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ちょこっと! ~異世界パティシエ交流記~  作者: 笹桔梗
第6章 町の外への挑戦編
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第438話 コロネ、海岸を歩く

『それじゃあ、コロネー、これからも食べに来てねー。毎日、獲れたものによって、オススメのメニューが違うからー』


『今度は、水着を持ってくるのにゃ。そうすれば、ちょっと違う席に案内するのにゃ』


『はい、わかりました。ありがとうございます』


 そんなこんなで、最後にスープだけごちそうになって、ミーアさんたちのお店を後にした。

 一応、本日のスープは、海鮮系の汁物じゃなくって、塔でオサムさんが作っていた、コーンポタージュスープだったんだよね。

 その辺は、パンと同様に、フランチャイズ方式みたいだし。

 塔の仕込み分が、この町の各料理店でも提供されているってのは、毎日のシステムってことのようだ。

 もちろん、独自の汁物などが自信作の時は、そっちを出してるみたいだけど。

 

 というか、コノミさんのうどん屋さんとか、ムサシさんの和食系のお店でも、割とポタージュスープとかが汁物になったりもしてるらしい。

 その辺は、オサムさん発の料理ってことで一括りになってるせいか、組み合わせがごちゃ混ぜなんだよね。

 和食にスープとか、洋食に味噌汁とか。

 この町の人にとっては、変な先入観がないから、まったく気にせず受け入れられているようだねえ。

 たぶん、コロネみたいに、向こう出身でもなければ、違和感とか感じないんだろうし。


「でも、残念でしたね、コロネさん。折角のパルシュのフライもほとんど食べられなかったのではないですか?」


 コロッケもですよね? と話しかけてきたのは、横を一緒に歩いているヤータさんだ。

 食事が終わったので、そのまま、青空市の方へと向かうと言うことなので、コロネとショコラも同行することになったんだよね。

 変わった素材を売ってるって話だから、ちょっと興味があるし。


「いえ、大丈夫ですよ。そもそも、あのフライの大きさを見ただけで、正直、お腹いっぱいになりましたもの。まあ、ショコラも満足そうですし、それはそれで、ですね。コロッケは次の機会にでも食べますよ」


「ぷるっ……ぷ!」


 今はめずらしく、頭の上ではなくて、コロネの両手に収まっているショコラを撫でながら、苦笑する。

 何とか、あの量の料理を食べつくすことはできたみたいだけど、ショコラってば、本当にお腹いっぱいになっちゃったみたいなのだ。

 ぷるぷる踊ると、口から出ちゃうのかな?

 さすがに、コロネの腕の中で大人しくしてるんだよね。


 ちょっと油断してると、口からチョコレートの欠片みたいなのが飛び出しそうになってるし。

 やっぱり、自分の身体よりもずっと大きいものを食べるのって無理があるよね。

 というか、食べたものがどこに行っているのかが謎だよ。

 間違いなく、あの海老フライ、ショコラよりも大きかったのにねえ。


「あ、そうだった。ちょっと聞くの忘れてた……あの、ヤータさん。この辺の海辺みたいな環境について、ご存知ですか?」


「と言いますと、『マーメイド・キャッツ』の周辺の、ですか?」


「はい。こんな場所があるなんて、今日来るまで全然知りませんでしたし。まだ、わたしもこの町にやって来て半月ほどですので、未だに、サイファートの町の全容がわからないんですよ」


 本当は、ミーアさんかイグナシアスさんに聞こうと思っていたんだけど、何だかんだで料理を届けてくれた後は、やっぱりお店を回すのがいそがしそうだったし、詳しくは聞けなかったのだ。

 というか、その前の時点で、イグナシアスさんに時間を取らせちゃったりしてたので、接客のいそがしさを知る身としては、ちょっと、って感じだったし。


 一応、今日、職人街とかの地下も巡ったし、これで、この町の中に関してはある程度は網羅できたのかなあ、って思っていた矢先に、この海だもの。

 そう言えば、シヴァリエさんとかの猟師さんのところとか、後は、それ以外の農家連の人たちの農場関係かな。

 ランランとケイケイがコッコ種を育ててる場所ってのも、謎だしね。

 後は、この町の中にもカジノがあるってのも耳にしたし。

 少なくとも、地上からはわからないんだっけ?

 賭け事には興味はないけど、一度、中を見てはみたいし。


 と、そこまで考えて、かなり大事な場所を思い出したよ。

 早いうちに、病院に行って、健康診断を受けないといけないんだよね。

 病院の場所は、温泉からすぐ近くだから、そっちは行こうと思えば行けるけど、そういえば、営業時間とかはどうなってるのかな?

 その辺も、行く前に確認しておかないと、だ。


 ともあれ。

 この辺りの地域に、レストラン以外に家がないことも含めて、やっぱり、この海辺というか、浜辺というか、不思議な場所なんだよね。


「私も詳しくは存じ上げませんが、確か、この町の海人種にとっての住みやすい環境の提供と、後は、海に関する実験のために用意された場所、とはうかがってますよ」


「え? 海人種さんたちの住居、ですか?」


 あれ?

 それにしては、家の一軒も見当たらないんだけど。

 どう見ても、この辺りって、自然の海岸線が広がってるって感じだよ?


「ええ。彼らの住まいがあるのは、海の中の空間や海底ですからね。ちょっと見ではわからないでしょうね」


 あ、なるほど。

 海中に家とかがあるんだ。

 ヤータさんによると、ここの海には、サイファートの町の海人種の多くが住んでいるのだそうだ。

 一応、医者のギンさんとかも、ここに家を持っているとのこと。


「もっとも、ギン院長の場合は、ほとんど病院の方で寝泊まりしているようですがね」


「そうなんですね。ちなみに、人魚さんたちも、ここに住んでいたりするんですか?」


「人魚種の多くは、シーアスの村まで帰ってしまうようですね。一部の方は、水道局の職員として、町に残っているようですが」


 え? 水道局?

 そんなものまであるの?


「ごめんなさい、コロネさん。私も細かい部署とか、関係者などは把握しておりませんので、詳しくは説明できません。ですが、町の地下部分の至る所を走っている、地下の水路なども、そちらの水道局が管理をしているとは聞いてますよ」


「あっ、地下水路の管理をしているんですか」


 一応、ヤータさんのざっくりとした説明によると、この町の水に関連した業務について執り行っているのが、その『水道局』で、その関連施設が、ここの海にあるのだそうだ。

 主な業務は、上下水道の管理に、水源の確保。それらの水を町へと循環させて、必要な量だけ、必要なところへと配分したり、などを行なっているらしい。

 水質をきれいにするために、その水道局には、ミドリノモたちも配属されているんだって。

 なるほどね。

 つまり、町の生命線のひとつを司る部署ってことか。


「一応、ここの区画は、海人種にとっての住みやすい環境ということもあって、自然の海とほぼ同じ環境が再現されているそうですよ? それを利用した海洋実験施設や、水魔法を研究するための施設などもあるそうですし」


 私は直接お目にかかったことはありませんが、とヤータさん。


「海の研究もやってるんですか?」


「ええ。ある意味で、虚界……『空虚の海』の外側がどうなっているか、それを調べるアプローチのひとつだとは聞いております。海というのは広大で、今のところ、現出したエリアのほとんどが、一番外側が海になっておりますので」


 だからこそ、海に関する研究は重要だ、と。

 そういうことらしい。

 少しずつ広がって行っている世界。

 この『ツギハギ』という世界にとって、海の存在はかなり謎なのだそうだ。

 一応、人魚種の男衆によって、海底から見た、海図の作成を進めてはいるらしいけど、さすがに、エリアが広すぎるので、中々いっぺんにどうこうって話ではないみたいだね。


「場所によっては、底なしとも思える海溝もあるそうで、まずは、中央大陸と東大陸の間の海から、という話ですね。それに関しては『魔王領』の側からも、適した種族を派遣して協力しているようですが」


 大分時間がかかるでしょうね、とヤータさんが苦笑する。

 へえ、随分と大きな計画なんだねえ。

 それにしても、だ。


「海の環境を再現することもできるんですね?」


 むしろ、そっちの方がすごい気がするよ。

 ここの町って、一応内陸にあるんじゃないのかな?


「まあ、この手の規格外のことをやってのけるのは、幻獣種ですよね。ここは、ダンジョンメーカーによって、海のダンジョンとして生み出された場所だそうです。もっとも、はぐれモンスターに関しては、生まれないようになっているそうですが」


「えっ!? ここって、ダンジョンなんですか!?」


「そうですよ。もっとも、作った本人は、管理を水道局に任せて、もういないみたいですけど。『放浪の迷宮作成師』と言えば、知る人ぞ知るという感じの存在ですね」


 へー、それはびっくりだよ。

 その『迷宮作成師』さんって、今は確かロンさんの商隊にいるんじゃなかったっけ?

 町の中にも、その人が作ったダンジョンがあったんだ?


「ある意味、貴重な場所ですよ? 何せ、危険なはぐれモンスターがほとんどいませんからね。海洋資源の養殖などには最適ですから」


 なので、食用の海のモンスターとか、海藻とか、魚介類とか、そういうものを放しては、ごはんをあげて育てたりとかもしているんだって。

 一部の生物に関しては、果樹園と提携したり、とか。

 あ、そういえば、果樹園でも魚を育てたりとかしてたんだっけ。

 塩水がレーゼさんの環境群にはあんまり良くないからって、果樹園では、主に淡水魚の養殖をしてるって話だしね。


「それじゃあ、ミーアさんたちのお店で出しているお魚って……」


「一部は、ここの海で獲れたものも使っているでしょうね。外からやってくる人魚種さんが持ってくる天然ものの方が、立派だったりもしますがね」


 なるほどね。

 あくまでも、ここの海は実験場って感じなので、食材がいよいよ足りなくなったら、ここで追加分を確保する、って感じらしい。

 何より、外の荒波を潜り抜けたはぐれモンスターの方が、身が締まっていて、味も美味しいみたいだし。

 やっぱり、こっちの世界でのそういうのはあるんだねえ。


 そのうち、例のトビマグロとかも養殖できるんじゃない?

 人魚種による、世界初のトビマグロの完全養殖、とか。

 そうすれば、いつでもツナサンドが作れるようになるよね。


 そんなことを考えながら。

 町の北西の海岸を後にするコロネたちなのだった。

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