第428話 コロネ、お茶の葉っぱの相談をする
「そういえば、ドロシー。お茶の葉っぱの件だけど」
「あー、その話ねー。もうちょっと待ってもらってもいいかな? 今、コロネに頼まれてた分も含めて、新しいお茶っ葉を頼んでるとこだからさ。あの葉っぱ、『幻獣島』でも採れる数が限られているからねー」
「あ、やっぱり、栽培するのが難しいんだね?」
森の出口に向かっている途中だけど、ふと思いついたので、ドロシーにお茶の葉っぱについて聞いてみた。
前に頼んだ時は、お菓子と交換で、ってことだったし、今だったら、少しずつだけどドロシーが喜びそうなお菓子とかも作れそうだしね。
って、そう思ったんだけど。
やっぱり、こっちの世界だとお茶の葉っぱって、思った以上に入手が難しいらしい。
「うん、どうも、作るための環境を整えるのが難しいんだよね。ほんと、マジカルハーブとかと同レベルっていうか。サニュ爺とか、ルナルとかみたいな幻獣種に頼んでも、たまたま適合して育った天然のものが何とか入手できるって感じだしねー」
「あれ? 適合した環境があるんでしょ? そこで栽培すればいいんじゃないの?」
「それが、そう簡単には行かなくってねー。一度、お茶っ葉が育った場所だと、しばらく間隔を空けないと、途中で成長が止まって枯れちゃうのね。たぶん、一回あたりの成長のための魔素とか、そっちの要素で足りないものができちゃうんだと思うけど」
あ、そうなんだ?
つまり、特殊環境がらみの連作障害ってことかな?
そういう意味では、こっちのチャノキって、向こうの世界のものとはちょっと違うみたいだよ。
「かと思えば、別の場所で、いつの間にか育ってる時もあってね。ほんと、天然ものに関しては、育つ条件とかが謎なんだよ」
不思議だよねー、とドロシーが苦笑する。
一応は、この『夜の森』でもチャノキの栽培には挑戦してみたらしいんだけど、あんまり結果は芳しくないそうだ。
うん。
魔女のための環境って話だから、この森でも少しは何とかなるのかな? って思って、お茶の葉っぱの話を聞いてみたんだけどねえ。
そんな簡単な話じゃなさそうだ。
「それでも、『幻獣島』だったら、多少は養殖っていうか、人の手でも少量はうまく作れたりもするのね。その手のスポットを確保して、そこをサイクルで回してる感じでね」
なるほどね。
だから、一定量は確保できるってことらしい。
だけど、どうしても、量が制限されてしまうので、『幻獣島』の外にまではほとんど流通しないのだとか。
「お父さんとかも、家では飲むけど、『学園』には絶対に持ち込まないようにしてるんだよ。下手に人気が出たりしても困っちゃうから。その辺は、各地の魔女に回したりするを優先してるしねー。色々めんどくさいし」
「つまり、今のところは、魔女の飲み物って感じなんだね?」
「そだねー。さすがに外に流してる例は、この町を含めて、ほんの一部だね。今のところは、特殊なマジカルハーブの一種ってことで出回ってると思うよ? 発酵の手順とかも難しいから、その辺は、魔女の秘密のひとつだよん」
あー、そういえば、ドロシーが入れてくれるお茶って、紅茶だものね。
一応、こっちでは、酸化発酵させたお茶が基本ってことでいいのかな?
そもそもが、お茶自体があんまり流通してないみたいだけど。
「あれ? でも、それだったら、レーゼさんとかに相談してみたらいいんじゃないの? そういうのは詳しいんだよね?」
栽培環境を整えるってことなら、ドリアードのレーゼさんとか、そっちの人に頼んだ方がうまく行きそうなんだけど。
後は、エルフさんたちとか。
樹人種って言うくらいだしね。
「あー、それがね。お茶に関しては、私の権限じゃ、ちょっとってところがあってねー。情報広げ過ぎに注意ってやつ。それに、それは別としても、まだレーゼさんって、病み上がりだしね。こっち都合で、あんまり色々とお願いしないように、ってアラディアのおばばからもお達しが来てるから」
なるほどね。
とりあえずは、今いる魔女さんたちの分とかは確保できるから、別に積極的には量産とかは目指していないとのこと。
もちろん、栽培法が見つかって、増やせるようになるに越したことはないみたいだけど、やっぱり、魔女として、あんまり目立たない方がいいってことらしい。
それにしても、レーゼさんが病み上がりだってことを改めて思い出す。
うーん、コロネもあんまりお願いとか、相談をし過ぎないように気を付けないと。
とりあえず、果樹園へのお菓子の販売の件は、レーゼさん本人も乗り気だったから、そっちは進めても問題ないだろうけど。
「あ、そうだ」
「うん? どうしたの、ドロシー?」
「ねえねえ、コロネの能力って、お菓子作りがらみのものなんだよね? だったら、お茶っ葉とかも育てられたりしないのかな?」
「えっ!? お茶の葉っぱを?」
いやいやいや。
何で、そんな話になるのかな?
というか、そもそも、コロネの能力って言われても、別にお菓子作りにまつわるスキルって、あんまりないし。
「ドロシー、何か勘違いしてるみたいだけど、わたしのスキルでお菓子に関係してるのって、『チョコ魔法』くらいだよ? あれ、ただ、チョコレートを出すための魔法だってば」
「ぷるるっ!」
「あっ、ごめんごめん、ショコラもだけど」
自分も! って感じでぷるぷる震えだしたショコラに謝る。
ただ、それはそれとして、『チョコ魔法』って、まともに機能するのはチョコレートを出すことぐらいで、ショコラにしても、たぶん、チョコレートモンスターの召喚ってことだろうし、それ以外では、出したチョコレートを応用して、『形状変化』とかをさせることぐらいだよ?
さっき、ララアさんの工房で、網状にしたみたいな感じで。
「でもさ、食べ物を生み出すってことは、もしかしたら、そういう使い方もできるんじゃないの? 前にコロネも、自分の能力がよくわからないって言ってたじゃない」
お菓子とお茶って、重要な組み合わせだって言ってたよね? とドロシー。
いや、確かにそうかもしれないけど。
うーん。
実際、よくわからないスキルではあるんだよね、この『チョコ魔法』。
アキュレスさんの使用例とかも見たけど、余計に謎が深まった感じだし。
チョコレートを召喚してるだけだから、コロネの魔力負担が少ないのか、それとも別の理由があるのか。
とりあえず、今のコロネが使える使い方と言えば。
『チョコ魔法』+『火魔法』=チョコレートを溶かす。
『チョコ魔法』+『水魔法』=溶けた状態のチョコレートの形状変化。
『チョコ魔法』+『風魔法』=手から離れたチョコレートを浮かべる。
後は、『チョコ魔法』+『スパイダーネット』で、蜘蛛の糸状に展開できた、ってところかな。
ショコラの召喚については、不明点が多い上に、もう一度同じことはできないから何とも言えないし。
ただ、一応、法則としては、『チョコ魔法』+『何かの属性魔法』ってのは、もしかすると、何かにつながっていそうではあるんだよね。
カミュさんにステータス画面を開いてもらった時にも、それらしい項目とかもあったわけだし。
となると、基本属性で考えられるというか、残っているのって、『土』と『光』と『闇』だろうか。
とりあえず、この三つから考えるとなると、選択肢は一択のような気もするけど。
ただ、ドロシーの意見も聞いてみたいかな。
「ねえ、ドロシー。普通の、ドリアードさんとか、ラズリーさんみたいな妖精さんがやってる、植物の成長促進って、どういうスキルになるのかな? その属性とかってわかったりする?」
「うーん、そうだねー。ラズリーの場合は、木属性とか、花属性だよねえ。やっぱり、そういうのになると、応用系とか、特殊な属性によるものが大きいかな」
「あー、やっぱりそうなんだね」
さすがに、基本属性だけで植物とかを育てるのって難しいみたいだねえ。
一応、さっきの三択だったら、『土属性』かなあって思ったんだけど。
まあ、樹人種の種族スキルが『光合成』って話だから、『光属性』とかもそれはそれでありかもしれないけど、そもそも、コロネの場合は、基礎四種くらいしか届かなそうだし、そうなると、消去法で『土魔法』しか残らないんだよね。
「あと、ドリアードの場合、樹状態で周辺環境を整えるのって、種族特性みたいなものだしね。単体の魔法で可能かどうかってなると難しいかもね」
「となると、ちょっと厳しいかなあ」
今使えそうなのって、『土魔法』との併用くらいだけど、そもそも、他の魔法とかと比べても、どうやって併用すればいいのかがよくわからない。
土の基礎魔法って、確か、『アースバインド』だよね?
地面を掘ったり、盛り上げたりして、土枷を作るための魔法だったはずだ。
後は、ちょっと前にアストラルさんが工房で見せてくれた、『アースシールド』ってのも、たぶん、土魔法の系統だろう。
アストラルさん、精霊種のノームって話だし。
でも、『チョコ魔法』と地面を掘ったり、盛り上げたりって、どう組み合わせればいいんだろ?
何だか、固形のチョコレートが『形状変化』するくらいしかイメージできないよ。
と、そこまで話してみたら、ドロシーが首を傾げて。
「あ、ちょって待って、コロネ。今の話を聞いた感じだと、コロネって、チョコ魔法と一緒じゃないと、属性魔法が使えないんだよね?」
「うん、そうだけど」
恥ずかしながら、というか、単独での魔法は使えないし。
どうも、それが『チョコ魔法』の特性みたいだし。
「だったら、ちょっと逆に考えてみようよ。『土魔法』のついでに『チョコ魔法』があるんじゃなくて、『チョコ魔法』の方をメインとして、だね。今も、コロネはチョコレートはいくつか持ってるんでしょ?」
「うん、予備もあるし、今日は訓練がないから、まだ何個かは出せるよ」
「だったら、チョコレートを触媒として、『土魔法』を使ってみて」
「触媒として?」
「そうそう。まあ、うまく行くかどうかはわからないけど、物は試しにってねー」
そう言って、どこか楽しそうに笑いながらドロシーが説明してきて。
そんなこんなで、『チョコ魔法』の実験へとチャレンジするコロネなのだった。




