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ちょこっと! ~異世界パティシエ交流記~  作者: 笹桔梗
第6章 町の外への挑戦編
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第415話 コロネ、工場の中に驚く

「うわっ、すごいですね! ここが工場ですか?」


 ミドリノモによる全身洗浄を済ませてから、扉の向こうへと足を踏み入れると、それまでの廊下とか、階段とかの静かな空間とは一転した雰囲気の場所が広がっていた。


 南北に走る地下の大通りでも見かけた動く床。

 それを応用して作ったと思われる、流れ作業のためのラインが空間の至るところに走っているのだ。

 まるで、本当に向こうの世界の工場をイメージするような場所だ。

 それでいて、色彩などはどこかファンシーで、壁から、天井から、動いている機械のようなものに至るまでカラフルな感じで塗られていた。

 何となく、おもちゃ箱をひっくり返したような。

 そんな感じの空間にも見える。


「あー、あんまり、先に進み過ぎるなよ、コロネ。ここ、実は危ないから」


「えっ? そうなんですか?」


 エドガーさんからの忠告に少し驚く、こんなに可愛らしい感じの工場なのに。

 確かに、延々と奥の方まで続いていて、この工場どのくらいの広さなんだろう? とは思わないでもないけど。

 走っているラインも、上の方まで立体的に伸びているところもあるようだし、逆に、ちょっと離れた場所では、床に穴が開いているのかな? そこから、すとんと動く床を流れていた物体が、その床ごと落ちていくのも見えた。


 あ、よく見ると、床を流れているのって、缶詰っぽいものだ。

 やっぱり、この辺で作っているのって、缶詰が基本ってことのようだ。

 中身が何なのかってのは、よくわからないけど。


 そして、ところどころでは、動くお人形さんたちというか、サーカスでも目にしたことがある、おもちゃみたいなモンスターさんがお仕事をしているのも見える。

 何やら缶詰をチェックしている、兵隊型のお人形さんとか、缶詰の匂いをくんくんと嗅いでいるような、犬とか、豚とかの動物型のお人形さんたちもいるね。

 というか、その豚さん、背中に羽根が生えていて、空を飛んでいるみたいだし。

 フライングピッグっていうか、ペガサスの豚さん版みたいな感じで。


 ただ、見た感じでは、エドガーさんが言う危険な感じって、あんまりしないんだけど。

 どういうところが危ないのかな?


「エドガーさん。この工場ってそんなに危険なんですか?」


「まあな。さっき、動く歩道の時に、コロネにも説明したと思うんだが、ここの工場も、あの床とおんなじで、ダンジョンの罠の機構を組み合わせてるんだよ。しかも、あっちの床と比べると、その種類も多いんだ」


「多罠」


「えっ!? そうなんですか?」


 何でも、この工場って、そっち系の罠だらけなのだそうだ。

 えっと……つまり、このオートメーションっぽい工場って、その、罠とかで生み出されているってことなのかな?


「そうだな。まず、缶詰をどんどん流して、工程を進めている床があるだろ? あれは、現在位置を前後左右のいずれかに動かす罠の組み合わせだな。上に何かが乗ると、一定方向に床が滑るトラップ装置。それをたくさん使って、物を運び続けるシステムを作っているってわけだ。そして、その途中途中にも、別の罠があるのさ。ほら、コロネ、あそこを見てみろ」


 言われた通り、エドガーさんが指差した場所を見ると、流れる床がその床ごと下へと落ちていくのが見えた。

 上に乗っている缶詰も一緒に。


「あれが、落とし穴のトラップだな。あれで、下の方の区画へと缶詰を送って、加熱殺菌を行なうんだ」


「あ、そうなんですね」


 なるほど。

 下の区画ともしっかりつながっているんだね。

 どうも、この工場の中って、階層ごとに分かれてはいるけど、作業自体は上と下の区画でも繋がっているものが多いらしい。


「ああ。加熱して、中の小精霊を封じて、それを冷却して、また、このフロアまで戻ってくるんだよ。加熱には、火属性の罠を、冷却には、水属性と氷属性を併用した罠を、そして、跳ね上げ式の床罠……本当は、侵入者を天井に叩きつけたり、押し潰したりするための罠だな。それを使って、上の区画まで、冷ました缶詰を持ってくるってな」


 うわあ、すごいね。

 何というか、罠のデパートって感じだね、この工場って。

 加熱とか冷却に使っているのは、魔法罠と呼ばれる感じのトラップだそうだ。

 ダンジョンとかだと、床に発動用のスイッチみたいなものを仕込んで、それを踏むと壁とかから炎が噴き出すようなものだったり、侵入した途端に、そのフロア全体の温度を下げたりとか、水責めにしたりとか、そういう感じのものもあるらしい。

 何というか、ダンジョンってすごいんだねえ。


「まあ、罠って言ってるからわかるとは思うが、自然のダンジョンには、あんまり存在しないぞ。大体は何者かが作ったダンジョンのからくりだな」


 迷宮作成師の遊び心だ、とエドガーさんが苦笑する。

 いや、あの、遊び心とか、そういう表現で片付けるには、罠の感じが物騒なんですけど。

 ただ、何となく、ここが危ない理由はわかったような気がするよ。


「後は、そうだな。密封というか、圧縮工程は、土壁が四方から迫ってくるタイプの罠の応用だな。風のトラップ装置で、中に残っている空気を抜いて、そのままひとつひとつ密封していくんだ。ほら、あの辺だな」


 ちょっと四角い箱の中でやってるからわかりにくいが、とエドガーさん。

 あー、あのガコンガコンとうるさいところだね。

 ひっきりなしで、罠が作動して、どんどん缶詰を密封しているというか。

 流れる床が、四角い箱を通過すると、上に乗っていた缶詰のふたがきれいに閉まっている状態で箱から出てくるのが、ちょっと面白い。

 すごいなあ。

 本当に、オートメーションの工場って感じだもの。

 これって、ひとつひとつが罠を組み合わせて、それを連動させているのかな?

 何というか、教育番組とかでやってる、スイッチひとつで、色々やれる感じのからくりが工場全体で仕込まれているというか。

 雰囲気はおもちゃの工場というか、ちょっとファンシーなんだけど、中の造りはかなりしっかりしているようだし。


 とは言え、完全には自動的ってわけじゃないらしく、お人形さんが途中で、いくつかの缶詰を取り除いて、横の穴へと投げ込んだりしている姿も見える。


「はは、さすがに、品質のチェック作業とかは、人の手がいるぞ。いや、まあ、ここだと人形の手だがな」


「打検」


「精査」


 なるほど。

 品質管理のために、お人形さんたちがいるんだね。

 その他にも、罠がきちんと作動しているか、そっちの確認作業とかもあるみたいだ。

 太鼓のバチみたいなので、缶詰を叩いているお人形さんもいるね。

 それに、大きな目玉に羽根が生えた感じのモンスターというか、お人形さんというか、そんな感じの人が、サーチライトみたいなので缶詰をみていたりとか。

 その辺は、『精査』の魔法に似た感じなのだそうだ。

 うん、やっぱり、『精査』の魔法って便利だよね。

 ウルルさんとかが使ってたみたいに、人体に使えるだけじゃなくて、こういう風に、密封後の缶詰とかにも使えるんだね。

 それで、中身をチェック、って。


 まあ、『精査』の魔法にも穴はあるらしくて、それを埋める意味で、打検の作業もやってるみたいだけど。

 缶詰を叩いて、中身をチェックする作業なのだとか。


「ふふ、驚かれましたか?」


 ふと、気が付くと、コロネたちの後ろにひとりのお人形さんが立っていた。

 服装はお姫様みたいな恰好で、背丈は小人さんたちよりもちょっと大きいくらいの大きさだ。

 見た目、一メートルくらいだから、ピーニャとかとおんなじくらいかな。

 可愛らしい姫人形さん。

 ただ、ちょっと、気になったのは、目をつむった状態のままなのと、そんな彼女の周辺に浮いている無数の存在だ。


 えーと……これって、目?

 ふわふわと浮いているのは、どう見ても、眼球というか、そういう感じのものだ。

 とりあえず、十個くらいだろうか。

 それらの目がコロネたちの方を見たり、周辺を飛び回ったりしているのだ。


「初めまして。この工場、『クロック・ワーク』の全体チェックと管理を担当しております、スピカです。今日はようこそお越しくださいました」


「ああ、わざわざ済まないな、スピカ。こっちが料理人のコロネと、その助手のショコラ。で、コロネ。このスピカがさっき、入り口のところで、俺たちに話しかけてきた相手だよ。妖怪が宿ったタイプの人形種でな。複数の目玉の遠隔操作とか、そういう感じで、工場全体を見回れるので、工場の管理人みたいなことをやってるんだ」


「あ、そうなんですね。よろしくお願いします、コロネです。頭の上に乗っている、こっちの子がショコラです」


「ぷるるーん!」


「はい、こちらこそお願いします」


 そう言って、優しい感じで微笑むスピカさん。

 それにしても、妖怪種が宿ったお人形さんなんだ?

 そういうこともあるんだね?


「まあな。一口に、ドール種って言っても色々いるからな。魔核で身体を動かしているやつもいれば、このスピカとかみたいに何か宿ってるのとかな。病院で看護師やってるジャンヌとかもそっち系だな。まあ、遠隔操作が得意なやつというか」


「そうですね。後は、そのおかげで、工場で働いている大目玉系の子たちの責任者みたいなこともやってます。品質管理チェックの方も、ですね」


 あ、あのサーチライトを使ってる、羽根の生えた目玉さんたちのトップってことか。

 ちなみに、その辺にふわふわ浮いている目玉を見せてもらったんだけど、これも、お人形の目なのだそうだ。

 触っても見たけど、ちょっと表面は柔らかいんだけど、芯は硬いというか。

 不思議な感触で、結局、この目玉が何でできているかは、よくわからなかった。

 ガラスではないのは確かだけど。


 というか、人形のものとはいえ、普通のたくさんの目玉が浮いている光景って、かなりシュールだよ?

 地下で会ったカオリさんの生首も大概だったけどさ。


 ともあれ。

 コロネが想像していた以上に、きちんと工場工場しているのには驚いた。

 お人形さんの中には、メカメカしいというか、ロボットっぽい感じの人とか、さっき、スピカさんが言っていた工場の名前の通り、時計仕掛けクロックワークのからくりっぽい身体のお人形さんもいたし。

 

 でも、本当に流れ作業で缶詰が作られているのってすごいなあ。

 改めて、工場の中を見ながら感心するコロネなのだった。

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