第42話 コロネ、教会の相談を受ける
「コロネー! こっちこっち!」
「アイスクリーム~? おいしかったよ~」
「これ、すごいわね。食後にぴったりだわ。口の中がさっぱりするもの」
コロネを手招きしているのは、『あめつちの手』の三人。精霊種の双子のアルルとウルル、その保護者のシモーヌだ。
特に、アルルとウルルは、アイスクリームが気に入ったらしく、コロネの肩をバンバン叩いてくる。うれしいけど、少し痛い。
「そう言っていただけるとうれしいです。あ、制服の方もありがとうございました。徹夜仕事だって聞いてましたので」
結局、オサムの方の追加発注も、コロネのだったわけだし。
何となく、申し訳がない。
「いいのいいの、よく似合っているし。それで満足よ!」
「そうよね、サプライズって言っても、もしサイズとか合わなかったら大変だもの。ちゃんと着られるものに仕上がっていて一安心だわ」
「シモーヌ~、それどういうこと? ウルルが寸法とったんだから~、失敗するはずないのに~」
「いやいや、ウルル、あんた、寝不足の時の仕事でけっこうやらかしてるじゃないの。徹夜仕事で問題なく仕上がったのは、あたしたちのサポートのおかげでしょ」
「う~、アルルまで~、ひどい~」
「はいはい、きりがないから、その辺で。それにしても、お菓子だっけ? 今後は甘い物がメニューに加わっていくのよね?」
さすがはシモーヌ、流し方が慣れている。
じゃなくて、甘い物についての話だね。
「どこで、どうやって販売していくのかは、検討中ですかね。水の日の営業では一定量は用意する予定ですよ。後はどのくらいの需要があるか、そちらを確認してからになります。ピーニャの方とも相談して、パン工房で一部販売とかもあるかもしれません」
食材の確保が可能となったメニューについては、ある程度は数もそろえられると思うが、結局のところ、どのくらい売れるのか、その辺との兼ね合いになる。
添加物なしでは、日持ちしないので、アイスクリームにしたところで、作った以上はその日で食べきる必要があるのだ。
最初のうちは手探りで行くしかない。
「だったら、あたしたちの分は数に入れておいてよ。毎日でも買うから」
「うん、そうだね~。これなら、吸収効率も良さそうだし~」
「ただ、あくまでも値段次第よ? さすがにアイスクリーム一個で金貨一枚とかだと、ちょっと厳しいもの」
「ありがとうございます。価格については、オサムさんとも相談しますが、原価プラスちょっと上乗せ程度になると思いますので、そこまでは行かないはずですよ」
うん、お客さんの意見だ。
こういうのはありがたい。
ちなみに、ウルルが言う吸収効率と言うのは、精霊種の本体へのエネルギー変換に関することらしい。詳しいことはよく分からないけど、とりあえず、アイスクリームはその条件に合っていたらしい。
「うん、これからは楽しみが増えてうれしいわ!」
「さっき、リッチーが叫んでいた時のも、興味あるし~」
「こういう時、記者さんはうらやましいわね。新メニューの味見ができるもの」
あ、そうだ。忘れていた。
この三人にも、プリンを用意していたんだった。
オサムのサプライズのおかげで、すっかり吹っ飛んでしまっていた。
「あ、すみません。プリンについては、お三方の分は取ってありますので、今持ってきますね。制服のお礼です」
「え! さっきのがあるの!?」
「プリン~、プリン~!」
「ああ、そういえば、オサムがそんなこと言ってたっけ。私もすっかり忘れていたわ」
「はい、じゃあ、今、お持ちしますね」
調理場へと戻って、冷蔵庫からプリンを取ってくる。
これで、基本のプリンについてはおしまいだ。
後は、生クリームのプリンがいくつか残っているだけだ。
そのまま、三人のテーブルまで戻って、二種類のプリンを提供する。
「お待たせしました。プリンです。黄色い方がノーマルなプリンで、白い方が生クリームを使ったプリンです」
「おー! ふたつもあるの!? やったね!」
「あ~、おいしい~! しあわせ~」
「ウルル、あんた、飛びつくのが早いわよ! 何よ、こういう時だけ、そのスピードは。あ、コロネ、ありがとうね」
「いいえ、ごゆっくりどうぞ」
美味しそうに食べてもらえるだけで、コロネもうれしくなる。
そんなこんなで、三人にお辞儀して、テーブルを後にした。
「おーい、コロネ、ちょっといいか?」
あれ、巡礼シスターのカミュだ。
いつの間に来ていたのだろうか、気付かなかった。
そのテーブルには、カミュの他にもうひとりシスターが同席している。先日、教会に行ったとき、バターなどを売っていた人だ。確か、シスターリリックと呼ばれていたような気がする。
「あ、カミュさん。いらっしゃいませ」
「おう。何とか、営業時間までに戻ってこれたからな。それにしても、すぐに料理を披露しているじゃないか。やるな、お主」
からかい半分で、カミュが笑いかけてくる。
少しだけ赤ら顔なのも相変わらずだ。
テーブルの上にもお酒が載っているし。
「まあいいや。そういえば、顔合わせはしていたんだっけか? こっちのシスターが、リリックだ。今のところはカウベルの部下みたいな扱いだな」
「部下って……あ、すみません。改めまして、リリックと申します。先日はごあいさつもできませんで。どうぞよろしくお願いします。あ、アイスクリーム、とても美味しかったですよ」
「こちらこそ、ありがとうございます。料理人のコロネです。どうぞよろしくお願いします」
シスターリリックは、線の細い感じがする美少女だ。
コロネよりも少し年下だろうか。
青い髪に、青い目という向こうの世界ではまずお目にかかれない容姿だが、その色彩が不思議と彼女の印象に馴染んでいた。修道服と相まって、その儚げな感じを引き立てているというか。
まあ、カミュの方が年下に見えるのはご愛嬌だ。
「そうそう、コロネを呼び止めたのは他でもない。アイスクリームの件だ。このメニューについて、真面目な相談がある」
「相談、ですか?」
カミュが真剣な表情を浮かべている。
なるほど、案外、彼女の本質はこっちなのかもしれない。
「ああ、オサムからも聞いたかもしれないが、近く、このサイファートの町に少しばかり人員を受け入れる予定がある。そのための仕事……収益込みの労働だな。それが必要になるんだ。でだ、何か良いものを探していたんだが、このアイスクリームだ。さっき言ってただろ。たまごとミルクとハチミツって」
「はい。このアイスクリームでしたら、それらで作ることが可能ですよ」
「だったら、教会に協力してもらえないか? こちらに製法を教えてほしいんだ。もちろん、ただとは言わない。対価として、利益に応じた分の乳製品の供与。これでどうだ? 基本、乳製品については教会がほぼ専売状態だ。悪い話じゃないと思うが」
あ、話が大分大きくなってきた。
ふむ。
元々、コロネもオサムの話を聞いてから考えていたのだ。
実のところ、アイスクリームも候補に入ってはいた。
確かに条件的には悪い話ではない。
「製法をお教えするのは問題ないですよ。条件もそれで願ったり叶ったりです。ただ、いくつか問題がありまして」
「何だ? その問題は」
「ひとつは、たまごの量の確保です。カミュさん、教会としてたまごの入手経路を持っていますか?」
コロネの場合、プリムを通す必要がある。
要するに、卸しの業者を通しているのが現状だ。
この状態では、教会の方へと融通できる数を確保できるとも限らない。
「ああ、たまごを作っているところに心当たりはある。別の支部でたまごを売りにしている場所があってな。少し遠いが、あたしにとっては大した距離じゃない」
なるほど、たまごは大丈夫、と、
それにしても、教会もたまごを作っているところがあるんだ。
メモメモ。
「でしたら、もうひとつ。アイスクリームを作るには、冷凍が可能な設備が必要なのですが、そちらはどうでしょうか?」
「そうだな。そっちも何とかしよう。オサム経由で丸め込むさ」
いや、丸め込むって。
まあ、いいか。気にしても仕方がない。
「それなら、わたしとしては問題ありません。その条件で」
「よし。感謝するぜ。これでひとつ問題解決だ」
そう言って、笑顔でコロネと握手するカミュ。
こういう時、彼女がシスターであることを再確認する。
口は悪いが、基本、すごくいい人なのだ。
ともあれ、これで乳製品も何とかなりそうだ。
そのことがうれしくて仕方がないコロネなのだった。




