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ちょこっと! ~異世界パティシエ交流記~  作者: 笹桔梗
第6章 町の外への挑戦編
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第401話 コロネ、見積もりの相談をする

「えーと、ジーナさん。やっぱり、けっこうかかります?」


「うーん、まあ、このミキサーの場合は、物があるからねえ。一から作るとなれば、そこそこするけど、どっちかって言えば、製造って言うよりも修理? そっちになるから、そこまでは上乗せするつもりはないよ」


 とりあえず、ざっくりと見積もりね。

 そう言って、ジーナさんが色々と白い紙にペンでさらさらと項目を記入していく。


「まず、さっきも言ったけど、ガラス部分の修復ね。それに、本体部分も傷んでるから、そっちも交換して……部品に関しては、まあ、職人街の中で何とかできるから、そっちは問題ないし。刃の部分とか、錆があるところを研ぎ直すか、新しい刃を付けるか。その辺は、コロネさん次第かなあ。最初は、このまま使うってのもいいかな」


 次々と計上される項目。

 やっぱり、気軽にミキサーを直すって言っても、大変なんだねえ。


「そりゃあそうだよ。何せ、あんまりというか、ほとんど見たことがないような道具だもの。いきなり、こういうものを持ち込まれても、普通の鍛冶師じゃ対応できないんじゃないの? アルミナの工房だったら、まあ……色々と無理難題を持ち込まれた経緯があるから、その辺の蓄積もあるけど」


『この町ならではの依頼とかで、ジーナも鍛えられたものね』


「そうそう。ほら、前に、コロネさんの前でやって見せた、『記憶再現』とかも、師匠のところではほとんどやってなかったやり方だもの。なんか、この町にやってきた途端に、無理やり『同調』に関しては覚えさせられたしねー。うん、今は助かってるけどね」


 ああ、パコジェットの模型を作った時のやつだね。

 グレーンさんの生み出したミスリル限定の反則技。

 『同調』でコロネとつながったままで、コロネの記憶から、ミスリルを特殊スキルを使って加工して、一瞬で模型を作り上げちゃった、って感じの。

 単価がえらく高い作業って話だけど、聞くとこわいから、それに関しては、深くは聞いていないのだ。

 同じ量の通常のミスリルを使うのと、桁が違うんだっけ?

 そもそも、ミスリルっていうのが高価な感じがするんだけど。


「まあなあ。普通の鍛冶って言ったら、高温で金属を溶かして加工するからなあ。だが、それを言ったらキリがないぞ。ドワーフの場合、種族スキルの恩恵が大きすぎるからな」


「だから、あっちこっちから狙われるんだよねえ。そういう意味ではエルフとかに近くはあるんだよ。実際、冒険者として、エルフと一緒に旅をしてるドワーフも多いし」


 あ、そうなんだ?

 何となく、エルフとドワーフって、あんまり仲が良くないイメージがあったんだよね。

 あれ?

 でも、何で仲が悪いって思ったんだろ?

 とにかく、エルフは魔法が得意で、木工に長けているから、ドワーフにとっても、欠けた部分を補ってくれる種族なのだそうだ。

 そういう意味では、職人の組み合わせとしては悪くないのかな。


「そういえば、エルフの職人さんもいるんですか?」


「ああ。職人街にはあんまり住んでいないが、果樹園とかで働いているぞ。実際、しなって丈夫な樹木素材と金属素材を組み合わせると、武器としての性能も向上するしな。その辺は、この町の場合は、種族とかあんまり関係なく、色々と協力し合っているぞ」


 エドガーさんによると、職人組合と商業ギルドなどを通じて、個々の職人同士が横のつながりを持って、作業するのを支援しているのだそうだ。


「そうだな。ほら、コロネ、今、ジーナが書いている見積もり。その、ここの項目だな。『魔道具技師による、魔道具としての改造・加工』。これに関しては、職人組合の方とも関係があるから、補助が出る」


「あ、そうなんですか?」


 へえ、補助があるんだ?

 でも、何で個人の依頼に補助が?


「うん、あのね、コロネさん。今回のミキサーの修理及び改造に関しては、ちょっと、最近新しくやってきた職人のふたりにお願いしようと思ってるんだよ。で、そのふたりって、まだ、腕前の方がどのレベルなのかってのが、完全に測りきれていないの。立派に、この町のひとつの工房を任せられるくらいの能力があるのか、それとも、まだまだ、ちょっと頼りなくて、どこかの親方に弟子入りする必要があるのか、って部分でね。ね、エドガーさん?」


「ああ、そういうことなんだ。なので、失敗するリスクもあるが、これに関して協力してくれるのなら、魔道具としての改造に関しては、職人組合の方から予算を出す。だから、協力してくれないか、ってな」


「まあ、最悪壊れた場合は、ふたりの方にツケておくから、今後、技量が伴なったら作り直しって感じかな? 納期は遅れるけど、その代わり、かなりコロネさんの負担は軽くなるって考えてもらっていいよ」


「はあ、なるほど」


 一応、ジーナさんとエドガーさんの話だと、協力した方が安上がりになるから、そっちを勧めるって感じらしいね。

 実際、それが嫌なら、いつものこの町のお得意魔道具技師にお願いすることになる、と。


「そうすると、けっこう負担が大きくなるよ? しかも、今、たぶん、別件が立て込んでるから、もうちょっと先になるだろうし。それに、腕はいいんだけど、変なことをやらかしたりもするから、ちょっとジーナとしては、オススメしないよ? 前は選択肢がほとんどなかったから、その人に頼むしかなかったんだけど」


『とは言え、まず、その新しいふたりも腕が悪いって決まったわけじゃないしね』


「ああ。ちょっとした伝手からの受け入れだから、変なやつは送っては来ないとは思うが。とは言え、この町の職人のレベルも低いわけじゃないからなあ。比較した上でどうなるかはわからないぞ。まあ、試してみる価値はあると思うがな」


 なるほど。

 ちなみに、それぞれの見積もりについて、ジーナさんに確認すると。


「ええっ!? そんなに違うんですか!?」


「うん。だって、その項目が今回の作業の肝だもの。それに関しては、ジーナもあんまり得意とは言えないしね。他の部分の、ジーナの項目に関しては、今後のお得意さん価格とかでサービスできるけど、ここは外部発注になるから、ちょっと安く見積もれないんだよ。だから、良い機会だし、職人組合の補助を、ってね」


 ざっくりとした見積もりを確認してびっくりした。

 今の新しい職人さんの腕試し、って話を考慮しなければ、全然、コロネの予算じゃ足りない額になってしまったよ。

 うーん、チョコレートを換金しても、ちょっとすぐには届きそうもないねえ。

 下手をすると、今、オサムさんが試作を頼んでいるパコジェットの方が、早くできあがってしまうんじゃないかな?

 そうなると、そもそも、ミキサーをどうこうする意味がないし。


 というか、だ。

 この手の依頼って、お高いんだね。

 ジーナさんの項目も、とてもじゃないけど、厳しい感じになってるし。

 まあ、それもそうか。

 技術料とかも馬鹿にならないものね。

 それでも、ジーナさんの担当分は、それなりの額で抑えられているのだとか。


「うん、まあ、その辺はね。この町の貨幣価値って、けっこうざっくりとしてるからね。ほら、オサムさんのお店の料理とかもそうじゃない? あれだって、王都とかで同じものを作ってもらったら、桁がひとつかふたつ違うよ?」


『というか、ジーナ。そもそも、この町の場合、独自貨幣を使ってるから、無理に王都と比較するとおかしな話になっちゃうでしょ』


「えっ? グレーンさん、そうなんですか?」


 それは、ちょっと初耳だよ。

 あれれ?

 この町で使われているのって、金貨、銀貨、銅貨で、それぞれが、向こうの世界換算で、一枚当たり、一万円、千円、百円、って感じになるんだよね?

 そのくらいは聞いてはいたけどさ。

 えーと、独自通貨ってことは、この銀貨とかって、この町の専用のお金ってこと?


「いや、でも、旦那さま。その方が説明しやすいし……というか、知らなかったの、コロネさん? これ、このまま王都に持って行っても使えないよ? 両替してもらわないと」


「いやいや、あの、ちょっと待ってくださいよ。この町って、国に属しているんですよね? なのに貨幣が違うんですか?」


「はは、仕方ないんだよ。その辺も色々と事情があってな。そもそも、王都で使っている貨幣と同じものを使ってやり取りをするとだな、この町の場合、えらく馬鹿馬鹿しい額になるんだ。素材ひとつひとつの単価がおかしいってのもあるんだが」


「うん、エドガーさんの言う通りだよ。逆に、この町の場合、生産量が安定している分、王都よりも安く手に入るものも多いからね。例えば、コロネさんだったら、食品関係とかもそうかな? 野菜とか、肉とか、魚とか、乳製品に至るまで、だね。その高いものと安いものの差が激し過ぎて、調整ができないというか。その辺は、商業ギルドとかでも、頭を悩ませている問題かな?」


 えーと、要するに、この町がおかしい、ってことだよね?

 というか、王都側も、そういうことを認めざるを得ない状況というか、だから、この町の独立性を認めて、切り離している、ってのが現状らしい。

 一緒くたにしてしまうと、他の地方の生産者を圧迫してしまうというか。

 うわ。

 何だかややこしい話になってきたような。


「で、それを両替とかで、バランスを取っているのが、ロンの商隊と、ラファエル卿の領地だな。そういう風に段階を踏むことで、帳尻を合わせて、本来の価値基準に影響を与えないように、苦慮しているんだよ」


 まあ、その辺は、深く考えるな、とエドガーさんが苦笑する。

 そっちは、商業ギルドが頑張る話だから、と。

 確かに、さっきのエドガーさんの工房の倉庫にも、ちょっと値打ちもの? って感じの素材が山のようになってたものね。

 というか、ララアさんの蜘蛛糸とかは、普通は手に入らない代物らしいし。

 うん。

 何だか、頭が痛くなって来たよ。


「うん、また、話が逸れちゃったけど、そんなわけで、この町の場合、適正価格ってのの算出がものすごく難しいんだよ。ある程度は、それぞれの組合とかで、相談して基準を決めてはいるけど、結局、物々交換とか、お互いの阿吽の呼吸で交換条件を決めたりもするし。その辺は、助け合いって意味もあるしね」


 だから、高価なものに関しては、純粋に、お金だけでやり取りしないって。

 あー、なるほど。

 ウルルさんとかの制服に関してもそんな感じだったものね。

 

「そういうわけだから、一応、コロネさんにもわかりやすいように、見積もりを立ててはみたけど、これに関しても、ジーナからのお願いを聞いてくれれば、もうちょっと安くできるよ。オサムさんからも聞いてるけど、たぶん、今のコロネさんじゃ、この金額は普通には払えないでしょ?」


「ええ、ちょっと、すぐには難しいですね」


 とてもじゃないけど、すぐには用意できない金額だよ。

 さっき言ってた、職人組合からの補助をもらっても、それでも、だ。

 だからこそ、ジーナさんのお願いに関しては、興味があるよ。


「それで、そのお願いって何ですか?」


「うん。ジーナのお願い、それはね。コロネさんの得意なこと。つまり、お菓子の作り方を教えて欲しいんだ」


「えっ、お菓子ですか?」


 あ、それなら、何とかなりそうかな?

 そうコロネが思っていると。


「ただし、普通のお菓子じゃなくってね。その……旦那さまみたいな、鉱物種でも、そのまま食べられるお菓子。もし、そういうものがあるのなら、その作り方を教えて欲しいんだよ」


「鉱物種の、ですか」


 ゴーレムさんたちでも食べられるお菓子、か。

 ジーナさんの真剣そうな表情を見ながら。

 色々と考えを巡らすコロネなのだった。

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