第54話 コロネ、クエストについて知る
「さて、以上を踏まえた上で、冒険者ギルドの説明をいたしますね」
ディーディーが改めて、ギルドの使い方について説明してくれている。
というか、ここからが聞きたかったことでもある。
ちなみに、この間に先程のバーテンダーのお姉さんがスープとサラダを置いていってくれた。本日のメニューは朝採れ新鮮野菜のサラダとクリームシチューのようだ。ちなみに、サラダにはオリーブオイルがかけられている。
クリームシチューの方は、朝、塔でも見かけたので、同じものだろう。
なるほど、フランチャイズ形式だね。
「ギルドを利用するための条件はひとつ。冒険者であること、です。こちらはカードを持った方でしたら、どなたでも利用可能ですから、問題ありませんね」
戸籍管理という名目上、カードを作ることを拒むことはないのだそうだ。
ちなみに触れるだけで、ステータスが反映されるため、偽造も難しいのだとか。
「そもそも、このカードの製作者は、先々代の教皇です。あ、教皇というのは、神聖教会の代表者の別名ですね。ステータスという概念がこの世界に生まれてから、それを利用された最初の例と言われています。それまでは、何となくは存在していましたが、まさか個別の認証に役に立つとは誰も考えていませんでしたから」
それは画期的な発明だったのだそうだ。
それにしても、カードを教皇が作ったというのは驚きだ。
教会、恐るべし、である。
「ちなみに、このカードって、どういうシステムになっているんですか? 一度登録したら、情報が常に更新されるって聞いてますけど」
「申し訳ありませんが、一部は守秘義務に引っかかりますので、詳しい説明はできません。そもそも、これを考案された教皇自ら『偶然の産物』と仰られているので、ステータスのシステムについては、冒険者ギルドでも全容が明らかになっているわけではありませんしね。このカードの役割は触れたもののステータスを転写することと、カードを持ってきたものとそのカードの持ち主が同一かどうかの判定を行うこと、それだけです。ギルドの共有情報として、戸籍情報が管理されていますので、カードがある限り、その持ち主が冒険者であることの証明として使えます。それは世界中のどこのギルドでも同じです」
ディーディーが言うには、カード自体の発明より、現状のシステムを作り出したことの方がすごいことらしい。色々な意味で、その先々代の教皇は伝説の人物なのだとか。
「でも、そんな大事な情報があるということは、冒険者ギルドが狙われたりはしないんですか?」
他国の戸籍も管理しているということは、ある意味、危ない気がするのだが。
「ええ、そういう前例もありましたが、それに関しては、その教皇がシステムで手を打っております。情報に触れられるのはギルドの職員のみで、もしその職員がギルドの中立性に反する行動をとった場合、無条件で職員という立場から外されるようになっております。つまり、武力を背景に脅したり、職員を籠絡して情報を奪うことはシステム上できないようになっているんです」
「それはすごいですね」
冒険者ギルドの組織を護っているのが、システムそのものなのだとか。
そのため、ギルドの職員も中立性を保つことには気を遣っているのだそうだ。
好き好んで、クビになどなりたくないのだから。
「付け加えますと、冒険者ギルドを脅した国家はありましたが、過去、その行為に及んだすべての国、あるいは組織はその報いを受けています。中立の組織であるから、軽く見られる傾向がありますが、その程度の力は持っております。さもなければ、教会の庇護から外れることなどできませんからね」
詳しい説明は守秘義務に引っかかるそうだが、冒険者ギルドに攻撃を加えた国家や組織はことごとく壊滅まで追い込まれているらしい。国の場合は、革命とか、新体制と言った方がいいのかもしれないが。
何にせよ、恐ろしい話である。
「ギルドと信頼関係にある国も多いですし、教会の後ろ盾があったという経緯もありますので、自国の利益優先で暴走した国は、各方面から袋叩きですよ。それこそが中立であるがゆえの強さですから。そもそも、所属の冒険者にも、とんでもない人たちがいますしね。この町でしたら、リディアさんもそのひとりですか」
そのため、例えば『帝国』などもギルドへの敵対行動はとらないのだとか。
冒険者にも色々いるが、実力者がまとめて敵に回る恐ろしさはあるのだろう。
ちなみに、リディアはトップランカーのひとりなのだとか。
「まあ、リディアさんは面倒くさがって申請されないため、功績の割にはランクが低いのですけどね。本来なら、最高ランクでも登録可能な方ですよ。ああ、また話が逸れましたね。では、冒険者ギルドの利用法についてです。大きく分けるとふたつですね。ひとつはクエストの依頼をすること、もうひとつはクエストの依頼を受けること。それに加えまして、ご自身の戸籍情報についての確認などがありますね」
冒険者ギルドが運営のために必要なお仕事は色々あるらしいが、普通の冒険者の立場で関係してくるのは、そのくらいなのだそうだ。
クリームシチューを食べながら、ディーディーが話を続ける。
「クエストはそれこそ依頼によって、さまざまです。そう考えると冒険者というのは何でも屋の側面がありますね。一応、大まかに分類しますと、『日常クエスト』『収集クエスト』『討伐クエスト』『商業クエスト』『国や教会からの要請クエスト』、そんなところでしょうかね。ああ、この町ではオサムさんの影響でもうひとつ、『料理クエスト』もですね。まあ、こちらは日常に含まれますが」
ディーディーによると、その他にも特殊な依頼はあるそうだが、それらはランクの高い冒険者に個別で依頼するのがほとんどだそうだ。
基本のクエストは、ギルドが仲介する形で依頼者と冒険者が契約するものらしい。
「まず『日常クエスト』ですが、大体が町の中で事足りるお仕事です。コロネさんにもわかりやすく説明するなら、パン工房でのアルバイトなどがそれにあたりますね。ランクが低めか、経験が不足している方でも受けやすい内容になっております。契約によって異なりますが、ギルドが主導で依頼しているお仕事については研修期間を設けているものもあります。必要なスキルや技術の取得を目的とした研修ですね」
パン工房の場合は、身体強化を常時使用できるまでが研修期間になるそうだ。
ということは、コロネはまだ研修中らしい。
もっと頑張らないといけないようだ。
ちなみに、普通は高額がかかる魔法の取得などは協力者の有無によって、研修条件が大きく変わってくるらしい。この町の場合、魔法屋のフィナが協力してくれているため、比較的簡単に魔法取得を条件化することができるのだとか。
懐の深いエルフである。
「そして、『収集クエスト』ですね。これはそのまま、素材や食材、薬などに必要なアイテムなどを集めてくるクエストです。先程の持ち込みなども、便宜上はこのクエストに含まれます」
ただし、オサムへの依頼は、ギルドが直接行なっているもので、こちらに関しては個別依頼になるとのこと。冒険者ギルドとして、万が一の事態に備えてポーションを備蓄しておく必要があり、そのための定期的な受注なのだとか。
サイファートの町の場合、町の管理業務も冒険者ギルドが代行しているため、その側面からの依頼も必要になってくるらしい。
色々と大変そうだ。
「一応は、貴重なアイテムなどの依頼も含まれます。職人への作成依頼もそうですね。ただ、そちらに関しては職人の方と直接交渉されるケースがほとんどですので、間に冒険者ギルドが入る場合に限りますね」
頑固な職人さんの場合、ギルドが間に入ってもうまくいかないこともあり、それならば、自分で交渉した方が確実だという。もちろん、すでに伝手がある場合は別で、その場合はギルドに相談してもらっても構わないそうだ。
「続きまして、『討伐クエスト』です。こちらはわかりやすいですね。町への脅威となり得るモンスターが現れた場合、討伐をお願いするというものです。ただ、この町の場合はすでに周辺警戒を行なってくださる方々がおりますので、ギルドからの依頼というのはあまりありませんね。ですので、はぐれモンスターの討伐が主だと思ってください」
「はぐれモンスター、ですか?」
「はい。コロネさんでしたら、食材の『収集クエスト』とセットになる感じでしょうか。例えば、暴れ牛などははぐれモンスターの一種ですが、こちらを討伐して、全身、あるいは討伐部位をギルドまで持ってくることで、討伐料と交換する形ですね。ただ、他の町でしたら、町への脅威に比例して討伐料があがるのですが、この町の場合はほとんど討伐料が発生しませんので、食材や素材としての買い取りがほとんどですね。それにしたところで、青空市がありますし、オサムさんも買い取りをしてますので、ギルドではあまり行なっていないのが現状です。あくまで、他の町でしたら、ということでご理解ください」
なるほど。
相変わらず、サイファートの町は特殊な立ち位置らしい。
いや、それだけじゃなくて。
「そもそも、はぐれモンスターって何ですか?」
普通のモンスターと何が違うのだろうか。
「ああ、そうですね。はぐれモンスターというのは、友好的なモンスターや魔王領所属のモンスターを除いたものの総称です。特性として闘争本能が強いだけだったり、ダンジョン内にいて、ダンジョンに属しているモンスターもそうですね。自然の弱肉強食に適応しているモンスターと言い換えてもいいです」
要するに、戦って倒しても問題のないモンスターのことらしい。
基準としては、遭遇したら問答無用で襲い掛かってくるものがそれで、そうではない友好的なモンスターを討伐すると罰せられるとのこと。
その辺りは冒険者として注意が必要なのだとか。
「最近では減ってきましたが、友好的なモンスターに危害を加えてトラブルに発展したケースもありますので、ご注意ください。さて、説明を続けますと、『商業クエスト』ですね。こちらは一部、商業ギルドとの兼ね合いになりますが、大体のお仕事は遠くの都や町まで人や物を届けるクエストを指します。商機を見極めて交渉するなどの仕事は、さすがに商業ギルドの管轄ですからね。なお、この町では大丈夫ですが、他の町でお店を持とうとしたら、必ず商業ギルドへの申請が必要となりますので気を付けてくださいね」
商業クエストは物流関係がほとんどなのだとか。
それにしたところで、この町の場合、移動に長けた人々が商人の役割を担っているので、あまり冒険者ギルドへの依頼はないのだとか。なぜか、人を護衛して移動する場合も、この分類に入るそうだ。まあ、商業と言えばそうなのかもしれないけど。
ちなみに、この町の商業ギルドは青空市の管理以外は、割と緩めで、特に料理のお店を開く場合は、ギルドを通さなくても問題ないのだそうだ。それは、商業ギルド自ら明言しているのだとか。
まあ、色々あったらしい。
「後はまあ、『国や教会からの要請クエスト』はそのままですね。大規模なものは冒険者に召集をかけたりしますが、その場合も冒険者を専業とされている方に向けてですね。戦闘能力に長けているのは専業の方に多いですし、コロネさんに召集がかかることはまずありませんよ」
戸籍管理の名目上、ほとんどの冒険者は別に職業を持っているのだとか。
なお、冒険者のみを生業にしている人たちは、変わり者が多いというので有名なのだそうだ。戦闘能力が高く、きっちりした人は軍なり、騎士団なりに所属しているため、そういう噂が立っているらしい。まあ、実際もその通りらしいのだが。
「最後に『料理クエスト』です。この町特有のクエストと言ってもいいでしょうね。普通は腕の立つ料理人は個別依頼を受けませんから。こういう料理を作ってほしいという依頼を受けて、その料理を振舞う。それがこのクエストです。ちなみに、もうすでにコロネさん宛てのような依頼もありますので、興味があれば、確認してみてください。向こうのフロアに衝立がありましたよね? そこに貼られている紙がクエストです。依頼書の写しを、あそこに掲示して、クエストのやり取りをしています。受けられそうな依頼がありましたら、紙を持って、受付まで持ってきてください。勝手に持って行っても依頼としては見なされませんので、ご注意ください」
「わかりました。ありがとうございます、ディーディーさん」
以上で、説明が終わりなのだそうだ。
おかげで、冒険者ギルドについて、色々と知ることができた。
「いえ、お役に立てれば光栄です。これで、コロネさんも冒険者ギルドをご利用いただければ幸いです。様々な方のご協力で、ギルドは成り立っておりますので」
そう言って、笑顔でサラダを食べるディーディー。
相変わらず、色々な人にお世話になりっぱなしだけど。
だからこそ、これからもっと頑張ろう。
そう思った。