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ちょこっと! ~異世界パティシエ交流記~  作者: 笹桔梗
第6章 町の外への挑戦編
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第433話 コロネ、素材ハンターと相席する

「ごめんなのにゃ、ヤータん。お店が混んできたので、相席お願いしても大丈夫かにゃ?」


「ああ、構わないよ、ミーア。俺もじきに食べ終わるし」


「ありがとうだにゃ。さっ、コロネん、ショコラん、こっちの席なのにゃ」


 ミーアさんに案内されてやって来たのは、ひとりの男の人が座っているテーブル席だった。

 わずかに紫がかった長めの黒髪の、コロネよりも年上っぽい男性だ。

 身なりを見ると冒険者っぽいって言ったら変だけど、黒ずくめの軽装で、どことなく、前にオサムさんが町の外に行こうとした時の姿に似ていなくもないかな。

 食事中だからか、鎧とかは身につけていないようだけど。

 どことなく、町の人っていうよりも、旅慣れた感じの印象を受ける。

 テーブルの上には、飲み物と、グラタンのようなものが乗っているね。ホワイトソースを使った海産物のメニューかな? それを食べている途中だったようだ。


 見た目はちょっと迫力がある感じではあったけど、ミーアさんに相席を頼まれた後で、こっちと目があった時、どうぞ、という感じでにっこりと微笑まれた。

 わずかに目元を緩ませた表情は、柔らかい雰囲気を感じさせる。

 うん。

 真剣にごはんを食べていた時と違って、穏やかそうな印象だよ。

 そんなことを考えながら、こちらも一礼しつつ、向かい合わせの席へと座る。


「コロネん、何か食べたいものがあるのかにゃ? それとも、オススメメニューの日替わり定食にするかにゃ? たぶん、それが一番の人気なのにゃ」


 初めて来たお客さんには日替わりを勧めている、とミーアが笑う。

 何でも、その日に手に入った食材の中で、一番のオススメを料理にしているので、素材とかも新鮮だし外れがないのだそうだ。


「ヤータんみたいに、好きなメニューが決まってるなら別だけどにゃ。今日の日替わりは、フライ定食なのにゃ。魚の内臓を使ったコロッケとパルシュを揚げたものがセットになってるにゃ。それに、サラダとスープと、あと、パン工房で作ってる食パンだにゃ」


「へえ、フライ定食ですか?」


「そうなのにゃ。今日は、大きなパルシュが豊漁だったのにゃ。一匹まんまだと、食べるのが大変だけどにゃ、コロネんとショコラんだったら、二人前で持ってきてもいいのにゃ。そうすれば、パルシュのフライが丸ごとで出せるのにゃ」


「はあ、そうなんですか。あの、パルシュって何ですか? お魚ですか?」


 コロッケはまだわかるけど、パルシュっていうのは聞いたことがないよ。

 ミーアさんの話だと、大きめのお皿じゃないと乗り切らないほどの大きさらしいけど。


「うーん、魚とはちょっと違うのにゃ。大陸側の海の底とかにいるモンスターの一種にゃ。本当に大きいものだと、ミーアやコロネんとかと同じくらいの大きさのパルシュもいるけど、今日お店で出してるのは、一匹で大皿に乗るくらいの大きさだにゃ。肉厚で、ぷりっぷりしてるのにゃ」


 その分、揚げるのは大変なんだけどにゃ、とミーアさんが苦笑する。

 料理する分には、下ごしらえとかが大変らしけど、味は確かだから食べて欲しい、って。

 何だかよくわからないけど、オススメってことは間違いないみたいだね。


「わかりました。その日替わり定食をください。わたしとショコラの分で二人分をお願いします」


「了解なのにゃ。それじゃあ、ちょっと待ってるのにゃ」


 そう言いながら、他の給仕の人が持ってきたお水の入ったガラスのコップを受け取ると、それをテーブルの上に並べてから、ミーアさんは奥へと行ってしまった。


 へえ、氷水なんだ、とか考えながら、さすがにガラスのコップに入った水を飲みにくそうにしているショコラの口元へと、そのお水を近づけて飲ませる。

 食べる方は器用に食べるんだけど、何かを手に持って食べるようなのは、ちょっとショコラには難しいみたいなんだよね。

 スープとか、おでんの汁を飲む時とかは、犬食いじゃないけど、容器のふちを口でくわえて、それを傾けながら飲んでるし。

 だから縦に深いコップとか、後はプリンみたいなのとかは、どうしても、コロネが手伝わないと食べられないんだよね。


 そうやって、ショコラにお水を飲ませていると、目の前に座っている男の人が興味深そうに見ているのに気付く。


「その子、粘性種?」


「あ、はい、そうです。グルメスライムで、ショコラって言います。わたしの家族ですね」


 聞かれたので、ショコラについて話す。

 そのついでに、コロネ自身のことも自己紹介すると、男の人が納得したような表情を見せた。

 どうやら、コロネのことは知っていたらしい。

 たぶん、噂ネットワーク経由とかかな? とか考えていると。


「ここで会ったのも何かの縁か。ちょっと前に社長からも言われてたから、都合がいいと言えば都合がいいな」


「えっ? 社長?」


 いや、その響きには嫌な予感しかしないんだけど。

 色々な人から話を聞いたし、商業ギルドのボーマンさんとか、さっきまで一緒だったエドガーさんとかからも聞いた感じだと、こっちの世界で、会社って概念ってほとんどイメージにないらしいんだよね。

 基本は、商売に絡むのは商会だから、まず、社長って肩書を持ってる人がほとんどいないのだ。

 だから、その単語が意味するのは、ただひとり。


「えーと、もしかしなくても、アノンさんの新聞社の方ですよね?」


「そういうこと。俺はヤータ。『週刊グルメ新聞』社に所属する特派員のひとりだよ。あっちこっちの村や町とか巡る方の担当だから、あんまりこの町には来られないけど」


 やっぱりね。

 というか、ヤータさんって響きで、あれ、前に聞いたことがあったよね? とは思っていたんだよ、うん。

 ミーアさんって、人の名前を呼ぶ時にちょっとひねったり、愛称で呼ぶことが多いから、何となく確信が持てなかったってだけだし。

 改めて、ヤータさんに教えてもらったところによると、ヤータさんって、トレジャーハンター兼新聞記者さんなのだそうだ。

 モンスターとかの希少素材とかを集めつつ、主に『魔王領』の各地を転々としつつ、各地の料理とかの情報なんかも集めては記事にしているのだとか。

 伝達とかは定期的に、魔王都にある新聞社の本社に送っているので、あんまり、そっちには顔を見せないそうだ。

 ヤータさんの他にも、似たようなことをやってる旅人系の記者さんはいるらしい。


 うん、その辺りは、前にアノンさんから聞いた通りだね。


「確か、今、青空市の方でお店を開かれているんですよね?」


 そもそも、このお店で食事を済ませたら、青空市の方にも顔を出す予定だったしね。

 定期講習会が始まるまでの時間で、どんなものを売っているのか見に行こうと思っていたわけだし。


「ああ。今は昼休みにして、こっちに食事をしに来たんだ。一応はグルメ新聞の記者でもあるし、この町の料理は、食事好きとしては外せないからな。そもそも、俺の場合、この町の青空市で店を出すのは趣味みたいなものなんだ。他の町だったら、露店で並べるような品物じゃないからさ」


「そうなんですか?」


「うん、そうなんだよ。値段もあれなんだが、そこまでして購入したいって客も少ないしな。普通は、品がわかる客を相手に個別に取引するような素材が多いんだ。それでも、このサイファートの町なら、割と顧客が多いかもしれないが」


 物が物だけに普通は露店なんかじゃ売れない、とヤータさんが苦笑する。

 まず、単価が高い。

 専門性の高い素材を必要としている相手じゃないと、その価値自体がわかりにくいし、そんな高価なものを店先に並べるようなことをしても、悪目立ちするだけなので、普通はそういうことはしない、と。

 やはり、この町の治安の良さだから可能とのことらしい。


「その辺は、社長からも頼まれてるんだ。俺が扱っている素材を見せる機会を作ってほしいって。だから、売れる売れないは二の次だな。ほら、この町って、外からの商人とかの出入り禁止だろ?」


「はい、そううかがってますね」


「だから、俺くらいの温度でちょうどいいらしいんだよ。珍しい品物を持ってくる物好きな人って立ち位置だな」


 なるほど。

 町側としては、希少素材を扱っている人に来てもらうだけでもメリットがあるし、希少なモンスター素材などは、その価値について、小さい子供たちにも教えるきっかけにもなるのだとか。

 そのうえで、ヤータさんのように商売っ気がない人ならなおよし。

 どっちかと言えば、ヤータさんって、商人というよりも、単なるコレクターって感じらしいのだ。

 あくまでも、自分が欲しいから素材を集めているだけで、数に余裕があれば、それを売ったりもするけど、自分の持っている品をみんなにも見てもらいたいって欲求もあるようで、そういう意味ではこの町的にはありがたい人ってことらしい。


 何となく、『がらくた屋』のワルツさんに似てるねえ。


「社長から、コロネさんが来たら、扱ってる品を見せてやってくれ、って言われてる。だから、都合が会うんだったら、この後で青空市まで来ないか? さすがに、ここの店の中で広げるわけにもいかないしな」


「はい、ぜひお願いします。わたしも珍しい素材が見てみたいです」


 モンスター素材って、どういうものがあるか興味があったから願ったり叶ったりだよ。

 ふふ、楽しみだねえ。


「……って、あれ?」


「どうかしました?」


 コロネが素材のことを考えて嬉しそうにしていると、ヤータさんが何かに気付いたかのように、首をひねって。


「コロネさん、その服につけているブローチって」


「あ、はい。これですか? これは、アキュレスさんから頂いたものですよ」


 不思議そうに十字架のブローチを見つめているヤータさんに説明する。

 たぶん、ヤータさんも魔族さんだろうから、それとなくは伝えても問題はないよね?

 アキュレスさんとの契約の代わりに、このブローチをもらったことを伝える。

 もちろん、周囲の人とかのことを考えて、魔王とか、そっちの単語はぼかしてだけど。


「わかる人にはわかるって話です。ヤータさんも、このブローチの意味はわかる方なんですね?」


「そうですが……もしかして、コロネさん、こちらのブローチはお守りとして頂いたものですか?」


「ええ、そうですよ」


「どういうものかはご存知ですか?」


「えーと、残念ながら、詳しいことはアキュレスさんからもプリムさんからも教えてもらっていないんですよ」


 危険が迫ったら、コロネのことを護ってくれるとは聞いているけど、具体的にはどういうものなのかは謎だ。

 だから、コロネとしても、そういう魔法的な不思議アイテムだと思っていたんだけど。


「なるほど……」


 そう頷いたっきり、何かを考え込むようにヤータさんが黙ってしまう。

 うーん、何か気になることがあるのかな?

 ヤータさんの沈黙に合わせて、何となく、十字架のブローチを見つめていると、そんなコロネの視線に気付いたのか、それとも単なる光の加減なのか。


 ブローチが一瞬だけ、煌めいたような感じがした。

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