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ちょこっと! ~異世界パティシエ交流記~  作者: 笹桔梗
第6章 町の外への挑戦編
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第444話 コロネ、魔法医の本気に驚く

「たぶん、『流星雨』を発動したのと同時に、いくつかの魔法を使っていたみたいだ、ね。姿が見えなくなる魔法と、後は……」


 姿が見えなくなる魔法なんてあるんだ?

 そう、コロネが感心していると、リディアさんが立っていた場所を含めた、さっきまで石の舞台があった場所のほとんどで、地面が下へと崩れた。

 少しだけ、驚いたような、それでいてちょっと嬉しそうな感じで、リディアさんがその場で軽くジャンプして。

 そのまま、空中に浮いたままとなる。


 いやいや、一体何が起こってるのさ!?


「リディアさんって、空も飛べるんですね? と言いますか、もう、見ていても何が何やらよくわからないんですけど」


 こういう時こそ、解説が欲しいよ。

 あんまり、魔法とかに詳しくないコロネじゃ、もうついて行けないもの。


「メイデンさん、あれってどういう魔法なんですか?」


「そう、ね。まず、姿が見えなくなるのは、わたしも使える、よ? 前にコロネにも見せた光魔法の一種だ、よ。『イリュージョン』を応用させて、姿を隠すこともできるし、そもそも、幻影を作るのではなく、光そのものが周囲へと届かないようにしたりとかして、ね」


「あっ、なるほど。つまり、あれは光魔法ってことですか」


 そう言えば、訓練の最初にメイデンさんに見せてもらったものね。

 というか、メルさん、本当に色々な属性が使えるんだねえ。


「ううん、光魔法だけじゃなくて、闇魔法も一緒に使ってる、ね。気配がたどれないようになってるし。これは、わたしが前のお仕事の時に使っていた手段を、さらに高度にしたやり方か、な」


 光魔法で、視覚をいじって。

 闇魔法で、気配を消す。

 この両方が揃っていると、外側からは、本当にどこにいるのかがわからなくなる、とのこと。


 というか、リディアさんもそうだけど、やっぱり、メルさんもすごくない?

 メイデンさんの話だと、どの魔法にしても、上級相当の使い方をしているらしくて、普通の人間種だったら、最初の『流星雨』だけでも発動しないで、倒れてしまうほどなのだそうだ。

 もちろん、メルさんは蛇人種のラミアだから、元々の魔力総量も違うのだろうけど、それこそ、今みたいな魔法の使い方をしたら、普通は簡単にガス欠になってしまう、と。


「で、地面を落盤させたのは、たぶん、土魔法のトンネルを作るための魔法だと思うけど……あれも確か、規模が大きくなるにつれて、周辺魔素を消費するはずだけど……うん、やっぱり、メルさん、わざと大規模な魔法を使ってる、ね」


 納得したように、メイデンさんが頷く。

 さすがは、コロネの戦闘訓練の先生だよ。

 どうやら、メルさんの狙いに気付いたらしい。


 その間にも、模擬戦の状況は動いている。

 辺り一面に、霧のようなものが現れて、リディアさんを包み込んでいく。

 そのまま、今度は空の方に雲が発生したかと思うと、ふたりが戦っている周辺だけに雨が降って来た。

 というか、雨なんて、降らすことができるの?

 何だか、本当に魔法って何でもありなような気がしてきたよ。


 と、そのまま、降って来た雨が、突然、氷の刃となって、宙に浮いていたリディアさんへと襲い掛かる。

 それらの氷柱上のものも、さっきと同じく、リディアさんの周囲の不可視の壁によって、届いてはいないけど。


「土魔法を使って、地面を崩して、そのまま、さらに下の地下水脈から水を吸い上げて、霧を発生。同時に『複合術』の天候操作で雨を降らせて、一緒に氷魔法で凍結だ、ね。もしかしたら、雨に『水刃』をかけて、それを凍らせたのかもしれないけど、ね」


 細かい使い方は、メルさん本人に聞かないとわからない、とメイデンさんが苦笑する。

 それにしてもすごいねえ。

 属性魔法のオンパレードって感じだもの。


 でも、その矢継ぎ早に繰り出される攻撃も、リディアさんにとっては、あんまり効果がないというか、ほとんど表情を変えずに、淡々と対処しているみたいなんだよね。

 地面が崩されても、そのまま宙に浮いてるし、メルさんの姿が見えなくなっていても、それほど慌てる様子もないし。


 と、リディアさんの腕がまた右から左へと振られて。

 その瞬間に、周囲の霧を切り裂くかのように、まっすぐと長い線のようなものが、その手の先へと伸びているのが見えた。

 長さにして、十数メートルくらいかな?

 リディアさんが腕を左右に振るのに合わせて、その線が軌跡となって、周囲の霧を散らせていくのだ。


「あっ!? もしかして、あれがリディアさんの能力なんですか?」


 普通の空間だと、何も見えないものが、霧の中を動くことによって、何かが存在していることが認識できるのだ。

 もっとも、霧が霧散した後のところは、やっぱり、元の空気の時とおんなじで、何も見えなくなってしまうんだけど。


「うん、たぶん、それも踏まえて、メルさんは霧を生み出したと思う、よ。やっぱり、見えない攻撃をかわすのって、難しいから、ね」


「なのです。さっきのように、何かの現象で覆ってしまえば、リディアさんの能力も見えるようになるのですよ。霧も効果的ですが、ピーニャの場合は火魔法などで、炎の壁を作ることで、それによって、今、リディアさんが使ってるものがどういう形状で、どのくらいの長さなのか、把握できるのです」


 へえ、そうなんだ?

 というか、ピーニャもリディアさんと戦ったことがあるんだね?

 経験者は語る、って感じだし。


 ともあれ、不可視の攻撃って言っても、本当に何もないわけじゃないらしく、一応、霧なり、炎なりを使えば、攻撃の跡が線となって残るのだそうだ。

 光魔法とかで、攻撃を消しているわけじゃないんだって。


「何せ、あれで攻撃されると、ほとんどが致命傷になるのです。正直、ピーニャ程度では、まったく勝ち目がないのですよ」


 そう言って、ピーニャが苦笑する。

 攻撃が見えたところで、ピーニャが使える火魔法では、まず通用しないので、そもそも攻撃が通らず、まったく勝負にならない、と。


「せめてもの救いは、リディアさんの能力の限界なのです」


「能力の限界?」


「なのです。リディアさんにとって、唯一の弱点と言ってもいいのが、燃費の悪さなのですよ。どちらかと言えば、一撃必殺、短期決戦が得意な人なのです」


「そうだ、ね。だから、長期戦まで持ち込めば、引き分けも狙えるか、な。今みたいに、見えない攻撃も、何度も使っているうちにお腹が空いてきちゃうみたいだし」


 今も延々と四方八方から襲い掛かってくる、氷の刃を弾き続けているけど、その状態が続くだけでも、リディアさんの消耗が激しいのだとか。

 というか、もう霧が晴れちゃったから、また何も見えなくなってるんだけど、周囲の氷を弾いているのを見る限り、リディアさんの『見えないやつ』って、かなり大きさとか形状を自由にできるようだ。

 今は、身体の周囲を丸く保護しているのかな?

 それによって、氷の刃が身体まで届いていないみたいだし。


 でも、リディアさんの燃費が悪いってのは驚きだ。

 だから、いつもお店でごはんをいっぱい食べてるのかもしれないけど、あれだけ食べても全然足りてないってことなのかな?


「つまり、リディアさんに勝つには、時間切れとかガス欠を目指すってことですか?」


「攻撃を通すためには、ね。そもそも、本当の意味で勝ち目のある相手じゃないんだ、よ。少なくとも、燃費が悪いから、範囲攻撃とかを使ってこないけど、できないわけじゃないし。前にわたしも、リディアさんの力技を見たことがあるけど、それを使われたら、本当にどうしようもないもの、ね。だから、メルさんも今日は加減してもらってるのか、な」


 今のメルさんにしても、姿が見えなくて、気配も消えているから、本当にどこにいるかわからなくなっているけど、それなら、その辺のいそうな場所すべてを巻き込む形の攻撃をすれば、見えてなくても当てることはできるのだとか。

 でも、リディアさんも広範囲で自分の能力を使うと、すぐに魔力が枯渇してしまうので、もし仕留めきれなければ、逆にピンチになるため、あんまり使ってこない、と。


「それにメルさんも、今日は上級魔法を連発しているから、そろそろ、周辺魔素の方も底をついてくるはず。だから、そこから魔力を補うことも難しくなる、よ。うん、リディアさん対策としては、正攻法だ、ね」


「あれ? ということは、魔法を使う時って、周辺に漂っている魔素も使っているんですか?」


 てっきり、自分の身体の中の魔力を使ってるとばかり思っていたんだけど。

 だから、魔法を使いすぎると枯渇状態になるんだ、って。

 でも、そんなコロネの疑問に、メイデンさんもピーニャも首を横に振る。


「魔法によっては、周辺魔素の力を借りないと発動しないものも多い、の。そもそも、メルさんが使っている上級魔法なんて、自分だけの力で発動させれば、あっという間に魔力枯渇が起こってしまうようなものばかりだ、よ?」


「なのです。それでも、メルさんなら、かなりの蓄積がありますので、それなりの数の魔法を連発しても息切れしないのですが、今日の場合は、あえて、周辺魔素を削るような使い方をしているのです」


「そうだねえ、そろそろ警戒のレベルだねえ。まあ、普通はここまで周辺魔素を使い続けるのも難しいんだけどねえ。薄くなってくるにつれて、その空間との綱引きも難しくなるから、このくらいまで魔法を乱発できるのは、メルとか、竜種の一部くらいだろうねえ」


 前方の様子を真剣な表情で見つめながら、コズエさんも教えてくれた。

 同じ空間や、地域で、連続して上級魔法が使えない理由のひとつは、周辺魔素の濃度との兼ね合いがあるからなのだそうだ。

 そもそも、さっき、メルさんが使った『流星雨』。

 あの魔法ひとつでも、周辺魔素が大幅に減少するため、普通の魔術師では、その後に上級魔法を使うのは、そもそも、困難なのだそうだ。


 魔素のコントロールに秀でていて、かつ、自分の固有魔力が大幅に高くなければ、薄くなった周辺の空間との魔力の奪い合いに負けて、魔法は発動することなく、そのまま、魔力だけを奪われるのが普通だ、と。

 そういう意味では、今のメルさんと同じようなことができる人はいないので、その点でも、彼女の魔力が規格外だってことになる。


 相対しているリディアさんも異常だけど、それに挑戦できるだけの力を持っているメルさんも十分に、相応の実力者には変わりない、って。


 そうこうしていると、メルさんがようやく姿を現した。

 というか、落盤した下の方の穴から出てきたってことは、そっちに隠れてたってことらしいけど。


「えええっ!?」


 驚いたのはそこじゃなくって。

 姿を現したのは、十人以上のメルさんたちだった。

 何これ? 分身?

 何となく、ミケ長老の『分け身』スキルに近いような気がするよ?


 それぞれのメルさんが光る武器のようなものを手に持っているんだけど、それが、ひとつひとつ違うのだ。

 ということは、これ、分身の術とかとも違うのかな?


『うーん、そろそろ限界かなぁ? それじゃあ、リディア、お待たせぇ。これが最後だから、一気に突撃するよぅ!』


『ん、じゃあ、こっちも余力を使う』


 メルさんたちの身体が三種類の色の光で包まれていく。

 次の瞬間、コロネが目にしたのは、轟音と共に、ものすごい勢いでリディアさんへと向かって飛んで行くメルさんたちの姿だった。

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