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ちょこっと! ~異世界パティシエ交流記~  作者: 笹桔梗
第6章 町の外への挑戦編
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第405話 コロネ、魔道具職人にあいさつする

「やっほー、来たよー。クラマ、ティータ。お仕事に必要な材料とか色々持ってきたよ。あと、新しいお仕事もね」


「ついでに、お前らのお客さんも連れてきたぞ。せっかくだから、あいさつしておくといい」


 バスの中に入るなり、ジーナさんとエドガーさんが職人さんを呼んだ。

 フェイレイさんは、少し飛び上がって、天井のあたりにふわふわと浮いているし。

 あー、なるほどね。

 そういう姿を見ていると、幽霊さんってのがわかる気がするよ。

 まるで、重力を感じさせない状態で、エドガーさんの肩の上に待機しているし。


 コロネも三人の後ろからバスの中に入ったんだけど、外から見たのとちょっとイメージが違っていて、中の空間はそこそこ広くなっていた。

 高速バスのように、座席が並んでいるんじゃなくて、完全に個室型、って感じなんだね。

 運転席みたいなのはちゃんと残っているみたいだけど、その部分も改造されていて、大きめな窓ガラスで囲まれた空間になっていた。

 前方のドアは開かないように固定されているのかな?

 今、コロネたちが入ったのは横のドアからだけど、だから、運転席がラウンジというか、食事スペースのような、応接のための空間のようになっていて、テーブルとか椅子が置かれているのだ。

 どうやら、エンジンとかが入っているスペースも取り除かれているみたいだね。

 外見だけ、バスで、後は普通の居住空間みたいになってるし。

 何となく、電車の車両を改造して、宿にしてしまったのに近いのかな。

 内装が大幅に変えられてしまっているのはわかるけど、コロネもそういう作りとかは、素人だから、どこをどういじったのとかはわからないし。


 ともあれ。

 立派な家にリフォームされているのはよくわかるよ。

 生誕祭から、それほど日が経っていないのに、この出来はすごいねえ。

 ちょっとびっくりだよ。


 そうこうしていると、奥の個室が開いて、中から人が姿を現した。


「はい。いらっしゃいませ。ジーナさん、エドガーさん、フェイレイさん。えーと……そちらの方々は?」


「塔で料理人をやってるコロネさんだよ。人間種で、迷い人。甘い料理が得意な料理人さんで、パティシエって言うんだって」


「コロネの頭の上に乗っているスライムが、ショコラだ。粘性種のグルメスライムで、何でも食べるって話だな。まあ、コロネの助手みたいな存在だ」


「なるほど、それはそれは。初めまして、私はクラマと言います。この度は、魔道具技師として、この町にやってきました。こちらの町でしたら、『ロスト』に代替できる技術があるとお聞きしましたので。それを学びに、ですね。どうぞよろしくお願いします、コロネさん」


 そう言って、にっこりと微笑むクラマさん。

 程よく長い金髪をした、背の高い男性だ。

 年齢は、コロネよりも少し上くらいだろうか。

 とりあえず、すぐ目につくのは、背中から生えている黒い羽根と、その服装だ。白を基調とした羽衣を男性用に仕立てた感じの服を着ているのだ。

 下は袴に近い感じかな。

 羽根があるってことは、鳥人種さんとか、そっち系の人なのかな。

 顔つきは、ちょっと彫りが深いけど、かっこいい系の二枚目さんだ。


「こちらこそ、よろしくお願いします。クラマさんは鳥人種さんなんですか? それとも、セイレーンさんたちのような方でしょうか?」


「一応、細かい分類上は、天狗になりますね。ですが、すみません。出身地や、種族につきましては、お答えできないということでご勘弁ください」


「あっ、すみません、余計なことをお聞きしまして」


 それは失礼しました。

 あんまり、その辺のことは聞いてはまずかったのか。

 ただ、天狗ってことは、妖怪種なのかも知れないね。

 本人は嫌がっている以上は、これ以上は踏み込まない方がいいみたいだけど。


「いえいえ。そのうち親しくなれれば、そういう話もできるかもしれませんよ? ふふ、それはそれとしまして……ティータ、ティータ、お客さんが来てますよ。いつまでも寝ていないでごあいさつに、顔を出してください」


 そう言って、奥の個室の方へと呼びかけるクラマさん。

 しばらく待っていると、ものすごく眠たそうにしている女の人が姿を現した。


「……眠いよ、クラマ。お客さんって誰ぇ?」


「ほらほら、しっかりと起きないとダメですよ? ジーナさんやエドガーさんたちが様子を見に来てくださいましたし、お客様もお見えです。料理人のコロネさんとショコラさんですよ」


「そうなの…………? え? 料理人のコロネさん?」


 ティータと呼ばれた女性は、最初は半分寝てるような感じだったんだけど、少しずつ、目が覚めてきたようで、あくびをしながら、コロネの方を見てきた。

 というか。

 緑色の髪で、眠そうな感じって、何となく、メルさんに雰囲気が似てるかな。

 まあ、メルさんよりは小柄で、きれいと言うよりはかわいらしいという感じの女の子だ。

 服装は、緑色の作業着って感じの服で、ポケットがたくさんついたジャケットとズボンを身につけている。

 職人さんって意味では、そんな雰囲気の衣装だけど。

 もしかして、このまま寝ていたのかな?

 寝たりするのにはあんまり向いてない感じだよね、この服。


「コロネさん、コロネさん、コロネさん……はて、どこかで聞いたような…………」


「お前がこの前食べて、興奮してた新しいパンを開発したやつだぞ。この間、説明しただろうが」


「おおっ! それだよ、エドガーさん! そうそう、どこかで聞いたことがある名前だと思ってたんだよねー! うん、うん、そうそう、コロネさんだ! パン屋さんの!」


 ちょっと興奮気味で、こっちへと近づいてくるティータさん。

 いや、あの、別にパン屋さんではないんですけど?

 まあ、この町の人にとっては、コロネもパン屋さんって認識なのかなあ。

 そうこうしていると、いきなり握手されて。


「はじめまして! ティータだよ。出身は『グリーンリーフ』。種族は、巨人種と樹人種のドリアードのハーフなんだー。よろしくねっ!」


「あ、はい、こちらこそよろしくお願いします」


 うわ、目が覚めたら、すごく元気な感じの子になったねえ。

 そういう意味では、メルさんとはちょっと違うかな。

 種族も、巨人さんとドリアードさんのハーフかあ。

 そういうケースもあるんだね。

 ということは。


「あの、もしかして、ティータさんって、けっこう長生きされてるんですか?」


「そんなことはないよ? まだ生まれてから十年ちょっと、ってところかな。まだ、ティータみたいな子は少ないから、どういう感じで年を取るのかってのもよくわからないし」


 あはは、と屈託のない感じで微笑むティータさん。

 巨人種と樹人種の間で子を成すのって、なかなかめずらしいのだとか。

 一応、『グリーンリーフ』では、割と近しい関係ではあったけど、それでも、きちんとした形でお付き合いとかするケースは稀だったそうだ。


「元々、巨人種は飯を食うし、ドリアードは周辺魔素だけでも十分生きていけたからな。ローズみたいなもの好き以外は、それなりに生活習慣とかも全然違うわけだし、どうしても一線を引いていたんだろ」


 だから、そういう話はあんまり聞かなかったんだ、とエドガーさん。

 あ、そっか。

 元々、ドリアードさんたちって、料理とか食べ物にあんまり関心がなかったんだものね。

 普通に食事を楽しむようになったのって最近のことなのか。

 もちろん、それだけが原因じゃないけど、その結果、ハーフとかそういう話にもなったのかな?


「まあ、その辺は俺も詳しくはしらないな。で、話を戻すと、ティータは、旧『グリーンリーフ』で職人として修行していたやつなんだ。向こうの巨人種の連中に可愛がってもらってたからな。そっちは、その縁で、職人街へとやってきたのさ」


「そういうこと。この町だったら、色々と面白い依頼とかもあるって話だし。まだまだ、色んなことを学びたいから、って」


「うんうん、その意気その意気。というわけで、ふたりに追加のお仕事を持ってきたよ。こっちのコロネさんが持ってきた『がらくた』を使えるように、魔晶石を組み込んだ形で改造してほしいの。そこだけやってもらえれば、後はジーナが引き継ぐから」


 そう言って、改めて、細かい依頼について、ジーナさんがふたりに説明する。

 素材はもうジーナさんが用意しているから、そっちを使う形で、内部構造の改造に関しては、ふたりに任せるって感じで。

 後は、細かい、報酬に関する確認とか、期日に関する話とかをして。

 そして、ジーナさんが持ってきたアイテム袋をふたりに渡して。

 後は、腕を見るので、おまかせって感じらしい。


「わかりました。なるべく早い方が良いというわけですね?」


「うん、その方がいいと思うんだ。何せ、コロネさんの場合、コロネさんが作るお菓子を楽しみにしてるファンの人たちが多いから。道具が整えば、もっともっと、色々なお菓子を作ることができるんだものね?」


「はい、そうですね。特にミキサーがあれば、撹拌系の魔法を使えない人でも、作業効率が上がりますから、一日あたりに作れる量も変わって来ると思いますし」


 アイスとか、そっち系も手順が短縮できるしね。

 そういう意味では、メリットも大きいかな。

 お店で提供できる量が増えるかも、ってね。


「甘い料理がいっぱいかあ……それはいいね! よーし! 頑張ろうね、クラマ!」


「ええ、そうですね。では、早急に作業の方へと取りかかりましょうか」


「それじゃあ、完成を楽しみにねー」


 言うが早いか、クラマさんの背中を押して、ティータさんが個室の方へと行ってしまった。


「おいおい……せめて、客が帰るまでは見送るぐらいはしろよな」


「まあ、いいんじゃない? 割と仕事に目が行くと、依頼人そっちのけになる人って、他にも多いんだし」


「気質」


「いや、まあ、そうなんだが。どいつもこいつも、もう少し客商売ってものを理解してほしいんだがなあ」


「ま、その辺は、エドガーさんたちに頑張ってもらうとして、ね。ジーナもさっき、コロネさんから相談されたものについて、色々と試してみたいし」


「あ、さっきの泡だて器の話ですか?」


 ここに来る前に、ちょっとだけ、その話もジーナさんたちに聞いてもらったのだ。

 まあ、材料に関しては、レーゼさんの素材ってこともあって、果樹園のお菓子の代理店がオープンしてからの話になるので、あくまでも相談程度だったんだけど。

 どうも、ジーナさんにとっては、違ったようだ。


「うん。別に、レーゼさんの究極素材で作る必要もないよね? だったら、今後お菓子を作ろうって人が増えたら、もっともっと売れるんじゃないかなって。それに、ジーナも後で、お菓子作りを教わるじゃない? その時も使うんでしょ?」


「そうですね。泡だて器は必需品ですから」


「じゃあ、絶対だもの。ふふ、こっちはこっちで頑張るからね」


「ありがとうございます、ジーナさん」


 やっぱり、ドワーフの鍛冶職人さんが、調理器具の開発に乗り気なのはうれしいね。

 ほんと、これからが楽しみだよ。

 そう考えて、笑顔を浮かべるコロネなのだった。

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