第394話 コロネ、召喚獣の帽子を頼む
「でも、形は良いとして、ショコラって、ぴたっと帽子をかぶることができるんですか?」
テーブルの上で、ショコラが真剣にどれがいいかな、って選んでいる横で、ロジェさんたちに聞いてみた。
あごひもみたいなものを使ったとしても、ショコラって、ぷるぷると形が変わってしまうので、ひもをすり抜けて、すぽんって外れちゃう気がするんだけど。
「ええ。そのために、粘性種に対応した、同じような素材で固定具を作るの。キヌアちゃん、ちょっと、例のスライム用のひもを持ってきて」
「はい、少々お待ちください」
「あ、スライム用のひもがあるんですか?」
「そうよ。粘性種の装備してもらうためのね……あっ、キヌアちゃん、ありがと。このひもを食べると、粘性種が自分の身体から、ひもを伸ばせるようになるの。スライムに対応した装備アイテムの一種ね」
そう言って、今、キヌアさんが取ってきてくれたひものようなものを、両手で引っ張ったりするロジェさん。
あ、前にサーカスの時に、ピエロさんからもらったものと質感が似てるね。
ショコラ用の装備アイテム。
今、ロジェさんが持っているのは、透明なゴムひもみたいな感じで、伸びた分だけ、すぐ縮んじゃう感じだけど。
せっかくなので、ちょっと触らせてもらうと。
「うわ、すごいですね、けっこう伸びるんですね、このひも」
それに触り心地も、ショコラの身体ほどではないけど、ぷにぷにとしているし。
なかなか面白い素材だねえ。
「ね? 面白いでしょ?」
「このひもは何でできているんですか?」
「うふふ、内緒。ちょっと作るのは難しいものではあるしね。でも、毒じゃないのよ? 一応、人間種でも食べられるし。おすすめはしないけどね」
「そうだな、世の中にはあんまり知らない方がいいこともあるからな。こういう感じのモンスター素材もあるって思ってた方がいいぞ?」
あれれ?
ロジェさんも、エドガーさんも何となく苦笑しているんけど。
てっきり、これも前にもらったスライム用の装備と同じで、錬金術がらみかと思ったんだけど、モンスターの素材なんだね?
細くて、ぷるぷるしてて、伸び縮みができて、あんまり知らない方がいいもの?
何だろう?
ちょっと気になるような、これ以上、聞かない方がいいような。
「まあまあ、とりあえず、ショコラちゃん、これを付けてみて。食べてもいいわ。そうすれば、中からも伸ばせるようになるし」
「ぷるるーん! ぷるるっ!」
あ、ショコラってば、迷わず食べた。
こういう時の思い切りはいいよね、ショコラって。
今の謎すぎる説明だと、コロネとかはおっかなくて、食べられないけどねえ。
「ぷるるっ?」
「ええ、それで良いわ。それじゃあ、ショコラちゃん、身体から……できれば、頭の上からね。そこから、今のひもを伸ばすことを考えてみてね」
「ぷるるっ!……ぷるぅぅ!」
「あっ、すごい、ショコラ! 頭からひもが生えたよ!?」
へえ、食べてすぐそんなことができるようになるんだね?
ショコラの頭……頭? うん、頭っぽい部分から、茶色い感じの細長いひもが生えてきたのだ。
今、食べたひもは透明だったけど、ショコラがひもを出すと、身体の色とおんなじで、茶色いひもになるんだね。
と、そんなショコラのひもに触れながら、その辺にあった帽子の内側に、その伸びたひもをくっつけるようにするロジェさん。
あー、なるほどね。
これで、ショコラが帽子をかぶれるようになるんだね。
ちょうどいい感じの麦わら帽子が、ぴたっとショコラの頭にはまって。
それに喜んだショコラがぴょんぴょんと飛び跳ねても、ひもが伸び縮みする感じで、帽子が取れそうになっても、すぐに元の状態に戻るし。
でも、何だろう。
ちょっとした、お祭りとかの水風船というか。
何となく、そんなイメージかな。
手と水風船の関係が、帽子とショコラって感じで。
あ、でも、面白いなあ。
ショコラがけっこう激しく動いても、帽子が定位置へと戻るのだ。
というか、これなら、どういう形の帽子でも問題なさそうだよね。
「ええ。だから、最終的にはショコラちゃんの好み次第よね。それに合わせてどうとでも作ることができるし。ただ、私としては、帽子帽子してるタイプのものより、ちょこんとした感じの方が似合ってると思うのね。ショコラちゃん可愛いし」
それプラス飾りか、装飾品が付けられるものがいいって。
ちっちゃな王冠みたいなものとかを指差しながら、ロジェさんが笑う。
あ、そっか。
しっかりとかぶれる形状のものより、ショコラの頭にちょこんと乗ってる感じのプチ帽子の方がいいかも知れないね。
まあ、最終的にはショコラが気に入ったものがいいんだけど。
「ぷるるっ!」
「あっ、ショコラ、これがいいの?」
「ぷるるーん!」
ぴょんと、ショコラが一枚のデザイン画の前に飛び乗った。
ちっちゃいリボンとかで飾りつけされた、でもちょっと小さめなタイプの帽子。
王冠とは少し違うけど、ショコラの大きさに対して、アクセサリー的な感じで、載っているだけの帽子だね。
どっちかと言えば、お姫様系のコスチュームとかに似合いそう、というか。
やっぱり、ショコラって女の子なのかな?
明らかに可愛い系だものね、これって。
「あら、ショコラちゃん、お目が高いわね。このデザインだったら、宝石とかも似合うし、後で追加で加工とかもできるから、おすすめよ」
「あれ? もしかして、ショコラ、さっきからのロジェさんの話を聞いて?」
「ぷるるーん! ぷるるっ!」
あ、やっぱりそうか。
結局、ショコラもどれがいいかって悩んだ結果、周りの人が喜びそうなものを選んだって感じなのか。
うーん、そういう意味ではショコラって、きちんと話を聞いているというか。
たまごから孵ってすぐよりも、しっかりと言葉がわかるようになってきたというか。
大分、意思疎通がしやすくなってる気がするよ。
「いいの? ショコラ、別にわたしたちに気を遣わなくてもいいんだよ?」
「ぷるるっ!」
これがいいっ! って感じで、不思議な踊りを踊るショコラ。
うん、まあ、それでいいなら、問題ないかな。
「ロジェさん、これが良いみたいですね」
「わかったわ。これなら、作業的にはそんなにはかからないから、一日二日待ってくれたら何とかなるわね。ふふ、ちなみに、何か他に希望はある? なければ、私の方で、適当な機能を組み込むから」
うーん、機能かあ、そう言われても困っちゃうかな。
そもそも、この帽子もショコラが制服を羨ましがったから、作ろうって話になったわけだしね。
「別に、そういう機能はなくてもいいですよ?」
「いいえ、そういうわけには行かないわ。ここで作った物である以上は、何かしらの付加価値がないとダメなの。ええ、普通の帽子なんて、つまらないじゃない」
そこは絶対に譲れない、とロジェさんが笑顔ながらも真剣な雰囲気で詰め寄って。
「絶対に、ショコラちゃんならではの面白い使い方をしてくれるはずだもの。うふふ、そういうのが私の本懐よ。特に希望がないのなら、私に任せてもらうわよ」
「はは、コロネ、諦めろ。どうせ、希望を言っても、似たようなことになるしな。『魔法の帽子』を作ってもらえるだけ、ありがたいと思うんだな」
「魔女」
あー、そっか。
そう言えば、この帽子作りって、ロジェさんの趣味も混じってるんだっけ。
ここで、まっすぐな要望を伝えても、その辺は、面白い感じで曲解されてしまうというか、その辺は、ロジェさんのさじ加減ひとつというか。
「いや、失礼ね。別に悪いようにはしないわよ。いざという時には役に立つ、そんな機能をしっかりと組み込んであげるってだけだもの」
「つまり、いざって時じゃなければ、色々と起こるってことさ。ま、装備品としての質が高いのは間違いないよな。普通は、『魔法の帽子』なんて、天井知らずの価値になるわけだし、そういう意味では良心的だぞ」
ちょっと実験台になるってだけだ、とエドガーさんが苦笑する。
だから、面白機能については受け入れるように、ってことらしい。
「ぷるるーん!」
「あら、ショコラちゃん慰めてくれるの? ほら! 親方も、フェイレイちゃんも! 当のショコラちゃんが良いって言ってるんだから、いいじゃないの」
「はは、わかったわかった。俺が悪かったよ。実際、ロジェの帽子で不幸になったやつはいないしな」
「ええ、わかればいいのよ。それじゃあ、ショコラちゃんも大丈夫ってことだから、このまま進めるわね。コロネちゃんもそれでいい?」
「はい、もちろんですよ」
そもそも、帽子を作ってくれるのに、嫌なことなんてないしね。
コロネがアキュレスさんからもらった十字架のブローチにも謎機能はあるし。
気にしたらキリがないというか、そういうものだと納得するしかないというか。
ともあれ、ショコラの帽子はこれで大丈夫かな。
「できあがったら、こっちから連絡するわ。そしたら、ここまで取りに来てね? 最終的な微調整とかは、ここでやるから」
「はい、わかりました。良かったね、ショコラ」
「ぷるるーん! ぷるるっ!」
うれしそうに、ぴょんぴょん飛び跳ねるショコラを撫でつつ。
ロジェさんにお礼を言って、きのこの家を後にするコロネたちなのだった。




