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ちょこっと! ~異世界パティシエ交流記~  作者: 笹桔梗
第6章 町の外への挑戦編
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第380話 コロネ、サブレを作る

「あれ? コロネさん、今日はお休みじゃなかったのですか?」


「うん、ピーニャ。そうなんだけど、アイスとかは作っておかないといけないからね」


 職人街に行く前にちょっとやることがあった、と厨房で色々やっていると、パン工房の方からピーニャがやってきた。

 昨日は、温泉でゆっくりした後で寝たから、かなり身体の方は調子がいいかな。

 あれから、マリィの方も何とか元気になったので、宿屋の方には送って、後はムーのレイさんに任せてきた。

 今日はお休みだから、後は休んでてもらえば大丈夫かな。


 さて、せっかくのお休みなんだけど、やることは色々あるんだよね。

 アルルたち、『あめつちの手』に渡す報酬用のアイスとか、クエストの報酬用のプリンとか。

 そういうものはさすがに作っておかないとまずいからねえ。

 というわけで、朝も早くから、塔の三階の厨房でお菓子作りをしているのだ。


「さすがにリリックたちには休んでもらってるけどね」


 そもそも、朝にアイスとかプリンを作るって言ってないし。

 下手に言うと、気を遣って出てきちゃいそうだものね、リリックとか。

 まあ、リリックはリリックで、せっかくのお休みなのに、早朝のお祈りを済ませてから、教会の方に行っちゃったみたいだけどね。

 なんだかんだで、子供たちと一緒に過ごすのが好きなのだとか。

 あんまり人のことはいえないけど、それはそれで休んでいる感じがしないよね。


「なるほどなのです。でも、コロネさん、今作ってるものって、アイスでもプリンでもないのですよね?」


「うん、アイスとプリンのついでで、ちょっと試したいことがあったから、別のお菓子を作ってるんだ。なんちゃって、パート・サブレね」


「パート・サブレ、なのですか?」


「うん、前にピーニャにも教えたメレンゲクッキーがあったでしょ? サブレって言うのは、あの時に作れなかった、本式のクッキーとかみたいな、焼き菓子の一種なのね。あの時は、良い小麦粉もなかったし、ハチミツだけしかなかったから、ちょっと保留にしておいたんだけど」


 今日は、ちょっと、明日のコボルドさんたちの町でのテストに備えて、事前チェックをしている感じかな。

 と言っても、別に明日サブレを作るわけじゃないけどね。

 このサブレは、今日、職人街に行く時に持っていこうと思っていたものだし。


「え!? クッキーなのですか!?」


「うん、今作ってるのはサブレだけどね」


「コロネさん! ちょっとピーニャもお手伝いしてもいいですか? その焼き菓子にも興味深々なのですよ!」


「わたしは別にいいけど、パン工房の方の準備は大丈夫なの?」


 新しいお菓子作りとなると、ピーニャが乗り気になるのはいいんだけど、昨日もメイデンさんにこっぴどく怒られて、半泣きになってたような気がするんだけど。


「そちらの準備は、昨日しっかりとやったのですよ……はい、頑張ったのです……」


 ちょっと疲れたように苦笑するピーニャ。

 夕方から夜にかけて、ずっと仕込みをやっていた、とのこと。

 それに、まだ早番のスタッフさんたちが来るまでは大分時間があるから、と。

 いや、でも、いくら時間があると言っても、生地を休ませる時間とかも必要なんだけど。

 そう、ピーニャに伝えると。


「大丈夫なのです! 生地がちょうどいい時間になりましたら、こっそりと様子を見に来るのですよ」


「いや、それ、全然大丈夫じゃないよね?」


 実はピーニャって、強いよね。

 懲りないって言い換えてもいいけど。

 自分がやりたいこととか、興味のあることに関しては、その欲望の忠実と言うか。

 ほのぼの系の妖精さんかと思いきや、どこまでも一直線というか。

 まあ、本人が大丈夫っていうんだから、いいかな。

 後で怒られる覚悟があるのなら、コロネも何も言わないよ。


「うん、それじゃあ、パン工房のことを考えるとあんまり時間もないから、早速作業の方に加わってね。手順とかを説明していくから」


「はいなのです!」


 使う材料はバターとハチミツ、微量のピンク色のマジカルベーキングパウダー、それに、この町で作っている中力粉だ。

 できれば、アーモンドパウダーとかもあった方がいいんだけど、そっちはまだ毒食材の件がクリアしてないから、入手できないし。

 アーモンド自体は、『夜の森』のラズリーさんのお店でも作っているんだよね。

 だから、そっちに関しては、コロネの解毒調理の能力の問題だし。


「あれ? コロネさん、お菓子作りにお砂糖を使うのですか?」


 ピーニャが指差したのは、粉のお砂糖だ。

 そう、こっちが、今日のお菓子作りの肝でもある。

 明日に備えて、これを使った場合、味がどういう風になるのか、ちょっと確認が必要だったので、サブレを作ろうと思ったのだ。

 ちなみに、この砂糖、普通のさとうきびから作った砂糖ではなくて。


「うん、ちょっと、さとうきびとは別の方法で、わたしが作ってみたお砂糖だよ。だから、塔で使っているお砂糖と比べると見栄えが悪いんだけどね」


「えっ!? コロネさん、お砂糖を作ってたのですか!?」


「うん、アランさんたち『竜の牙』の人たちから譲ってもらったメープルシロップから、お砂糖づくりをしてみたのね」


 さすがに最初に預かった量だけだと足りなかったから、追加でもう少し採ってきてもらってはいたんだけどね。

 シロップの量を考えると、シュガー状の砂糖にしちゃうとかなり量は少なくなってはしまうんだけど、それでも、一定量の粉砂糖は確保できた。

 現時点では、普通のきび砂糖をお菓子作りに使えないから、色々と頑張ってみたんだけどね。

 うん。

 そういう意味では、この塔の設備に感謝だよね。

 向こうでの知識とかと合わせて、何とかメープルシュガーが精製できたし。

 この辺は、うまくいく保証がなかったから、お仕事の合間にこっそりと仕込んでいたんだけど。

 まあ、オサムさんとかは気付いていたみたいだけどね。


「だから、後は、お菓子に使うと、こっちのメープルシュガーだとどうなるかっていうチェックだけなのね。それじゃあ、始めるよ。まずは、粉類の準備ね。小麦粉とお砂糖はしっかりふるいにかけて、さらさらの状態にしておくの」


 サブレの場合、食べた時の食感が重要だからね。

 あの、口の中でほろほろと崩れる感じ、それが繊細で細かく崩れるようには、材料の混ぜ合わせ方が重要になるのだ。


「出来上がりのイメージは、ちょっとした衝撃で崩れる砂のお城、かな。それをバターと小麦粉を使って生み出すのね」


 バターを溶かさないように、細かい粒状にして、それを一気に小麦粉で取り囲んでしまうイメージ。


「だから、冷たく冷やしたバターを小さくちぎっているのね。この大きさがなるべく小さい方が後の作業がやりやすくなるかな」


「はいなのです。粉のところにバターを散らすのですね」


「そう。この状態で、バターをつぶしながら、粉を混ぜるんだけど、今日はちょっとこういうものを使ってみるね」


「それは……カード、なのですか?」


「うん、薄く延ばした、金属製の板だね。これをふたつ使って、バターの表面に粉をまぶしながら、切り込むの……こんな感じね」


 手でほぐしてもいいけど、その場合は、氷水で指先を冷やしながらって感じかな。

 バターが溶け出さないうちに、細かく粉と混ぜる。


「そして、この状態からさらにバターと粉をほぐしていくのね。この両手で粉をすり合わせるようにして、バターを細かくする手法をサブラージュって言うの。今日、やっているサブレの作り方は、サブラージュ法を使った作り方ね」


「なるほど、なのです。サブラージュ法、なのですね?」


「そうそう。『砂状にする』とか『サラサラにする』って意味ね。これを続けると、ちょっと状態が変化してくるの。ほら、だんだんと粉っぽくなくなって、生地が黄色くなってきたでしょ? こうなってきたら生地をまとめて……はい、こんな感じね。ここでの注意は、決してしっかりと練っちゃいけないってところだね。その辺は、パン生地を練るのとちょっと違うところね」


 練ることで、サクサクとした食感が失われてしまうから。

 そうなると、残念ながら、サブレとしては失敗かな。

 そういう意味では、かなりデリケートな生地なんだよね。


「後は、これを円柱状というか、細長い棒状にして……これで冷蔵庫で冷やすせば、焼き上げ前の工程は終了ね。それじゃあ、ピーニャもちょっとやってみてね」


「はいなのです!」


 早速、今教えた通りにピーニャにもやってもらう。

 ポイントは、材料の温度かな。

 手際よく作業を行なうことで、バターが溶けないようにするのが大事だから。


「うん、その調子。いい感じだよ、ピーニャ。それと、補足としてだけど、今のサブレの材料は、すべて同じくらいの低温の状態で準備しておいてね。粉類も冷やしておかないと、バターが部分的に溶けちゃって、混ざり方が均一にならないから」


「はい! 気を付けるのです! ……コロネさん、こんな感じでサラサラになればいいのですか?」


「うん、それで大丈夫だよ。後はもうちょっとサブラージュして……そうそう、そのくらいの感じになったら、生地をまとめていくのね。うん、うまいうまい」


 やっぱり、ピーニャって、手際がいいよね。

 要領がいいというか。

 その辺は、普段から、パン生地とかを取り扱っているからなんだけど、コロネがやったことを忠実になぞってくれているというか。

 教える側としては、とても助かるんだけどね。


 そうこうしているうちに、ピーニャの方も作業が終わって。


「うん、それじゃあ、ひとまず冷蔵庫で冷やそうかな。後は、焼き上げの工程だから、ちょうどいい時間になったら呼びに行けばいいかな?」


「なのです。もしくは、ピーニャがそのタイミングでこっちに来るのです」


 それとなく、いなくなるのは得意なのです、とピーニャが笑う。

 いや、それはどうなんだろうね?

 一応はパン工房の責任者なんだからさ。

 まあ、いいのかな。


「うん、わかったよ。わたしも、この合間で、アイスとプリンの方を仕上げちゃうから、続きの作業になったら、よろしくね」


「はいなのです!」


 そんなこんなで、生地が冷めるのを待ちながら、別の作業にとりかかるコロネたちなのだった。

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