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ちょこっと! ~異世界パティシエ交流記~  作者: 笹桔梗
第6章 町の外への挑戦編
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第381話 コロネ、服飾工房に行く

「おっ、何だかいい匂いをさせているな」


「あ、オサムさん、おはようございます」


「おはようございますなのです」


 もうちょっとで焼きあがり、というところで、オサムさんが調理場の方にやってきた。

 今日も今日とて、惣菜パン用の惣菜とか、朝食メニューの仕込みとかがあるものね。

 汁物みたいなスープとか、あと、仕込みに時間がかかるものは、二階の方でも作業しているみたいだけど。

 何だかんだで、オサムさんもパン工房の毎日営業を手伝ってるんだから、けっこう大変だよね。

 結局、ほとんど休みなしだもの。


「ああ、おはよう。で、何を作ってるんだ? 焼き菓子か?」


「はい。サブレです。色々と材料が足りないので、シンプルなタイプのものからですけどね」


「とっても、いい匂いがするのですよ」


 プリンとアイスの仕込みを片付けつつ、ちょうどいいタイミングで戻って来たピーニャと一緒に、残りの焼きまでの工程もやってしまって、という感じかな。

 小一時間ほど休ませた細長い棒状の生地を、一センチぐらいの薄さにカットして、それを天板に並べて、オーブンで焼いていくのだ。

 途中で、火が均一に入っているか確認して。

 必要に応じて、天板の向きをちょっといじったりして。

 そんな感じで、もうそろそろ焼きあがるかな。

 何とか、パン工房とか、朝の調理の邪魔にならない時間で終われそうだよ。

 うん、良かった。

 これで、ピーニャが怒られることもないだろうね。


「なるほど、サブレか。美味そうな匂いがするものな」


「はい。味見用の分もありますので、後で、冷めてから他の人たちと一緒に食べてみてくださいよ。お砂糖はメープルシュガーを使ってますので」


 それで、どうなるか、ってのは色々な人の意見を聞きたいかな。

 そもそも、小麦粉を使った焼き菓子はこっちではお初だものね。

 使っているのも、この町産の中力粉だし、そういう意味では、薄力粉で作ったのとはちょっと食感も変わってくるだろうし。

 もっとも、こっちだと、そもそもサブレ自体がお初だからねえ。

 中力粉にすると、サクサクした歯ごたえが増したり、作業の時も、薄力粉に比べても生地がべたつきにくいので、まとめたりしやすいってメリットもあるし。

 まあ、一歩間違えると、ボソボソになっちゃうから、注意も必要だけどね。


「ピーニャがお手伝いした分は、早番の人たちにも一個ずつ食べてもらうのです」


「はは、そいつは楽しみだな。しっかし、コロネ、お前さん、休みでも結局何か作っているんだな」


「そもそも、報酬用のアイスとプリンもありますしね。それに、今から職人街を案内してもらうんですよ。なので、何か持っていきたいじゃないですか」


 あと、明日のコボルドさんたちのところで作るお菓子のためにも、メイプルシュガーの方を試してみる必要もあったしね。

 普通にお菓子を作った場合、その甘さはどうなのか、とか。

 やっぱり、こっちで採れるメイプルシロップって、向こうのともちょっと違うかもしれないし、その辺は、味の調整のための材料にしないとね。


「あ、そういえば、そうだったな。まあ、コロネも職人街には何度か行ったことがあったろうが、エドガーの案内だったら、もうちょっと深いところまで入れるだろうしな。この機会にあちこち見てくると良いさ。あの辺は、農家連の方とか、果樹園のところとかとも、地下でつながっているからな」


 へえ、そうなんだ?

 もちろん、水路とかの関係で、町の至る所って、地下でつながっているらしいけど、町の北東の農家連から、職人街、果樹園って、町の東側の部分では、特に大きめな空間が地下に確保されているんだって。

 その辺は、元からあった遺跡の一部を利用したみたいだけど。

 それとは別に、そっちの開発が得意な人の手も加わっているらしい。

 ふうん。

 本当に、地下が有効活用されている町だよね、ここ。


「まあ、詳しくは、見てのお楽しみだな」


「わかりました……あ、ピーニャ、そろそろ、焼き上がりかな。後は、取り出して、もう少し冷ましたら完成だね。それじゃあ、手伝ってもらってもいい?」


「はいなのです。取り出したら、このサブレをこっちのペーパーの上に移し替えればいいのですね?」


「うん、そうそう」


 言いながら、そういえば、ケーキクーラーとかもあった方がいいかな、と考える。

 さすがに、この調理場にも、お菓子作り系の器具は足りないものがあるからねえ。

 似たようなものはあるから、代用はできるんだけど。

 まあ、その辺も、ジーナさんとかに相談していく感じかな。

 今はまだ、そんなに重要じゃないけど、今後、お菓子を作れる人が増えてきたら、お菓子作り用の道具も大事になってくるだろうし。


「はは、頑張れよ。俺も向こうの方で、朝の仕込みをやってるからな」


「はい!」


 そろそろ、他の調理人さんとか、パン工房の早番さんとかがやってくる時間だしね。

 今のうちに、やることは済ませておかないとね。

 そんなこんなで、焼きあがったサブレを取り出すコロネたちなのだった。





「エドガーさん、おはようございます。今日はよろしくお願いします」


「ああ、おはようさん。まあ、そんな気合入れなくてもいいさ。あくまでも見て回るって感じだから、遊びに来たって感じで気楽に構えていれば大丈夫だ」


「らく」


 所変わって、コロネとショコラがやってきたのは、エドガーさんたちの工房だ。

 前にアストラルさんのお店を探している時も、通ってはいたから、場所自体は何となく知っていたんだけど。

 改めて、建物を見てみると、やっぱり、立派な感じがするよね。

 看板には、『エドガーズギルド』ってなっているし。

 エドガーさんの服飾工房というか、衣類や装備品など、身につけるもの全般を作っている職人さんの工房の集まりって感じらしい。


 コロネを出迎えてくれたのは、エドガーさんとフェイレイさんのふたりだ。

 エドガーさんは、革でできたジャケットのようなものを着ていて、一方のフェイレイさんは、昨日会った時と変わらない、どちらかと言えば、村娘さんって感じの衣装を着ているね。

 幽霊種って聞いてたから、服装とかも自由なのかな?

 その割には、あんまりこだわっていないようにも見えるけど。

 見た目は、おっとりとした年上の女の人って感じのままだ。


 さておき。

 エドガーさんの工房が服飾組合の本部なのだそうだ。

 なので、職人街とか、この町の他の被服系の職人さんたちのフォローとかもやったりとかしているんだって。

 そういえば、『あめつちの手』のウルルさんとかも、エドガーさんのお弟子さんみたいな感じだしね。


「だから、うちの工房には、色々な職人が寝泊まりしてるんだ。一応、商業ギルドからの派遣員とかも常駐してるしな」


「あ、そうなんですか?」


「親方」


 フェイレイさんがそう教えてくれた。

 要するに、エドガーさんって、みんなの親方って感じみたいだね。

 職人街の顔役でもあり。

 この町の生産を支えている代表のひとりでもある、って。


 なるほどね。

 やっぱり、思っていた以上に、この工房って、重要な施設ってことでもあるようだ。

 建物自体は、一見すると、石造りの建物のようにも見えるけど、ちょっと普通の石とは違う感じにも見えるし。

 こっちの世界特有の石材とかを使っているのかな?

 さすがにその辺はよくわからないけど、エドガーさんによれば、この工房って、天井を高く作っているので、普通の一般的な家屋に比べても、一階層あたりの高さがかなり高くなっているのだそうだ。

 その辺は、塔の作りとちょっと似ているかな。

 一応、上は三階建て、ってことらしいけど、どう見ても、外からそれよりもずっと高く見えるものね。

 周囲の建物の中でも、頭ひとつふたつ抜けているというか。


「ただ、まあ、コロネには申し訳ないんだが、今日は工房が休みだからな。なので、いつもよりは中にいる職人も少ないって思ってくれ。もうすでに、昨日の夜から町の外に素材を採りに行ったやつらとかもいるしな」


「ロジェ」


「ああ、ちなみに、ロジェのやつは上で待ってるぞ。あれから、その、ショコラに新しい帽子を作ってやるって、気合い入れてたからな」


「ぷるるーん!」


「あ、そうなんですね」


 ドロシーと同じ魔女さんで、同時に帽子職人でもあるロジェさんだね。

 というか、昨日の今日で、もうそんなことになってるんだ?

 ショコラは、自分も制服を作ってもらえるって、喜んでいるみたいだけど。

 何だか、ちょっと申し訳ないような。

 あ、そうだ。


「あの、エドガーさん、今日ちょっと、お菓子を作って来たんですよ。よろしければ、後で、工房の皆さんでどうぞ、って」


 さっき、ピーニャと一緒に作ったサブレを袋詰めしたものをエドガーさんに渡す。

 結局、あの後、ちょっと冷ましてから味見してみたんだけど、ちゃんとサブレの食感になっていたので、一応、コロネ的にも問題なしってことで。

 口の中でほろほろと崩れて、溶けるのと同時に甘さが広がって。

 メイプルシュガーも、程よい甘さになっていたし、バターの風味もおいしいし。

 

『うわっなのです! 甘くて、口の中でさららと溶けて……美味しいのです!』


 ピーニャも太鼓判を押してくれたし。

 これなら、プレゼント用としても大丈夫かなあ、って。


「おっ、すまないな、コロネ。何だか、逆に気を遣わせたみたいだな」


「感謝」


「いえ。サブレって言いまして、小麦粉とかバターとかで作ったお菓子ですね。今のところ、試作段階のものですので、後で食べた感想を聞かせて頂けるとうれしいですね」


 どのくらいの味付けだと、こっちの人が喜んでくれるのか。

 今のところ、あんまり、要望っぽい感想が少ないから、逆にこちらとしても、目安となる味がない状態なんだよね。

 プリンとか、アイスとかで慣れてきてくれたら、『甘すぎる』とか『もうちょっと甘い方がいい』とかの感覚も増えてくるんだろうけどね。

 まだまだ、色々な人に食べてもらって、ってのは大切なのだ。


「ああ、その辺は任せてくれ。食べたやつらの話はまとめておくから」


「うま」


「って、フェイレイ、お前、袋に手を突っ込んで中身を持っていくなよ」


 あ、すごい。

 今、フェイレイさん、袋をそのまま貫通して中身だけ取り出しちゃった。

 へえ、そういうこともできるんだね?

 アノンさんとかもできるのかな?

 そういうのやってるのって、まだ見たことないけど。


「もうダメだぞ。後で、うちのやつらみんなで食べるんだからな」


「うん」


 おいしかった、という感じで、フェイレイさんが微笑む。

 やっぱり、そういう感じは不思議ちゃんって雰囲気なんだよね。

 エドガーさんも、それがいつものことなのか、苦笑しているし。


「よし。じゃあ、コロネ。改めて、まずはうちの工房から案内だな。ついてきてくれ」


「きて」


「はい!」


 そんなこんなで、工房内へと入るコロネたちなのだった。

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