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ちょこっと! ~異世界パティシエ交流記~  作者: 笹桔梗
第6章 町の外への挑戦編
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第442話 コロネ、新型ポーションを受け取る

「はいはーい。そろそろ、実験を含めた演習を始めるよぉ。今ねぇ、わたしの作ったポーションの試作品を、見学のみんなに配ってるからねぇ。今日の講習会を見たいなら、これをしっかり受け取ってねぇ」


 そう言いながら現れた、白衣姿のメルさんが、商業ギルドの人たちと手分けして、せっせとポーションを配り始めた。

 小さめのガラスのびんに鮮やかな緑色をした液体が入っている。

 おそらく、これが前にメルさんが言っていた新型ポーションなのだろう。

 見た目はミントグリーンって感じできれいに見えるけど、これ、ポーションってことは飲んだりするんだよね?

 そういう意味では、けっこう毒々しい色って言い換えてもいいような気がするよ。

 さっきもメルさんお手製のポーションで、毒を受けたコロネとしては、何というか、とっても微妙な印象を受けるんだよね。


 それにしても、周りを見渡してみても、このメルさんとリディアさんの模擬戦……定期講習会の実演イベントの見学者って、かなりの人数にのぼるみたいだけど、これだけの人の分のポーションを、メルさんが用意したのかな?

 少なくとも、百人以上は絶対にいるよね。

 広場に入らないように、外周で待機しているけど、遠くの、コロネたちがいる場所から反対の方まで人がいるし。


 そして、広場の中央には、いつの間にか、石のようなものでできた、ちょっと低めのステージのようなものが用意されていて、その上には、今日も今日とて、白いドレスのような衣装を身にまとったリディアさんが立っているのが見える。

 メルさんとか、他の商業ギルドの人たちが動き回っているのに対して、何をするでもなく、のほほんとしているというか。

 それにしても、リディアさんってば、遠くから見ても、白一色だから逆に目立つよね。

 腰までありそうな長くて白い髪も、ただ白いってだけじゃなくて、どこか薄っすらと白く輝いているような気がするし。

 というか、戦闘訓練なのに、純白のドレスっていうのだけでも、ちょっと違和感があるよね。

 普段から、あの格好とかで冒険者をやっているらしいけど、普通に森の中や山の中とかで出会ったら、どう見ても冒険者っぽくない気がするよ。


 そんなことを考えていると、メルさんがコロネたちの前に、ポーションを持ってやってきた。


「はい、どうぞー、コロネ。あー、ショコラの分は、ちょっとポーションを投げたりとかは難しそうだから渡さないでおくねぇ。何かあったら、コロネの身体から離れないようにしておいてねぇ、ショコラ」


「ぷるるーん!」


「ありがとうございます、メルさん。それで、このポーションって、どうすればいいんですか?」


 緑色のポーションを受けとりながら、メルに聞いてみた。

 ショコラの分はなくて、その理由が投げられない、ってことは、このポーションって、飲むためのものじゃないってことなのかな?


「うーんとねぇ、今日は、周辺魔素に関する実験をするからねぇ。その結果次第だと、影響が、わたしの予想以上に広がっちゃうこともないとは言えないんだよぅ。もしそうなった時は、ほらぁ、こっちのコズエとかがタイミングを教えてくれるから、それに合わせて、いっせいに、このポーションを広場の方に向かって投げつけちゃってねぇ」


「メル、一応、あたしらの方でも、それに備えて、そっちの対処が得意な妖怪とかを待機させてるけどねえ……本当にこのポーションで大丈夫なのかい?」


 さすがに試すとかはできないだろう? とコズエさんが疑わしそうな目でメルさんの方を見る。

 同様に、ポーションを受け取った周囲の人たちもメルさんを見ているんだけど、その表情は色々で、コロネと同じように、メルさんの実験がどういうもので、このポーションがどういう効果なのかよくわからない人たちが多いみたいだけど、一部の人たちは、コズエさんみたいに、半信半疑というか、ちょっと心配そうな表情を浮かべているのだ。


 でも、メルさんの方はと言えば、そんな視線なんてどこ吹く風で。


「うん、まあ、それを試すためにこれだけ大掛かりにしてもらったんだしねぇ。一応、治験は終わってるよ? わたしの家でも何度も試したしねぇ」


「……相変わらず、おっかないことをするねえ、この子は。せめて、危険な実験をする時は、事前に、周りに報告するもんだろうに、まったく……」


「えー、でも、うちのご近所さんって、ミケ長老とか、プルートたちとかじゃない? だから、万が一何かあっても大丈夫かなぁ、って」


「いや、あのな、眠り姫のお嬢よ。だからこそ、わしらには説明をしておいて欲しかったんじゃが。いきなりお主ごと吹き飛んでしまえば、対処はできても、お主を助けるのが間に合うかどうか、わからんのじゃよ」


 やれやれ、という風に肩をすくめるミケ長老。


「確かにお主のことは色々と聞いておるが、無理をしてはならんぞ。頼まれれば、わしらも協力は惜しまぬから、あまり根を詰め過ぎないようにのぅ」


「うん、ごめんねぇ、ミケ長老。もう一段階進める時は、こっちからお願いするよぅ。今日用意したポーションは、まだまだ、『崩壊』よりも一歩手前のものだったから、何かあっても大丈夫かなぁ、って思ってたんだよぅ」


 えへへ、と照れくさそうに頭を下げるメルさん。

 どうしても、自分のわがままでやっている実験だから、他の人たちにあんまり迷惑をかけたくなかったんだそうだ。

 そもそも、メルさんって、他の新しい魔法開発とかでも、自分ひとりでやっちゃう感じの人らしいし。

 後は、新しい発見とかがあると、周囲が見えなくなるタイプというか。

 やっぱり、前にも思ったけど、マッドサイエンティストの資質があるよね、メルさんってば。


 ともあれ。

 今日の実験は、前にメルさんが言っていた『崩壊』を止めるための手段の模索というか、そのプロセスのひとつなのだそうだ。

 詳しいことは、今、講習会で説明するから、それまでのお楽しみってことで教えてはくれなかったけど、それだけでも、周りの人にも、ピンと来ることがあったようで、メイデンさんとかは、呆れたような、恐いような、そんな表情をしている。


「まあ、メルさんらしいのですよ」


 ピーニャはピーニャで、いつもと変わらない感じで、笑ってるし。

 今までも、散々危ない実験とかをこっそりとやっていたらしくて、何を今更って感じらしい。

 そういう意味では、ピーニャって心が強いというか、懐が大きいというか。

 意外とタフだよね、この妖精さんってば。


 一応、コズエさんとミケ長老から軽くお説教を受けた後で、メルさんはポーションの配布の方へと戻って行った。

 もうすでに、商業ギルドの人たちのお手伝いもあってか、あらかたの見学の人には配り終わったようだ。

 それにしても、これだけの人数の分を用意してあったこともびっくりだけど、その、『いざという時』には、みんなでポーションを投げてくれってことだから、それなりにメルさんも警戒はしているような気がする。

 一体何に、ってことに関してはわからないけど。

 サプライズとかよりも、危険なことに関しては、もうちょっと前もって詳しく説明してくれてもいいような気がするよね。


 ただ、まあ、そうこうしているうちに、今度はドロシーがやってきた。

 ドロシーの後ろをついてくるのは、前にドロシーの家で見かけた歩くほうきたちだね。 確か、ドロシーが遠隔操作で操ってるとは聞いていたけど、そのほうきたちが、広場の外周を一定間隔ごとに立っているのだ。


 一方の、ドロシーはと言えば、手には何やら小さい玉のようなものを持っていて、それをひとつずつ、ほうきたちに渡しているのかな?

 渡しているというか、柄の部分に乗せて、ほうきたちに持たせているというか。

 見た目は、手のひらサイズの水晶玉という感じかな? 大きさはピンポン玉とかとあまり変わらない大きさだね。


 そして、コロネたちの前の辺りにも、ほうきを立たせて、今までと同様に、その小さめのピンポン玉を乗せる。


 と、この辺りが最後だったらしく、外周に散らばったほうきたちの姿を確認して、ドロシーが頷く。

 そして、そのまま、ドロシーが指揮者のように手を掲げると、ほうきたちが持っていた水晶玉がいっせいに輝きだして、その玉が見る見るうちに大きく膨れ上がっていって、あっという間に、大きくてまんまるで、宙に浮いている謎の物体へと変化した。

 見た目は大きくて半透明な風船のようにも見えるけど、風船とはちょっと違うのはあんまり厚みがないことだろうか。まんまるいけど、薄型の板上の何かという感じだよ。


 何だろう、これ? と思っていると、その丸くて半透明な板に、舞台に立っているリディアさんの姿が映し出された。

 遠く離れた舞台の上が、本当に間近に立っているかのように見える。


『はーい。これで魔道具の設置完了だよん。視覚強化とかで、見えない人はこっちの画面を見てねー。あ、そうそう、今、視覚強化を使ってる人にも注意ね。メルさんたちが使う魔法の種類によっては、視覚強化が強すぎると、影響を受けちゃうものもあるかもだから、その辺は巻き込まれないように気を付けてねー』


 一応、魔道具に映った映像に関しては、そういうのは効果が薄いから、とドロシーが全体に向けて説明する。

 なるほど。

 このまんまるな画面が、遠見用の魔道具なんだ。

 ちっちゃい水晶玉が大きくなるのもすごいけど、ちゃんと舞台の映像がきれいに映し出されているのが驚きだ。

 何となく、立体感もあるし。

 これが、映像のための魔道具なんだね。


 というか、今のドロシーの声自体も大きく響いているんだよね。

 そっちは、マイクとかを使っているのかな?

 ちょっと見、スピーカーらしきものは見当たらないけど、この広場全体に声が響いているような感じだし。


 で、ドロシーとは目があったんだけど、にっこり笑うだけで、そのまま、手を振って、少し離れた場所まで行ってしまった。

 どうやら、魔道具の制御をしないといけないらしい。


 えっ!?

 けっこうな数の画面が浮かんでいるんだけど、これ全部ドロシーがひとりで制御してるの!?

 普段は、コロネに一緒に冗談ばっかり言ってるけど、本気になった時のドロシーって、やっぱりすごいよね。

 魔女だからなのか、ドロシーだからなのかは知らないけど。


『うーん、じゃあ、そろそろ始めようかなぁ。リディアの方は、準備はいい?』


『ん、問題ない』


 あっ、いよいよ、模擬戦が始まるみたいだ。

 石でできた舞台の上に、メルさんとリディアさんだけが立っていて、さっきまで舞台設営とかで動き回っていたはずの商業ギルドの人たちも、誰ひとりとして、舞台側からはいなくなっているようだ。


『一応、条件とかは決めておこうかなぁ。リディアー、わたしの勝利条件は、リディアに攻撃を当てればいいんだよねぇ?』


『ん、今までと同じ。メルは新しいことをやってくるから、面白い』


『攻撃に関しては、程ほどで手加減してもらえると助かるかなぁ。リディアの全力って、とてもじゃないけど、対応できないから、それだと研究発表まで届かないしねぇ』


『わかった。そうする』


 あれ、何となく、リディアさんが楽しそうだ。

 いつものようにほとんど無表情だけど、わずかに口角があがってるし。

 そういう意味では、戦ったりするのが好きなのかな。

 見た目のイメージとは全然違うけど。


『それじゃあ、行くよー。何とか、頑張って、妖精の国の素材を採ってきてもらうんだからぁ』


 そう言うなり、メルさんの身体が光に包まれていって。

 模擬戦が始まった。

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