表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ちょこっと! ~異世界パティシエ交流記~  作者: 笹桔梗
第6章 町の外への挑戦編
432/451

第426話 コロネ、園長さんに出会う

「うむ。ナツメ、無事に戻ったか。それに、ファルナも。思ったより元気そうで何よりだな」


「ふぁい!」


「おっと……! はっはっは、そうかそうか。よしよし、また、お前の笑顔が見られて一安心だ」


 コロネたちが話をしているところへ、大柄な男の人が姿を現した。

 そして、その人が現れるのと同時に、ファルナちゃんがあっという間に飛びかかって行っちゃったのだ。

 どうやら、ファルナちゃんにとっても大好きな人みたいだね。

 コロネの肩にはちょこんと乗っている感じだったけど、その人の場合、顔のところにつかまって、じゃれている感じだもの。


 というか、だ。

 その人の容姿を一目見て驚いてしまった。

 身体は、大柄な人間のそれなんだけど、問題はその顔の部分だ。

 保育園の入り口とそっくりな顔。

 つまり、竜の顔がそのまま、首から上に乗っていたんだよね。

 肌というか、ちょっと鱗っぽい地肌の色は、やや茶色っぽい感じで、口元には同じく茶色いひげがたくましく伸びているというか。

 見た目からはよくわからないけど、けっこうな年上なのかな。

 どことなく貫禄があるし。


「はい。園長、今戻りました。皆さんのご協力のおかげで、無事、ファルナちゃんを保護することができましたよ」


「うむ、話は聞いているぞ。職人街とは、随分と遠くまで行ったものだな。はっはっは、なかなかの大冒険だな」


「笑い事じゃありませんよー。本当、見つからなかったらどうしようかと思いましたよ。うぅー……」


 また半泣きになりながらも、こちらが見つけてくださったコロネさんです、とナツメさんが、その園長さんへと紹介してくれた。


「うむ、そうかそうか。保育園の園長として、儂からも礼を言わせてもらおう。おかげで小さな命が救われた。本当にありがとう。この恩は必ず返すからのぅ」


「ふぁい!」


 うむうむ、とファルナちゃんを乗せたまま、頭を下げる園長さん。

 見た目は恐そうだったけど、やっぱり保育園の園長さんだけあって、いい人みたいだねえ。


「いえ、わたしもたまたま出会っただけですから」


「なに、そう謙遜することもないぞ。もう少しで、大捜索が始まるところだったからなぁ。儂の方からも、知り合いに手を回したところで、発見の報が届いて一安心というところでな。そういう意味では助かったわ。さすがに、亜竜や竜が動けば、大掛かりになってしまうところよ」


 そうなれば、町の大多数を巻き込んでしまう、と園長さんが苦笑する。

 なるほど。

 どうやら、見た目同様、園長さんって、竜種に対しての働きかけとかもできる立場みたいだねえ。


「あの、園長さんって、竜の人なんですよね?」


「うむ。おお、そういえば、名乗るのが遅れたか。儂はここの保育園の園長をしておる、ヘイゼルという者だ。種族は竜人種、土の竜と人の合いの子でな。ゆえに、この世でも数が少ない竜人のひとりというわけよ。出身は、今となっては悪名高きゲルドニアの出でな。マギーやサウスたちとは同郷でもある」


「あ、そうなんですか?」


 園長さんが竜人種だってのは前にも聞いていたけど、マギーさんたちとも旧知の仲なんだね。

 だから、今回の捜索では、そっちにも助けを求めていたんだって。

 本当だったら、今朝から、サウスさんたちもファルナちゃんの捜索に加わることになっていたんだそうだ。

 一応、ゲルドニアって言っても、『竜の郷』寄りの立ち位置らしくて、園長さんは今でも、『竜の郷』へと入ることも許されているそうだ。

 うん。

 やっぱり、すごい人みたいだねえ。

 説明をしてくれている間も、ファルナちゃんに長いひげを引っ張られても、まったく動じてないし、そういう意味でもすごい人だよ。


「うむ。我ながら、子供たちの面倒を見る職に就くとは思ってもいなかったのでな。まあ、これはこれで、充実した日々と言えるがな……うむ、あまり、ひげを引っ張るのでない。それなりに痛いのだよ」


 あ、やっぱり痛いんだ?

 それにしても、立派なお顔だよねえ。

 サウスさんの場合、ぬいぐるみみたいなお人形さんっぽい感じだったけど、園長さんの顔って、それなりに、ドラゴンって感じで迫力があるんだよね。

 竜人種ってのは、みんなそうなのかな?


「園長さん、園長さんの場合も、竜種の変化とかはできるんですか?」


「ふむ、残念ながら、竜種とはちょっと違っていてな。儂の場合は、変化に関しては、獣人たちに近いものになっておるのよ」


 ちなみに今の姿は半獣の状態でな、と園長さんが微笑する。

 何でも、人化状態だと、もうちょっと顔も人に近づけることもできるんだとか。

 特徴としては、竜の角が生えた感じになるらしいね。

 もっとも、それなりに竜の姿には誇りを持っているので、あんまり人化はしないみたいだけど。

 それと、獣人種と異なるのは、竜本来の形態はとれないことなんだって。

 身体の一部を竜化することはできるけど、全身を一度に変化することはできない、と。

 なるほどね。


「片手のみを竜化させることで、皮膚を硬くしたりとかはできるでな。それなりには役に立っておるな」


「園長先生のドラゴン拳骨は恐いですからね。泣く子も黙りますよ」


 横からナツメさんが教えてくれた。

 竜化した状態だと、精霊種の本体とか、実体が薄い種族の子とかでも触れたりできるので、悪戯が過ぎる子には、ちょっと、その拳が火を噴く感じになるのだとか。

 ドラゴンの手が拳なのかどうかは別にして。


「あー、そうだそうだ、ヘイゼル先生。もう、ファルナが見つかったから、『夜の森』の援助要請を解除しておくよ。もう、大体の人は保育園まで戻って来てるもんね?」


「うむ。ドロシー、それにルナル殿もご協力感謝するぞ……ほれ、ファルナよ。お前からもきちんとお礼を言いなさい」


「ふぁい! ふぁりふぁふぉう!」


 園長先生の頭の上で、ぺこりとお礼を言うファルナちゃん。

 周りに集まっていた人も、良かった良かったって感じで笑ってるしね。

 ひとまず、これで解散ってことらしい。

 今もドロシーとルナルさんの方から、終息宣言を出しているし。

 それにしても、けっこうたくさんの人が探すのを手伝っていたんだねえ。

 アルルさんたちをはじめ、精霊さんたちも集まってきていたし、妖精さんもかな? ラズリーさんも姿も見える。

 その辺は、同じ『夜の森』で暮らす仲間って感じなんだろうね。

 割と、モンスターの本体っぽい人たちとかもいるし。

 やっぱり、この森って、人間種以外が多く住んでいるようだねえ。


 周りの人たちを見ながら、そんなことを考えるコロネなのだった。





「やれやれ、無事終わったねえ。コロネもごめんねー、せっかくのお休みだったんだよね? 騒動に付き合わせちゃって、悪かったね」


「別に、乗り掛かった舟だったし、気にしないで。中途半端の方が心配になっちゃっただろうしね」


 三々五々、みんなが帰っていくのを見届けて、ドロシーがやってきた。

 手伝ってくれた人たちにも頭を下げつつ、って感じで。

 そういう意味では、やっぱりこの区画の責任者ってのは、色々と大変みたいだねえ。


 さておき。

 ファルナちゃんも、園長先生やナツメさんたちと一緒に、保育園の中へ帰って行った。

 何でも、これからお昼ごはんなのだとか。

 丸一日、食事をしてないから、そういうのは大事ってね。

 というか、精霊種の子供のごはんって、どんなものなのかはちょっと気になった。

 町のお食事処とかのメニューとかと一緒なのかな?

 うーん、その辺は興味があるよ。

 まあ、今日はバタバタしてるから、また今度遊びに来てください、ってことだから、保育園の中に関しては、後日だね。

 そっちは、アルルさんたちのご自宅訪問と一緒かな。


「それで、コロネはこれからどうするの?」


「そもそも、今日はミーアさんたちのお店に行こうと思ってたから、これから、そっちに向かうよ。もう、お昼ごはんの時間だしね」


 何だか、ファルナちゃんの一件でそっちのけになっちゃったけど、やっぱり、今日こそは他の料理店でごはんが食べたいからね。

 まずは、町の北西部にある、ミーアさんたちのお店へゴー、だよ。


「ふうん、それじゃあ、塔までは一緒に行こうよ。私もちょっと遅刻だけど、今から、パン工房まで行くから」


 たぶん、ピーニャたちてんてこ舞いだろうしね、とドロシーが笑う。

 あー、なるほどね。

 まだ、パン工房の営業時間だものね。

 さっきも、かなり賑わってたし。


「うん。そういうことなら、そこまでは一緒だね」


「ふふ、後はそうだねえ。コロネも色々と情報解禁になったから、森から出るルートをちょっと変えてみよっか。通り道で、魔女の図書館とかの前を通る道順ね」


「えっ!? いいの?」


 そういえば、『夜の森』には図書館があるんだっけ?

 噂ネットワークで、そんな話も聞いたものね。

 というか、森を出るために出入り口って、そんなにあっちこっちにあるんだ?

 うん。

 せっかくだし、ぜひ教わっておこうかな。


「それじゃあ、行こうか。あ、ルナル、森の方の後のことはよろしくね。適当に処理しといてねー」


「はい、お任せください。今日に関しましては、わたくしにも責任がありますので、きちんと対応しておきますよ」


「うん。じゃあ、コロネ、こっちの道だよー」


 ついてきてー、と笑顔でどんどん進んでいくドロシー。

 その後を慌てて追いかけるコロネとショコラなのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ