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ちょこっと! ~異世界パティシエ交流記~  作者: 笹桔梗
第1章 はじめての異世界 ~食材探し奔走編
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第40話 コロネ、解体ショーを見る

「はい、お待たせしましたのにゃ。本日のおすすめメニューですのにゃ」


 残りのプリンを、アキュレスたちのテーブルへと届けて調理場に戻ってくると、ちょうど、オサムたちがおすすめメニューの準備を整えたところだった。

 ちなみに、プリンに関する依頼料は、金銭ではなく、たまごの納品にも差し替えられるということだったので、そっちにしてもらった。

 これでしばらくは、たまごがただで手に入るのだ。

 よかったよかった。


 さておき。


 ミーアがフロアの中央スペースで仕切っているようだ。

 その裏で、オサムとムサシが大きな食材を運び込んでいる。


「本日のメイン食材は、この大きなトビマグロなのですにゃ。提供してくれたのは、いつものようにリディアさんなのにゃ。皆様、彼女に盛大な拍手をー!」


 ミーアの言葉に、周りのお客さんが一斉に拍手したり、リディアに向かって、「ありがとう」などと叫んでいる。


「ぶい、滅多に採れない大物」


 当のリディアも、ちょっとだけ誇らしげに胸を張っているようだ。

 相変わらず、お人形さんのように表情はあまり変わらないが、よく見ると、口角が少しだけ上がっている気がする。

 それにしても、トビマグロ、まぐろかあ。


「皆さんも知ってると思うがにゃ、トビマグロは水中だけじゃなく、水面もすごいスピードで飛んで行ってしまうのにゃ。人魚種のイグっちでもなかなか捕まえられないので、普段はお店では出せないのにゃ。この機会を逃すと、次はいつ食べられるかわからないのにゃ。ぜひ、召し上がってほしいのにゃ」


 ようやく、オサムとムサシが押すカートが中央までやってきた。

 カートに乗っているトビマグロは、向こうのまぐろに羽根を生やしたような姿をしている。大きさは大分大きく、五百キロくらいはありそうだ。

 この巨体で飛び回られたら、捕まえるのも大変だろう。


「それでは、お待たせしましたのにゃ。オサムとムサシによるトビマグロの解体ショーなのにゃ。それでは、どうぞー!」


 口元に笑みを浮かべながらも、目は真剣な表情のオサムがトビマグロの横に立つ。

 その手には、刀、いや、まぐろ用の包丁が握られている。

 一方のムサシは、サポートに徹するようだ。

 包丁は持たず、まぐろを押さえる側に回っている。

 いつの間にか、ミーアも、布巾のようなものを持って、横にスタンバイしている。確か、断面をきれいにしないと、そこから劣化が始まるんだっけ。


「参ります」


 オサムが言葉を発する。

 と、それと同時に彼の持つ包丁が光るのをコロネは見た。

 思わず、周囲から歓声のようなものが沸くのを感じる。


「はっ!!」


 次の瞬間、大型のまぐろが一刀によって両断される。

 あれが、オサムの『包丁人』スキルなのだろう。

 切断能力の補正、だったかな。

 ただし、あくまでも切るスキルであるため、それを十全に発揮するためには、どこをどう切ればいいのか、という知識と、それを活かすための技術が最低限必要となるそうなのだが。


 そうこうしている間にも、オサムの技が披露されていく。

 そのひとつひとつの動作に、感嘆の声や、拍手が沸き起こっている。

 ちょっと、大袈裟なパフォーマンスのような動作も見られるが、それはそれで、場の雰囲気を盛り上げていて、興奮度を高めているようだ。

 コロネも、まぐろの解体ショーなんて、間近で目にしたことはなかったので、すっかりと目を奪われている自分に気付く。


 それにしても、オサムは普通にまぐろもさばけるのか。

 すごいすごいと思っていたけど、本当にどこまでも底が知れない。


「よし! そっちの半身はムサシ、お前がやってみろ!」


「承知!」


 お、今度はムサシの出番のようだ。

 手に持っているのは、先程より少し小ぶりの包丁だ。

 その包丁が光を伴って、次から次へと、まぐろを解体していく。

 一方のミーアはと言えば、ふたりの横で黙々と、小さくなったまぐろを調理している。各部位に切り分けつつ、食べやすい大きさへと切っていく。

 派手さはないが、実はミーアの作業が一番大事なような気がする。


 いつの間にか用意されたカートの上が、食べやすい大きさに切られたお刺身でいっぱいになっていく。

 と、コロネの他の給仕スタッフが、ミーアの元へと向かっている。

 危ない危ない、お仕事だ。


「よーし、これにて、解体ショーは終わりだ」


「いつものように、最初の一皿はタダなのにゃ。お刺身を食べたことがない人も美味しいからチャレンジしてほしいのにゃ。それ以降は注文を受け付けるのにゃ。お刺身以外にも、ネギま鍋に、ステーキ、竜田揚げや鉄火丼、あら煮などなどが提供できるのにゃ。お刺身がどうしてもダメな方はそっちを食べるといいにゃ」


 そう言って、ミーアはコロネたちにお刺身を一皿ずつ配るように指示した。

 なるほど、お刺身系を無料で試してもらって、少しずつ裾野を広げていく作戦か。

 いいアイデアだ。

 早速、手招きしているリディアの元へとお刺身を運ぶ。


「お待たせしました。まぐろのお刺身です」


「ん、ありがと。他のメニューも一通り、お願い」


「かしこまりました。それにしても、リディアさんすごいですね。あのまぐろをひとりで捕まえたんですか?」


 どう見ても、ただのきれいなお姉さんにしか見えないのに。

 どこにそんな力が秘められているのだろうか。


「射程に入れば、簡単。大変なのは、見つけること」


「そうなんですか」


「ん、今日のは大物。うれしい」


 あ、何だか本当にうれしそうだ。

 大分、リディアの表情がわかるようになってきた。

 それにしても射程、か。

 おそらく、リディアは何らかの魔法を用いているのだろうと推測される。


「力を使うと、おなかが空く。だから、いっぱい食べる」


 どうやら、リディアの能力はすごく燃費が悪いらしい。

 だから、いっぱい食材を採ってきて食べるのだとか。

 しかしながら、採るために能力を使うので、何だか、たまごが先かにわとりが先か、みたいな感じになっているような気もする。

 リディア自身、美味しい物を食べるのが好きなので気にしていないそうだが。


 そんなこんなで、解体ショーは終了した。

 場の盛り上がりに応じて、まぐろの注文も順調に増えているようだ。

 コロネも注文を受け付けては、テーブルへと運ぶのを繰り返す。


 と、そこへオサムがやってきた。


「あ、オサムさん、お疲れ様でした」


「おう、コロネもお疲れだな。でだ、コロネ、もう少ししたら、お前さんが昼から仕込んでいたメニューを出してもらってもいいか? 改めて、お前さんが料理人であることをみんなに紹介したい。そのためにはいい機会だからな」


「はい、わかりました。少し落ち着いたら、ですね」


「ああ。だから、今のうちにこっちに着替えてきてくれ。準備が整ったら、始めるから」


 そう言って、オサムがひとつの袋を渡してきた。

 あれ、もう制服は着ているんだけど。


「あの、オサムさん、これは一体……?」


「まあ、着てみればわかるさ。じゃ、頼んだぞ」


 そのまま、オサムは調理場へと戻ってしまった。

 何だろう。

 恥ずかしい衣装じゃないよね。

 手渡された袋を見つめながら考えるも、結論が出ない。


「まあ、いいか。オサムさんのことなら心配ないよね」


 とりあえず、訳も分からずに、コロネは更衣室へと向かった。

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