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ちょこっと! ~異世界パティシエ交流記~  作者: 笹桔梗
第6章 町の外への挑戦編
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第419話 コロネ、羊飼いの話を聞く

「つまりね、わたしのスキルは羊ちゃんを可愛がれば可愛がるほど、強力になっていくスキルなのである」


 そう言って、青い羊の背中をなでながら、誇らしげに微笑むモッコさん。

 どうやら、さっき使ったスキルは、羊系モンスターというか、モッコさんの眷属、それらの能力を引き出すことができるってものらしい。


「羊ちゃんたちは、わたしに毛を捧げることで、身体とかが強くなっていくのね。単純なパワーアップとかだけじゃなくて、さっき見たように、身体の毛の育毛促進とか。色々できるから、けっこう重宝するんだよ」


 へえ、何だかすごい話だよね。

 もっとも、育毛に関しては、スキルだけの力ってわけじゃないみたいだけど。


「うん。さっき、羊ちゃんに塗ってた肌水があるよね? あれもね、メルメルのお手製のポーションの一種なんだよ。まだまだ不完全品で、普通は、あんまり使いすぎると毛が生えなくちゃうんだけど、わたしのスキルと組み合わせると、羊ちゃんたちに関しては副作用なしってところなんだよ。この町に来てから、ずっと羊ちゃんたちの毛を刈ってるけど、何回でも生えてくるし」


「ということは、毛を刈り放題ってことですか?」


 何だかそれはそれですごい話だよね。

 というか、こっちの世界だと、羊の毛がどのくらいの頻度で伸びてくるのか、普通の状態が分からないんだけど。

 でも、モンスターによっては、あっという間にふさふさになったりする子もいてもおかしくはないよね。

 魔法とかスキルがある世界なんだから。

 コロネがそう言うと、エドガーさんが苦笑して。


「いや、今のところは検証中だから、まだ油断するのはよくないんだぞ? だから、モッコにもあんまり無理のないように、羊毛を採取してもらうようには注意しているんだ。確かに、野生の羊によっては、固くした毛で攻撃してきたり、それを飛ばしてくる種のモンスターもいるから、ある程度は毛が生えるのに関してもコントロールできるのがいるかも知れないがな。物には限度ってものがある、そう考えるのが普通だろ?」


「まあ、それはそうですよね」


 とは言え、全身の毛を伸ばしてくるって羊モンスターもいるのか。

 今、モッコさんが『ストレイシープ』ってスキルで促進させているものも、その能力を増幅させるって感じなのかも知れないねえ。

 ちなみに、眷属の強化って、アキュレスさんとかロンさんみたいな、統制型のスキルってやつなのかな?


「あー、違うよ。このスキルじゃ統制はできないんだよ。ほら、さっきも、羊ちゃんたち、わたしの言うことを聞いてくれなかったじゃない。どっちかって言うと、この場合は、羊ちゃんたちの毛を生け贄というか、媒介にして、悪魔としての契約を施すって感じだね。だから、その後で毛が生えやすくなってくるのも、その契約の一部なのである」


「なるほど。ちなみに、それって、人間種の髪を生け贄にしたりとかはできるんですか?」


 髪の毛を捧げることで、その後で髪の毛を伸ばしたりとか。

 それができるとしたら、何となく、ちょっと面白いことになるような気がするんだけど。


「はは、コロネ、さすがにそれは無理みたいだぞ? 確かにそうなれば、薄毛のやつとかも喜んだだろうがな」


「うん、わたしの場合、羊ちゃんたち限定なんだよ。たぶん、というか、一回試したことがあるから、できないのはわかってるのである」


「どら」


「ああ。話の種ってことで、冒険者ギルドのドラッケンの頭で試したことがあるんだよ」


「えっ!? ドラッケンさんの頭ですか!?」


 いや、あの、確かに立派なスキンヘッドだったけどさ。

 あれって、色々な事情があった髪型だったってことかなあ。

 あんまり踏み込みにくいんだけど。


「そうだな。何でもドラッケン、若い頃の厳しい修行が祟って、今みたいな感じになったらしいんだがな。それはそれとして、メルのやつが『髪の毛が生えるかも』とか言ったもんだから、それじゃあ、ってわけで、さっきのポーションと、モッコのスキルで試してみようって話になったんだよ」


 苦笑しながら、エドガーさんが教えてくれた。

 何でも、ポーション自体は、多少は効果があったらしいんだけど、モッコさんのスキルは、そもそもがシルバーシープとしての特殊効果だったらしくて、そっちはダメだったそうだ。

 おまけに、やっぱり、髪の毛をふさふさに生やすってのは、例の回復魔法とかに近い感じになっちゃったらしくて、そのドラッケンさんの治験の結果、今のところは、人間種には使わないように、ってことに落ち着いたのだとか。

 使い過ぎは身体への負担が大きくなるからって。


「あれ? それでしたら、羊さんたちに使うのは大丈夫なんですか?」


「うん。今の肌水って、ものすごく薄めているんだよ。だから、ほとんど水と変わらないのである。メルメルが副作用が出ない分量の研究を進めて、『これなら使っても大丈夫だよぅ』って。でも、ここまで薄くなっちゃうとほとんど効果はないよ。あくまでも、ちょっとした媒介って感じだね」


 要するに、モッコさんのスキルとは相性がいいってだけらしい。

 普通に使う分には、ただの水と変わりないって感じで。

 あと、付け加えるなら、こっちの世界だと、禿げ頭って、長生きの証みたいなものなので、別にそこまでは気にはされていないらしい。

 まあ、ドラッケンさんみたいなケースもあるし、若くても、って場合があるから、その辺は色々とデリケートな問題なのかも知れないけど、そういうのをかっこいいって見る他種族もいるんだって。

 割と、精霊種とかは、そっちの嗜好が強いとか何とか。

 特に光の精霊さんは、頭がつるつるの人に、こっそりと手を貸してくれたりもして、そっち系統の技とかも伝承されているとかいないとか。

 好みとか認識ってのは、人それぞれってことだろうね。


 いやいや、別に毛を生やす話をしに来たんじゃないってば。

 そうこうしているうちに、モッコさんが、今刈った青い毛を集めて、ひとかたまりの毛玉にしてしまった。


「うん。これは、このままララアのとこに持ち込めば、ちゃんと加工してもらえるからね。わたしやラムダでも織物にはできるけど、やっぱり、ララアのところに頼んだ方が早いんだよ」


 なるほどね。

 餅は餅屋ってことらしい。

 あれ?

 ということは、モッコさんたちの工房って、何をやってるんだろ?

 毛を採るための羊の世話をしているってことなのかな?


「いや、コロネ。モッコたちも服とかに適した素材への加工をやってくれているぞ。ララアのところは、糸状にしたりするのが得意だってわけだしな。まとめてやれる作業はそっちへ頼んで、手作業じゃないと難しいところは、ちゃんと地下の工房でも手を加えているからな。後は、羊毛の色の調整とかな」


「色の調整ですか?」


「うん。そっちは、ラムダがこの工房とか、お隣の染物屋さんとかで加工してるんだよ。染料を使って、生地の色を注文通りに染め直したりとか」


 あ、染めるのはラムダさんのお仕事なんだ?

 というか、エドガーさんの工房のお隣には、生地を染めるためのお店もあるらしい。


「それでも、モッコが飼っているふわふわシープは、元々の色が多彩だから、それをそのまま使ってもいいから、助かっているがな。ただ、白いふわふわシープを染料を使って、何度も染め直していくのが、普通のやり方だな。そっちに関しては、ラムダの部屋に必要な染料もあるから、ここの地下でもできるな」


「相変わらず、そっちの素材もごちゃごちゃだから散らかってるけどね」


 結局、コロネが見学に来るまでに片付けるのは諦めたらしい。

 なので、今は、お隣さんの工房へと逃げちゃったとのこと。


「あれ? お隣さんでも、ここの工房でも染物はやってるんですよね?」


 このふたつの染物って、何か違いはあるんだろうか?


「それはな、コロネ。隣の染物屋では、特殊な染色も行なっているからさ。コロネは、マジカルハーブを使って染料を作るやり方について聞いたことがあるか? オサムのところなら、マジカルハーブをよく使ったりしてるだろ?」


 だから、そっちの話を聞いたことがあるか? って。

 あ、オサムさんからじゃないけど、マジカルハーブと染料の話は聞いたよね。


「はい。魔法屋のフィナさんたちから教わりましたね。魔法の『刻印』を描いたりするのにも使うんですよね?」


「ああ、そうだ。つまり、隣りでやってるのは、そっち系の染物だな。ララアが糸そのものに、魔素を組み込んでいくのとは別のやり方で、生地にマジカルハーブの染料を乗せることで、特殊な効果を追加したりとかな。だから、その染物屋をやってるのも、エルフのやつとかなんだ。マジカルハーブ自体にも、まだまだ流通に制限があるし、特殊な効果のある染料の作り方なんかは、エルフ秘伝のものもあるしな」


 なるほど。

 だから、そっちの専門性の高い染物に関しては、わざわざ頼まないといけないんだって。

 一応、ラムダさんが半分、そっちの弟子入りみたいなこともやってるので、加工に関しては、少しずつ任されてはいるみたいだけど。


「だから、ラムダの部屋はいっつも散らかっているのである。やれやれ、なんだよ」


「まあ、実際、いそがしいしなあ。もっとも、それで片付けなくてもいいって話じゃないからな。何度も注意はしてるんだが、相変わらずという感じだな」


「無精」


 とりあえず、今日のところはラムダさんもいないので、そっちの工程はお預けってことらしい。

 お隣さんの工房も、部外者には見せられない技法とかもあるから、そっちの見学はもうちょっとコロネがその染物屋さんと親しくなってから、って感じらしい。

 ちょっと残念だけど、まあ、仕方ないよね。

 むしろ、今日の散策だけで、小人さんたちのところとか、工場とか、そっちも案内してもらって大丈夫なのかなってところまで見せてくれたし。

 うん。

 それならそれで十分だよ。


「なので、コロネは、ここの羊ちゃんたちの住まいを見るだけで我慢ね。そもそも、今日は、わたしとかもお仕事お休みなんだよ」


「はい、わかりました」


 そう言えば、工房はお休みなんだものね。

 ララアさんのところは普通にお仕事してたから勘違いしてたけど。

 それに、モッコさんもお休みでもしっかりと、羊さんたちのお世話はしてるんだねえ。

 そういう意味では色々と大変だよね。


 そんなこんなで、モッコさんに羊小屋を案内してもらうコロネなのだった。

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