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ちょこっと! ~異世界パティシエ交流記~  作者: 笹桔梗
第2章 サイファートの町探索編
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第56話 コロネ、三羽烏と会う

「どうじゃった? わしの料理は」


「とても美味しかったです。こんなに美味しいお肉は初めて食べましたよ」


 再び、カウンターの前にやってきたドムに、料理への興奮を伝えた。

 肉自体の味もそうだが、やはり焼き方が絶妙だったのだ。

 料理と言えば、オサムというイメージがあったけれど、その考えは改める必要があるようだ。まあ、当然だろうね。努力し続けている料理人がいて、食材があれば、調理法を工夫するのは自然の流れだ。

 誰だって、少しでも美味しいものを食べたいに決まっている。


「そうかそうか。コロネの嬢ちゃんに言ってもらえるとうれしいのう。オサムもそうなんじゃが、嬢ちゃんたちの料理に対するこだわりを見とると、たまに、わし自身も宮廷料理人としての自信を失いかけることがあってな」


 そう言って、ドムが笑う。

 横にいるバーテンダーの女性も苦笑しているようだ。


「ダメですよ、あなた。そういうことを口に出してはいけませんよ。劣っていることがあれば努力すればいいんです。人生は長いのですから、まだまだこれから頑張ればいいのですよ」


「わかっとるわ。わしもまだまだ若い者には負けんよ」


「え、あなた?」


 何だか、変な単語を聞いたような気がするけど。

 このバーテンダーの人って、もしかして。


「おお、そうじゃ。コロネの嬢ちゃんにも紹介しようと思っての。わしの妻のヘレスじゃ。この店ではお酒を振舞ったりするバーテンダーをしておる」


「はい。妻のヘレスです。よろしくお願いしますね。コロネさんのことはよく聞いてますよ。この人が久しぶりに楽しそうに話をしてましたし。オサムさん以来の逸材ですって? それだけでも相当な腕前ということですから」


「あ、よろしくお願いします。料理人のコロネです」


 慌てて、コロネもあいさつする。

 少しだけ、驚きから回復するまで時間がかかってしまったよ。

 ドムの奥さんというには随分と若く見える。正直、コロネと比べても、ほとんど変わらない年にしか見えないのに。


「それにしても、こんなにお若い奥さんだなんて、ドムさんもすごいですね」


「うふふ、ありがとう。褒め言葉と受け取っておくわ」


「おいおい、嬢ちゃん。何を考えておるのか、何となくわかるが、誤解せんでくれよ。こう見えてもこいつは」


「何ですか?」


「……いや、こう見えてもこいつは、ガゼルの母親じゃよ」


 あ、笑顔に負けて言い直した。

 いやいや、それよりも、本当にドムの奥さんってことか。

 ちょっとこわくて、年齢については触れられないけど、見た目相応ではなさそうだ。


「私は人間種ではありませんからね。王都では秘密にしてましたけど、ここでなら大丈夫ということでお話ししますが、精霊種のサラマンダーです。ですから、年齢については内緒ということで。一応、アルルとウルルよりちょっと上ですよ」


 茶目っ気たっぷりにヘレスが笑う。

 なるほど、精霊種なんだ。

 あれ、でも今まで聞いていた精霊のイメージと大分違う気がする。


「あれ、サラマンダーって火の精霊でしたよね。ヘレスさん、あんまりそういうイメージがないような気がするんですけど」


 精霊って『人化』の際、属性の色が出やすいって聞いていたのに。

 ヘレスの髪や目の色は、赤ではなく、むしろ青い。藍色だ。


「ああ、それはですね、コロネさん。精霊種はその能力に応じて、体質が変化していくからですよ。私の場合はサラマンダーですから、炎の色ですね。今の私の本体は、この藍色、蒼い炎の色なので、それが表面化しているだけです。おかげで、王都でも正体には気づかれませんでしたね」


「まあ、その若さから怪しんでおるものはいたかも知れんがな。そのあたりは王妃も似たようなもんじゃから、誰も突っ込んではこんかったのう」


 実際、サラマンダーの色は、こちらの世界でも赤いイメージで間違ってはいないそうだ。だが、精霊種は成長すると属性のイメージが変化というか、進化することがあり、そちらに関する情報はあまり表に出ていないため、知られていないのだとか。

 なるほど。

 それは面白いことを聞いた。

 いやいや、そうじゃない。突っ込みどころがいっぱいある。


「え、ドムさんの奥さんが精霊ってことは、ガゼルさんはハーフってことですか?」


「そうじゃよ。ほれ、ガゼルのやつが宮廷料理人を辞めたのは知っとるじゃろ? あやつもなかなか期待されておったからのう。その際にもひと悶着あったんじゃが、その際にすんなり首になることができたのも、そのことをポロッと話したからじゃよ。今の王は、異種族の婚姻にも大らかじゃが、王都にはまだハーフをよく思わない風潮が残っておってな。そのために隠しておったのに、まったくあのバカ息子め、困ったもんじゃ」


 普通に手続きを踏んで辞めていれば、王宮への出入りも可能だったとのこと。

 わざわざ好き好んで、出入り禁止にならなくても、と。

 さすがに、この件ではヘレスも苦笑している。


「やれやれ。おかげで、本当ならガゼルがやるべき義務がわしの方に回ってきたわけじゃよ。まったく、王のやつも楽隠居の道楽を邪魔せんで欲しいもんじゃ」


「あの、義務っていうのは何のことですか?」


「ほれ、ちょっくら王都まで行って、やんごとなきお人に会ってくる用のことじゃよ。今回はコロネの嬢ちゃんに関する話じゃの」


 ああ、そういえば、ブリオッシュの味見の時にそんな話をしていたかも。

 ドムに課せられた義務というのは、国を揺るがす事態に発展しそうな話があった場合のみ、王都まで報告しに行くというものらしい。

 ドムは純粋な人間種なので、王宮に入るのも問題ないそうだ。

 それもどうかと思うけど。


「冒険者ギルドでも似たようなことはしていますね。まあ、ギルドの場合、国を越えた情報のやり取りになりますので、いざという時に頼りにくいでしょうし。どうしても、自国の情報に関しては、こういったことを行なうのが普通のようですね」


 ディーディーが付け加えて教えてくれる。

 それにしても、コロネにもこのことを教えて大丈夫なのだろうか。

 そもそも、ここ、お店の中なんだけど。


「まあ、この町におる連中は、この程度のことは何となく把握しておる者ばかりじゃよ。だから、その辺は阿吽の呼吸じゃな。お互い、そういうものだという情報を認識しておくことがメリットになることもあるんじゃよ」


 なるほど。

 相互監視というと大袈裟だけど、逆にバランスを取るために必要なのだとか。


「あのな。コロネの嬢ちゃんの場合、オサムと一緒におるんじゃから、もっと面倒くさい情報を聞き知ったりすることになるじゃろ? 嬢ちゃんに知らせておくと、いざという時に何とかなったりするんじゃよ」


 要するに、コロネを通じてオサムに、ってことだろう。

 何だろう。知らず知らずのうちに変なことに巻き込まれている気がする。

 まあ、気にしてもキリがないので、諦めるけど。


「ともあれ、太陽の日は臨時休業という感じかのう。オサムにも伝えておいてくれんか。次の太陽の日には手伝いに入ることはできんとな」


「わかりました」


 サイファートの町から王都までは、急いで行っても、かなりかかってしまうのだとか。輸送のプロに頼むにも、その人が町に戻ってくるまでもう少しかかるらしい。

 ちなみにそのプロはラビの父親だそうだ。


 と、ドムたちと話している後ろから、三人の人たちが近づいてきた。

 居酒屋スペースで飲んでいた冒険者の人たちだ。


「ドムさん、太陽の日は休みなのかい?」


「ああ、そうなってしまってな。すまないが、その日はオサムの店に行ってくれんか。食材は回しておくからのう」


「わかった。で、どうする? 王都まで行くんなら、護衛を引き受けても構わないぜ?」


「まあ、ロンに頼んでおるから大丈夫じゃよ。お前さんたちの手をわずらわすほどではないのう。この町でゆっくりしておるといい。おお、そうじゃ、せっかくだから、コロネの嬢ちゃんにも紹介しておこうかの。こっちの三人はこの町でも有名な連中でな。ギルド『三羽烏』の面々じゃ」


 ドムに話しかけてきた、無精ひげの冒険者がトライオン。その横で一緒にいる少し小柄で可愛らしい女性がアズーン。少し酔っぱらった感じの笑い目の女の人がローズマリーというらしい。

 三人ともドムの店の常連で、暇さえあれば、この店に入り浸っているのだとか。


「はじめまして、料理人のコロネです。よろしくお願いします」


「ああ、よろしく頼むぜ、コロネ。冒険者のトライオンだ。トライとでも呼んでくれ。それが嫌なら、ひげ親父とかでも構わんぜ」


「アズーンです。一応、格闘家と神官をやってます。アズと呼んでください」


「やっと、あいさつできたね。わたしはローズマリー。得意なのは魔法かな。うん、一目会ったその時から、好きでした!」


「はい!?」


 自己紹介のつもりがきれい系のお姉さんに告白されている事実。

 何これ。何この状態。

 というか、他のふたりも突っ込みどころ満載なのに、それどころじゃない感じだ。


「おい、ローズ。それじゃただの告白だろ。単なる危ない人になってるぞ」


「すみません、ローズ、昨日のアイスを食べてから、あなたの料理に恋しちゃったみたいでして……」


「そう、見かけたら食べちゃいたいくらい好き」


「ああ、なるほど……」


 料理が、ってことね。

 ちょっとだけほっとする。さすがに同性から告白されるのはちょっと困る。


「ありがとうございます。また売り出す予定ですので、その時はよろしくお願いしますね」


「はっはっは、コロネの嬢ちゃん、何となくわかったかの。この三人は冒険者の中でも変わり者で有名なんじゃよ。のう、トライよ」


「ああ、俺たちのことは『三羽烏』、略して『三バカ』と呼んでくれ」


 そう誇らしげに胸を張るトライ。

 何でこの人、こんなに誇らしげなんだろうと思いつつ。

 これが、コロネとギルド『三羽烏』との最初の出会いだった。

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