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ちょこっと! ~異世界パティシエ交流記~  作者: 笹桔梗
第6章 町の外への挑戦編
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第434話 コロネ、魚定食の前菜を食べる

 しばらくの間、じっと黙ってコロネの方……というか、コロネの付けている十字架のブローチを凝視していたヤータさんだけど、不意に見慣れない仕草を始めた。

 仕草というか、お祈り、かな?

 手を色々組み替えたり、何やらぶつぶつとつぶやきながら、頭を下げたりとかもしているし。


 えーと……この十字架のブローチのせい?

 何だかよく分からないんだけど。


「あの、ヤータさん、何をされているんですか?」


「いえ、そのブローチの作り手の方は、私もよく存じ上げておりますので、ちょっとした敬意のようなものですよ」


「はあ、そうですか」


 それ以上は深い意味はありませんよ、と苦笑するヤータさんなんだけど、でもさ、今のって印というか、敬礼っぽい仕草だよね?

 もしかして、このブローチを作った人って、魔族さんの中でもけっこう偉い人なのかな?

 さっきまで気さくだったはずのヤータさんの口調も、いつの間にか敬語っぽくなってるし。

 もう一度聞いてみたけど、ブローチの詳しい出自に関しては教えてくれなかったし。

 その辺は、アキュレスさんたちも伏せてるから、ヤータさんの口から勝手に話すわけにはいかないようだ。


 単なる目印とか、お守りくらいに考えていたんだけど、コロネが思っている以上に大切なものらしい、この十字架のブローチって。


「なるほどとは思いましたよ? どうやら、アキュレス様はコロネさんのことを、相当に見込んでおられるようですね」


「そうなんですか?」


「ええ。普通は、そのような特殊・・なブローチを賜ることはありませんから」


 そういうものなのかな?

 というか、このブローチって、特殊なんだ?

 一応、オサムさんとかもおんなじものを持ってるって聞いていたんだけど。

 どちらかと言えば、コロネのことを信頼してくれているのって、アキュレスさんじゃなくて、プリムさんの方だと思うけどね。

 コロネが、っていうよりも、プリンが、って感じだけど。


 そうこうしていると、ミーアさんが料理を持ってやってきた。


「お待たせなのにゃ、コロネん、ショコラん。まずはサラダとパンから持ってきたのにゃ」


 そう言いながら、ミーアさんがコロネとショコラの前にサラダなどを並べていく。

 サラダは丸ごとトマトをくり抜いて、中身に詰め物をしたような感じのものだね。

 ヘタのついた部分がふたみたいになっていて、本当に丸ごとトマトっていう風な見た目のサラダだ。

 トマトは青空市とかでも売ってるから、この町でも割とポピュラーな野菜みたいだし。

 そして、パンは食パンとバゲットがバスケットに盛られたものだ。

 それに、バターやハチミツが別のお皿で添えられている。


「ありがとうございます、ミーアさん。このパンって、今朝焼いたパンですよね?」


「そうなのにゃ。ピーニャのとこの自信作だにゃ。コロネんも知ってると思うけど、今、こっちの食パンの方は、新しい小麦粉と今までの小麦粉の配合テスト中ってことらしいのにゃ。なので、食パンに関しては、毎日味がちょっと違うのにゃ」


「あっ、もうやってるんですね」


 そういえば、ピーニャも全粒粉のバランスチェックをしていくって言ってたものね。

 それで配合を変えて焼いてみたパンは、この町の料理店にも頼んで、お客さんからの評判とかも聞いてもらったりしているのだそうだ。

 その分、このテスト中のパンについては、安く提供してくれている、とのこと。


「コロネんは、いつも塔で食べられるけどにゃ、あんまりパン工房まで行かないお客さんにとっては、うれしいサービスなのにゃ。こっちの食パンは好きなだけお代わりしてもいいのにゃ」


 もちろん、好きなだけって言っても程度の問題はあるけどにゃ、とミーアさん。

 あんまり、ひとりの人が何十個も何百個もお代わりしちゃうと、あっという間に在庫が空になってしまうので、その辺はさすがに常識の範囲で配慮して欲しいとのこと。

 例えば、リディアさんとか。

 一応、食パンに関しては、パン工房としてもアルバイトさんの修行も兼ねて、大量に焼いてはいるので、町としてはけっこうな数が出回っているので、そこそこは在庫にも余裕があるらしいけど、それでも、延々と食べられる人に関しては制限をしておかないと、普通に数が足りなくなってしまう、って。


 まあ、それはそうだよね。

 その辺は需要と供給の難しさだろうけど。


「ミーアさん、こっちのお皿に乗っているものは何ですか?」


 パンの横に、バターとかハチミツとは別に、クリーム色をしたねっとりとした感じのものがあるのだ。

 何だろう、これ?

 パンの付け合わせみたいなものかな?


「それは、白身魚を使ったブランダードなのにゃ。オサムんに基本の作り方は教わったけど、そこからアレンジしてるので、このお店のオリジナルなのにゃ」


 自信作だにゃ、とミーアさんが胸を張る。

 なるほど、これ、ブランダードなんだ。

 簡単に言うと、お魚とかじゃがいもとかをミルク煮にしたピューレみたいな料理だ。

 前にバゲットと一緒にオサムさんが出してくれた、リエットに近い感じかな。

 これもバゲットにはよく合う料理で、コロネの働いていたお店のあったところでも割と食べられていた料理だったのだ。

 だから、何となくうれしいね。

 ミーアさんたちのお店って魚料理がメインだから、この手のメニューも色々とオサムさんから教わっているのそうだ。


「それじゃ、ごゆっくりなのにゃ」


 食べ終わったら、次の料理を持ってくるのにゃ、とミーアさんがお店の奥へと戻っていく。

 日替わり定食って聞いていたけど、どっちかと言えば、コースメニューみたいな感じになってるんだね?

 

 そういえば、ヤータさんとの話の途中だったんだけど、折角だから、先に料理の方をどうぞ、って感じで微笑まれてしまった。

 まあ、それも、コロネの横でショコラがサラダとかパンを、いかにも食べたそうな感じでぷるぷるとしていたからなんだけど。

 というか、そんなことを考えている間にも、お皿の上に乗っていた、トマトの丸ごとサラダをぱくりと一口だ。

 あー、へた付きトマトのふたの部分まで食べちゃったよ、ショコラってば。


 相変わらず、食欲がすごいので、食べやすいように、食パンとかバゲットもショコラの前へと取り分けてあげる。

 バスケットごと、ぱくっと食べられても困るし。


「ショコラ、美味しい?」


「ぷるるっ! ぷるるーん! ぷるっ!」


 モグモグと咀嚼しながら、うれしそうに震えるショコラ。

 そんな姿を見ながら、こっちも折角なので、料理を口へと運ぶ。

 まずは、トマトのサラダからだ。


「あっ! 美味しい! この中に詰まっているものもお魚を使ってるんだ」


 フレッシュなトマトの風味と、中に詰まっている詰め物の塩梅がちょうどいい。

 この詰め物って、青魚か何かを使っているのかな?

 食べた味としては、アジとかイワシとかに近いような気がするよ。

 それをたまごとか玉ねぎなどと和えたものになっているのだ。

 程よい大きさのトマトに詰められているせいか、トマトの酸味と、お魚の詰め物の味のバランスがちょうどいい感じでマッチしている。

 サラダというか、一品料理としてもいい感じの料理だね。

 かすかにハーブの匂いもするし、たぶんだけど、マジカルハーブも使われているようだし。


 でもサラダまで、お魚料理ってのはすごいねえ。

 それじゃあ、こっちのパンとかはどうなんだろ?

 まずは、食パンを何も付けないでいただく。

 ピーニャも配合テストしてるって言ってたし、それなら、後で食べた感想とかも伝えておこうと思うし。


「うん、うん……白い小麦粉だけのパンよりも、小麦の風味が強くなってるね」


 ふんわり柔らかいだけのパンじゃなくて、小麦本来の旨みが増している。

 たぶん、普通の白パンよりも、こっちの世界の人にはすんなりと受け入られるパンのような気がするんだよね。

 今は、天然酵母の方も色々と試している段階みたいだし、ぴったり合う組み合わせが見つかったら、かなり面白いことになるんじゃないかな?

 ピーニャを中心にパン作りも頑張ってるみたいだし。


 バゲットの方も前に教えた通りの味になってるし。

 こっちも酵母をいじってるのかな?

 食感が少しもっちりとしてるよ。

 じゃあ、これにブランダードを組み合わせるとどうなるんだろ?


「うわっ!? これ、おいしいね!?」


 このお魚、何を使ってるんだろ?

 普通は干したタラとかを使ったりする料理のはずだけど、牛乳やじゃがいもを使って、魚の臭みとかがまろやかになっているにも関わらず、魚そのものの深い旨みがしっかりと感じられるのだ。

 鮮やかな魚のおいしさっていうよりは、まろやかでじんわりと口の中で広がってくる感じの味だけどね。

 とろりと溶ける感じだけじゃなくて、噛みしめると素材の繊維感もあって、それが一層、このブランダードの味を引き上げているのだ。

 バゲットにつけて食べると、本当にいくらでも食べられちゃうかも、だ。

 横でショコラが、こっちも! って感じで突っついてくるので、ブランダードを付けたバゲットをショコラの口の中へと運ぶ。


「ぷるるーん!」


 ゆっくりと食べながら、幸せそうにショコラがとろけているのを見つつ。

 自分も一口一口味わって食べるコロネなのだった。

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