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ちょこっと! ~異世界パティシエ交流記~  作者: 笹桔梗
第6章 町の外への挑戦編
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第396話 コロネ、集会場でごはんを食べる

「おかわりちょーだーい!」


「はい、お待ち! 今、焼けた肉の方は切り分けてるから、そっちが食べたいやつは、向こうに並んでくれ」


「今日の工事はちと大掛かりになりそうだからな。しっかり食っておかないとな」


「ファム母さん、寸胴一個分、分けてもらいましたよー。これで、地下に潜ったままでも大丈夫です」


「待った、待った、待った。くず魔晶をもうちょっと持って行った方がいいんじゃね? グレーンのとこからもらって来るから、もう少し時間をくれよ」


「はい! 肉煮込みのおかわり!」


「あー、こっちのテーブル、漬け物きれたー」


「あら? お昼はお魚なのかしら?」


「はい。人魚の村から、地魚の干物がいっぱいですー。代わりに、例の物を流しておきましたよー」


「おっ! 干物か! なかなか美味そうじゃないか。焼いたら、酒の肴だな」


「仕事前から、酒の話してんじゃないよ! ……飲みたくなるじゃないのさ!」


「あっ、エドガーさーん。ちょと、在庫の方がなくなりそうですのね。いつもの端切れをまたもらって行ってもいいですの?」


「ああ、大丈夫だ。後で、お前らの工房に届けておくよ。その代わりと言っちゃあなんだが、今、飯を食わせてもらってもいいか? ちょうど、コロネとショコラを案内してる途中なんだが、せっかくだから、ここの雰囲気も味わってもらおうと思ってな」


「朝飯」


 今、コロネたちがエドガーさんに連れられてやってきたのは、職人街の食事などを担ったりしている場所なのだそうだ。

 職人街の集会場。

 ちょっとした公民館みたいな建物だね。

 中に入るとけっこうな広さがあって、にもかかわらず、料理をする人、テーブルでごはんを食べる人、何やら色々と荷物を持ち込んだりしている人など様々だ。

 まだ、時間的には七時くらいのはずだけど、けっこうな人でごった返しているというか、ごはんを食べながら、今日の予定とかのやり取りとかもしているらしく、それぞれの職人さんとか、あんまり職人さんっぽくはなくて、ちょっと荒くれ者って感じの雰囲気の人たちとかも多いんだけど。

 後は、料理をしている小人さんとか、包丁を持って、野菜とか、お肉を切ったりしているお人形さんとか。

 それぞれが、井戸端会議じゃないけど、色々と話をしているというか。

 ちょっと混沌とした雰囲気だけど、賑やかな市場とかそんな感じにも受け取れるかな。


 うん。

 こういう雰囲気って嫌いじゃないよ。

 熱気というか、活気が伝わってきて、こっちまで元気になっちゃう感じだし。

 とか、そんなことを思っていると。


「はいはい、ごはんね、ごはん」


「そうかね、あんたが噂になってる料理人さんかい」


「あたしゃ、オサムのとこで、お菓子を頂いたよ。うん、フレンチトーストってやつは美味かったねえ。あはは、まあ、ここのごはんは、ちょっとそういうのとは違うけど、これはこれで、職人街の味ってやつだから、食べて行ってよ」


「あたしは初めてじゃないけどね。コロネ、新しい小麦の件はどうなってるの? 少しは進展がありそうかい?」


「えっ!? あ、はい、ありがとうございます。うわ、美味しそうですね。って、ええと、ちょっと待ってください、ファムさん。そっちは、明日にもテストを受けに行く予定ですね。それ次第では、という感じですよ」


 いや、あの、いっぺんに声をかけられたりすると、何が何やらって感じなんだけど。

 自己紹介も素っ飛ばしてるから、誰が誰やらってなっちゃうよ。

 ファムさんは、前に会ったことがあるから何とか大丈夫だけど、さすがに、ここにいるうちの何人かは、お店で見かけた人もいるけど、名前とかは聞いてないし。


 ともあれ。

 コロネの分の朝ごはんを、お盆と一緒に渡してくれた。

 というか、渡してくれた、今も肉の煮込み料理の入ったお鍋をかき混ぜている女の人やら、その横で、ごはん、いや、お米というよりも、麦ごはんかな? それをどんどんよそっているきれいな女性とか、その横でちょこんと座っている、ドレスの上からエプロンをつけているお人形さんとか。

 その他にも、エドガーさんが、コロネとショコラのことをサラッと紹介してくれた後からの、周囲の視線がすごいというか。

 うん。

 朝ごはんを一緒に食べない? ってことだったから、普通の食堂みたいなところをイメージしていたんだけど、ちょっと違ったみたいだね。

 ちょっとした炊き出しとか、そういう感じかな。

 立ったまま食べている人もいれば、あっという間に食べ終わって、去っていく人もいて、それぞれが好き勝手に、この集会場を利用しているというか。


「おいおい、後で、個別で工房を巡ったりするから、そういうのは後にしろ。さすがに、これだけごちゃごちゃしてるところで、ひとりひとり挨拶するような感じじゃないしな。客人にも飯を食わせろってな」


「了解了解。まあ、ちょっと農家連としては、確認しておきたかっただけだしね。すまなかったね、エドガー。あと、コロネとショコラもね」


「いえ、ファムさん。わたしは大丈夫ですけど、それよりも、ファムさんって、農家連の方ですよね? 朝はこちらでごはんを食べているんですか?」


 その辺はちょっと気になったので聞いてみた。

 職人街のごはん処で、農家連の人たちもごはんを食べてるの?


「うん、そうだよ。ここ、一応、場所的には職人街だけどね。農家連や果樹園とかからも朝ごはんを食べに来たりもしてるんだよ。もちろん、作る方もね。今日の食材持ち込みは、あたしたちだからね」


 当然、朝食作りもそう、とファムさんが笑う。

 あ、そうなんだ?

 ファムさんによると、場所的に、農家連と職人街と果樹園が隣あってるから、それで支え合いで、ここで料理を作っている、ってのが理由のひとつなのだそうだ。

 ここの集会場では、お金ではなくて、食材の持ち込みとか、その他必要な物資を持ってくることで、それで、みんなが自由にごはんを食べられる。そういうシステムになっているんだって。

 ここでのポイントは、ここが職人街だってこと。

 農家連と果樹園の食材。

 それらを持ち込んで、料理するのは職人街の奥さんたちで、その食材の代わりとして、職人街の方からも、素材とか、加工品とか、それぞれの工房で作っているものを融通してくれたりとか、発注のスケジュールとかを調整してくれたりとか。

 要するに、お互いのメリットがある物々交換みたいな感じになっているんだって。

 聞けば、なるほどって感じがするかな。

 後は、ここが社交場みたいに機能することで、お仕事のやり取りとかもスムーズに行くのだとか。

 ファムさんが仕切っている『ファム組』はこの町でも、土木関係や建設関係を担っているので、工事とかそういう部分での仕事依頼とかも、ここだとしやすいので、それで、毎朝ごはんを食べに来たり、たまに、今日みたいに、ファムさんたちも調理に加わったりもしているとのこと。


 食材とかは、塔とか、冒険者ギルドとかに持ち込んで、買い取ってもらうのが選択肢のひとつではあるんだけど、その他にも、青空市で売ったり、この職人街の集会場へと渡すってのも、選択肢になっているってところかな。

 お金に替えるか、美味しい料理にしてもらうか、職人街とつなぎを取るか。

 色々とやり方はあるってことか。

 なるほどね、勉強になるよ。

 

 今、コロネが頂いた朝食もファムさんたちが作ったのだそうだ。

 麦ごはんと汁多めの肉煮込み、それと、根菜類の漬け物だ。

 あれ、ここで作ってるのって、王都とかの下町料理だよね?

 麦ごはんとかも、よく食べられていたの?

 それに関しては、ちょっと意外というか、てっきり、小麦とかを使った、なんちゃってなパンとかが主食だと思っていたんだけど。


「まあね、オサムのとこで、米の飯を食っちまうと、コロネとかは、麦ごはんは少し違うって思うかもしれないけどさ。あたしらにとっては、やっぱり、こっちの臭みのある肉煮込み汁を麦ごはんにかけて食べるってのが、何とも言えないのさ。何と言っても、食べ慣れてる味だからね。うちの連中も今もいっぱい来てるけどさ、力仕事やるのに、がっつり食べられるこの組み合わせは、お上品な料理では出せない味なんだよ」


「そうそう!」

「宮廷料理なんて、気取ったもんで腹が膨れるかよ!」

「いや、あれはあれで美味いけどな!」

「そうそう!」

「スラムじゃ、一日一度食える、この飯がごちそうだったんだぜ!」

「ぜいたくは敵!」

「そう考えると、一日三食食えるようになったのって、本当にありがたいよな」

「開拓団に入って良かったよ」

「まったくだ、まったくだ」

「言ってたら、腹が減って来たぞ……おかわり!」


 うわ、周りにいた荒っぽそうな人たちが、次々と、そうだそうだ、って感じでファムさんに同調して。

 この人たちが、ファムさんのところで働いている人たちかな?

 大工さんというか、土木作業のプロというか。

 うん、男女様々な人がいるし、種族も見た感じだと、人間種だけじゃなさそうだけど、共通しているのは、みんながみんなガッチリとした身体つきってことだよ。

 ファムさんも小柄だけど、腕とか見ると引き締まった感じだしね。


「はは、まあ、こんな感じだな、コロネ。麦を炊いた飯ってのは、あんまり美味くないんだよ。だから、品質の良くない麦飯は安く出回っていたんだがな。で、美味くない美味くない言ってても、小麦が山ほど作れるわけじゃないしな。色々、あちこちで工夫された結果、そこそこ、食える味にたどりついたというかな。そういう経緯があるから、ここで作ってる麦飯はなかなかだぞ」


「汁も」


 まあ、せっかくだから食ってみろ、とエドガーさんが笑う。

 というか、もうすでに、横のテーブルでは、いつの間にか用意されたごはんをショコラが幸せそうに食べているし。

 というわけで、コロネも早速、肉煮込みを口へと運ぶ。

 見た目は、じっくりと煮込まれた感じだよ。

 骨付きの肉とかもゴロゴロしているところを見ると、部位とか関係なく、色々なお肉を煮込んだって感じかな。

 確かに、匂いは少しきついというか、獣臭いけど、そこまで嫌悪感がするような匂いじゃないよね。

 調味料も、味噌とか醤油は使っていないって話だから、味の方はどうだろうか。

 そこまで考えて、口にすると。


「うん、うん? えっ!? あっ……美味しい! これって、野菜……と漬け物?」


 しっかりと煮込まれて、少しとろりとしたお肉、それに、ちゃんとした塩味も酸味も、少しの辛みも含まれているのだ。うわ、でも、少し味が濃いかな。

 臭み自体は、肉の処理の問題もあるだろうけど、全体としては、やや強めの味付けで、肉汁などとのおかげで、まとまりのある味になっているのだ。

 そして、感じたのは野菜の味も、だ。

 もしかして、ダシの中に野菜も使っているのかな?


「そうよ。いわゆる、王都のスラムでおなじみのくず野菜ね。この味を再現するために、あえて、そういうのに近い野菜の部位を使って、煮込んで煮込んで煮込んで、ね。それに発酵させたアッピアを混ぜて、適当な大きさに切った、これまた、用意できる肉を適当に入れて、更にしっかりと煮込む。実は、それだけの料理だから」


 発酵させたアッピアの実、か。

 たぶん、それが調味料となっているんだね。

 塩と、野菜のダシだけでは、ちょっと何かが足りなくなりそうだけど、これだと、ひとつの料理として、できあがっているもの。

 たぶん、この匂いも、あえて必要なんだろうね。

 向こうでも、北海道の人とかは、ジンギスカンの羊肉のあの臭みが全くなくなってしまうと、ちょっと寂しいって、話も聞いたことがあるし。

 臭くて美味いっていうのも、確かに感覚としては存在するんだよね。

 うん。

 確かにこれは癖になる味かも。

 臭いんだけど、また食べたくなる感じだし。

 

 そんなこんなで、用意された朝食を食べるコロネたちなのだった。

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