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ちょこっと! ~異世界パティシエ交流記~  作者: 笹桔梗
第6章 町の外への挑戦編
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第379話 コロネ、温泉の二階でまったりする

「チュンチュン、では、こちらの方で楽になさってください」


「ジュースをどうぞー」


「セっちゃん、涼しい風お願いー」


「良かった、それほど大したことはなさそうです、チュンチュン」


 二階のお部屋の方にたどり着くと、飛んでいるすずめさんたちが数人と、水色系の淡い色の着物を着た、銀髪の女性が待っていた。

 たぶん、お宿雀さんたちと、雪女のセツさんだね。

 ムーのレイさんにお姫様抱っこされていたマリィを、いつの間にか敷かれていた布団の上に寝かせて、そこに、涼しい風を送りつつ、セツさんがマリィの身体をなでて。


「あー、冷たくて気持ちいいですぅ」


「軽いのぼせ症状ですね。少しだけ熱を奪いますから、水分摂取の方をお願いいたします」


 マリィの身体に触れながら、ニッコリと微笑むセツさん。

 これなら、大丈夫です、と。

 さすがに、湯疲れしたお客さんへの対処に慣れているよね。

 一匹、いやひとりだけちょっと大きめのすずめさんが混じっていて、その人が周りのすずめさんたちに指示を出して、ジュースのお代わりとかを運ばせているし。

 たぶん、その大きなすずめさんがチュンリンさんだね。

 すずめさんたちの中でも、女将さんって感じだもの。


 おー、すずめさんが飛んでいる横を、一緒に飛ぶようにして、ジュースの入ったコップがやってきたよ。

 これが念力ってやつかな?

 自分の身体よりも大きいものを軽々と、だ。

 すごいねえ。


「『もののけ湯』特製の元気になるスペシャルドリンクですー。もう少し飲めば、身体が楽になりますよ。チュンチュン」


「はいぃ……あー、美味しいですぅ」


 色々な果物の味がしますぅ、とマリィが笑う。

 うん。

 マリィの顔色も大分良くなって来たし、これなら大丈夫かな。

 さっきまでけっこう、真っ赤だったものねえ。

 ヒートショックと熱中症は、お風呂とかでも気を付けないといけないことだからね。

 まあ、それほど大したことがなくて良かったよ。

 マリィに改めて聞いてみると、黒い温泉なんて初めてだったらしくて、ついうれしくなっちゃったんだとか。

 そもそも、温泉自体がお初だったみたいだしねえ。


「ありがとうございました、皆さん」


 何だか、色々とお手数をおかけしまして。

 この時間だと、他のお客さんも少ないから、割と余裕があったらしいけど。


「いえ、コズエさんからもよろしくとのことでしたので。申し遅れましたが、こちらの温泉でお仕事させて頂いております、セツという者です。妖怪種の雪女です。以後、お見知りおきを」


「チュンチュン、うちらは、皆さんのお世話を担当している『鈴女衆』だよー」


「たぶん、人間種には区別がつかないだろうから、すずめって呼んでくれれば、それでいいですからねー」


「一応、そっちのちょっと大きめのが、衆頭のチュンリンですね。彼女をトップに、この建物内には数十人のお宿雀が働いておりますね」


 自らのあいさつと別に、すずめさんたちのこともセツさんが教えてくれた。

 セツさん自身も、お客さんのお世話と、空調設備の方を担当しているとのこと。

 後は、ちょっとしたサービスとかかな。

 さっき、マリィがやってもらったように、セツさんの手で身体をなでてもらうと、お風呂上がりだと、とっても気持ちいいんだって。


「こちらこそ、よろしくお願いします。料理人のコロネです。こっちは、こんな格好ですみませんけど、お弟子さんのマリィと、わたしの頭の上にいるのは、わたしの家族でもあるショコラです」


「よろしくお願いしますぅ。本当にありがとうございましたぁ」


「ぷるるーん! ぷるるっ!」


「ちなみに、ムーのレイさんの方は?」


「ええ、先程、ごあいさつさせて頂きました」


『ムームー!』


 そっかそっか。

 それなら、問題なさそうだねえ。

 というか、何だか、マリィののぼせ騒動のおかげで、バタバタとしちゃったんだけど。

 慌ただしいというか、せわしないというか。

 まあ、無事で何よりなんだけどね。


「ちなみに、お風呂でのぼせる方って多いんですか?」


「いえ、それほどは多くはないですね。そもそも、この温泉の場合、常連さんがほとんどですから。皆さん、温泉に慣れておられますしね」


「というか、普通は、のぼせそうになってると、ユノハナが気付きそうなものなんだけどねー。チュンチュン」


「あー、なるほど」


 チュンリンさんの話だと、旦那衆がぐったりしてることはあっても、女湯でのぼせるお客さんってのはあんまり聞いたことがない、とのこと。

 あー、何となく理由がわかった気がするよ。

 ユノハナちゃん、新しい温泉に興奮してて、ちょっと、そっちに気が行っていたんだろうね。


「えっ!? 新しい種類の温泉ですか!? それは初耳ですね。まあ、私の場合、あんまり長湯すると弱ってしまうので、温泉にはほとんど入らないんですけどね」


 そう言いながら、苦笑するセツさん。

 まあ、それはそうだよね。

 何せ、雪女だし。

 でも、別に、お湯にちょっと浸かるくらいは何てことはないそうだ。

 ただ、どうしても、お湯の方もぬるくなっちゃうから、お客さんがいる時は一緒に入ったりはできないとのこと。


「へえ、新しい温泉ね? チュンチュン、それは面白そうな感じだね」


「うちらも試しに入ってみたいですー」


「今は黒い温泉なんですねー?」


「はい。今さっき、ユノハナちゃんが、コズエさんにそのことを伝えに行きましたし」


 コロネたちが二階に来るのとは別に、ユノハナちゃんがそっちに向かって行ったんだよね。

 たぶん、今のマリィの件と、温泉の話をしに行ったんだろうけど。

 ちょっとの間なら、別にユノハナちゃんも温泉から離れてても問題ないそうだ。


「ともあれ、普通ののぼせ程度でしたら、問題ありませんよ。私たちで処置できますから。もしちょっと危険な状態でも、こちらの温泉は位置的に、病院から近いですからね。ギンさんに来てもらうか、こちらから早急に搬送すれば、きちんと診てもらえますから」


「あ、そういえば、病院がすぐ側なんですね?」


 そうそう。

 行こう行こうと思っているんだけど、行けてない場所のひとつが病院なんだよね。

 この町の住人になった以上は、ちゃんと健康診断を受けないといけないんだけど。

 まあ、暇な時でいいとは言われているんだけど、油断してると、ずるずると先延ばしになってしまいそうだよ。

 早めに行っておかないとね。


「それとも、どうするの、マリィ。今から病院に行ってみる?」


「あー、大分良くなりましたし、大丈夫そうですよぅ。それに、こんな夜遅くでは、そのお医者さんの先生にもご迷惑なんじゃないですか?」


「うん、それもそうだねえ」


 確かに夜遅くって、救急病院ってイメージがあるしね。

 今のマリィとかなら、あんまり心配なさそうかな。

 というか、マリィたちも健康診断ってやってないだろうから、病院に行く時は一緒に行った方がいいかもしれないね。


「ふふ、落ち着かれたようで何よりです。では、ごゆっくりどうぞ。何か、ご注文等ございましたら、こちらの呼び鈴をお使いください」


「基本、お客様のくつろいでいるのを邪魔しないのが、『もののけ湯』クオリティなのですよ。チュンチュン」


「ではではー」


 そう言い残して、セツさんや、すずめさんたちは部屋から出て行った。

 というか、改めて、案内されたお部屋を見ていると、和室で畳敷きのいかにもな、和風旅館という感じのお部屋だと気付く。

 というか、『もののけ湯』って中庭とか裏庭もあるんだね。

 窓から見えるのは、そんな感じの侘び寂びを感じさせるいい感じのお庭だった。

 今は夜で、ほんのりとした灯りだけだけど、ちょっとした枯山水のような空間も見て取れるし。

 京都のお寺とかにありそうな、石庭かな?

 窓を開けると、ちょうど涼やかな風がそよそよと室内へと入ってきて、湯上りの火照った身体にちょうどいい感じだし。

 テーブルの上には、すずめさんたちが注いでくれた、温かいお茶が一杯。

 意外かも知れないけど、涼しい風と温かいお茶の組み合わせって、湯上りにちょうど良かったりするんだよね。

 もちろん、冷たい飲み物もいいんだけど。


 マリィやムーのレイさんはジュースを飲んでいるしね。

 ショコラはショコラで、お茶菓子を食べてるし。

 って……え!? お茶菓子!?


「え!? お茶菓子あるの!? あ、なるほど、干し柿を袋詰めしたものなんだね」


 そういえば、柿もコトノハの名産品なんだっけ。

 例によって、普通のルートだと入手困難な果物だよね。

 栗と柿に関してはコトノハの方と交渉が必要な食材ではあるかな。

 あと、小豆と。

 和風のお菓子にはけっこう重要な食材が多いからねえ。

 やっぱり、あんまり後回しにはできないよね、妖怪さんたちの国って。


 せっかくなので、コロネも干し柿を食べてみる。


「あっ、美味しい! 自然の甘みがいい感じだねえ、この干し柿」


 しかも、中の方が少しだけとろりとしているのだ。

 これ、なかなかすごい出来だよ。

 そういえば、お菓子の菓って、元は柿とかの果実を意味していたんだものね。

 そういう意味では、お菓子の原点みたいな味がするよ。


 干し柿を食べて、お茶を飲んでまったりとしながら。

 お風呂上がりをのんびりと過ごすコロネたちなのだった。

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