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ちょこっと! ~異世界パティシエ交流記~  作者: 笹桔梗
第6章 町の外への挑戦編
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第421話 コロネ、迷子の女の子を拾う

「あなたはどうしてここで眠っていたの? 今の状況がわかる?」


「うん? ……ふぁい?」


 あれ?

 目の光はしっかりと戻っているんだけど、コロネが言っていることがピンと来ていないみたいだね。

 というか、そもそも、言葉が通じているのかな?

 幻獣種さんたちが使っている古代語とかもそうだけど、この町でも色々な人がいるからねえ。もしかすると、コロネの自動翻訳が通じていないのかもしれない。


 いや、そもそも、こっちを怖がっているのかも。

 何せ、目が覚めたら知らない人と、よくわからないスライムがのぞき込んでいたら、普通はびっくりするだろうしね。

 その後も、別の質問を色々と投げかけてみたんだけど、あんまり答えが芳しくないし。

 『どこから来たのか?』とか、『あなたのお名前は?』とか聞いてみたけど、ふぁい、としかほとんど答えてくれないし。

 もしかすると、この子、まだ小さい子なのかもしれないね。

 何の種族なのかもわからないけど、相変わらず、その身体は半透明なままで、草むらから石畳の道の方へと移っても、そのまま、向こう側が透けて見えるのだ。

 ショコラが近づくと、なぜか、ちょっとだけ輪郭がはっきりするんだよね。

 それにしても、見えにくいのには変わりないので、たぶん、コロネだけだったら、その存在に気付けなかったと思う。

 そういう意味では、ショコラのファインプレーではあるんだけど。

 いよいよ、ショコラの能力が謎めいてきてはいるよねえ。


 さておき。

 泣いている子を放っておくわけにもいかないし、かと言って、コロネたちに対しても、ちょっと脅えがあるし。

 どうしたものかな?

 

「あ、そうだ。こういう時はいつもの手だよね」


 困った時は、これ、だ。

 ウーヴさんと最初に出会った時みたいに、『チョコ魔法』を使ってみた。

 例によって、一口大のチョコレートが手のひらに生成されたので、それをその女の子に差し出してみた。

 最初のうちは困ったように、チョコレートとコロネの顔を交互に見ていたんだけど、その半分をコロネが食べて見せて、ようやく、おずおずと口へと運んでくれた。


「――――!? ふぁい!?」


 一瞬だけ、びっくりしたような表情を浮かべて。

 その直後に、女の子が破顔したのを確認。

 よし。

 やっぱり、店長のチョコレートはすごいよね。

 異世界とか種族とか関係なし、だ。


 ただ、冷静に考えると、今コロネがやってることって、『お菓子あげるから一緒に来ようね』って感じだから、向こうの世界だとかなり危ない行為の気もするよ。

 一応は、人助けのつもりだから、あんまり気にしてもきりがないんだけど。


 ようやく、ちょっと笑ってくれた、と思って、コロネも笑顔になる。

 と、その子がゆっくりと浮かび上がったかと思うと、コロネの肩のところにつかまってきた。

 あ、今のって浮遊だよね?

 この子も飛んだりすることができるんだ?


「ふぁい!」


「ぷるるーん! ぷるるっ!」


「うわ、ちょっとショコラまで」


 そんな女の子の様子に触発されたのか、ショコラもまた頭の上へと飛び乗って来た。

 ここは、自分の場所って言ってるのかな?

 いつの間にか、コロネの頭の上がショコラが指定席って感じだものね。

 もっとも、女の子は気にした様子もなく、ショコラにも触れ合うような感じで、肩の上に乗ったままだ。

 重さはほとんど感じないから、やっぱり、宙に浮いているのは間違いないようだ。

 そういう意味では、幽霊っぽいよね。


「でも、どうしようか、この子」


 さすがにこのままじゃ、ミーアさんたちのお店に向かうのはまずいし。

 そうなると、誰か相談できる人のところに行かないとね。

 まあ、そうなると行く場所なんて、そんなに選択肢がないからね。


「仕方ない。一度塔に戻ろうか」


「ぷるるーん!」


「ふぁい!」


 何となく、ショコラがもうひとり増えちゃった感じだよね。

 同じような感じで、コロネに返事をしてくれるふたりを乗せたまま、このまま塔へと向かうことにした。





「あっ!? コロネさん、戻って来たのですね!? いえ、それだけではなくてですね……そのコロネさんの肩の上にいる子って、ファルナちゃんなのですね!?」


「えっと……うまく言葉がしゃべれないみたいで、名前までは聞けなかったんだけどね。いや、あの、ピーニャ、どういうことなの? もしかして、みんなでこの子を探してたの?」


 何気なく塔へと戻って来たんだけど、さあ、オサムさんのところに聞きに行こうと思っていたら、それよりも先に、なぜかパン工房へとパンを買いに来ていたお客さんたちから注目されちゃったのだ。

 周りからは『あ、見つかったんだ』とか、『早く、ピーニャさんを呼んで来ないと』とか、『さすがはパティシエさん』とか、よくわからないことになっていたんだけど。

 そうこうしていると、お店の中からピーニャがやってきて、それでようやく、今の状況を把握することができたのだ。


 何でも、この子……ファルナちゃんは、昨日から行方不明になっていた精霊種の女の子なのだとか。

 『夜の森』にある保育園。

 そこに預かってもらっていたんだけど、その保育園の森のお散歩の途中で、姿が見えなくなっちゃったらしい。


「つまり、昨日からずっと探していたってこと?」


「なのです。そのおかげで、今日はドロシーさんも普通番のお仕事をお休みしているのですよ」


 ピーニャによれば、どうやら『夜の森』の関係者総出で森の中とかを探していたのだとか。

 一応、町全体にも見かけたら教えてほしいって通達は出していたみたいだけど。


 あ、そういえば、昨日、伝言板ボードを見せてもらった時に、迷子の話とかもあったような気がするよ。

 うわ、あれからずっと探していたのか。


「でも、本当に良かったのですよ。この子、実は月属性の精霊なのだそうです。なので、恐がって隠れてしまうと、反射系のスキルのおかげで、一切、探知が利かなくなるのですよ」


「あ、そうなんだ?」


 あの『夜の森』は一応は、ドロシーとその使い魔のルナルさんの管轄なので、普通だったら、中の住人の現在位置とか行動範囲などは、調べればわかるようになっていたのだそうだ。

 ところが、この子の場合、スキルを発動させてしまうと、その位置探知などでもまったく引っかからなくなってしまうらしく、それで、かなり困ったことになっていた、と。

 うわあ、それは大変だったんだね。


「むしろ、よくコロネさんは見つけられたのですよ」


 驚きなのです、とピーニャが真剣な表情を浮かべる。

 いや、あの、別にコロネが見つけたわけじゃなくて、これはショコラが気付いてくれたからなんだけどね。


「え? ショコラが、なのですか?」


「うん。職人街から、こっちに来る道の途中でね、草むらの方にショコラが飛んで行ったから気付けただけだよ。わたしだけだったら、全然わからないもの」


 実際、今もこのファルナちゃん、身体が透けたままだしね。

 どうやら、精霊種の本体になってるらしい。

 あー、そういえば、サーカスの時に見かけた精霊さんたちの純粋な身体の方にも近いよね。

 さっきは、フェイレイさんとかのイメージだったから、すっかり幽霊さんだと思っていたよ。


「なのですか、ショコラってすごいのですね」


「ぷるるーん! ぷるるっ!」


「意外と、周囲の気配とかの察知がすごいんだよね、ショコラってば。前にも、隠れていたカオリさんたちにも気付いたりとかしてたし」


 一応、スキル一覧にはなかったから、そういうのが得意ってだけかも知れないけどね。

 あるいは、フェンちゃんとの追いかけっことかを通じて、気配の察知が上手になったのかも、だ。


「それじゃあ、ピーニャ。この子を『夜の森』まで連れて行けばいいってこと?」


「お願いできるのですか? 本当はコロネさんは今日お休みですので、こういうことを頼むのは申し訳ないのですが」


 本当にすまなそうな顔でピーニャが頭を下げる。

 今日はドロシーが普通番を休んでいることもあって、今のパン工房に対応するためにも、ちょっとピーニャ自身は動けないのだそうだ。

 うん。

 そういうことなら、もちろん、喜んで協力するよ。

 心配している人たちもいっぱいいるだろうし、早い方がいいものね。


「うん、わかったよ。そっちは任せて。チョコレートのおかげで、この子も懐いてくれたみたいだし」


「ありがとうなのです!」


 これで一安心なのです、とピーニャが一息ついて。


「それにしても、道理でコロネさんにべったりだと思ったのですよ。普通、精霊さんたちは人見知りが激しいのですよ」


「ふぁい!」


 ピーニャの言葉がわかっているのかいないのか、そのファルナちゃんがぎゅっという感じで、一層強く肩に乗ったままで抱き付いてきた。

 負けじとショコラも顔を覗き込んでくるし。

 何となく、自分が保母さんにでもなったような気持ちだよ。


「ふふ、確かに、コロネさんは保母さんに似合っているのですよ。料理も得意ですし、子供たちからも好かれているのです」


 お菓子とパンは子供たちも大好きなのです、とピーニャ。

 いや、それって、物で釣ってる感じに聞こえるよね?

 まあ、嫌われるよりは良いけどね。

 そう苦笑しつつ、月の精霊ちゃんを連れて、『夜の森』へと向かうコロネなのだった。

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