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ちょこっと! ~異世界パティシエ交流記~  作者: 笹桔梗
第6章 町の外への挑戦編
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第375話 コロネ、伝言板をのぞき見る

「えーと、ここからが、伝言板ボードって場所なんですね」


「うん、次の扉を開くと、伝言板ボードだね。もっとも、ここに関しては、ちょっと見て帰る感じだけど」


「あ、そうなんですか?」


 所変わって、休憩所ラウンジから、一度、受付インフォの方に戻って。

 また、サンゴさんに案内されてやってきたのは、いくつかの扉を抜けた廊下の先の空間だった。

 一応、伝言板ボードの施設って、この廊下の区画を挟んで、他の場所からは区切られているんだそうだ。

 理由は、伝言板ボード自体のシステムにあるらしいけど。


 ちなみに、あの後、ヴリム君とジュンナさんとは、もう少しだけ話をしてから別れた。

 そろそろ、アノンさんも時間がなくなるみたいだし、ふたりはふたりで、ちょっと別に調べることができたって、図書館ライブラリの方に行ってしまったし。

 ただ、チョコレートに関しては、ものすごく気に入ってくれたみたいで。


『コロネさん、また、このチョコレートって食べられますか?』


『そうなのね! コロネ、この食べ物、図書館ライブラリに登録する気はないの?』


 えらく食いつかれてしまった。

 どうも、ヴリム君が興奮していたのって、ヴァーミさんの件だけじゃなくて、純粋にこのチョコレートが美味しかったってのが大きかったのだそうだ。

 チョコレートを味わうためには、何でも手伝いますって、言われちゃったし。

 なので、助力を頼んでみた。

 ヴリム君も、この町の外に行く機会が多い人だから、旅先で、カカオ豆については調べてほしいって感じで。

 モンスター図鑑の新種のチェックとかもやってるんだったら、そういうのって、実はうってつけだものね。

 餅は餅屋って感じで。

 もちろん、カカオの件については、快諾してくれて、早速、図書館ライブラリの方で、情報を調べてくれるって。

 その手の作業は慣れてるみたいだし、ちょっと期待しちゃうねえ。

 うん、いい感じだよ。


 で、チョコレートの登録に関しては、丁重にお断りしておいた。

 自分で作れない以上は、あんまりよくないし。

 それに『チョコ魔法』に関して、大っぴらになるのも望ましくないので、その辺は、まだ難しいところではあるのだ。

 まあ、何にせよ、チョコレート作りが前進してくれれば、いつかは登録までたどり着けるだろうね。

 今は、まだ焦らずに頑張ろうっと。


「そうそう。噂ネットの案内の最後で、申し訳ないんだけど、長居すると危ないからねえ、ここ。というか、中の施設として使うような場所じゃないよ? ボクや案内人ナビたちでも、物理的に情報にたどり着くのが大変だから」


「そうなんですか?」


「ああ。時間帯にも依るが、ここって、空間拡張と圧縮整理が常に繰り返されている場所なのさ。だから、基本は覗き見るか、魔道具を通じて会話に加わるか。そのどっちかだぜ。じゃあ、今から扉を開けるから、耳はふさいでおいてくれ」


「えっ? 耳?」


 えーと、伝言板なのに、耳って。

 とりあえず、言われた通りに耳に手を当てて、と。

 そうこうしているうちに、サンゴさんが光って、その光に反応するように、扉が開いていく。

 その途端、何やら凄まじい喧噪がこっちの扉の外まで飛び出してきた。


『新聞完成、後はチェックだけね。これで何とか明日は発売できそう』

『明日のサイファートの町の周辺のお天気予報です』

『大至急、護衛を頼むぜ』

『おいおい、土木作業、中途半端じゃねえか。何があったんだよ?』

『本日のプリンクラブの活動についての報告書については、例の場所にまとめております』

『食った食った。美味かったぜ』

『うわーん! ひとり迷子になっちゃった! 夜の森の探索をみなさんも手伝ってください!』

『ファム母さん、あっちの区画って、もうちょっと人員を配置できない?』

『おーい、みんな、明日は待ちに待った、リディアとメルのバトルだぜ。暇なやつ、青空市集合な』

『てすと』

『社長、今、ネットの中でしょ? 見てる? 早いとこ、記事のチェック済ませて!』

『門のところで、町に侵入しようとしてたやつを確保。とりあえず、いつも通りの対処でいいな?』

『プリンの新しい料理美味しかったよ』

『ちょっと待って!? それじゃ、終わらないじゃないのさ! いいから、あたしが行くまでそのままで待ってな!』

『今日は、いっぱい、鶏肉が獲れました。明日も狩りに行きますので、希望者は宿舎の方までお願いします』

『おい、領主代行はどこ行った!? 今いる場所知ってるやつ、教えてくれ』

『ねむ』

『そういえば、工房って、休みなんだっけ? え? 明日も?』

『なのです。明日はコロネさんはお休みなのですよ。パン工房の方は、開いているのです』

『終わった終わった! これで寝れる!』


 一斉に飛び出してくる言葉たち。

 同時にあちこちから聞こえてくるせいか、まったく判別できない内容のものも多いね。

 耳をふさいでいるのに、うるさくて仕方ないもの。

 扉の向こうに見えるのは、天井が高い体育館のような場所だ。

 ただ、四方が、例によって、ものすごく広くて、端の方がまったく見えないと言うか。

 ものすごく広い部屋のようだ。

 そして、図書館ライブラリの時の本棚の配置みたいに、至る所に大きな衝立というか、両面が掲示板になっている壁のようなものが立てられていて、それが、地面からにょきにょきと生えてきたかと思うと、今度は奥の方の壁が上空へと飛び上がって、空中に開いた穴のような場所へと吸い込まれていくのが見えた。

 いや、何これ?

 全然、イメージしていた場所と違うんだけど。

 どっちかと言えば、機械の中の歯車とかを中で見ているというか、向こうの世界の工場見学の時のような、動きは激しいんだけど、どこか整然としている流れ作業を思わせる感じで、掲示板が生えては、空中の穴へと消えていく。

 うん。

 さっき、アノンさんが見ていると疲れる、って言っていた意味がよくわかる。

 何かもう、具合が悪くなってくるような場所だね、ここ。

 さっきから、人の声の喧騒がひどいし、とにかくうるさいし。

 

 と、バタンという音と共に、扉が締められて。

 また、静かな廊下が戻って来た。


「……何だか、すごかったですね」


「まあね。これが、噂ネットの中の伝言板ボードね。前にも説明したかもしれないけど、伝言板ボードって、この施設の中に、外から、言葉を刻んでいく感じの施設なんだよ。一定量がたまると、さっき見ていたように、情報を整理するために、空中の穴へと送られて、そこで、ナビたちとか、整理担当に者が作業しているって感じかな。まあ、作業と言っても、大体はオートマチックだけど」


案内人ナビの中でも、この中専属のやつもいるぜ。気付いたかも知れないが、中を飛び回ってる連中もいたろ?」


「いえ、何か、それどころじゃなかったんですけど」


 気付く以前に、状況に圧倒されて、何が何だかよく分からなかったんだけど。

 扉ごしに見ていただけなんだけど、この施設のすごさは体感できたというか。


「ちなみに、今の言葉って、リアルタイムのものなんですか?」


「そういうのもあるぜ。伝言板ボードの種類によっては、直接の会話みたいになってるのもあるし、ちょっと前の発現が再生されているだけのものもあるな。もっとも、ここだと、物理的な分量になるので、普通はそれぞれの情報を把握するのは難しいけどな」


 そっちに特化した連中じゃないと、とサンゴさんが苦笑する。

 サンゴさんも、どちらかと言えば、やってきた人を案内する方なので、こっちの作業に関してはあんまり得意ではないのだとか。

 なるほど。

 その辺は適材適所なんだね。

 

「つぶやきが、音声として具現化されたら、こんな感じなのかな?」


「でも、図書館ライブラリの時もそうだったけど、それをこんな感じにするメリットってほとんどないんだよね。この辺も、ナビたちの趣味だよ。情報量の膨大さを体験するための施設と言うか。なので、噂ネットの中でも、使い勝手の悪い場所って感じではあるんだよね、ここ」


「近々の情報のチェックにはいいけどな」


「あ、そういえば、アノンさん宛てっぽい内容もありましたよね?」


 社長って、アノンさんのことでしょ?

 記事のことがどうとかって言ってたものね。


「あったっけ? ボクは知らないけど。うん」


 うわ、明後日の方向を向いたよ、この幽霊さん。

 というか、絶対、今のって聞いてたよね?

 まあいいや。このまま、ゆっくりしているとコロネも共犯にされそうだし。


「アノンさんの予定もあるみたいですし、そろそろ戻りましょうよ」


「うん、その予定ってのは何のことかは知らないけど、これで今のコロネが行ける場所の説明は終わったしね。受付インフォから帰ろうか」


「ああ、じゃあ、送るぜ。俺の後ろをついてきな」


 そんなこんなで、受付インフォから、噂ネットを後にするコロネたちなのだった。




「……あれ? ここは?」


 目が覚めると、そこは、噂ネットに入った時の調理場ではなくて、コロネの間借りしているスタッフ用の個室だった。

 というか、ベッドの上だね。

 いつの間にか、両手でショコラを抱えていて、アノンさんが右側から抱き付いていて。

 そして、例の『匣』も持っているし。


「あー、お目覚めですかぁ? コロネさん」


『ムームー』


「あっ、マリィ。それに、ムーのレイさんも」


 椅子に座ってこっちを見ているのは、マリィたちだ。

 もうすでに、制服は脱いでしまって、いつもの私服の方を着ているけど。

 というか、状況がよくわからない。


「あのですね、わたしたちはオサムさんに言われて、コロネさんたちをここまで運んできたんですよぅ。さすがに、厨房で横になられるのは困るから、って」


「あ、そうだったんだ?」


 というか、当たり前のことだよね。

 何だかすいません、って感じだよ。

 と、横のアノンさんも目を覚ましたので聞いてみた。


「この『匣』を使っていても、身体って、動かせるんですね?」


「そうそう。攻撃は不可だけど、場所を固定するわけじゃないからねえ」


「膜みたいなものに包まれて、お三方がひとつになってましたけど、その膜ごと運べましたよぅ。もちろん、運んでくれたのはレイさんですぅ」


「そうなんだ。レイさん、ありがとうございます。もちろん、マリィもね、どうもありがとう」


 何だか、迷惑をかけちゃったね。

 これは、使う時は場所に気を付けろ、ってことか。

 反省反省。


 ともあれ、そんなこんなで、コロネたちの噂ネット散策はひと段落となったのだった。

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