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ちょこっと! ~異世界パティシエ交流記~  作者: 笹桔梗
第6章 町の外への挑戦編
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第416話 コロネ、お人形さんたちの話を聞く

「まあ、この上の区画はまだ安全だがな。下の方は、どうしても、いくつかの罠の複合設備になってるから、そのせいで時々トラブルになったりするからな」


「暴走」


 エドガーさん曰く、この辺のフロアは缶詰の中身を詰めたり、最終工程で完成品をチェックしたりといった感じで、比較的シンプルな作りになっているとのこと。

 逆に、下のフロアに行くにつれて、魔法系の罠も増えてくるので、それらを組み合わせると、たまに大きな事故が起こったりするのだそうだ。


「はい。ですから、そのために、この工場の従業員になるためにはいくつかの制約があるわけです」


「制約ですか?」


「ああ。スピカたちのような人形種みたいに、事故に巻き込まれても、新しい身体を用意すれば、きちんと復活できるような連中や、そもそも、この工場のレベルの罠くらいなら、大して障害にならないやつらに限るってな。一応、人間種はダメだ。そういう理由から、工場はおもちゃ系のモンスターに運営してもらってるんだ」


 あ、そうなんだ?

 やっぱり、この工場みたいにダンジョン罠を使った施設ってのは、こっちの世界でもほとんど運用されていなかったらしいね。

 そのため、まだ、何が起こるかわからないので、あくまでも試験的に工場を動かしているって感じらしい。


「はい。ですから、ここは私たちのような人形ばかりが働いているわけです」


「はあ、なるほど」


 でも、話を聞いている限りだと、スピカさんたちのように、ここで働いている人たちが、何となく実験台みたいになってる気がするんだけど。

 その辺はどうなのかな?


「ご心配には及びません。こう見えて、私たちは丈夫ですから。普通の種族でしたら、壊滅的な状況でも生き残ることができますよ」


 優雅に、だけれども、自信を持って、そう頷くスピカさん。

 可愛らしい見た目と違って、どうやら、ここの人形さんたちって、かなりしっかりした作りになっているのだとか。

 種族として、強靭って感じらしい。

 へえ、ちょっと意外だね。


「そもそもが、スピカたち人形種の核ってのが、普通の素材じゃないからな。モスたちにも見てもらったが、どうも、こっちの世界には存在しない金属でできているらしいな」


「えっ!? そうなんですか!?」


 エドガーさんたちは、以前の事故とかの修復の時にも関わったことがあるらしくて、お人形さんの内部も見たことがあるのだそうだ。


 それぞれ、人形の内側に核があって、それが人間種で言うところの心臓のような感じになっている、と。

 いや、それ以上だね。

 人形種にとっては、その核が生命そのものって感じみたいだし。

 つまるところ、その核が無事であれば、また新しく身体を一から作っても、その新しい身体へと適応できるようになっている。

 それが人形種の核ってね。


 そして、その核ってのがとっても丈夫な素材でできているそうだ。

 シルマリル鋼。

 たぶん、この世界には元々はなかったはずの金属だって。

 少なくとも、エドガーさんたちですら、入手ルートがわからないってのは間違いないらしい。


「シルマリル鋼、ですか?」


「はい。私たちのいたところで生み出された金属です。元々は、私たちも、少し異なる場所で生きていた存在ですから」


「あ、そういえばそうでしたね」


 その話は、来る途中でエドガーさんたちから教わったものね。

 『ドリファンランド』のお人形さんたちって、最初からこっちの世界にいたわけじゃないって話だ。

 確か、迷い人なんだっけ。

 その辺は、コロネとかと同じような感じらしいし。


「はい。私たちは地震のようなものに巻き込まれて、こちらの今の本国……『ドリファンランド』がある辺りへとやって来ました。詳しい事情は不明ですが、こちらの世界へと引き寄せられたものと推測されます。そちらで、すでに町を作っておられました、小人種の方々と出会ったわけです」


 あ、そうなんだ。

 つまり、小人さんたちの町の近くへとやってきたんだね。

 だからこそ、今の『ドリファンランド』には、お人形さんたちや小人さんたちが一緒に暮らしているってわけか。

 なるほどね。


 ただ、それとは別に少し気になることがあるので聞いてみた。


「スピカさんたちがいた世界って、生きたお人形さんたちもいた世界なんですね?」


「はい、そうです。残念ながら、私たちだけが生き残ってしまった世界でした」


「え……? それって……」


 わずかに、でも、コロネにもはっきりとわかる感じで、寂しげな表情を浮かべるスピカさん。

 あれ、もしかして、これって、聞いちゃいけないことだったのかな?


「私たちの生みの親であるはずの方々は、残念ながら、滅んでしまいました。本国にいる人形種の一部には、その当時の記憶を持った者もおりますが、すべては過去のことです。今となっては、その原因が何であったかは、文献からたどることもできません」


「そうだったんですか……」


 スピカさんが加えて説明をしてくれた。

 やっぱり、スピカさんたちの姿が人形であることからも推測できるけど、その世界にも人間種はいたのだそうだ。

 だけれども、何らかの大惨事があって、すべての人類が消滅して、後に残ったのが、スピカさんたちのような人形種……人のお世話をするために生み出された人工生命だけだった、と。

 これもまた、コロネがいたところとは別の世界の話だ。

 やっぱり、この『ツギハギ』には、色々なところから存在が流れ着くようになっているらしい。


「ですが、私たちは、こちらの世界へと来られて幸福だったと考えます。かつての場所は自分たちに与えられた仕事をこなすだけの、停滞したままの場所でしたから。こちらの世界には、まだ私たちが接することができる方々がおりました。これが、喜びでなければ、何でありましょうか」


 そう言って、微笑むスピカさん。

 その表情を見て、ああ、と思う。

 このお人形さんたち……いや、この人たちも、コロネと同じなのだ。

 異世界にやってくることで、救われた存在。


 もしかすると、この世界って、そういうものを選んでいるのかもしれない、と。


「はは、まあ、その手の話はまた今度だな。せっかく、工場見学に来たんだから、そっちの方をしっかりやろうぜ」


「みる」


「そうですね。では、簡単ですが、工場をご案内いたします。万が一ということがありますので、私の後をついてきてください」


 そう言って、身体の周りに浮いていた、たくさんの目玉をゆっくりと飛び回らせるスピカさん。

 彼女を中心に、コロネや、エドガーさんたちの外側くらいのところをくるくると目玉が飛んでいるのだ。

 どうやら、これが周辺警戒の一種らしい。


「先程もお話ししましたが、工場内では、罠の連鎖によって、その罠の威力範囲が拡大することがあります。ですので、この『百目結界』の表には出ないようにお願いいたします。何かあった場合、お守りできませんので」


「はい、わかりました」


 というか、『百目結界』って。

 何となく、スピカさんに宿っている妖怪さんが何なのかわかるね。

 目がいっぱいある妖怪さんだ。


「工場内は大きく分けて、三つの階層に分かれております。ちなみに私たちがおります、こちらが一番上の階層ですね。本日は、缶詰のためのラインのみが稼働しておりますが、必要に応じまして、ビン詰めのラインや、その他の作業に関するラインも動かしたりもします」


 スピカさんについて、工場の奥へと進むと、先程入り口からも見えていた、流れ作業の缶詰作りのラインが目の前に現れた。

 奥の方には、入れ物となる缶詰そのものを作っているところも見えた。

 あ、やっぱり、缶自体もここで作っているんだね。


「ちなみに、この缶詰って中身は何なんですか?」


「この辺りの稼働ラインはお魚関係の缶詰です。人魚の村より入荷しました新鮮なお魚を、この下の階層……工場の中央区画で加工しまして、それをまた缶に詰めています」


「あ、下のフロアが食材の加工部門なんですか」


「はい。この工場で作っている缶詰のうち、食材をそのまま缶詰にするものに関しては、ですね。料理されたものなどにつきましては、別の場所で調理されるものもございます。先日に引き続き、今日も試験的に作っております、ミートソースの缶詰などは、そちらに当たります」


 つまりは、魚の水煮缶とか、単品の野菜とか果物の缶詰、それに肉の加工品を詰めたものなどは、この工場内で作っているらしい。

 下の階で、魚をさばいたりしているのも、それが得意なお人形さんたちなんだって。

 サーカスの時にも、兵隊さんみたいなお人形さんもいたから、そっち系の人たちが刃物を使ったりしてるのかな?

 残念ながら、そっちの階層は危険だから立入禁止みたいだけど。


 というか、ミートソースの缶詰も作っているんだっけ?

 聞けば、昨日の夜から今朝にかけて、追加で、オサムさんが作ったミートソースを缶詰にしてほしいって依頼があったのだとか。

 あー、そういえば、スパゲティーの乾麺と一緒にそっちの話もしてたっけ。

 それにしても、オサムさんってやることが早いよね。

 とりあえず、ミートソースの缶詰も一定量は作ってみるって感じらしい。


「大きく分けますと、魚、肉、野菜、果物、調理済みの加工品、以上、五つのラインになっております。もちろん、品目によって加工手順が異なりますので、同じラインの中でも、その都度、連鎖させる罠を組み替えておりますが、基本は、一日につき、各ラインひとつまで稼働するように制限されております」


「そうだな。一応、補足するぞ、コロネ。前提条件として、缶詰っていう文化がこっちだとあんまり広まっていないんだ。そもそも、完全に密封できる缶を作ることができるなんて、一部の種族を除けば不可能だからな。すごい保存食って言えば、聞こえがいいが、こんなもんいきなり流通させられないんだよ」


 こんなもん、作れるのなんて、ドワーフとか、巨人種の職人連中とか、そっち系に限られる、とエドガーさんが苦笑する。

 まあねえ。

 この工場って、見た感じからして、オーバーテクノロジーだものね。


 って、あれ?

 もしかして、スピカさんたちって、こっちの世界に来る前に缶詰作りとかの方法を知ってたのかな?


「はい。ですが、製法などにつきましては、公開するつもりはありません。それは、私たちにとっては越権行為です。過ぎた技術というものは文明を破壊します。そのことは十分に、身に染みていますから」


 なので、こちらの世界がその技術に到達した場合のみ、手を貸すという感じらしい。

 この缶詰工場の場合も、システムについては、こっちの世界で構築された技術のみで構成されているので、協力することに応じたってことらしい。

 もっとも、技術的な支援は一切しない。

 あくまでも、工場の働き手としてだけ、って話らしいけど。


「ですから、『ドリファンランド』には、関係者以外立ち入り禁止のお触れがあるわけです。当時の魔王さま……今から数代前ですね。その方が私たちの居場所を護ってくださったので、静かに暮らすことができているわけです」


 へえ、そうなんだ。

 色々と複雑な事情がありそうだね。

 そう、改めて、人形さんたちの背景に驚くコロネなのだった。

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