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ちょこっと! ~異世界パティシエ交流記~  作者: 笹桔梗
第6章 町の外への挑戦編
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第390話 コロネ、革職人に驚く

「…………えっ?」


「ぷるるっ!?」


 エドガーさんに案内されて、この服飾工房の三階、その奥側へとやって来たんだけど。

 いきなりの光景に呆気に取られてしまった。

 今、コロネたちが開けたのは、普通の扉だ。

 三階の奥側。

 屋根なしのテラスのような場所だって、さっきも説明されたばかりの空間。

 その空間いっぱいに、何だかものすごく大きなものが座り込んでいたのだ。

 というか。

 今の、コロネの目には、工房の幅と同じくらいの大きな顔しか見えない。

 そう、顔だ。

 大きな口はまるでカバのようにも見えて。

 それでいて、マンモスのような長くて鋭い牙のような、サイが持つ角のようなものを生やした、とてもとても大きな生き物。


 え? え? 何これ?

 巨大なモンスター?

 というか、ここ服飾の工房だよね?

 何で、こんな大迫力の生物がいるの?

 あまりと言えば、あまりの光景に驚いていると、横で、エドガーさんがため息をついて。


「おい、モス。何で、こっちの姿をさらしてるんだ? 確か、お前、『島』の方から、秘密にするように言われてたんじゃないのか?」


《――――――――――》


「何? そうなのか? まあ、別にお前が問題ないなら、それでいいが。というか、まず、コロネがびっくりしてるから、人の姿になってくれ」


《――――》


 えーと?

 もしかして、目の前の大きな動物さんって、モスさんなの?

 え? こっちのカバさんって、こんなに大きいの?

 いやいや、そんなわけないよね。

 というか、だ。

 さっきから、そのモスさんが辺りの空間全体に響かせているのって、コロネも前に似たようなものを聞いたことがあるよ。

 これって、サーカスの時に、サニュエルさんが使っていたのと同じ言葉だ。

 何かをしゃべっているのはわかるんだけど、まったく意味が理解できない言葉。

 つまり、モスさんって。


「あの……もしかして、モスさんって、幻獣さんなんですか?」


 コロネが尋ねるのに、その目の前の動物さんがにっこりと微笑んで。

 その姿を変える。

 昨日、塔の方にごはんを食べに来てくれた時と同じような身体。

 太っちょで、どこか気の良さそうな感じのモスさんの姿に。


「うん、そうなんだな。今日は、コロネが遊びに来るので、その話を『島』の方へと確認したんだな。そうしたら、許可が出たんだな」


 あ、やっぱり、幻獣種なんだね、モスさんって。

 人型をしている時は、そんな感じを微塵にも感じさせないけどね。

 いや、さすがにこれはちょっと意外かな。

 あー、でも、ロジェさんと仲がいいんだものね。

 魔女と幻獣種、か。

 それに関しては疑っても良かったかもしれない。

 エドガーさんたちが言っている『島』ってのは、当然、『幻獣島』のことだよね。


「まあ、許可があるなら、別に問題ないが、わざわざ本体の姿を見せる必要があったのか? お前が嫌がるから、ここの空間は偽装のための結界を張っているんだろ?」


「ロジェから言われたんだな。革作りの工程を見せるなら、ぼくの元の姿じゃないとだめなんだな」


「あ、そうなんですか? あのあの、ところで、モスさんって、どういう幻獣さんなんですか?」


 さっきの姿だと、何の生き物だかわからないし。

 サニュエルさんの場合は、空飛ぶクジラさんだし、ルナルさんは、妖精猫のケットシーだったものね。


「ぼくは、ベヒーモスなんだな。でも、まだ、身体が小さいんだな。同種の中でも、まだまだ子供なんだな」


「えっ!? 今の姿でも小さいんですか!?」


 まず、そのことにびっくりだよ。

 モスさんの話だと、成長するとさっきの大きな身体のさらに数十倍にも数百倍にもなるのだそうだ。

 いや、さすがにそこまでいくと想像がつかないんだけど。

 さっきの姿でも、この工房の敷地の半分くらいは占めているよね?

 その数百倍って……それって、生き物として存在できるの?

 うん、すごいね、こっちの世界って。


 それにしても、ベヒーモスか。

 確か、聖書か何かにも書かれている存在だよね。

 ざっくりとしたイメージしかないから、詳しくはわからないけど。


「ああ、そうだな。俺もモスの他には、ひとりしか会ったことはないが、大人のベヒーモスって、もっと大きいぞ。まあ、それも当然の話なんだが。おそらくコロネは知らないだろうから説明するが、ベヒーモスってのは、幻獣種の中でも体内に『異界』を作るタイプの種なんだよ。別名が『歩く異界』。そうだな、どっちかと言えば、この町だったら、レーゼさんに近いな。自分を軸とする生態系を持っているって意味ではな」


「うん、今のエドガーの説明であってるんだな。ぼくの中には『異界』があるんだな。その中でも今も、みんなが暮らしているんだな」


 へえ、そうなんだ、すごいね。

 つまり、モスさんのさっきの身体の中に、生態系があるんだね?

 というか、町とかもあるんだって。

 いや、身体の中の町って。

 今の人型をしている時って、中はどうなってるんだろ?


「今も、『異界』は同じようにあるんだな。入り口が小さくなっているだけで、中の『異界』には影響がないんだな」


「さすがにその辺は、俺も漠然としかわかってないんだが、とりあえず、モスの身体の大きさとは関係なく、同じ大きさのままで『異界』が存在しているらしいぞ? 何で、そんなことができるのかってのは、ちょっと難しくて把握できてないんだが」


「異なる界」


「固定」


「結合」


 あっ、エドガーさんはちょっとわからないって、笑ってるけど、フェイレイさんはそういうのも知ってるんだね?

 めずらしく、ちょっとだけ説明してくれたし。

 でも、それだけだと、今のコロネだとさっぱりだけどね。

 雰囲気くらいは伝わって来るけど。


「うん、フェイレイのであってるんだな。まあ、そんなことはあんまり気にしなくてもいいんだな。やっぱり、言葉にするのが難しいんだな」


「はは、まあ、その辺はいいだろ。そもそもが、今日は、工房の見学に来たんだろ? どっちかと言えば、コロネに見せたいのは、さっきもモスがやってた革のなめし作業についてだ。だから、モスも本体で待ってたんだろ?」


「なんだな。人型だと、エドガーに教わったやり方しかできないんだな。それだと、ぼくがやる意味がないんだな」


「エドガーさんから教わったやり方、ですか?」


 どうやら、そちらがこっちの世界の普通の革のなめし方らしい。

 というか、そもそもが革製品ってどうやって作るのかな?

 専門外だから、基本的なことって言われてもさっぱりだよ。


「ああ。植物のエキスを使うやり方と、錬金術の薬品を使うやり方だな。まあ、もっとも、薬品の方は、俺もこの町に来てから、アビーのやつから教わったんだがな。複数の金属を加工した時に、できあがった薬品を使うと、丈夫な革になめすことができるんだ。その辺は、さすがはドワーフの錬金術師って感じだよな。普通の錬金術を研究してるやつなら、その手の薬品を作っても、職人みたいな使い方はしないだろうしな」


 なるほど。

 アビーさんも一枚かんでるんだね。

 それにしても、やっぱり聞けば聞くほど、魔法の部分を除けば、こっちの世界の錬金術って、化学に近い気がするよ。

 まあ、新しい生命を生み出しちゃう辺り、向こうよりもこっちの方が、常軌を逸している気がするけどね。

 あれ?

 向こうでも、その手のことはできるんだっけ?

 フラスコの中から生物を生み出すとか。

 何か、先端技術を使えば、できそうな感じもしたけど。

 それとも、その辺は、倫理との兼ね合いで難しいのかな?


 さておき。


「それで、モスさんの革のなめし方ってどうやるんですか?」


 とりあえず、植物のエキスを抽出して行うのが、こっちの主流のやり方ってのはわかったけど。

 この工房の革素材の加工って、モスさんが担当しているんだよね?

 つまりは、さっき、エドガーさんが言っていた方法よりも優れているってことだものね。


「はは、その辺は、見た方が早いぞ。と言っても、コロネが思っている以上に、原始的なやり方だよ。これに関しては『誰』がやるか、が大事なところだからな」


「限定」


「え……? 原始的なやり方?」


 あれ? 何だか、ちょっと嫌な予感がするんだけど。

 というか、今の話だと、モスさんがやらないとダメってことだよね?


「うん、ちょっとやってみるんだな」


「コロネ、俺たちはちょっと後ろに下がるぞ。モスの身体で潰されたくはないだろ?」


「圧死」


「あっ、はい」


 エドガーさんと、フェイレイさんに引っ張られる形で、ショコラを抱えたまま、後ろの方へと下がる。

 というか、もう、扉の外まで来ちゃったんだけど。


「よーし、いいぞ、モス」


 エドガーさんの号令と共に、モスさんが頷いたかと思うと、また、さっきと同じ大型のカバさんのような姿へと変化した。

 いや、あの、工房の壁がちょっとギシギシと言ってるんですけど。


「ああ。実はモスのやつ、本体へと戻る時は、若干、現れる場所にずれがあってな。だから、向こう側にいると潰されることもあるんだよ。ここの外壁は、それも踏まえた上で、衝撃吸収型の作りになっているからな」


《――――――――》


 いや、そういうのはサラッと言わないで欲しいんですけど、エドガーさん。

 というか、モスさんも頷いているけど、その姿の時って、何を言ってるのかわからないんだよね。

 幻獣種の使ってる『古代語』だっけ?

 まあ、何にせよ、だ。

 こういう光景にも少しずつ慣れてきている自分がいるなあ、と淡々と思うコロネなのだった。

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