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ちょこっと! ~異世界パティシエ交流記~  作者: 笹桔梗
第6章 町の外への挑戦編
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第407話 コロネ、火の鳥の暴走に驚く

 だからこそ、目の前の何となく、ほのぼのとした光景に、少し油断していたのだ。

 ちょっとした気の緩み。

 だが、それはヴィヴィが寝返りを打った瞬間に起こった。


「――――――え!?」


「っと! コロネさん、後ろへ! 『アースシールド』!」


 ヴィヴィの身体が赤く燃え上がったかと思うと、鳥の羽根を思わせる形の炎が四方八方に展開していくのが見えた。

 飛び散るのは羽根型の炎。

 それらが室内を乱舞するように飛び回る。


 と、すぐさま、反応を見せたのは、前方を歩いていたアストラルさんだ。

 今、使ったのが土魔法の一種だろうか。

 コロネたちをかばうような形で、土で作られた数メートルはあろうかという盾が前方の空間へと生み出されて、次いで、羽根の形をした炎がその盾へと着弾する。


 ほぼ同時に、フェイレイさんも動いていた。

 何もない空間に円を描くように腕を動かしたかと思うと、その途端に、風が生まれる。

 そして、その風によって、炎の軌道が逸れていくのが見えた。

 うわ、すごい。

 けど、危なっ!

 逸れた炎の羽根がことごとく、周囲の壁へと突き刺さっていくんだけど、壁の方は大丈夫なのかな?

 どこか、他人事のような感じで、周辺に意識をやると、壁に刺さったように見えた羽根はシュウシュウと音を立てたかと思うと、少しずつ形を変えて、羽根ではなく普通の火の球のようになった後で、壁のところで、焼け消えた。

 あれ?

 壁は意外と無事なんだね?

 というか、少しだけ焦げたような感じだけど、それだけだ。

 煤がちょっと付いた程度で収まっているよ。

 さっき、エドガーさんが結界とか言ってたから、そっちの影響なのかな?

 フィナさんの魔法屋の地下の壁もそういう機能があるって聞いたしね。


 で、そのエドガーさんはと言えば、フェイレイさんの後ろで落ち着いて立っているだけだった。

 あれ、エドガーさんは特に何もしないんだね?

 それだけ、フェイレイさんのことを信頼しているってことかな。


「ヴィヴィ! 起きなさい! また寝ぼけてるよ! はい!」


 アストラルさんが、これ以上、炎が飛んで来ないか確認しつつ、怒鳴り声をあげた。

 けっこう、真剣というか、アストラルさんもそういう感じになれるんだね。

 ちょっと驚きだ。

 今の今まで、おどおどしてる姿しか見たことがなかったから。

 でも、さっきの反応とかを見る限りは、それなりに、アストラルさんも使い手ってことなんだね。

 

「びぃ…………?」


 あ、ヴィヴィが目を覚ました。

 まだ目の焦点は合ってないけど、顔をきょろきょろさせて、しきりに周りを見ているのが、ちょっとかわいい気がする。

 今、けっこう危なかったような気がするけど、どこか牧歌的な感じだね。


「ふぅ……良かった。目を覚ましたみたいだね。というか、また『羽根フェザー』が出てたよ。やっぱり、ヴィヴィはそういうのがおっかないなあ」


「びーーーー!」


「うん、次から気を付けてね、うん。というか、ほら、また、ちょっと『羽根』が出てるよ。それ、ちゃんと上手に処理してね」


「びーーーー!」


 アストラルさんの言葉に、ちょこんと頭を下げるヴィヴィ。

 今もさっきの羽根型の炎と同じものがヴィヴィの周囲をくるくると飛んでいるのだ。

 おかげで、さっきの炎とも合わせて、この部屋の温度があがっているというか、ちょっと蒸し暑くなってしまっているよ。

 あれは、ヴィヴィの能力なのかな?

 本物のヴィヴィの羽根が燃えているってわけじゃなくて、炎自体が羽根みたいな形になっているようだけど。


「おい、アストラル、もう大丈夫そうか?」


「はい、エドガーさん。ヴィヴィが正気に戻ってますから、これで制御が可能だと思いますよ、はい」


「なら、いいがな。それにしても、予想通り、こうなったな。はは、ヴィヴィもその小さな身体でなかなかやるもんだ」


「びーーーーー!」


「ヴィヴィ、あんまり嬉しそうにしないでね、うん。今日は、コロネさんたちもいたんだから、ちょっと危なかったよ?」


「びぃ…………!」


 あ、ちょっとしょんぼりしてる。

 でも、無事だったんだから、あんまり怒らないでほしいなあ。

 アストラルさんについで、一応、コロネもチョコ魔法を使おうとしていたのは、ちょっと内緒だ。

 何だかんだ言って、メイデンさんの特訓の水玉攻撃、あれに、今の炎の軌跡とかも似てたんだよね。

 今日は、完全には硬直しなかったし、ちょっとは特訓の成果が現れているのかな。

 もっとも、防げたかどうかは試してみないとわからないので、アストラルさんのおかげで助かったってのは事実だけど。

 まあ、こういう不意の時でも身体が動くようになってきたのは、少し前進かなあ。


 ともあれ。

 残っていた炎の羽根をこっちとは離れた方の壁へと動かして、壁にぶつけていくヴィヴィ。

 やっぱり、この部屋の壁は、魔法とかに強く作られているそうだ。


「一応、地下の入り口になってる部屋は、もしも建物が壊れても、そこだけは無事になるようにはなってるぞ。職人街の共有倉庫や、メルのポーション保管庫とかと同じ作りだな」


「あ、なるほど。そうなんですね」


 そういえば、メルさんの家もそんな感じだったって言ってたものね。

 建物が吹き飛んでも、ポーションがある区画だけは無事だって。

 だったら、建物自体を丈夫に作ればいいと思うんだけど、そういうのはちょっと難しいのだそうだ。

 その辺は、結界のシステムとも関係しているみたいだけど。


「…………って、あれ?」


 目の前で色々と起こったのと、そんなことを話していたので、気付くのが遅れたけど、いつの間にか、頭の上のショコラがいなくなっていて。


「って! ちょっと! ショコラ、何やってるの!?」


「ぷるるーん!」


 ふと、部屋の片隅で、ショコラがぴょんぴょんと飛びついていた。

 いやいや!?

 そうじゃなくて、何食べてるのさ!?


 気が付けば、ショコラが、壁に当たってプスプスと煙を発している火の玉をぱくりと口の中へと入れてしまっていた。


「ショコラ! それ、食べ物じゃないよ!? 吐き出して!」


「ぷるるーん? ぷるるっ!」


「……って、あれ?」


 ごくん、って感じで、ショコラがそのまま、炎の羽根を一飲みしてしまった。

 いやいや、そんなことして大丈夫なの!?

 一瞬、呆気に取られちゃったけど、当のショコラはと言えば、どこ吹く風で、けろりとしているし。


「びーーーーーー!?」


「ぷるるーん!」


 そのまま、ぴょんぴょんと飛び跳ねながら、こっちに近づいてくるショコラと、そのショコラを興味津々という感じで見ながら、側を飛び回っているヴィヴィ。

 なんだろう。

 見た目だけなら、スライムとひよこがじゃれているようにも見えるんだけど。

 すでに、ヴィヴィの炎は熱くないものになっているのか、たまに触れられても、ショコラはへっちゃらって感じだし。


「あの、粘性種って、炎とかも食べられるんですか?」


「いや……というか、ショコラのことはコロネが一番よく知ってるんじゃないのか? さすがに、スライムが炎を食べてるのなんて初めて目にしたぞ? いや、確かに、進化形として、炎に適合するスライムがいるってのは聞いたことがあるが」


「溶岩」


「そうですよね。溶岩帯とか、そういうところにしか、住んでいないはずですが、はい。コロネさん、ショコラさんはどういうスライムなんですか?」


「いや、あの、それはわたしの方も聞きたいくらいなんですけど……」


 一応、エドガーさんたちの話によれば、そういう適性のスライムがいてもおかしくはないとのこと。

 ただ、その場合は、普通は、今のヴィヴィみたいに、身体から炎を発していたりとか、そういう特徴があるはずなので、それも今のショコラの姿を見る限りだと、よくわからないのだそうだ。


「そもそも、粘性種も多彩進化が枝分かれし過ぎててな。世界のあっちこっちで新種が見つかっているって話だぞ? アランが分類が大変だって、こぼしてたからな」


「はあ、なるほど」


 隠してはいるけど、ショコラの場合、フードモンスターの可能性も高いしね。

 そういう意味では、普通の粘性種とはちょっと違うのかもしれないし。

 まあ、今はっきりしてるのは、ショコラはヴィヴィの炎を食べちゃったってことだけだねえ。

 後でお腹とか壊さなきゃ良いけど。


 ……そもそも、お腹ってどこなんだろ、とは思うけど。


「でも、すごいですね。ヴィヴィの炎って、窯作業と同等ぐらいまでは普通に出せますので、金属とかでも溶かしちゃうんですよ、はい。土魔法と障壁を同時展開しないと、威力によっては、貫いてきますし」


「ええっ!? そんなに危なかったんですか!?」


 というか、ショコラ、大丈夫!?

 普通に食べちゃダメなものじゃないの。

 もうね、食い意地が張ってるのはわかったけど、物を選んで食べないとダメだよ?


「ショコラ、あんまり危ないことしないでね? 心配するんだから」


「ぷるるーん! ぷるるっ!」


 気を付ける、って感じで、またコロネの頭の上へと戻って来るショコラ。

 というか、ショコラって、実はこりない性格だよね?

 前もフェンちゃんの影の狼を食べちゃった時もおんなじようなことを言ってた気がするよ。

 やっぱり、ハラハラするなあ。

 その辺は、まだまだ生まれたばっかりで、好奇心旺盛なのかな?


 そんなこんなで、母親的な心配をするコロネなのだった。

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