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ちょこっと! ~異世界パティシエ交流記~  作者: 笹桔梗
第6章 町の外への挑戦編
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第409話 コロネ、地下の放牧地を訪れる

「今、一緒にお散歩している羊さんたちって、色々な種類の羊さんなんですか?」


「うん、そんなには多くないけどね。元は、ふわふわシープっていう系統の羊ちゃんばっかりなんだけど、住んでた地域によって、だいぶ特徴が変わってるんだよ」


 放牧地に向かいながら、周りで鳴いている羊さんたちについて聞くと、モッコさんが色々と教えてくれた。

 ここにいる子たちは、世界のあちこちにいたのを集めてきたのだそうだ。

 大本の種類は、ふわふわシープ。

 中央大陸でも、『魔王領』でも、すっかりおなじみとなっている、柔らかい羊毛が採れる羊モンスターだ。

 でも、場所によっては、魔素濃度も違うし、環境も様々なので、同じふわふわシープでも、かなり特色が出てしまうとのこと。


 ちなみに、アストラルさんはお店があるからって、地下の入り口のところで別れた。

 新しいスライムの容器の件が進んだら、また、塔の方へと試作品を持ってきてくれることになっている。

 これで、アイス作りとかもちょっとは便利になるかな。


「こっちの黒い羊ちゃんは『黒羊』って呼ばれてるね。元々の出身は『魔王領』の魔の山周辺や、吸血鬼とかが住んでる『常夜の国』とかかな。寒さにもそこそこ強いし、割と濃いめの魔素濃度にも慣れてるから、そういう特殊な環境でも対応できるのである。強い羊ちゃんだよ」


「へえ、吸血鬼の国、ですか?」


 あ、やっぱり、吸血鬼の人とかもいるんだ。

 その『常夜の国』と呼ばれる辺りは、昼間でもほとんど明るくならない場所らしい。

 とは言え、別にその吸血鬼さんたちも、完全に太陽に弱いってわけでもなくて、多少はしんどいけど、昼間でも活動はできるみたいだけど。

 その辺は、向こうでの、吸血鬼のイメージとは少し違うようだ。


「そうそう、あの、引きこもり連中のとこね。ていうか、『魔の山』周辺って、基本、変わり者の種族が多いから、そのひとつって感じ。せっかく、黒い羊ちゃんたちがいっぱいいるってのに、何にもしてないんだもの。だから、わたしがこの町に来るときに、連れてきたのである。ここ、美味しいものいっぱいあるし」


 ねー、とモッコさんがその黒い羊さんたちに声をかけると、どこか嬉しそうに、羊さんたちも返事をする。

 ただ、メェメェ言っている、その言葉は、そのままでしか聞こえないので、この羊さんたちの言葉って、普通のモンスター言語とはちょっと違うのかな?

 アキュレスさんからもらったブローチでも、訳せないものはあるみたいなんだよね。

 ブラン君のうちで飼っているコッコさんたちも、言葉はわからなかったし。

 たぶん、一定以上の言語基盤がないと厳しいのかなあ。

 その辺は、ショコラがぷるぷる言っているのに近い気がする。


 それにしても、吸血鬼さんのことを引きこもり連中って、なかなかの響きだよね。


「え? だって、事実だし。わたしも何人かは知ってるけど、基本、本体を人前にさらすことをしないんだよ、あいつら。大抵は何かを操ってるか、遠隔操作してるか、憑りついてるか。あ……フェイレイのことを貶してるんじゃないからね? うん、別に憑りつくのが悪いことじゃないし」


「うん」


 慌てて、フェイレイさんのことをフォローするモッコさん。

 そういえば、幽霊種って何かに憑りつかないとダメなのかな?

 アノンさんとか、好き勝手に動いているから、あんまりそういうイメージもなかったんだけど。

 ふわわは、何となく、塔に憑りついている感じではあるけど。

 まあ、深く踏み込みにくい感じだし、その辺は聞きにくいので放置かな。


 ともあれ。

 吸血鬼って、存在が普通に暮らしていることはよくわかったよ。

 まあ、モンスターとか、妖怪とか普通にいる世界だしねえ。


「後は、色で何となくわかるかもしれないけど、青系統の羊ちゃんは、水辺とかが得意な子たちだね。リビアの町とか周辺に生息してる『海羊』の一種。泳ぎに関するスキルとかも持ってるから、なかなかだよ」


「なるほど。本当に、ここにいる羊さんは、世界のあちこちからやってきてるんですね」


 リビアの町は、今後のコロネのターゲットのひとつだ。

 『魔王領』こと東大陸の南東にある港町。

 バナナとかパイナップルとかが採れる場所で、そして、何よりも重要なのが、さとうきびの生産地ってことだ。

 お菓子作りの一番重要な、お砂糖の生産拠点。

 とりあえず、コボルドさんたちとの交渉がひと段落したら、そっちにも行くことは決まってるしね。

 

 この青い羊さんがいたところなんだ。

 色々と話を聞いて、感心しつつ歩いていると、地下のアーケード街がいったん終わって、やたらと広くて、上に開けた場所へと到着した。

 天井の方には、何かきらきらと輝くものが見える。

 あれって、水が流れているのかな?

 この、放牧地というか、大きめな自然公園みたいな場所の上側、たぶん、地上の高さくらいのところだろう、そこに宙に浮いた状態で、水が張ってあるというか。

 それがきらきらと光を反射したりしているようだ。

 水族館とかで、水中の通路から、上を眺めている感じと言えばわかりやすいかな。

 太陽の光がある程度、そのまま差し込まれているから、そんなに水の層は厚くはなさそうだけどね。


 そして、目の前に広がっている空間に改めて、目を戻すと。

 地面に掘られた大穴のところに、広々とした草原が広がっていて、大小さまざまな木々が生い茂っているのが見えた。

 ちょっと、周囲が山肌というか、地面の層で囲まれている感じが、ここが一応は地下だってことを思い出させてくれるけど、それにも増して、目の前の光景には圧倒されてしまうものがあって。


「すごいですね……ここが放牧地ですか? かなり大型のモンスターさんとかも休んでいるんですね」


 思わず、すごい、と思ってしまう。

 さっき会った、モスさんの本体ほどではないけど、それでも、かなり大きめのモンスターさんたちを含めて、その放牧地には、たくさんの人ではない生き物がいたのだ。

 見覚えがあるところでは、果樹園のカール君とかが走り回っているし、小型の、それでも、コロネくらいの大きさはありそうな、ネズミみたいなモンスターが数匹でじゃれあっているのとかも見える。

 めずらしいところでは、そんなモンスターさん、象さんとか、バイソンっぽい水牛みたいな感じの姿の子とか、後は、大きめの鳥さんとか、たくさんのモンスターさんが集まって、何やら、身体を動かしている区画も見えた。

 あれ、何をやってるんだろ?

 ちょっと見、謎の光景なんだけど。


「はは、コロネ、びっくりしたか? さっきも言ったが、この町だと、上で普通に暮らす場合は、人化状態が基準になるからな。ここにいるのは、それがあんまり得意じゃないやつらか、あるいは、獣化状態の獣人とか、鳥人、そういう感じのやつらも、たまに羽根を伸ばしに来てるんだ」


「あっ!? この中には、獣人さんもいるんですね!?」


 あ、そっかそっか。

 そう言えば、人化と半獣化の状態は見たことが会ったけど、完全な獣化の姿って、フェンちゃんとかぐらいしか見たことがなかったものね。

 へえ、それはびっくりだよ。


「ほら、あっちで、みんなで集まって体操してるだろ?」


「いや、あれ、体操だったんですか?」


「そうそう。朝はあの体操で身体を動かすのがいいの。ほら、羊ちゃんたちも混じっておいで。あれ、身体にいいから」


 そう言って、モッコさんが、羊さんたちを放つ。

 ここは自由行動で良いって感じらしい。

 体操をやってる区画まで走っていく羊さんもいれば、その辺を走り回っている子もいるし、牧草がよく生えている場所で、もくもくと食べている子もいる。


 そして、今、多くのモンスターさんがやっている朝の体操って、実は、本体での魔素循環のトレーニングもかねているのだとか。

 元々は、朝に体操をするって習慣はあんまりなかったらしいけど。


「その辺は、この町独自の文化だな。メルが魔素トレーニングの体操を開発したっていうので、それなら、朝起きたら体操すると身体にいいって話になってな。それで、特に、ここでは広まったって感じだな。何せ、職人街も農家連も朝が早いからな。声をかけあって、体操をやったりしてるのさ」


「果樹」


「ああ。果樹園もな。果樹園の中にも、それぐらいのスペースはあるんだが、あそこ、レーゼさんがうとうとしている時間もあるしな。なので、音楽を流しての体操とかは、こっちまでやってくる連中も多いな」


 その辺は、気を遣ってるんだ、とエドガーさんが笑う。

 なるほどね。

 というか、よくよく聞いていると、確かに音楽も流れているよね。

 何となく、ラジオ体操とかをイメージしてしまうというか。


 ただ、魔素のトレーニングになる体操ってのは初耳だ。

 そういうのもあるんだね。

 後で、訓練の時にでも、メイデンさんに詳しく聞いてみよう。


『あれ……? コロネ先生、こちらにいらしてたんですか?』


「えっ? ……えーと?」


 何ともなしに、体操をやっているモンスターさんを眺めていたら、横から声をかけられたんだけど。

 えーと、どちらさまですか?

 声がしたところに立っていたのは、一匹の大型獣だ。

 蒼いたてがみと、大きくてきれいな一本の角。

 それらが印象的な、馬とか、鹿とかに似たモンスターさんだ。


 というか、だ。

 コロネ先生?

 その呼び方をしてくるのって……。


『あ、すみませんすみません。私です、リリックですよ。ちょっと待ってくださいね、普段の姿に戻りますから』


 そう言って、目の前で、獣化を解くリリック。

 いつも目にしているような、青いパティシエの制服姿のリリックへと戻る。


「はい、これで大丈夫ですよね? おはようございます、コロネ先生。今日は職人街の散策と聞いてましたけど、ここもそうだったんですね?」


「うん、おはよう、リリック。こちらのモッコさんたちに連れてきてもらったんだよ。というか、さっきの姿って、獣化したリリックなの?」


「はい、そうですよ。そう言えば、初めてお見せしましたよね? すみません」


 いや、それは別にいいんだけど。

 確かに、前から、リリックが獣人種だってことは知ってたし。

 ただ、それはそれとして、だ。


「リリックって、きりんの獣人じゃなかったの?」


「そうですよ。きりんですよ」


 話しながら、ようやく気付く。

 いや、そっちの麒麟きりんかい。

 普通に、首の長い方を想像してたよ。

 というか、麒麟って、どっちかと言えば、獣人というより、幻獣種っぽいんだけど、その辺はどうなのかな?

 まあ、聖獣だから、獣人でいいのかなあ?

 一応、確認してみたけど、リリック自身もよくわかってないみたい。

 その辺は、元々孤児だったみたいだし。


 職人街を巡っていたら、なぜか、お弟子さんの新しい一面を目にしてしまって。

 そのことに驚くコロネなのだった。

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