第52話 コロネ、冒険者ギルドに行く
「そろそろ、冒険者ギルドかな?」
地下探訪もひと段落して、オサムと地上に戻ってきたコロネは、その足で冒険者ギルドへと向かっていた。
オサムから頼まれたおつかいで、ポーションを届けに行くのだ。
ついでに、あいさつもしてくるつもりだ。
一応、身分証の件で、冒険者登録はされているのだが、細かい説明については後回しになっていたため、改めて、というわけである。
そういえば、地下でミケ長老と別れたのだが、その際、長老が気になることを言っていた。
『ところで、少し気になっておったのじゃが、コロネの嬢ちゃんは、召喚系の資質があるのかの?』
『その辺はまだわからんぜ? レベル1だしな』
『なに、わしが肩に乗った時、惹かれる感覚があったからのう。これは式神使いや召喚師の感触のような気がしただけじゃよ。はっきりしたことはわからんが』
『へえ、なるほどな。コロネ、良かったじゃねえか。面白い可能性が見えてきたな』
ミケ長老の感覚はよくわからないが、妖怪種と親和性が高いというのは、召喚系の才能を示す、ひとつの条件なのだそうだ。もっとも、あくまでも条件のひとつであり、それだけで何かに目覚めるわけでもないらしい。
普通の人間種でも、そういう特質を持っている人はいるのだそうだ。
『ともあれ、暇があれば、コノミのお嬢の店に行って、相談してみるがいい。ああ見えてコズエのお嬢はスパルタでな。まあ、そっちの方が無難じゃろ』
というわけで、色々とひと段落したら、コノミのうどん屋に顔を出すことにした。
何だか、顔を出すところが増えてきた気がするが。
まあ、ひとつひとつ頑張ってみよう。
まずは冒険者ギルドからだ。
場所は町の西側のエリア。
すでにフィナの魔法屋などで来たことがあるところだ。
というわけで、あっさりと到着した。冒険者ギルドは、建物としては普通のお店よりも少し大きめな印象だ。確か、ドムの酒場も中にあるという話だから、それなりの作りになっているのだろう。
コロネがたどり着く直前にも、他の冒険者らしき人たちが中に入っていくのが見えた。けっこう賑わっているようだ。
「ごめんください。失礼します」
そう言いながら、建物の中へと入る。
入ってすぐの場所に受付のカウンターがあり、そのすぐ横は大きなフロアになっているようだ。フロアにはテーブルやら、衝立のようなものがいくつもおかれており、衝立の両面には何やら色々と紙が貼られている。
そこにいる冒険者の人たちは、その紙に目を通しているようだ。
ちなみに、衝立に遮られていてわかりにくいが、奥の方には酒場のような場所が見えた。そこがドムのお店なのだろう。
とりあえず、コロネは初めてなので、受付のカウンターに声をかけることにする。
「すみません、ちょっといいですか?」
「はい、どうぞ。初めての方ですね? 冒険者ギルドへの登録はお済みでしょうか? まだでしたら、これから行ないますよ」
応対してくれたのは、メガネをかけた受付のお姉さんだ。
何となく、印象としてはできるビジネスウーマンといった感じの人である。
「あ、登録については、町に入る時にしてもらいました。このカードですよね?」
そう言って、身分証をお姉さんに渡す。
相変わらず、レベルはそのままだ。
スキル欄に『身体強化』が加わっただけである。
「はい、確認しますね……はい、問題ありませんね。コロネさん、ですね。それではこのカードはお返しします。では、改めまして、冒険者ギルドにはどのようなご用件でいらっしゃいましたか?」
「あ、オサムさんからのおつかいで、頼まれていた品物を届けにきたんですけど」
「ああ! そうでしたか。あなたが新しい料理人の方でしたか。ご紹介が遅れましたが、私はディーディーと申します。冒険者ギルドで受付業務を行なっております。どうぞよろしくお願いいたします」
「ご丁寧にどうも。料理人のコロネです。こちらこそよろしくお願いします」
ディーディーは王都出身の人間種なのだそうだ。
一応、自分自身も冒険者で、ギルドが休みの時は冒険に出かけているのだとか。
ちなみに太陽の日はギルドはお休みである。
その場合、ドムの店へは裏の方に回って入るのだとか。
「それでは、品物の方を袋のまま、お預かりしますね。中身を確認しますので、少々お待ちください」
そう言って、ディーディーが奥の部屋へと入ってしまった。
まあ、確かに大っぴらにやり取りをするとマズイ商品だものね。
これが普通なのだろう。
しばらくすると、ディーディーが戻ってきた。
もうひとり、坊主頭で体格の良さそうな男の人も一緒だ。
「はい。確かにお預かりしました。詳細につきましては後日、直接おうかがいしますとオサムさんにはお伝えください」
「わかりました。そう伝えます」
空になったアイテム袋を受け取りながら、頷く。
やはり、ギルドとしてもこの取引については気を遣っているらしい。
「そして、こちらがこの町で冒険者ギルドのマスターをしております、ドラッケンです。あいさつをしたいと言うので、連れてきました」
「はじめまして。ドラッケンだ。昨日は店の方にもいたんだがな。挨拶が遅れてすまない。改めて、アイスクリームっていうのが美味かったことを伝えたくてな。ありがとう、コロネ」
あ、昨日のお客さんのひとりだったのか。
見た目は豪快そうな人だけど、思ったより優しそうだ。
「いえ、こちらこそ、ありがとうございます。これからもよろしくお願いします」
「……いいですね、マスターは美味しいものが食べられて。昨日と言えば、私はここで残務処理をしていたのですが。それについて何か思うことはありませんか? おかげで町の話題から取り残されている女がひとり、ここにいますけど」
「……正直、すまんかった。この埋め合わせは太陽の日ということで」
「冗談ですよ。とはいえ、こっそり逃げ出すのは程ほどにお願いします。一応はマスターが目を通さないといけない書類も多いのですからね」
うわ、何となく気まずい空気だ。
コロネは関係ないはずだけど、少し申し訳なくなってくる。
もし、ディーディーが来店したときには何か出すことにしよう。
「わかった。積みあがっている分は、今日中に処理するさ。それでは仕事に戻るとするか。じゃあな、コロネ。何だったら、少しゆっくりしていってもいいぞ」
そう言って、そそくさと逃げるように奥へと戻っていくドラッケン。
何となく、ここの力関係を理解する。
「さて、コロネさん。これで要件は終わりということでよろしいですか?」
「あ、あの、冒険者ギルドについて教えてもらってもいいですか? 私も迷い人らしくて、あまり詳しいことがよくわかっていないんですけど」
冒険者として登録されているのに、その冒険者についてすら漠然としか知らないのだ。この際だから、説明を聞いておきたいところだ。
「そうでしたか。でしたら、ちょうどそろそろ私の昼休憩の時間ですので、食事を取りながら説明しましょうか。ワーグ、先に休憩に入ります。受付の方をお願いします」
「はい、わかりました」
ディーディーが、もうひとつの窓口を担当していた職員にそう伝えた。
ちなみに彼女はワーグさんと言うらしい。
両親が冒険者をしていて、その関係でそのまま、ここで働いているのだそうだ。
「では、コロネさんもどうぞ。ドムさんのお店で昼食といきましょうか」
コロネが迷い人ということで、ここの食事代はもってくれるのだそうだ。
最初のうちは、そういう予算もあるのだとか。
そういうことなら、ありがたくお相伴にあずかろう。
ドムのお店にも興味があったし。
こうして、ふたりはギルドの奥へと向かった。