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ちょこっと! ~異世界パティシエ交流記~  作者: 笹桔梗
第6章 町の外への挑戦編
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第429話 コロネ、種にチョコ魔法を使う

「じゃじゃーん! 取り出したりますは、こちらの種だよん!」


「あれ? それは確か……」


 ドロシーが持っていたアイテム袋から取り出したのは、ひとつの植物の種だ。

 というか、コロネも前にちょっと見たことがあるものだよね?

 前に『夜の森』へとやって来た時に、ドロシーやルナルさん、それにラズリーさんがやり取りをしていた魔法植物の種だ。


 確か、ムーンワートって言ったはずだ。


 果実の方は、白っぽくて半月状で、確かにお月様のような形をしていたけど、種は色もどっちかと言えば茶色っぽいし、普通の植物の種といった感じではあったのだ。

 形は、やっぱり半月型ではあったんだけど。


「うん、そうそう、ムーンワートだね。『夜の森』の特殊環境でも、ちょっと栽培が難しいレベルに属する魔法植物だよー。これだったら、コロネの実験にもぴったりだしねー。ま、本音を言っちゃうと、手頃な感じの種とかは、これしか持ち合わせになかっただけなんだけどね」


 そう言って、ドロシーが微笑する。

 さすがに、植物の種なんて、四六時中持っていないから、って。

 ただ、ムーンワートに関しては、いざという時にルナルさんに食べてもらったりとか、他にも色々と使い道があるそうなので、それで所持しているのだとか。

 なるほどね。


「ふふふ、まあ、細かいことは気にしない気にしない。そもそも、その辺に生えている植物で試して、万が一えらいことになっても大変だしね」


「いや、何さ、えらいことって」


「そりゃあ、コロネ本人でも把握できてない能力なんだもの、ちょっとは警戒もしてるって感じかなー。さすがに、大繁殖とかはしないだろうけど、迷い人のユニークスキルなんだから、何が起こっても不思議じゃないし」


 だから、念のため、結界を張るねー、とドロシー。

 いや、そういうのって初耳なんだけど。

 やっぱり、迷い人の能力っておかしいことが多いの?


「うーん、まあ、そもそも私も直接会ったことがある迷い人って、そんなには多くないんだけどねー。でも、その数人を見ても、ちょっと、『うわ、やばっ!?』って感じのスキル持ちの人ばっかりだったからねー。ふふ、『魔女もびっくり!』ってやつだよ」


「あー、例のドロシーの恋人って人も?」


「恋人違うっての! んー、でも、まあ、ユウの場合は、今はそうでもないけどね。レベルリセットされちゃって、ほとんど能無しになっちゃったから。私と初めて会った時は、それなりにすごかったけど」


「え!? そうなの!?」


 いや、レベルリセットって。

 そんなことも起きたりするの?

 というか、そのユウさんに関しては、ドロシーも嫌がってほとんど話をしてくれなかったから、そういうことは初めて聞いたんだけど。

 能無しってことは、スキルとかも消えちゃったってことなのかな?

 レベルだけだったら、そもそも今のコロネはレベル1だから、もしそうなったとしても、あんまり関係ないけど、ショコラがいなくなっちゃうのは恐いよ。


 何となく、頭の上のショコラをなでる。


「ぷるるーん?」


「あー、大丈夫大丈夫。そっちのは、はっきりと理由がわかってるから。コロネがユウとおんなじことを望まなければ、そんなに心配しなくてもいいよ。それに、ショコラみたいな場合、ルナルとおんなじで、召喚した後は、独立した感じになるからね。契約とか、繋がりとか、そっちとの兼ね合いはあるかもだけど、コロネが能力を失っても、消えちゃったりはしないって」


 それが、常時召喚型の召喚獣だから、とドロシーが慰めるように教えてくれた。

 ルナルさんの場合も、ドロシーのお母さんが召喚者だけど、そのお母さんが亡くなったとしても、幻獣として、そのまま生き続けるのだそうだ。

 その辺は、他の『幻獣島』の幻獣さんたちで証明済み、とのこと。

 なので、今の『幻獣島』には、独立した幻獣種が多くなっているのだそうだ。

 魔女と言っても、全員が全員、長生きできるわけじゃないから、って。


「……だったら、いいんだけど」


「ぷるるーん!」


「あー、ごめんね、余計な話だったかなあ。まあ、詳しいことは『幻獣島』のことに絡んでくるから教えられないんだけど、たぶん、コロネたちみたいな、迷い人にとっては、その、最初の時の能力って、ギフトみたいなものなんじゃないのかな? だから、一度失ったら、取り戻すのが難しいんだと思うよ。それは、ユウも言ってたから」


 だから、気を付けてね、ってことらしい。

 いや、どう気を付ければいいのかわからないけど、心の手帳には記しておこう。

 うん。

 それにしても、ギフト、かあ。

 贈り物って、誰からの、なんだろうね?

 この世界から、ってことなのかな?

 さすがに、その辺は、魔女のドロシーでもわからないらしい。

 そもそも、こっちの世界出身の人でも、ユニークスキル持ちはいるので、迷い人限定ってわけでもなさそうだし。


「でも、こっちで得たスキルとか、魔法だったら、再度取得が可能だし。だから、ユウも『学園』で講師をやってるんだよ。スキルや魔法に関する再取得の機会がある存在なんて、そうそういないからねー。効率のいい取得法とかの研究とかには、もってこいじゃない? 物は考えようだよね」


 あー、なるほど。

 そういう考え方もできるのか。

 というか、その迷い人の先輩のユウさんって、随分と前向きな人なんだね。

 機会があったら、会ってみたいかも。


「というか、違う違う。話が逸れてるってば。コロネの『チョコ魔法』の実験をしてみようってことだったんだから」


「ごめんごめん」


 というか、ユニークスキルに関する話なんて、興味があるし。

 他の迷い人さんって言っても、コロネが知ってるのって、オサムさんと、後はシモーヌさんくらいだものね。

 孤児院にいるサイナちゃんとか、ザンの国で頭目やってる女の人とかは、まだ会ったことがないし。

 他の人がどんな能力を持ってるか、とか、そういう話は気になるもの。


 ……というか、そもそも、オサムさんの『包丁人』も謎のままなんだけど。

 前に一回だけ、それっぽい使い方をしてるのは見たけど。

 トビマグロの解体ショーの時だ。

 あの時以外は、よくよく考えたら、料理の際も、それらしく光ってる姿とか見たことないものね。

 それとも、普段もそれとなく使ってるのかな?

 アノンさんが料理の時、光ってるのもあんまり見たことないし。


 って、また、話が逸れてるね。

 いけないいけない。


「それで、結局、どうすればいいの、ドロシー?」


「うん、今、ちょっとそこの地面の周囲に結界を張ったから、これでこうやって……っと。ムーンワートの種を埋めて、ここの種に対して、コロネの『チョコ魔法』を使って見てよ。さっき言ってた、『チョコ魔法』プラス『土魔法』ってやつ」


「えーと、チョコレートを出した方がいいのかな?」


 そもそも、直接、『チョコ魔法』と属性魔法の足し算した使い方をしたことがないんだよね。

 今のコロネの『チョコ魔法』のレベルが低いせいなのか、火魔法とかと一緒にイメージしてチョコレートを出してみても、まず、普通の一口大のチョコレートが生まれて、その直後に溶けるって感じだし。

 本当に同時に発動したのなら、溶けたチョコレートが生まれるはずだものね。


「そうだねー。たぶん、魔法自体を使いこなすところまでは行ってないんだろうね。うーん、だったら、とりあえず、今、コロネが持ってるチョコレートを使って、それに対して、土魔法をイメージしてみてよ。ほら、さっき私が言った『触媒』ってのは、そういう意味だから」


「つまり、チョコレートに対して魔法をかけるってことだよね?」


「そうそう」


 なるほど。

 だから、触媒、ね。

 チョコレートを経由して、土魔法を今、ドロシーが埋めたムーンワートの種に対して、作用させるって感じでいいのかな?

 さすがに、こればっかりは、ドロシーもやったことがないことだし、これ以上は何とも言えないみたいだし。


 うーん。

 チョコレートで、植物を育てるイメージで魔法を使うってことだろうか。

 まあ、ショコラもチョコレートを食べると大きくなるしねえ。

 一応、樹人種さんたちでも、チョコは食べられるから、植物さんにも与えられるかもしれない。

 うーん……向こうの世界の常識を考えると、やっぱり無理がある気がするんだけど。

 でも、こっちは魔法だものね。


「よし。じゃあ、行くよ」


「ほいほい、いつでもどうぞー」


「ぷるるーん! ぷるるっ!」


 いや、ドロシーってば軽いなあ。

 思わず、力が抜けちゃうじゃないの。

 とにかく。

 ムーンワートの種に、チョコレートを与えて、植物を成長させるイメージ。

 それを保ったまま、魔法を発動する!


「はい! 『チョコ魔法』!」


 あ、言葉にした途端、少し身体から力が奪われる感覚があって。


「って……えええ!?」


「おー、すごーい! 一瞬で芽が出たよ!」


「ぷるるーん!」


 ぷくん、というか、にょきっ、という擬音でも聞こえたかのように、さっき埋めたはずの種から、緑色で周囲が少しだけ白い光に包まれた小さな芽が地面から顔を出したのだ。


 いやいやいや!?

 やっぱり、おかしいでしょ、これ!?

 やった本人が一番信じられないもの。

 たぶん、失敗するんだろうなあ、ぐらいに考えてたよ?

 何で、チョコレートを与えただけで、植物が育つのさ?

 って、そこで初めて、手で握っていたはずのチョコレートが消えているのに気付く。


「あれっ!? チョコレートが!?」


「あー、なるほどねー。今、コロネが握っていたチョコレートが消費されたってことかな? すごいんだねえ、チョコレートって。そりゃあ、貴重品になるわけだよ」


「違う違う、ドロシー、おかしいってば。わたしがいたところじゃ、こんなことチョコレートじゃできなかったってば」


 もし、仮にチョコレートを肥料とかに混ぜても、普通に植物が腐るだけだってば。

 原料のカカオとかのままならわからないけど、これ、向こうの店長の味がする、正真正銘のチョコレートだよ?

 おかしいでしょ、こんなの。


「でも、現にできてるじゃないの。うん、良かった良かった。まさか本当にできるとは思わなかったから、驚いちゃったよ。ふふ、これで、コロネの魔法の希少価値がまたひとつあがったよね」


 要注意要注意、と朗らかに笑うドロシーに対して。

 驚きを隠しきれず、手のひらと地面の芽を交互に見つめるコロネなのだった。

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