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ちょこっと! ~異世界パティシエ交流記~  作者: 笹桔梗
第6章 町の外への挑戦編
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第425話 コロネ、保育園に驚く

「うわあ……ちょっと予想していたのと、大分違いますね、この保育園」


 ナツメさんたちに案内されて、保育園の前までやってきたんだけど、まあ、見た目はどこからどう見ても、保育園って感じじゃない建物へと到着した。

 そもそもが、他の『夜の森』にある家と一緒で、大きな樹でできているんだけど、この保育園だけは、他の樹のおうちと違って、やたらと目立つというか。


「これって、ドラゴンの頭ですよね?」


 思わず、聞いてしまった。

 そこにあったのは、巨大な竜の顔の形をした建物だった。

 まあ、もちろん、木でできてはいるんだけど、地面のところには、大きな口を開けたドラゴンの頭があって、その口の中が入り口になっているのだ。

 寝そべった竜が木彫りのような感じになっているというか、大きな竜の身体部分から、木が生えているように見えるというか。


 うーん、何だか、保育園と言うにはちょっと荒々しい感じではあるよね。


 一方のお隣の大きな樹でできた家が、アルルさんたちの家らしいんだけど、こっちはこっちで、ドロシーのお店ほどではないけど、なかなかの大きさで、下から見上げてみても、枝とか、幹のところに、窓やら、ドアやら、看板やら、ごちゃごちゃしているのが見えた。

 つたでできたロープとか、はしごのようなもので登っていかないといけないところもあるみたいだし、一軒の家というよりも集合住宅のようにも思えるよ。


 どっちも、ちょっと癖のある感じのおうちだねえ。


 ともあれ、ひとまずは、保育園の方へと意識を戻す。


「そうそう。保育園の園長さんが、竜人種だからねえ。それで、一目でわかるように、こんな感じの建物にしたんだよん。ほら、外の方で尻尾でぐるぐるしているのが見える? あそこが、すべり台になってるんだよ」


「あっ、本当だ」


 ドロシーが指差した方を見ると、木の外周とかに巻き付くような感じで、竜の尻尾が伸びていて、それがすべり台っぽくなっていた。

 保育園の入り口の側に、すべり台のゴール地点がつながっているらしくて、見ている時にも、この保育園の子どもたちが何人か、滑り降りてきていたし。


 一口に子供たちと言っても、この『夜の森』の保育園って、教会とはやっぱり違う感じの子たちが多いんだよね。

 教会は、人型の子たちが多かったんだけど、ここの場合はちょっと違うというか。

 もちろん、人間っぽい感じの子もいるんだけど、もうちょっと獣っぽい感じというか、モンスターっぽいっていうのかな?

 あんまり、町の方ではお目にかかれない感じの種族が集まっているんだよね。


 道具みたいな形の子もいるし。

 あれ、たしか、妖怪種の物の怪というか、つくもがみさんだよね?

 そのことをナツメさんに聞いてみると。


「そうですね。うちの場合、妖怪種も多くやって来てますよ? 私を初め、職員として働いているものもいますし」


 ほら、とナツメさんが示した先には、はしゃいで、尻尾のすべり台から落っこちた子と、それを地面で身体を使って、ぽよんと受け止める、まあるい妖怪さんの姿があった。

 一瞬、子供が落ちた時はびっくりしたけど、そういうのも日常茶飯事のようだ。

 さっきの、身体で受け止めたのが、枕のつくもがみさんなんだって。

 落下した子がいたら、そっちを吸い寄せて、受け止めることができるのだとか。


 他にも、鳥人種のハーピーさんで、保母さんをやってる人とかもいて、その手の危ない時に対応できるようにはなっているらしい。

 ナツメさんの他にも保母さんが何人かいるみたいだし。


「園長のヘイゼルさんが、土属性の竜の血を引いてますので、いよいよ危ない時は、地面を変化させたりしますしね。そうでなければ、屋上から地上まで、すべり台で繋いだりしませんから」


 一応、空を飛べる種族の子も預けられたりするらしいけど、やっぱり、まだうまく飛行できなかったりするので、そっちはそっちで、そのハーピーの保母さんとかが遊びを通じて、飛び方を教えたりするのだとか。

 精霊さんとか、妖精さんは、生まれた時から浮遊できる子が多いらしいけど。


「ここの保育園って、モンスターさんも預かったりするんですか?」


「はい。大きな声では言えませんけどね。サイファートの町で暮らしているのは、人間種だけじゃありませんから。もちろん、魔族の方々も働いたりしているわけですし、当然、暮らしていけば、子供ができたりもします。そのための受け皿として、保育園があるわけです」


「うん。だから、生まれてしばらくは、この保育園で育てなきゃいけないってのもあるんだよ。それが嫌なら、育児休暇を使って、『魔王領』の故郷に帰ってもらうとかね。まあ、仕事がある人も多いから、『人化』を覚えるまでは、ここに預けるって若い夫婦も増えてるみたいだけどねえ」


 ナツメさんとドロシーが保育園の実情を教えてくれた。

 一応、これに関しても、町のシークレットのひとつだそうだ。

 まあ、それはそうだよね。

 魔族とか、モンスターがらみのことだもの。

 ただ、コロネも初めて知ったのは、純粋なモンスター系の種族の人も、この『夜の森』だったら、暮らしても大丈夫ってことだ。

 コボルドさんとかみたいな半分人間っぽい感じの人ならまだしも、普通に、いかにもな、モンスターさんとかも、森の中で生活しているんだって。


「まあ、前にコロネを案内した時は、そっちには触れられなかったからねえ。だから、この森ってけっこう広く作ってあるんだよん。この町でも、『人化』不要で自由に過ごせるエリアのひとつだからねえ」


 もちろん、表の町は、人の姿じゃないとダメだけど、とドロシー。

 一応、半獣や亜人は、中央大陸の他の町でも暮らしていたりするから、そこまでは問題ないけど、さすがに、モンスター種族に関してはまずいってことのようだ。

 最近では、大分影をひそめたとは言え、この町ができた頃は、各国からの間諜とか、そっち関係の人たちが、よく送り込まれていたらしいから、その当時の名残みたいなものらしい。


「まあ、その辺はケースバイケースかなー。教会のホルスンとかみたいに、大人しいモンスターとして認知されてればいいんだけど、見た目が怖そうな感じだと、やっぱり難しい部分があるんだよね。おんなじ系統のモンスターでも、意志疎通が取れるかどうかでも、大分変わってくるし」


 なるほどね。

 例えば、ゴブリン系統の種族とかの場合、その種の中でも、知性があるかないかで、大分変わってくるんだけど、そんなことは普通の一般人には知る由もないことなので、ゴブリンってだけで、恐がられてしまう、とか。

 職人街で会った、ララアさんみたいに、蜘蛛のモンスターの場合も、巣の繭を採りに来た冒険者を食べちゃったりもするので、普通なら、極悪のモンスターとして認識されているのだそうだ。

 中央大陸では、アラクネも、恐怖の象徴って感じらしい。

 なので、ララアさんやその眷属のように、人懐っこい蜘蛛さんたちってのは、普通はあり得ないというか、その存在が一緒に暮らしているってことが発覚しただけで、異常な町ってこと話になってしまうとか何とか。


 まあ、町としては、もう別に、異常な町って認識でも構わないみたいだけど、他ならぬ、王都の方から、勘弁してくれ、って感じで待ったがかかっているそうだ。

 さすがに、周辺の町とか、国とかへの影響が大きすぎるから、って。


「そもそも、偉そうなことを言っても、王都じゃ、この町をどうこうできないしねえ。ただ、そうは言っても、今の王様って、オサムさんたちとも同じごはんを食べた仲じゃない? だから、そういう意味では、義理みたいなものもあるって話だよ」


「あ、やっぱり、そうなんだ?」


 今の王様が即位する際に、色々あったとか、そういう話だよね?

 その縁もあって、この町を作る時にも金銭面や人材って意味で、支援もしてくれたみたいだし、お馬鹿な貴族とかを粛清したりとかもやってくれているんだって。

 まあ、その後で、この町が、まさかこんなヘンテコな感じに進化するとまでは読めなかったみたいだけど。


「一応、情報統制とかもしてくれてるみたいだね。だから、中央大陸での、この町の立ち位置って、『魔王領』に一番近い、危険な町って風になってるわけだよん。それに関しては、私たち、魔女の方でも、同様の噂を流してるしね」


 だから、『学園』とかでも同じような認識だと、とドロシーが微笑を浮かべる。

 周囲のモンスターも強いので、近づくべからず、って。


「もちろん、知ってる人は知ってるけどね。好き好んで、真実を大っぴらはしないんじゃない? 何せ、本当のことの方がうさんくさいもんね」


 差別とかなしで、異種族が一緒に暮らしている町。

 高々ひとつの町が、教会や中央大陸、『魔王領』と互角以上にやり合える、なんて。

 下手をすると、今ある枠組みを壊しかねない、危険因子というわけで。

 

 そんなこんなで、町としても余計な波風を立てたくないのだとか。


「まあ、だからこそ、隠すに越したことがない、ってね。そういうわけで、隠すんだったら、おまかせ! 魔女と幻獣による『夜の森』だったら、正真正銘、異界だからねー。いくらでも秘密にできるんだよ。私か、ルナルの許可がないと入れないし、今となっては、色々な種族の特性があってこその、この町だからねえ。その辺は、バランスをとりながらって感じだよん」


「ええ。その一部を保育園が担っているわけです」


「うん、実際、種族が混じったりするケースも増えてるしね。モンスター種族と人間種って組み合わせもあるし。保育園なら、園長さんもハイブリッドだから、そういう意味では、偏見とかも少ないだろうしね」


「ねえ、ドロシー。こっちの世界って、今までは、異種族の間での結婚って、あんまりなかったの?」


 ちょっと気になったので、聞いてみた。

 今まで、町を色々と見てきたけど、割とハーフの人とは出会ったりしていたものね。

 最初に出会った、ピーニャも妖精と人間のハーフだし、ガゼルさんも、精霊と人間の間に生まれたって話だし。


「うん、それに関しては、滅多になかったはずだよ。まず第一に、お互いが出会うケースが少なかっただろうし、会ったとしても、嗜好の問題があるからねえ。大抵は、おんなじ種族の相手を好きになるのが普通だったろうね。あと、それに加えて、異種族間での結婚に対しての偏見かな。少しずつ緩和されつつはあるけど、未だに、ハーフに対しては良い感情を持っていない人って多いから」


 この町は特殊なんだよ、とドロシーが苦笑する。

 加えて、他種族を敵として見なしていたのも、問題だったそうだ。

 人間に対して、恨みを持っている。

 その逆も然り。

 そういう歴史の積み重ねがあるので、どうしても、難しかったってことか。


「さっきの話に加えると、今の王様も差別や偏見をなくそうって考えてる人のひとりだね。でも、そんな王様ですら、現状を変えるにはまだまだ時間がかかると思うよ。何せ、これって、感情の問題だから。まあ、だからこそ、だね。この町では、そういうことがないように、どうすべきか、ってこと。最初っから、そういうのが当たり前って、環境だったら、偏見は生まれにくいじゃない? だから、保育園の存在はものすごく大きいんだよ」


 あんまり表沙汰にできないのは残念だけどね、とドロシー。


「そう、ですね。いつか、妖怪種も差別されない、恐がられない、そんな世の中になると良いですよね」


「ふぁい!」


「ぷるるーん!」


 しみじみと頷くナツメさんと、何となくで、一緒に頷いている、ファルナちゃんとショコラ。

 人間と妖怪と精霊とスライム。

 それ自体は、不思議な光景だけど。

 たぶん、こういうのが当たり前なようになっていったら、もっと世界って楽しくなるんじゃないかな。

 そう思って、ちょっとしんみりしてしまうコロネなのだった。

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