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ちょこっと! ~異世界パティシエ交流記~  作者: 笹桔梗
第6章 町の外への挑戦編
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第395話 コロネ、加工した革を見る

「おっ、戻って来たんだな。ちょうど、こっちも何とか形になったんだな」


「うわあ、これがさっきの素材を加工した革ですか? すごく綺麗ですね」


 ロジェさんの帽子工房から、再び三階の方へと戻ってみると、モスさんが大きめの革素材を持って立っていた。

 いや、さっきは、本体のまま、丸飲みしていたから、あんまり大きめには見えなかったんだけど、人型のモスさんが手にしている革素材を見ると、実は、元の素材自体がかなり大きかったんだなあ、って思う。

 両手では抱えきれないほどの大きさの反物って感じの革だもの。

 しかも、加工されて革になったそれは美しいし。

 前のは、やっぱり、暴れ牛のそのままの皮って感じだったけど、今、モスさんが持っている革は、表面が美しくて、光沢があるのだ。

 つやつやと輝いている、というか。


「これで、今、エドガーさんが着ているようなジャケットとかも作れるんですか?」


「いや、これは、サドルとかの適した革だな。騎乗のためのくらって言ったらわかりやすいか? 後は、なんと言っても、モスのところで作っているかばんだろ」


「なんだな。丈夫で肉厚なんだな。これを使えば、座り心地のいい鞍が作れるんだな。うん、確か、コロネのいた世界ならブライドルレザーとか呼ばれているものを、ぼく流にアレンジして作った革なんだな」


「えっ!? そうなんですか!?」


 へえ、これが馬の鞍とかに使われていた革素材なんだ。

 というか、ブライドルレザーって。

 

「あの、モスさん、もしかしてわたしがいたところのことを知ってるんですか?」


「そうなんだな。この辺りだと、比較的近しい場所にある異界なんだな。もちろん、ぼくらでも、行き来はできないけれど、何かのきっかけがあれば、覗いたりもできるんだな」


 さらりと何事もなかったかのように、そう頷くモスさん。


 いやいやいや、これって、コロネにとっては、かなりの一大事なんだけど。

 え? え? 向こうの世界って、そんなにあっさりと覗けるものなの?

 いや、モスさんが幻獣種だってことは知ってたけど、それに、前にサニュエルさんが『何番目の世界』とかどうとか言ってはいたけどさ。

 さすがにちょっと聞き捨てならないよ?

 念のため、詳しいことを聞こうと思ったんだけど。


「ごめんなんだな。詳しいことは『認知』されていない者には話せないんだな。今のはあくまでも世間話程度のことなんだな」


 そう言って、申し訳なさそうに、謝られてしまった。

 とりあえず、ざっくりとした感じで教えてくれたのは、普段は幻獣種と言えども、他の世界を見たりはできないのだそうだ。

 たまに、偶然というか、そういうことが可能になる条件が整うことがあって、その時に、幻獣さんたちが色々とやったりやらなかったりしているのだとか。

 それ以外のことは教えられない、と。

 どうしてもと言うのなら、『幻獣島』の奥まで来てほしいって。


「へえ、そうなのか。そういえば、コロネもその『遠いところ』から来たんだものな」


「あれ? エドガーさんはどこまで知ってるんですか?」


「いや、まあ、たまに断片みたいなことは、今みたいに世間話の感じで耳にしてはいたんだが、正直、俺としては、世界ってのがよくわからんのよ。『精霊の森』みたいに結界で遮られているものが世界ってことでいいのか? だったら、何となくわかるんだが」


「遠い」


「はっきりしてるのは、コロネみたいな『迷い人』は、『遠いところ』から飛ばされてきたってことくらいだな。まあ、俺にとっては、隣の大陸から来てるやつらも、遠いところのやつなんだがな。要するに、コロネはここの大陸とは大分離れた大陸に住んでたってことなんじゃないのか? たまに、近くなるってのは、『空間変動』の一種だろ?」


 そんな感じの認識だな、とエドガーさんが苦笑する。

 まあ、確かに、コロネとしても、世界って何、って聞かれると困っちゃうかな。

 というか、だ。

 たぶん、世界って、宇宙全体とかそういう感じなんだろうけど、でも、コロネにとっては、自分の身の回りの世界として実感できるのって、地球の周り、までだと思うんだ。

 その他の何億光年も離れているところにある惑星に、自分たちとは違う存在が文明を作っていたとして、そこも同じ世界です、って言われてもピンと来ないしね。

 もし仮に、その星に飛ばされたら、それだけでも十分、違う世界にやってきたってことになるだろうし。

 結局のところ、規模が大きくなりすぎると、ちっぽけな人間ひとりだと、よくわからないって結論になるわけで。

 そういう意味では、エドガーさんが言っているのがもっともな気がするよ。


 というか。

 案外、ここって、そういう場所なのかもね。

 地球と似たような違う星、とか。

 あ、でも、どんどんと大きく育っているんだっけ? この世界って。

 となると、やっぱり、ちょっと違うのかも知れないけど。


「うん、そのくらいでいいんだな。ぼくも詳しくはわからないんだな。とりあえず、地続き、空続きでは行けないって思っていればいいんだな」


「はあ、わかりました」


 まあ、とりあえず、はっきりしてるのは、幻獣種は他の世界も覗いたりできるってことだろうか。

 そして、この辺りだったら、コロネがいた世界と近しい、と。

 だから、比較的、どこか似通っているのかな?

 食材とかに関してもそうだし、生き物とかもまったく、未知との遭遇って意味でのものは少ない感じだしね。

 名前とかの由来についてもそうだ。

 一部は、自動翻訳されているんだろうけど、それでも、たまに、うん? って首を傾げたくなるようなものはあるものね。

 まあ、そうでもなかったら、コロネとか、あとはオサムさんとか他の迷い人が簡単に適応できるはずがないしね。

 いきなり、サニュエルさんの異界とかに飛ばされたら、たぶん、本当に訳が分からなくなってたはずだよ。

 そういう意味では助かったと言えるかな。


 さておき。


「騎乗用の鞍って、この町でも割と使ったりするんですか?」


「ああ、けっこうというか、かなりの需要があるぞ。まず、ロンのところの商隊が、マッドラビットを乗り回してるだろ? それ用の鞍とかの注文もひっきりなしだし、コロネも果樹園で乗せてもらったんじゃないのか?」


「あ! そうですよね。カールくんにも鞍がありましたものね」


 そうだそうだ。

 一号さんに乗った時は、確かに鞍に座らせてもらったものね。

 そう考えると、騎乗用の存在って、けっこう多いのか。

 馬自体は少ないみたいだけど。


「マギーのところでも、サウスに騎乗する時は鞍がいるしな。何かに乗せてもらう時は、そのままだとかなり危ないからな。そういう意味で、鞍の需要は高いってことさ」


「ぷるるーん! ぷるるっ!」


「あれ? ショコラも鞍に興味があるの?」


「ぷるるっ!」


 何かを思い出したように、ショコラがぷるぷると頷いて。

 しきりに背中の方をコロネへと向けてくるのだ。

 えーと……?

 あれ、もしかして?


「ショコラ、乗せてくれるって言ってるの?」


「ぷるるーん!」


「いや、前に言ってたあれは、ちょっとした冗談だってば。さすがにもう少しショコラが大きくならないと、潰れちゃうでしょ?」


 何だか、すごくやる気満々なんだけど。

 どうやら、いつも、コロネが頭の上に乗せて運んでたお礼に、ショコラも乗せてくれるって話みたいだけど。

 さすがに、今のショコラには乗れないよねえ。

 え? それで鞍が欲しいって言ってるの?


「はは、さすがに今のショコラの大きさだと厳しいだろうがな。だが、確か、『魔王領』のスライムだったら、騎乗できるタイプの大型のやつらもいたはずだぞ? そっち関係での注文も、前に受けたことがあるからな」


「あっ、そうなんですか?」


「なんだな。と言っても、今の姿のぼくくらいの大きさはある粘性種なんだな。なかなか、足の速いスライムもいるんだな」


「ぷるるっ!」


 へえ、そうなんだ。

 実際、ショコラも例の移動手段というか、ハイジャンプがあるからね。

 もうちょっと大きく成長したら、そういうのもありかもしれない。

 もっとも、今のショコラに騎乗するつもりはないけどね。


「まあ、そういうことなら、もっといっぱい食べて、大きくならないとね」


「ぷるるーん! ぷるっ!」


 頑張る! って感じで、ショコラがぴょんぴょんと飛び跳ねる。

 今までもたくさん食べてはいたけどね。

 たまごから生まれた頃よりは、ちょっとだけ大きくなってるし。

 というか、あんまり、大きくなりすぎると、そのうち、コロネの頭に載せられなくなっちゃんだよね。

 それはそれで、ちょっと寂しい気もするし。

 まだ、慌てて、大きくならなくてもいいかなあ、なんて。


「はは、だったら、いつになるかは分からないが、その時が来たら、うちの方でも騎乗用の鞍を作ってやるよ。粘性種に対応したものは前に作ったことがあるしな」


「なんだな。ぼくも手伝うんだな。ちなみに、素材持ち込みなら、ちょっと安くなるんだな」


「まあな。なんだかんだ言っても、素材の費用込みだと、馬鹿にならないからな。コロネも冒険者を目指すなら、素材くらいは自分で採ってこないとな」


「はい、わかりました」


 あれ?

 今、勢いで返事はしたんだけどさ。

 コロネは立派なパティシエというか、料理人は目指しているけど、別に、そこまで冒険者を目指しているってわけじゃないんだけどね。

 あー、でも、こっちだと強くないと生きていけないのか。

 新しい食材のためにも、立派な冒険者にならないといけないのかな?

 今も地道に訓練はしてるけど、先が長そうだよ。


「アイテム袋の袋素材とかも、加工が必要ですものね」


「ああ。その時は、モスに頼むといいさ。コロネも自分用のアイテム袋のひとつでも、持っていた方がいいだろうしな」


「鞄関係は任せるんだな」


「はい。その時は、よろしくお願いしますね」


 そうだね。

 袋素材だけだと、まだまだアイテム袋には届かないけど、目標としては定めておいた方がいいよね。

 袋素材、魔晶系アイテム、そして、精霊金属かそれに類するもの。

 やっぱり、アイテム袋があったほうが便利だものね。

 そう、決意を新たにするコロネなのだった。

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