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ちょこっと! ~異世界パティシエ交流記~  作者: 笹桔梗
第6章 町の外への挑戦編
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第387話 コロネ、チョコ魔法の新しい使い方を試す

「あっ! このパンの糸、ちゃんとパンの味がしますね」


 せっかくの機会ではあるので、パンの糸も味見させてもらった。

 冷静に考えると、ララアさんが咀嚼したパンが元になってるから、あんまり深く考えすぎるとなんだけど。

 まあ、口噛み酒みたいなものかな?

 もっとも、そっちのお酒もコロネは飲んだことないけど。


 ともあれ。

 細い糸をかみしめると、一応、小麦の味とかそういうのは残っているのだ。

 何となく、パンから作った糸、というのがわかるというか。

 それはちょっとびっくりだよ。


「お、すごいな、コロネ。ララアが食べられるとは言ったが、まさか本当に糸を食べるとはな。さすがは料理人、良い根性をしてるな」


 ララアの糸の話を聞いた後で、普通にそれを口にできるのは大したもんだ、ってことらしい。

 あっ、そうか。

 強度と細さ次第では、このパンの糸も攻撃手段になりうるんだっけ?

 そんなことは気にも留めてなかったよ。

 食べ物も糸にできるって、話でちょっと興奮して、それで、そっちはどうでもよくなっちゃったっていうか。

 だって、食べ物を糸状にできるんだよ?

 それがちゃんと、元の食べ物の味がするんだよ?

 これって、すごいことだと思うんだけど。


「つまり、ララアさんの能力でしたら、食べ物で生地も作れるってことですものね」


「そうね。私もそっちはあんまり試したことがないけど、色々と可能性はあるわね。ただ、アラクネって、割と雑食だから、基本、何でも口にはできるのよね。今、コロネにも見せた通り、金属とかも、一応は粉々にはかみ砕くことはできるし」


 物によっては、消化できないけどね、とララアさんが苦笑する。

 さっきのミスリルも糸を作るため、という感じだそうだ。

 そのままでは、さすがに飲み込んでも消化できないから、食べ物って感じではないらしいし。

 でも、別にそのまま飲んでも、それで、身体を痛めるとか、そういう感じでもないそうで、そういう意味では、内臓機能が強いみたいだね。

 アラクネさんって。


「それにしても、一瞬で網状にできるのってすごいですよね。『スパイダーネット』ですか?」


「ふふ、私とかみたいなアラクネなら、普通にできることなのよね。さっき、エドガーさんも言っていたけど、これ、糸とかがあれば、そこからスキル展開ができるから。手に持っている糸を自分の魔素と組み合わせつつ、それで巣を作るイメージね。網っていうよりも、私たちにとっては、巣の形だから」


「なるほど」


 ララアさんがその辺の繭玉をひとつ手に取って、それをそのまま、一瞬で、小さな巣にしてしまう。

 あ、その網を振り回すこともできるんだね。

 巣だから、てっきり、場所が固定なのかと思ったけど。

 うん?

 あれ? もしかして、これってちょっと面白いかな?


「ララアさん、この『スパイダーネット』って、魔法の『形状変化』みたいな使い方なんですよね?」


「ええ、そうよ。基本の形を変えたりするのとか、操るイメージに関してはね。それに加えて、細かい強度とかの補強もあるけど、そういうのを抜きにすれば、『形状変化』のやり方に近いわね」


「あの、ちょっと思いついたことがあるので、試してみてもいいですか? たぶん、ララアさんに見てもらった方が、いいような気がしますし」


「え? うん、私でよければいいわよ」


 ありがたいね。

 たぶん、この網状にするのなら、スキルを使い慣れているララアさんの目があった方が、失敗しても、どこがおかしいのかわかりやすいだろうし。

 じゃあ、ちょっと試してみよう。


 まず、チョコレートを生み出すイメージ。

 ぽん、という音と共に、一個の一口大のチョコレートが現れる。


「あら? コロネ、その茶色いのは何?」


「ちょっと待ってくださいね。もう少しだけ……『形状変化』!」


 チョコレートを、蜘蛛の巣状にするイメージ。

 さっき、ララアさんが何度か使ってくれた『スパイダーネット』をイメージして、今までの練習みたいに、チョコを大きな円盤のように薄くするのではなく、細い糸、それを網のように組み合わせるイメージ。


「あっ!? できた!」


 ちょっと小さいけれども、それでも、今までの円盤よりもずっと広範囲にチョコレートが広がっているのがわかる。

 糸という形状は、細長いので、広げても、チョコレートの量は少しで済むし。

 メイデンさんの訓練で、可能性が見えてから、色々と試してはいたんだけど、少ないチョコレートでは、普通に変化させても、大した大きさにはならなかったから。

 それでは、いくら、魔法を相殺できるって言っても、意味がない。

 盾のようなものを持っていた方が大きさ的にはマシだ。


 でも、これなら、どうだろうか?

 まだ、形状がうまくいっただけなので、詳細不明だけど。

 というか、そもそも、こんなにあっさり網状にできるとは思わなかったので、実は内心、かなりびっくりなんだけどね。

 やっぱり、チョコ魔法って、コロネと相性がいいのかな?

 ひとりではエレベーターも動かせないし、ショコラとの『同調』も思うようにはいかないんだけど、この魔法だけは、失敗がないんだよね。


「え!? おい、コロネ、何をしたんだ? それは……ララアたちの『スパイダーネット』だよな?」


「へえ、驚いたわ。コロネ、私たちのこれ、使えたのね? というか、もしかして、さっきの私のを見て、ちょっと真似したってところなの?」


「はい。今、ちょっと、食べ物の『形状変化』で、壁にぶつかってまして。もしかしたら、ララアさんがやったみたいな感じでやれば、その壁を越えられるかと思いまして」


 あくまでも、ダメ元だったけどね。

 結果的に、うまくいって驚いているのはコロネもおんなじだし。

 と、感心したように、エドガーさんが笑って。


「いや、すごいな。というか、俺もコロネが魔法を使っているのは初めて見たが。なるほどな。そういう意味では、オサムと同じ世界の出身者ってわけか。他の種族の能力を見ただけで使えるなんて、そうそういないぞ」


「ほんとね。今、初めてできた、って聞いて、あらら、って思っちゃったわ。コロネって、人間種よね? アノンさんみたいに、幽霊種とか、そういうのじゃなくて」


「はい。普通の人間種ですよ」


 でも、これ、たぶん、ユニークスキルの効果もあるよね。

 ちょっとだけ、チョコ魔法にからめると、使いやすくなるみたいだし。

 相変わらず、普通の属性のみの魔法は、基礎魔法ですら使えないよ?

 チョコ魔法に関しては、ぼかす感じでそう三人に説明して。


「なので、わたしの場合、食べ物がらみじゃないと、魔法が使えないみたいなんですよね。だから、あんまり使い勝手はよくないんですよ」


 だって、チョコ魔法と火魔法を一緒に使っても、チョコレートが溶けるだけだし。

 チョコ魔法が軸になってるってのは、もう、何というか、何でこんな能力なんだろう、とは思うもの。

 普通の属性魔法が使えた方が便利だものね。


「はは、なるほどな。それで、ってわけか。やっぱり、便利そうな能力にはそれなりの制約があるよな」


「縛り」


「そうね。あ、そうだ、コロネ。ということは、その茶色いのって、食べ物ってことよね? それも食べられるの?」


「はい。一応、お菓子の一種ですから。ただ、今のところ、お店で扱えないお菓子なので、あんまり、これに関しては、広めないようにしているんですよ。お世話になった人とかには、食べてもらってますけど」


 だから、ララアさんとか、エドガーさんとか、フェイレイさんは大丈夫。

 というか、要は、大事な部分だけを伏せておけばいいわけだし。

 チョコレート自体は普通のお菓子だからね。

 そのうち、お店とかで出すのが目標だから、そこまで、情報封鎖をしておく必要があるかってのは微妙なところではあるかな。

 そもそも、大分、色々な人に味見はしてもらってるしね。


 というわけで、目の前の三人にも、このチョコレートの巣を味見してもらった。


「あら、美味しい。糸状だから、歯ごたえとかはないけど、ほんのわずかな欠片なのに、甘くて、溶けていくのがいいわね」


「おっ! 美味いな。これもコロネのお菓子か」


「うま」


「ありがとうございます。ただ、この糸、やっぱり、簡単に切れちゃいますね」


 今、味見用に、手に取ってみたんだけど、普通のチョコレートとあまりかわらない感じで、ぷつりと切れちゃったんだよね。

 うーん。

 さすがに、この強度だと、戦闘とかでは使えないかな。

 ちょっと残念ではあるけど。


「あら、そういうことなら、糸を魔素でコーティングしてみるといいわ」


「糸をコーティング、ですか?」


「そうそう。ちょっと、やってみるわね。イメージとしては、糸の表面を自分の魔素で包み込むような感じね……ほら、残っている部分を強化してみたわ。ちょっと触ってみて」


「あ、はい……あっ!? すごいです! ちゃんと糸になってます!」


 指先で触っても、強めに引っ張っても、このチョコレートの網が切れなくなっているのだ。

 今、ララアさんが、ちょっと、その、コーティングってのをやっただけなのに。

 うわ、すごいね!

 これだったら、後で、コロネが自分で工夫していけば、ちょっと考えていた使い方ができそうだよ。

 良かった、何だかうれしいね。

 今日、職人街にやってきたのはたまたまだったけど、本当に、ララアさんの技術を目にすることができて良かったよ。

 これで、チョコレートの使い方も、もうちょっと発展させることができるかも、だし。


「今のは、外側から補強するやり方ね。糸を作り出すこと自体ができるなら、その段階で、糸に魔素を練り込んでおくのも挑戦してみるといいわ。そうすれば、普通の素材を魔法素材化するのも不可能じゃなくなるから」


 あ、なるほど。

 ララアさんたちの場合、糸にする時点で、魔法素材化できるんだ。

 外からコーティングするのは、あくまでも普通の素材を保護しているだけで、そっちのやり方は割と行われているらしい。

 難しいのは、素材の中に練り込む方法で、そっちができるようになると、職人としても一人前なのだそうだ。

 へえ、すごいことを教えてもらっちゃったかも。

 それも、さっき、コロネが一から素材を生み出したから、もしかしたら、ってことらしい。

 本当にありがたい話だよ。


 そんなこんなで、職人さんたちとの話で盛り上がるコロネなのだった。

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