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ちょこっと! ~異世界パティシエ交流記~  作者: 笹桔梗
第6章 町の外への挑戦編
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第424話 コロネ、妖怪の保母さんとあいさつする

「でも、それに関しては、ファルナの気持ち次第じゃないかしら?」


 私たちで勝手にどうこう言うべきことじゃないわよ、とシモーヌさんがくぎを刺す。


「今は、ほら、迷子になって、恐がっていたから、助けてくれたコロネに特別な感情を抱いているのかもしれないけど、もうちょっと、様子を見た方がいいわね」


「……まあ、そうね。でも、わたしは諦めないわよ! 新しいアイスのためだもの!」


「そうだねー。別にアルルだけじゃなくって、この町にいる他のみんなにも相談してるしねー。ミストとかも協力してくれるって言ってたしー」


「え? そうなんですか?」


 ウルルさんの言葉にちょっとびっくりして聞き返す。

 どうやら、アイスを食べたことのある精霊さんたちみんなで、ちょっと色々と企んでいるらしいのだ。

 何というか、プリムさんが『プリンクラブ』を作って、色々やってるのとおんなじような感じで、アイス好きの同好会みたいなものも、ちょっとずつ大きくなっているいるというか。

 一応、音頭をとっているのは、アルルとウルルみたいだけど、その中には、今言ってたように、『竜の牙』のミストラルさんとか、ドムさんの奥さんのヘレスさんとかもいるらしいし。

 とりあえず、今は、教会でもアイスを売り出す計画が進行中なので、そっちの経過にも注視しているそうだ。


 うーん。

 なんだか、プリンとは別の意味で、こっちも大事になりそうな予感がするよ。


「まあ、多くはアイスを食べられれば良いみたいなのよね。だから、アルルみたいに新しいアイス、って感じでもないわ。今まで、この町でコロネが作って売り出したアイスだけでも十分美味しいって思っている人たちの方が多いわね」


 だからこそ、教会の動向が重要だって、シモーヌさんが微笑む。

 なるほどね。

 えーと、コロネがカミュさんやカウベルさんから聞いた話だと、確か。


「確か、基本のミルクアイスに関しては、ある程度、商品としての質は保てるって話でしたよ? なので、最初は教会で売り出して、その売上とかを見てから、子供たちが町の方までやってきて、移動販売をするとは聞いてますね」


 一応、乳製品を届けてくれるタイミングで、色々と話を聞いてはいるのだ。

 試作に関しては、お祈りに来た人や、子供たちに味見してもらって、ほとんど問題ないところまでは来たみたいだし。

 後は、どうやって、どのくらい売るか。

 それと、他の教会で販売する商品との兼ね合いもあるので、生産量に関しても、どのくらい必要かのバランスを考えている、とか。

 今のところ、バターとチーズに関しては、生産量を減らすわけには行かないので、そっちは今まで通り作るとは聞いていた。

 ただ、教会にも新しく子供たちも増えたし、そっちの子たちが思った以上に、町に馴染むのが早そうなので、ちょっと予定を前倒しできそうだ、って。

 一応、余裕がある時は、リリックもお手伝いに行ってるみたいだし。


「えっ!? それじゃあ、もうちょっとで毎日アイスを買えるようになるの!?」


「はい。ただ、最初はミルクアイスだけみたいですけどね」


 そっちに関しては、コロネへの配慮もあるみたいだし。

 なので、今のところは、果物系のアイスに関しては、コロネが何らかの報酬として渡したものか、塔の営業日に一定量、という感じになるだろう。

 アルルさんたちへは、制服に関する報酬って意味でも、特別に果物系のアイスを食べてもらっているけど、そっちは、もうちょっと制限が続く感じかな。

 少なくとも、アイスに関しては、真っ先に色々と味見してもらっているのは、塔の関係者を除けば、この三人だってことは間違いないしね。


「なので、お三方の意見が、実は、今後のアイスに関しての方針に活かされているんですよ」


 味とか、種族的な好みとか。

 シモーヌさんは人間種だし、アルルさんとウルルさんは精霊種だから、そっちに関しては色々とチェックもできるのだ。

 特に、おんなじ精霊さんと言っても、アルルさんとウルルさんですら、ちょっと好みが分かれたりもするのは面白いというか。

 やっぱり、個人個人で、味覚の好みは異なるってことなんだろう。

 双子でも差が出るってことが分かっただけでも、収穫だったし。


「つまり、アイスに関しては、わたしたちが先駆者ってことよね!」


「そうですね」


「いや、アルル、あんたが調子に乗らないの。これ、ウルルのお仕事の報酬じゃないの」


「そうだけど、そうじゃないわ! わたしたちも作業を手伝ってるわけだし!」


「うん、その方が早くお仕事が終わるしねー。まあ、わたしはアイスさえ食べられれば、何でもいいけどねー」


「ほらね? それに、わたしだって、コロネからお仕事をもらったら、そっちを頑張るわよ。今はまだだけど、そのうち、わたしが関わって来るお仕事だってあるはずよ!」


「そういえば、アルルさん、精霊金属がらみの依頼って、どのくらい予算が必要なんですか?」


 アルルの言葉がちょっと気になったので聞いてみた。

 今はまだ早いけど、そのうち、アイテム袋を作る時にでも、精霊金属に関しては、相談しないといけないだろうと思っていたしね。


「そうね。コロネの場合、アイスの件もあるから、特別料金でいいわ。ただ、わたしとウルルだけだと、一回、精霊金属を生成しちゃうと、ちょっと次まで時間がかかるから、いっぺんにいくつも依頼されると困っちゃうけどね」


「あ、そうなんですか?」


 へえ、そういうものなんだ?

 というか、精霊金属って、そもそもどうやって作っているんだろ?

 その辺は詳しく聞いたことがないんだよね。


「あ、そうね。ちょっと、その話題はストップかしら。アルルもウルルも最近、緊張感に欠けてるから、うっかりしちゃうかもだし。さっきの、精霊術関係の話もそうだけど、今度、コロネが改めて、うちに来てくれた時にでも、話してあげるわ」


「え? シモーヌ、うちに来るんだったら、今からでもいいじゃない? どうせ、今も向かってるところだし」


 そういえば、今、みんなでぞろぞろと向かっているのが、保育園だものね。

 確か、保育園って、アルルさんたちの家の隣りって話だったし。

 でも、そんなアルルさんの言葉に、シモーヌさんが首を横に振って。


「だめよ。今、ちょっと、みんないっぱい保育園に押しかけてるじゃない。もうちょっと静かな時の方がいいわ。さすがに、精霊術とかに関しては、伏せておかないといけないことが多いから」


「そうだねー。おかあさんとかにも怒られちゃうだろうしねー」


「ええ。なので、コロネには悪いけど、もうちょっと待って欲しいの。念のため、確認をとらないといけない人が何人かいるしね」


「はい、もちろん、大丈夫ですよ」


 というか、そもそも、コロネから、精霊術とかについて、詳しく知りたいって言ったわけじゃないし。

 もちろん、教えてくれるのなら、ぜひに、って感じだけど、そういうことって慌ててもロクなことにならないから、タイミングを見た方がいいだろうし。

 急いては事を仕損じるんだよ、うん。


 そんなことを考えていると。

 不意に、コロネの肩の上に、ズシリとした重みを感じて。


「ふぁい!」


「あっ、その声は、ファルナちゃん」


 さっきまで、ナツメさんの両腕の中に抱きかかえられていたファルナちゃんが、いつの間にか、肩の上に乗っていた。

 というか、やっぱり、この子すごい。

 近づいてくる気配をまったくと言っていいほど感じなかったもの。

 一応、これでも、メイデンさんたちから教わったように、コロネも周辺への警戒とかは怠っていないつもりなんだよ?

 まあ、この町だと、本気で気配を殺して近づかれると、気付くことすらできない人って多いんだけど。


 それはそれとして、笑顔で顔に抱き付いてくるファルナちゃんをあやしていると、もうひとり別の人も走って来た。


「先程は、お礼もせずにすみませんでした。はじめまして、コロネさん。保育士をやってます、ナツメです。お噂はお嬢さまよりお聞きしておりました」


「あ、こちらこそ、よろしくお願いします。料理人のコロネです。あの、もしかして、お嬢さまって」


「はい。コノミお嬢さまです。保育園の方に、柔らかいうどんを届けてくださった折に、詳しいお話をお聞きしました」


 うどんは、ちっちゃな子たちでも食べやすいので人気の食品なんですよ、とナツメさんが笑う。

 なるほどね。

 そういうつながりなんだね。

 何でも、コノミさんのうどん屋さんって、保育園の他にも、うどんを卸しているらしくて、町の一部の施設では、食べることができるのだとか。

 温泉は言うに及ばず、ってね。

 もちろん、保育園の場合、妖怪さんたちもお世話になっているからってのが大きいみたいだけど。


「ナツメさんも妖怪さんですものね」


「はい。姑獲鳥うぶめです。属性は『母性』で、それによる『傾聴』が得意です」


 要するに、子育て大好きな妖怪さんってことらしい。

 ちなみに、ナツメさんによれば、『傾聴』ってのも、同調系のスキルの一種で、彼女の場合は、特にこどもからの声を聴くことに長けているのだそうだ。

 相手が、ちっちゃい子の場合、何十人分でも、内なる声を聴き分けることができるとか何とか。

 なんだか、聞いていると聖徳太子みたいなスキルみたいだよね。

 ただ、それだけに、今回のファルナちゃんの件は、ナツメさんにとっても予想外だったらしくて、かなり、取り乱しちゃったそうだ。


「本当に、お恥ずかしい限りです。皆さんの大切なお子さんをお預かりしている身でありながら、今回の失態は、穴があったら入りたいです」


 ぐすん、とちょっとだけ涙ぐんでしまうナツメさん。

 さっき、ドロシーとかも言ってたけど、本当に泣き虫さんのようだね。

 見た目は、貴婦人って感じなのに。


「まあまあ、ナツメさん、泣かない泣かない。見つかったんだから、別に問題ないってば。むしろ、ルナルの方のチェックの精度をしっかりしないとねー。今回は『夜の森』の外側ってだけで済んだから良かったけど」


 町の外に行っちゃってたら大変だもの、とドロシー。


「本当は、わたくしも監視のような真似はしたくありませんが、致し方ありません。ファルナ様につきましては、正確に魔素を認識させて頂きました。これで、森の外へ出た際には、探知にて捉えられるかと」


「って、ことだから。これにて、一件落着ってね。それよりも、折角だから、お礼代わりにコロネに、保育園まで案内してあげてよ。そっちの方が喜ぶと思うしね」


「はい。わかりました。色々とお手数をおかけします」


 改めて、みんなにペコペコと謝るナツメさん。

 そんな彼女に先導されながら、保育園へと向かうコロネたちなのだった。

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