第402話 コロネ、鉱物種の食べ物について聞く
「うん、まあ、早い話が、ジーナも奥様としての料理のレパートリーを増やしたいってことなんだよね。蜂蜜酒とかを作ってるのも、旦那さまがそのままのハチミツだと吸収が難しいってのも理由だしね」
というか、蜂蜜酒の醸造に関しては、共同作業って感じになるし。
そう付け加えて、ジーナさんが笑う。
グレーンさんも、うんうん、という感じで頷いているし。
まあ、ゴーレムさんの表情って、相変わらず、ちょっとわかりづらいんだけどね。
会話用のボードがなければ、ちょっと見、感情が見えないから。
ふむ。
それにしても、鉱物種でも食べられるお菓子かあ。
うーん、具体的に考えるとなると、もうちょっと情報が必要かなあ。
「ジーナさん、グレーンさん。鉱物種って、金属か、水分とかお酒に関しては、摂取することができるんですよね?」
塔でも、お酒を飲んだり、コンソメスープを口にしていたのは覚えてるよ。
あーん、とかやってたから、ちょっと見てて恥ずかしかったけど。
「そうだよ。液体なら、ものによっては摂取が可能かな。もちろん、固形のものでも、ものによっては、だけどね」
『スープにしても、この前のコンソメスープくらいなら、大丈夫かな。具材がたっぷりのものとかだと、具材が残っちゃうこともあるけどね』
なるほど。
確かにあの時のスープは、完全にスープに具材が溶け込んでいたものね。
うん?
あ、ということは、ゼラチン質は大丈夫かな?
多少は、ぷるぷるしてたものね、あのコンソメスープ。
「コンソメスープの味もしっかりと感じていましたよね?」
『うん、その辺の味覚は繁殖期の時の味覚に近いかな? もっとも、他の普通の人間種とか、そうだね、ジーナと比べても、同じように味を感じているかってのは、さすがによくわからないけど』
あ、そっか。
グレーンさんも定期的に、繁殖期を迎えて、人間に近づくんだっけ。
鉱物種の繁殖期の姿を見たことがないなあ、と考えて、いやいや、アズさんが常時繁殖期の状態だってことを思い出す。
うん、そうだね。
人型の時の味覚については、アズさんにも味見してもらってもいいかも。
そうすれば、ゴーレムさんたちの好みの味とかもわかるかもねえ。
「あ、そうだね。アズさんも鉱物種だものね。でも、ずるいよねえ。旦那さまも自由自在に変身できればいいのにね」
そうすれば、この町のごはんもいつでも食べられるのにね、とジーナさん。
姿としては、今のグレーンさんみたいに、ゴーレムさんって身体もたくましくて好きだけど、食べ物を食べるって話になると、ちょっと残念とのこと。
「まあ、どんな旦那さまでも愛する自身はあるけどねー」
『うん、ありがとう、ジーナ。でもね、アズの場合、そもそも変身ができないからね? 季節によって、能力が変化するのは、他の鉱物種と一緒だけど。アズはアズでそれなりに苦労してるから』
「うん、それはそうなんだけどね。せっかく、新しい料理が増えても、次の繁殖期まで、旦那様もがまんじゃない。期間限定のメニューとか、結局食べられないし」
そういう点では残念だよね、とジーナさんが苦笑する。
まだ、ふたりとも、パン工房で売っている新しいパンとかも食べたことがないそうだ。
ジーナさんは、グレーンさんに合わせてって感じらしいけど、逆にグレーンさんはグレーンさんで、付き合わせて申し訳がない、って想いもあるんだって。
やっぱり、色々と難しいよね。
「でも、別に、繁殖期の時にいっぱいごちそうを作ったり、食べに行ったりするから、それはそれでいいんだよ。でもね、それはそれとして、普段から、旦那さまも色々な味を楽しめるようになったらうれしいじゃない? そういう意味で、コロネさんの力を借りたいんだ。交換条件みたいになっちゃって悪いんだけど」
「いえ、こちらも願ったり叶ったりですし。ちなみに、グレーンさんが食べられるものに関して、もう少し線引きみたいなものはありますか?」
とりあえず、お酒は大丈夫でしょ?
あと、水分ってことは、果樹園なんかで作ってるジュースとかは?
『ジュース類は吸収できるよ。スープに関しては、ものによっては、という感じ』
「ハチミツはダメなんですか?」
『うん、その粘度にもよるんじゃないかな? 細かくは調べたことはないけど、水と混ぜて薄めていったら、どこかのタイミングで吸収できるようになるはずだよ。お酒として、醸造されたものは飲めるわけだしね』
「なるほど、粘度なんですね」
そうなってくると、ちょっとお菓子の種類が限定されてくるかな。
この前のコンソメスープくらいのゼラチン質なら、問題ないようだから。
「ちなみに、プリンとかってどうでした?」
「あ、噂には聞いていたけど、まだ試してないよ? というか、コロネさん。プリンに関しては、お店で売ってないじゃない。小麦粉のクエスト限定か、塔でコロネさんが不定期で提供するかも、ってことしか聞いてないよ?」
「あっ、そういえば、そうでしたね」
いけないいけない。
塔だと、味見とかで色々配ったりしてるし、プリムさん経由で『魔王領』にも流れているから、ちょっと勘違いしてた。
この町だと、普通の住人だと入手できないかも。
特に、ジーナさんたちは自分たちの工房でお仕事してるから、小麦粉のクエストを受けるとかも難しいだろうし。
「となると、後でまた来た時に持ってきますね。どこまで、っていう線引きがわからないと難しいですから。もしかして、アイスとかもまだですよね?」
「うん、この前の時は、コンソメスープとお酒で満足して帰っちゃったからね。まだ食べてはいないかな」
『興味はあったけどね。でも、数量限定って話だったし、それで買ったのに、食べられなかったら、他の人に悪いし。だから、繁殖期まで待とうって考えてた部分はあるね』
なるほど。
うん、だったら、その辺のお菓子については色々と味見してもらおうかな。
ゼリーとかも硬さによっては、いけそうな気がするし。
「わかりました。とりあえず、お菓子の作り方をお教えする前に、色々と食べられそうなものを持ってきますので、そちらを試してから、という感じでいいですか? それと、アイスなどは教会との兼ね合いもありますので、そちらにも配慮する必要があるんですが」
「うん。その辺はコロネさんにお任せね。それに、料理人さんにとって、レシピって大切なものだって聞いてるからね。そんなにいくつもって感じじゃないし。ただ、やっぱり、旦那さまが食べられるものが増えるとうれしいな、って」
そう言って、慈愛の表情を浮かべるジーナさん。
やっぱり、こういうふたりを見ていると、ちょっと夫婦っていいなあ、って思うし。
愛し合ってるよねえ。
「後は……そうですね。金属の方の吸収もできるんですよね?」
『うん、それも、ものによっては、だね』
「それって、固形物をそのまま吸収するって感じなんですか?」
「あ、見てもらった方が早いかな? ねえ、旦那さま。そこにある鉄を吸収してみてもらってもいい?」
『うん、わかったよ。じゃあ、やってみるね…………はい、ごちそうさまでした』
「うわっ! すごいですね。なるほど、そういう感じになるんですね」
グレーンさんが手のひら大の鉄のかたまりを持ったかと思うと、そのまま、ゆっくりと、鉄が手の中へと消えてしまった。
というか、口から食べるわけじゃないのか。
そういえば、前にもそんな話をしていたっけ。
身体に同化するというか、どこからでも吸収はできるみたいだし。
「ちなみに、その鉄とかの味はどうなんですか? 美味しいんですか?」
『そうだね。どういう味か説明するのは難しいけど、僕には美味しく感じるよ。感覚としては、吸血鬼が血を吸って、美味しいって言ってるのに近い味かも。多少は、血液にも鉄が混じっているわけだし』
はあ、なるほど。
うーん、さすがにコロネは血をなめても、美味しいって感じたことはないけど、要は、身体がそれを求めているものは美味しく感じるってやつだよね。
グレーンさんたち、鉱物種にとっては、金属は身体を維持するのに必要なものだから、味も美味しく感じるのかも。
まあ、細かい部分は気にしてもキリがないけどね。
「では、固形物でも吸収はできるってことですか?」
「金属に近いものはかな。野菜とか、お肉はちょっとダメだったよ? もちろん、そこから抜けおちた、水分とか肉汁とか、そういうものは飲めるけどね」
ふむふむ。
ということは、味を抽出するやり方なら可能ってことか。
うーん、なんだか、そっちだと、歯のない人に向けた食事を考えてるみたいになってきたかなあ。
ソフト食とか、そんな感じで。
えーと、ちょっと待って。
金属はさっきみたいに吸収できるんだよね?
酒蔵で働いているクレイヴさんは、クレイゴーレムっていってたっけ。
ということは、だ。
「グレーンさん、もしかして、土とか粘土とかも吸収できます?」
『ものによってはね。そっち系統は僕にとっては、あんまり美味しくないから、食べたりはしないけど』
あれ?
もしかして、これって。
「もしかして……鉱物種さんたちって、水分だけの状態か、もしくはほとんど水分が含まれていない状態のものなら、食べられるってことですか?」
「うん? そういうことになるの……かな?」
言いながら、あれ? と首をひねるジーナさん。
今までの話を考えると、グレーンさんが吸収できるのって、液体か個体ってことだと思うのだ。
それが混ざり合っているもの……つまりは生き物、動植物からの得られる食材に関しては、難しいというか。
それらが示す意味は。
「なるほど……何となく、どうすればいいかが見えてきましたね」
ちょうど、今、コロネが持っているものに、試せるものがあるしね。
「ちょっと、食べてもらいたいものがあるんですけど、いいですか?」
そう言って、持ってきた袋から、朝作ったサブレを取り出すコロネなのだった。




