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ちょこっと! ~異世界パティシエ交流記~  作者: 笹桔梗
第6章 町の外への挑戦編
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第400話 コロネ、ドワーフにミキサーを見てもらう

「それじゃ、ちゃっちゃと行くからねー」


 そう言って、持ってきた大きめの黒い石のようなものをテーブルの上に載せるジーナさん。

 石の大きさはジーナさんの顔よりも大きくて、たぶん、コロネが両手で抱えるのがやっとの大きさくらいだね。

 色は漆黒というか、カラスの濡れ羽色という感じだろうか。

 黒一色の中に、艶々とした光沢があるのだ。

 きれいな石炭? ブラックオパール?

 ここまで黒くてきれいな石って、あまりお目にかかったことがないねえ。

 当然のことながら、普通の石ではなさそうだ。

 大きさを考えると、なかなか高価そうなものにも見えるし。


「ジーナさん、その石は何ですか?」


「これ? もしかして、コロネさんはお初なのかな? ふっふっふ、これはね、魔道具とかの機構なんかのチェック用秘密兵器だよ。いわゆる、大型の魔晶石だね」


「あっ、これが魔晶石なんですね」


 おー、それはすごい。

 というか、話には聞いていたけど、実物を見るのはこれが初めてかな。

 宝石とまでは行かないけど、石というには気品ある輝きをたたえているというか。

 なるほどね。

 これが、魔晶系アイテムの一種の、魔晶石なんだ。

 こっちの世界の電池みたいなものだよね。

 この石があれば、魔道具を動かすことができるって話だし。


「まあね、このくらいの大きさになると、ちょっと入手が難しいからね。ドワーフの工房とかなら普通に置いてあったりするけど」


『そうだね。魔晶石自体も、普通の場所だと、貴重品になるかな。何せ、これ、はぐれモンスターのゴーレム系統の核だから』


「えっ!? ゴーレムの核なんですか!?」


 いや、びっくりだよ。

 というか、教えてくれたグレーンさんも、鉱物種のミスリルゴーレムだし。

 えーと、ということはもしかして、グレーンさんも身体の中に核があるのかな?


「一応はね。でも、コロネさん。旦那さまを狙っちゃダメだよ? そういうことをしたら怒っちゃうんだから」


『んー、まあ、僕の身体の大きさだと、あんまり大したことないしねえ。それにね、僕の場合、生かしておいてもらった方が、その分、ミスリルを生成できるから、そっちの方がお得だよね』


「おいおい、お前ら。あんまり、冗談みたいなことを言うなよ。コロネがびっくりするだろ? …………まあ、そんなことはしないだろうが、コロネも魔晶石狙いで、鉱物種に目を付けるんじゃないぞ。それやったら、即座に町から追放処分になるからな」


「いや、そんなことしませんよ、エドガーさん!」


 エドガーさんから、警告、って感じらしい。

 いや、あの、別に聞いてみただけなんですけど。

 せっかく仲良くなった人を、物欲でどうこうするような風に見えますか?

 さすがに、ちょっとショックなんだけど。


「はは、もちろん、そんなつもりはないがな。そもそも、利己的な理由で、他の住人に危害を加えたら、その時点で御用だ。だから、まあ、気を付けろって話だ」


「処罰」


「うんうん、でも、町から追放処分なら、まだかわいい方だよねー。というわけで、コロネさん、変な気は起こさないようにね? このくらいの冗談を言ってるうちは大丈夫だけど」


「もちろんですって!」


「うん、大丈夫、その辺は信じてるから。では、それはそれとして、作業の方に戻るね。何で、この大きな石を持ってきたかって言うと、ほら、こっちの方に管が伸びてるでしょ?」


「あ、ほんとですね」


 きれいに、コロネの話を流した後で、ジーナさんが、魔晶石の、とある一点から伸びている管のようなものを見せてくれた。

 というか、この管って……。


「あの、ジーナさん、この穴と言いますか、差込口って、もしかして」


「うん、まあ、見ての通り、いわゆる、コンセントの差し込み口って感じかな。ほら、まあるくなっているところに、色々な穴がいっぱい開いてるでしょ?」


 ジーナさんが見せてくれたのは、管の先端部分だ。

 野球のボールより少し大きいくらいの球体。

 そこの至る所に、色々な大きさのプラグの差込口のような穴が開いていた。

 その穴に、コロネが持ってきたミキサーの電源を差し込もうとして、いくつかの穴を色々試していくジーナさん。


「オサムさんが言ってたけど、コロネさんたちのところの魔道具って、雷属性で動いてたんだよね? そして、そのための管にはそれぞれ規格があるって。なので、今までにこの辺りで見つかった感じの穴については、この『ボール』で調整してるのね」


 おかげで、大分大きくなってきちゃった、とジーナさんが笑う。

 つまり、その『ボール』というか、魔晶石から管でつながっているものが、変換器みたいな役割をしているんだね?

 魔晶石から、魔素を引き出して、それを変換して、電化製品を動かすって感じらしい。

 なるほどね。

 というか、魔素って、ほんと、何でもありなんだね。

 細かい理屈はわからないけど、雷属性として、活用すれば、ミキサーも動かせるって、寸法らしい。


「ということは、塔とかの魔道具って、雷の力で動いているんですか?」


「えーとね、そういうわけでもないよ? 雷属性のままだと効率が悪いから、そのまま、魔素の循環によって、道具として機能するように改造するの。その辺の機構を変換しているのが、いわゆる魔道具技師のお仕事だね。今、ジーナがやってるのも、あくまでも、チェックってだけだから。雷属性って、微調節とかも難しいし、一定の放電を維持するのが大変なんだよ。だから、魔晶石の消耗も激しいし」


『魔晶石自体がれっきとした資源だしね。どうしても、大型のはぐれゴーレムを犠牲にしている以上は、無駄な使い方はできないってわけ。この町だと、精霊金属と併用で、長持ちさせることもできるけど、そっちはそっちで、精霊種の協力なくしては得られないから、なるべくなら、無駄遣いは避けたいところだね』


 あ、そうなんだ。

 今、ジーナさんがやろうとしているのも、このミキサーがきちんと動くかどうかのチェックだけってことか。

 もし、問題なく機能するなら、そのまま、機構を生かして、弱ったり、へたったりしている部品を交換しつつ、一部の内部構造そのものを魔晶石に対応した作りへと作り変えてしまうのだそうだ。

 その際、どこまでがジーナさんたちの工房でできるか、どこまでを外部に発注する必要があるか、その確認をした上で、予算を組んだり、見積もりを出したりする、と。

 あ、そっかそっか。


「アイテムに関する相談とチェックまでは、サービスね。でも、そこから先、例えば、ほらここ、器の外側にひびが入っているよね? これは補修するか、新しく、ガラスを使って、器自体を作り直すかした方がいいから、まず、修復に関して費用がかかるよね」


「そうですね」


 ミキサーのガラス部分が壊れているものね。

 このままだと、そこから中身がもれちゃうし。

 というか、ジーナさん、すごいなあ。

 さっき、ミキサーを渡した後で、用途について、簡単に説明しただけなのに、見ただけで大体の問題点がわかっちゃんだ?

 その辺は、ドワーフが、技巧種族って言われるゆえんらしいけど。


「うん、ドワーフの場合、種族スキルが『金属加工』だからねえ。触れていると、そのアイテムの声が聞こえるって言ったら大げさだけど、そのアイテムを構成している金属の呼吸かな? そういうのが何となくつかめるのね。だから、『あ、なんか、ここ、ちょっとおかしいな』ってのもわかるし。たまに、長く使われてきた道具の場合は、道具の精が宿ったりしてるから、その声を聞いたりとか、ね」


「アイテムの声、ですか?」


「そうだよ。金属だって、生きているんだよ? まあ、ドワーフ以外の種族にとっては、比喩的な意味にしかとれないかもしれないけどね。だからこそ、かな。ドワーフにとっては、道具の声を、金属の声を、そこにあるものの声を聴いて、それに耳を傾けるってのが、とっても大事なことなのね」


『ドワーフだけじゃなくて、鉱物種もね。僕らの場合は、道具に関しては、そこまではっきりしたことはわからないけど、鉱物本来の形とか、素材そのままなら、そういうことを感じ取ったりもできるんだ。ただ、どうしても、自分の身体に近いものに限定されちゃうんだけど』


 へえ、何だか、とても大切な話を聞いたような気がするよ。

 それこそが、ドワーフが職人の中でも群を抜いている理由なのかも知れないね。

 横で、エドガーさんも、うんうん、と頷いているし。


「ね? エドガーさんも何となくわかるでしょ? ジーナたちの言ってること」


「まあな。俺は普通の人間種だが、それでも、真剣にひとつの素材を相対していると、何となく、感じることがあるからな。たぶん、俺だけじゃなく、職人として、研鑽を積んでいる者だったら、そういう経験が確かにあるはずだぞ。はは、まあ、確かに、ドワーフの種族スキルってのには憧れもするがな」


「羨望」


「ふふ、エドガーさん。そういうのは無いものねだりって言うんだよ? ジーナたちだって、ここの職人街を見れば、他の職人さんの能力が羨ましくなることがあるもの。でもね、今、自分に何ができるか、が大事だから」


「まあな、それはわかってるんだが。俺もまだまだ修行が足りないってな」


『あー、コロネさん。今、ジーナが言ってるのって、ジーナのお師匠様の言葉だからね。足元を疎かにして、高みを目指すのをよしとしない人だったから』


 だから、今のジーナが言ってるも、まさに彼女自身が散々言われ続けたことらしい。

 そう、グレーンさんがこっそりと教えてくれて。


「むー、ダメだよ、旦那さま。せっかく、ジーナがかっこよく締めたのに、台無しだよ。たまには、ジーナも誇らしくしてたいんだよ?」


『ふふ、ごめんね。でも、やっぱり、おやっさん相手にもそういう態度をとっちゃだめだと思うんだ、僕は』


「……あー、それもそうだね。うん、ちょっと反省。まあ、それはそれとして、コロネさんと話していた続きね。内部でも、ちょっと危なそうな部品があるから、そっちも取り替えて……、その後で、魔道具加工かな。うん、それじゃあ、ちょっと動かしてみようかな」


 スイッチオン、とジーナさんがミキサーのスイッチを入れて。

 その途端に、勢いよく、中のちょっと錆びた刃の部分が回転する。

 あ、動いた動いた。

 すごい、ちゃんとミキサーとして動いてるねえ。


「コロネさん、こんな感じで、大丈夫なの?」


「はい。そうですね、見た感じは問題なさそうですね」


「そう? それは良かったよ。それじゃあ、ここからはちょっと真面目な話ね。報酬についてのお話をしようかな」


 修復と改造に関してのめどは立った、とジーナさん。

 あ、そっか。お金に関する話か。

 ミキサーを直すとなると、どのくらいかかるのかな?

 自分が払える額なのか、内心ドキドキのコロネなのだった。

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