。


「うんうん。特に、報酬が甘いものだったら、私が本気を出すよ。他のふたりには何もさせないで、報酬独り占めしちゃうから」


 コロネの料理のファンになってしまったローズが笑う。

 緑色のふわふわした感じの髪に、緑の目。衣装は緑系の服で、向こうでいうところのアオザイみたいな感じのものを着ている。身体のラインがぴったり見えていて、どことなく妖艶な雰囲気になっている。

 何でも、彼女は魔道具のメンテナンスも得意で、冒険者たちの間では人気があるのだとか。実際、冒険しなくても食べていけるため、普段のだらけぶりはすごいのだとか。

 アズが呆れながら説明してくれた。

 ここまで、やる気のあるローズは久しぶりに見たらしい。


「ただ、コロネさんの噂はすでに冒険者の間でも有名になってきてますよ。ローズはもとより、逆に依頼を出している冒険者もいますから。普通は、依頼を受ける方なんですけどねえ」


 そう言って、アズが苦笑する。

 黒系のストレートの長髪に、ぱっちりとした瞳が愛嬌がある。どこからどう見ても清純そうな美少女だ。にもかかわらず、アズが得意としているのは、格闘術と癒しの力なのだそうだ。まあ、神官というのはよくわかるけど、拳を使って相手をぼこぼこにっていうのは、本当にイメージに合わない。


「アズさんは、格闘神官ですよ。一部の好事家には、ぜひ自分を殴ってほしいという方もいらっしゃいましたが、まあ、依頼が済んだあとは病院送りですね。それだけでもお察しくださいという感じです」


「いや、ディーディーさん、人聞きの悪いことを言わないでください。依頼で全力と言われたから仕方なくですよ。そうしないと皆さん納得してくださらないんですから。それに病院に行った人なんて、ほとんどいないじゃないですか。僕が治しているんですから」


 ディーディーの説明に、慌ててアズが否定する。

 さすがに殴ってくれという依頼は嫌々だったらしいが、立場的に引き受けないわけにもいかなかったらしく、仕方なくやって、その有様らしい。


「ははは、まあ、アズは見た目可愛いからな。俺も一緒にいると、男連中からにらまれたりするからな。そういうやつらが出てくるのはしょうがないぜ」


「……もう、トライまでそういうことを言う」


 困ったように赤くなるアズ。

 確かに、そういう仕草はコロネから見てもかわいらしいと思う。

 女性的な媚びたような感じがほとんど感じられないのだ。ここまで自然体だと、同性から見てもモテるように思えるのだ。

 だからこそ、トライと一緒にいると、何だか犯罪っぽい。


「まあ、アズの件はさておき、この町の冒険者について、いくつか教えておこうか。ああ、この場合、冒険者ってのは、冒険者専業の連中のことだな。俺みたいに」


「わたしは、半分違うけどね。メンテナンスの方も頼まれるから」


「ローズも一応、『三バカ』の一員だからいいんだよ。それよりも、この町の冒険者についてだな。ちなみにコロネはどの辺りの連中は知っているんだ?」


 トライの問いに少しだけ考える。

 ふむ。

 今まで知り合った冒険者はあまり多くないな。


「リディアさんと、『あめつちの手』の三人くらいですね。他の方で冒険者と名乗られた方はいませんので、ちょっとわかりません」


 実は冒険者の人もいたのかもしれないが、そこまでは把握できていない。


「そうかそうか。その二グループは、まあいろんな意味で有名だからな。リディアはこの町で、というよりも世界規模でもトップクラスの一角に入る冒険者だ。ランクは確かCランクだったか?」


「そうですね。討伐値が大幅にオーバーしておりますので、ランクアップは可能なのですが、『面倒』の一言で断られている状態です」


 トライの言葉に、ディーディーが補足する。

 やっぱりリディアはすごいのだろう。ただの大食いの女性ではない。

 それもそうだよね。あんな大物のまぐろを簡単に採ってこれる人だし。


「ははは、あいつらしいよな。ともあれ、『大食い』の二つ名はかなり有名だ。自分の好きな依頼しか受けず、そのほとんどが食べ物に関するものばかり。大体は依頼というよりも、討伐したはぐれモンスターの持ち込みで、依頼達成が発覚するものばかりだしな。あれは少し困るだろ、冒険者ギルドとしても」


「はい。依頼料が宙に浮いてしまいますから。そもそも、ギルドを通しておりませんし、リディアさん本人も浮世離れしたところがありますので、報酬にあまり関心がないのですよね。さすがに他の町で緊急クエストに発展したものをこの町に持ち込まれるのは……処理がものすごく面倒です」


 緊急クエストの場合、報酬を払わないわけにもいかないのだとか。

 かと言って、その討伐証明をするにしても、そのモンスターを依頼のある町まで持って行かなければならず、しかもそのモンスターが本当にその町の側にいたかどうかまでは証明のしようがないので、結局、色々と揉めるのだそうだ。

 聞いているだけでも面倒くさそうだ。

 当のリディアはどこ吹く風なのだとか。


「まあ、そこまで突き抜けてるといっそ清々しいぜ。孤高の美食家といった感じだな。で、ギルド『あめつちの手』についてか。あそこのギルドも有名だな。普通、精霊種が生産職を堂々と前面に出してくるのは珍しいんだ。ウルルの服飾スキルも人気があるが、冒険者として関心が高いのは、アルルの精霊鍛冶のスキルだ。この際だから、はっきり言っておくが、精霊鍛冶に関しては、この町以外で情報が露見したら、ただでは済まないレベルのものなんだぜ」


 まず、大前提として、『人化』スキルを持っている精霊種が人里に堂々と存在しているケースが稀なのだそうだ。精霊種に関しては、その能力の希少性から、色々と狙われてきた経緯があり、普通は自身の存在を隠すようにしているのだとか。


「ほら、ヘレスさんも言ってただろ。王都では身分を隠していたって。俺にしたところで、たまたま知り合いに精霊種がいたから得られた情報であって、普通は知ることもできないはずだ。そのくらい精霊は種族間の線引きが鋭い。まあ、一度親しくなってしまった者については人懐っこいの一言だが、正直、シモーヌのようなケースを聞いて驚いたくらいだ。精霊の森に人間種が入ることが許されるなんて稀だからな」


「アルルとウルルが生産職を始めたのも、オサムがいたからだしね。それまではさすがにお気楽なあのふたりでも情報は隠していたもの」


 ローズが付け加えて説明してくれる。

 精霊種は『人化』を解いて本体に戻れば、その正体を隠すことができるのだそうだ。ただし、長距離を移動する場合は、依代と呼ばれる存在が必要で、この場合、シモーヌがその適性があったため、問題なかったとのこと。

 逆に言えば、シモーヌがいなければ、アルルとウルルのふたりは冒険者にはなれなかっただろう、というのが彼女の談だ。


 やはり、みんなそれぞれ事情があるらしい。


「だから、コロネに注意しておきたいのは、他所では言うなよってことだ。ぶっちゃけ、サイファートの町でなら、何も問題はない。いや、正確に言えば、この町で問題にせざるを得ない場合は、どこに行っても無駄だろうって感じだな。まあ、そういう事態は今までお目にかかったことはないが」


 もし仮に、アルルのことが外で発覚して、この町に手を出す者が現れたとしても、それについては対処できるとのこと。

 少なくとも、そのくらいの人材は集まっているようだ。


「ま、精霊鍛冶は冒険者にとってレアだってことさえ知っていてくれればいい。本当はポンポンと調理器具を作ったりしていいもんじゃないんだぞってな。オサムに言っても聞く耳持たねえがな。それじゃあ、話を戻すぞ。この町に出入りできる冒険者っていうのは限られているんだ。だから、コロネがあげた二グループ以外でも、実は数えるだけしかいない。まあ、そのひとつは俺たち『三バカ』だな」


 いや、ギルド『三羽烏』でしょ。

 どうもトライは『三バカ』の方が気に入っているらしい。

 どうしてなのかは知らないが。


「後は、ギルド『竜の牙』とギルド『ジンカー』のふたつですね。それ以外のギルドはサイファートの町にはありません。もちろん、この町の住人が冒険者として、ギルドの活用をされることはありますが、専業となりますと、この五つのグループだけになります」


「あ、思ったよりも少ないんですね」


 ドムの店も賑わっていたし、もう少し多くの冒険者がいると思っていたのだけど。専業となると、あまりいないのかな。


「はい。この町は他の町とは毛色が少し違いますからね。そもそも、討伐系の依頼がほとんどありませんので、腕自慢の冒険者では食べていけないんですよ」


「このあたりのはぐれモンスターを倒せる腕があるのなら、王都の方が仕事やメリットがある。わざわざやってこないし、一攫千金を狙うにも条件が悪すぎる。まあ、そういうことだな」


 なるほど。

 このあたりにも、魔王領の側という点がネックになっているようだ。

 一般人どころか、冒険者にとってもそうなんだ。


「とはいえ、人数的に少ないわけじゃないぞ。確かにギルド『竜の牙』は六人だけだが、ギルド『ジンカー』の方は構成員が百人を超えるからな」


「えっ! 百人もいるんですか?」


 さっきからの説明と大分違うような気がするんだけど。


「ははは、まあまず『竜の牙』からだな。こっちは比較的正統派なギルドだな。目的は『最果てのダンジョン』への挑戦だ。コロネもそのダンジョンについては耳にしたことがあるか?」


「はい。確か、ジルバさんが行っていたところですよね」


「ああ。この町の側にある場所だ。その難易度高めのダンジョンに挑戦している、気概のある連中さ。今も確か潜りに行っているんじゃないか?」


「そうですね。そのようにうかがっています。ギルド『竜の牙』はこの町でも最も真っ当な冒険者ギルドです。頼りになりますよ」


「ははは、俺たちは頼りにならないからな。まあ、そんな感じだ。で、最後のひとつ、ギルド『ジンカー』なんだが、こいつらは簡単に言えば、オサムの料理のファンだ。そういうやつらが組んだギルドがそれなんだよ」


 トライによれば、冒険者の中でも、この町の料理の虜になってしまった人たちが結束してひとつのギルドを作ったのだそうだ。目的はひとつ、この町の美味しい料理が食べたい。それ以外の部分については、ギルドといってもまとまって行動することもなければ、大人数で活動することもない。

 要するに、ただ、ギルドがあるだけなのだそうだ。


「俺にしても、全員の顔を把握しているわけじゃないんだ。まあ、あんまり気にしても仕方ないし、実害があるわけじゃないしな。それに個別で依頼もしているみたいだし、言ってみれば、この町の料理屋の常連みたいなもんさ。その辺にいる連中もそうだ。俺にとっては気の良い飲み仲間だよ」


 そういって、トライが店内を指し示すと、そこにいた人たちが手を振ってくれた。

 どうやら、彼らが『ジンカー』の人たちのようだ。

 コロネも彼らに向かって、お辞儀する。

 料理好きとなれば、コロネにとってはお客さんでもある。


「な? 気の良さそうな感じだろ。これで、冒険者に関しては一通りだな。これからはよろしく頼むぜ、コロネ」


「はい、こちらこそよろしくお願いしますね」


 改めてあいさつを交わしながら、コロネを思う。

 良い町だ。

 これからも頑張ろう、と。

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