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ちょこっと! ~異世界パティシエ交流記~  作者: 笹桔梗
第6章 町の外への挑戦編
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第393話 コロネ、召喚獣の帽子スケッチを見る

「お、来たわね。いらっしゃーい。待ってたわよ、コロネちゃん、ショコラちゃん」


「お邪魔します、ロジェさん」


「ぷるるーん!」


 キヌアさんに導かれて、屋上の真ん中に、にょっきりと生えていた真っ白くて大きなきのこの家の中へと入ると、そこがロジェさんの工房だった。

 特大のエリンギをおうちへとカスタマイズするとこんな感じになるだろうか。

 きのこの中が空洞になっていて。

 そこが部屋の空間として機能しているというか。


 思っていた以上に、きのこの高さもあって、上の方にも部屋があったりするし。

 で、ロジェさんの工房はと言えば、実験室とファンシーなお部屋を足して二で割ったような感じというか。

 見た目とかはとってもカラフルで可愛らしいし、ロジェさんが作ったと思しき帽子が壁やら、帽子ハンガーやらにかけられていたりしているんだけどね。

 何だろう。

 ところどころでは、メルさんのお薬作りの部屋みたいな謎の器具やら、おどろおどろしい感じで、中身がよくわからないものが大鍋で煮込まれていたりしてるし。

 その辺は、魔女さんたちの技術関係なのかな?

 

 帽子をかぶったお人形さんとかも置いているんだけど、何というか、混ぜるな危険な組み合わせというか。

 可愛くて危険な感じのお部屋になっているのだ。

 うん、ちょっと独特な雰囲気だよね。


 ロジェさん自体が、年齢不詳系で、見た目は可愛らしい女の子って感じだから、似合っているって言えば、似合ってるんだけどね。

 今、着ているのもゴシックな感じの可愛らしい服だし。

 ほんと、見た目だけなら、コロネより若い気もするし。

 まあ、とてもじゃないけど、本当の年齢は尋ねられないけどね。

 やっぱり、おっかないし。


「このお部屋にある帽子って、全部ロジェさんが作ったものなんですか?」


「もちろん、そうよ。自信作から、失敗作まで色々ね」


 男性用女性用問わず、実に色々な帽子があるんだよね。

 ツイードの中折れ帽みたいなのもあれば、ニットキャップみたいなものもあるし。

 それらの多くが大小さまざまなお人形さんにかぶせてあったりして、やっぱり、この部屋に一通り目をやっただけで、この帽子だと、こんな感じになるんだ、ってイメージがわきやすいようにはなっているかな。

 まあ、もっとも、奥の方にあるテーブルの上とか、その周りの床とかは、今の今まで、ロジェさんが何かの作業をしていた感じで、物が散らかっているんだけどね。

 特に、紙のようなものがいっぱい。

 あれ?

 遠目で見ると、よくわからなかったけど、それに描かれているのって、ショコラかな?

 帽子の設計図のようなものと、それとは別に、ショコラが帽子をかぶったような絵もいっぱいあるよ。

 というか、その紙を拾い集めて、それをまとめながら、ロジェさんがこちらまでやって来た。


「とりあえず、ショコラちゃんに似合う帽子は何かな、ってデザインを考えてみたわ。まあ、かぶってる姿は、どれでも悪くないんだけど、問題は機能性よね。粘性種に向けた帽子ってことになると、色々と考えてはみたんだけど、いくつかに絞られるとは思うの」


 はい、こっちのスケッチを見て、とロジェさん。

 うわ、すごい。

 広げられたのは、ショコラが帽子をかぶった絵というか、イラストの数々だ。

 特に驚いたのは、それぞれのスケッチで、いくつかの角度からショコラを描いているところだ。

 前から見た感じ、横から見た感じ、そして、上から見た感じの俯瞰の絵。

 そっか、ショコラの場合、身長が小さいから、上からのイメージとかも大事だものね。

 というか、帽子作りって、こういう作業が必要なんだね?

 全体のイメージというか、スケッチをしたりとか、色々な見せ方とかを示したりとか。


「いや、コロネ。帽子だけじゃなくて、服を作ったりするときも、そういうのは大事にしてるぞ? うちの工房の場合、注文服が多いからな。お客からの要望があれば、作りながらも途中途中で調整はしていくからな。今のショコラみたいに、注文した側も、作る側もこういうのがいいってイメージが少ない場合は、そのイメージを膨らませるために、図示したりもするしな」


 あ、そうなんだね。

 服の場合、職人のセンスに信頼を置いて、任せてくれてもいいが、最初にどういう服を作りたいかって、イメージがゼロの時は、この手の手段を使ったりもするらしい。


「でも、エドガーさん。ウルルさんが制服を作ってくれた時って、最初に採寸を一度しただけでしたよ?」


 塔の給仕の制服は、今までもオサムさんのお店で使っていたものだから、それでいいかも知れないけど、パティシエの服なんて、コロネが一度もそでを通していないのに、できあがっちゃったんだものね。

 いや、むしろ、いかにもパティシエの制服って感じでびっくりしたのを覚えている。

 それを聞いて、エドガーさんが苦笑して。


「またか? 何度か注意はしたんだがな。『精査』の魔法を過信せずに、仮縫いはするように、ってな。まあ、あれはあれで、ウルルらしさのひとつではあるがな。いい意味でお客を驚かせるというか。これで不出来なものを納めているようなら、雷のひとつも落とさないといけないんだが、そういう話も聞かないしな」


「ふふ、そうね。ウルルちゃんもまったりしてるようで腕は確かだものね。この町でも、あの子よりも早く服を仕立てられる職人はほとんどいないし。エドガー親方でも、速さなら、ウルルちゃんには勝てないんじゃない?」


「まあな。さすがに質を考えると飛ばせない工程があるからな。そういう意味じゃ、度胸が据わってるよな、ウルルのやつ」


「親方にとっても、自慢の弟子だものね」


 ふふふ、とロジェが笑う。

 やっぱり、ウルルさんってセンスがいいのだそうだ。

 そういう意味では、この手の職人には向いていたんだろうね。

 まあ、それはそれとして、とロジェさんがたくさんあるデザイン図を並べてくれて。


「とりあえず、コロネちゃんとショコラちゃんで、気に入った帽子があったら教えてほしいわね。一応、男の子用のものと、女の子用のものと、それぞれ色々考えてはみたの。ショコラちゃんって、どっちの性別なのかわからなかったから」


「えっ!? ショコラの性別ですか?」


 あれ?

 そういえば、どっちなんだろ?

 そもそも、ショコラって何の種族なのかも曖昧なんだものね。

 可愛いから、今の今まであんまり気にしていなかったけど、確かそれはそうだよ。


「ショコラ、ショコラって、男の子なの? 女の子なの?」


「ぷるるーん? ぷるるぅ?」


 あれ、ショコラも困ってる。

 そんなこと聞かれても、って感じで首を傾げてしまった。

 まあ、なんだかんだ言っても生まれたばっかりだしねえ。

 人間種とかみたいにわかりやすい特徴もなさそうだし。

 せめて、ショコラが人型をとったりできるようになれば、違うのかもしれないけど。

 前に聞いた話だと、粘性種って、成長していくと、人型にもなれるようになるって話だったしね。


「そもそも、粘性種って、はっきりした性別があるんですか?」


「ええ、あるわよ。粘性種だったらね。この町の側にあるスライムの村を束ねているのって、男の長老さんだし、『魔王領』のスライムの国は、女王がいるし。中性の子もいるのかもしれないけど、基本はどっちかに判別されるはずよ」


 あ、そう言えば、ゼルンベルルのトップって、クイーンスライムだったっけ。

 名前からして、いかにも女王様って感じだものね。


「コロネちゃん。ショコラちゃんって、粘性種で間違いないのね?」


「たぶん、そうだと思うんですけど……」


 グルメスライムは適当だけど、見た目はやっぱりスライムって感じなんだよね。

 いや、根本的な問題として、コロネの場合、他のスライムさんって見たことがないんだけど、ショコラと会ったことのある人たちからも、粘性種だって認知されてるし、それで間違いないとは思う。

 後は、可能性としては、フードモンスターの一種ってところかな。

 食べ物系のモンスター。

 その生態は謎に包まれているって、ドロシーも言ってたものね。

 ドロシーの認識がそうってことは、同様に、魔女であるロジェさんもそういう考えだろうし。


「まあ、わからないなら、それでいいわ。少なくとも、魔女の方でも把握していないスライムだったから、新種だとは思うし。ふふ、粘性種って、新しい進化をしやすいのよね。とにかく、要はショコラちゃんに似合う帽子で、お店の制服っぽいものであればいいし。そういう意味で、色彩に関しては、コロネちゃんのパティシエの時のものと、おそろいにしてあるわ」


「あ、ほんとですね」


 帽子のデザインこそ、色々あるけど、色調は確かに、この制服と同じだよね。

 白と茶色を基調に、あとは黒を使う程度で。

 うーん、となると、どうしてもちょっと地味な感じになっちゃうよね。


 というか、最初に突っ込むべきだったけど、ロジェさん、絵が上手だね。

 描かれているショコラが生き生きとしているというか。

 ひとつひとつ、形とか表情が違うし。

 変なところに気合が入っているような気がするよ。

 それも、帽子の雰囲気に合わせてって感じなのかもしれないけど。


 さておき。

 さすがにベレー帽みたいなのとか、シルクハットみたいなのはダメか。

 シルクハットをすっぽりかぶってるショコラの絵は面白いけど、何となく、イメージとは違うしね。


「そうね。やっぱり、帽子本体はシンプルで、飾りつけをしっかりしたタイプのものが良いとは思うわ。ほら、こっちとか、こっちとか」


「ぷるるーん!」


 そう言って、ロジェさんが示してくれたのは、頭の前側に載せた感じで、ひものようもので固定された帽子と、つばが大きめで羽根やイミテーションの果物などで飾られた帽子だ。

 前者は、ファシネーターに近いのかな?

 向こうだと、結婚式なんかで見かける、カチューシャに飾りつけを盛り込んだ感じの帽子だ。

 帽子と言うよりは、装備用のアイテムに近いよね。

 後者の方は、つばの広いピクチャーハットに飾りを盛り込んだ感じかな。


 というか、どっちも女性用の帽子なんだね?


「そうよ。色的にも飾りがある方が、色々と盛り込めるの。それに、宝石とか羽根とか、そっちの飾りつけを上手に使うと、ね。ふふ、色々と組み込めるのよ」


 あれ?

 デザインのバランスよりも、そっちの方がロジェさん的にはメインなのかな?

 やっぱり、『魔法の帽子』としての機能も大事みたいだし。


「ちなみに、ショコラは気に入ったものはあるの?」


「ぷるるーん! ぷるるっ!」


 あっ、ちょっと待って、って言ってるね。

 それじゃあ、ショコラにもゆっくりと考えてもらおうかな。

 そんなこんなで、帽子のデザインを色々と見比べるコロネたちなのだった。

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