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ちょこっと! ~異世界パティシエ交流記~  作者: 笹桔梗
第6章 町の外への挑戦編
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第366話 コロネ、匣の使い方を教わる

「まあ、そうは言っても、ボクが『はこ』を使っているのを見せても、たぶん、ピンと来ないだろうから、実践も兼ねて、早速、噂ネットワークの方に入ってみようか。コロネとショコラも一緒にね」


 ちょっと『匣』を貸して、とアノン。

 どうも、このアイテムの簡単な説明をしてから、そのまま、噂ネットの中に入っていくみたいだね。

 促されるままに、コロネが『匣』を渡すと、アノンさんが手のひらでそれを握ったり、かざしたりして。

 そうすることをしばらく続けていると、突然、『匣』が光り出して。

 中の水というか、液体状の何かが震えだして、『匣』の上の方から、モクモクとした煙のような、霧のようなものが発生し始めた。

 あ、これ、霧を生み出す道具なんだ?


「うん。やっぱり、これ、『霧桐の式』だね。霧箱、泡箱の式神封印。そのうちの霧箱かな。ま、早い話が、中の液状のものが式神で、それが霧になって現れるって感じかな」


「はあ、なるほど」


 いや、アノンさんが何を言っているのか、よくわからないんだけど。

 何というか、専門用語っぽい単語ばっかりでさ。

 式神封印とかは、まあ、この『匣』自体が、式神の箱って感じだから、何となく理解はできるんだけど。


「ごめんね、コロネ。細かい部分の説明をしっかりやっちゃうと、ボクがコズエから怒られるかもしれないから。まあ、素材くらいなら大丈夫かな? この『匣』、コトノハの特殊なご神木で作られているんだよ。『聖なる桐』ってね。この桐の樹って、式神とか宿すのに都合がいいから、割と、コトノハでは大切にされているんだ。こんな風に、ちょっと加工すると、透き通った感じにもできるから」


「え!? これって、木でできているんですか?」


 それはちょっとびっくりかな。

 何でも、こっちの世界だと、桐の樹って、ご神木の一種なのだそうだ。

 精霊とか、妖怪が宿りやすい樹って感じで。

 いやいや、ということは、この『匣』って、ある意味、貴重品ってこと?


「まあね。最初っから透明ってわけじゃないけど、それでも、ある季節だけは、生えている状態の桐でも、光を通したりする性質があったりするんだよ。ふふ、こっちだと、桐って特殊素材のひとつだからね」


 値段に関しては内緒だよ、とアノンが笑う。

 一応、この町の場合は、果樹園の方でも桐の植樹はやっているそうで、コトノハのご神木ほどは貴重ではないみたいだけど。

 それでも、そこそこはする素材らしい。


「って、言っても、この大きさだと大したことはないけどね。まあ、それはさておき、この『匣』の使い方ね。普段から、コロネがショコラに接している感じの要領で、式神に語り掛けるというのかな。『出てきてください』って、心の中で念じつつ、召喚術を発動させる感じでやれば、この状態になるみたいだね」


 そう言って、霧を指差すアノン。

 確かに、霧と言っても、普通の霧と違って、そのまま周囲に広がっていくような感じじゃなくて、『匣』とか、それを持っているアノンの周囲にからまって、くるくると回っているような感じになっているのだ。

 つまり、この霧自体が式神ってわけだね。

 まあ、そこまではいいんだけど。


「あの、アノンさん。わたし、召喚術の発動については、感覚がよくわからないんですけど」


 というか、ショコラのたまごを呼び出した時くらいだよ?

 召喚を意識したのって。

 あの時は、チョコレートのたまご来い、って感じだったけど、そもそも、普段のショコラに対して、召喚しているって意識はほとんどないんだけど。

 移動の時は、頭の上にいるって感じだけだし。

 とりあえず、今も頭に載っていたショコラを、両手で抱きかかえてみたけど。


「ぷるるーん?」


 うん。

 やっぱり、召喚しているっていうよりも、ショコラはショコラで、自動的に動いているって感じだものね。

 前に、コノミさんからは、常時召喚型って言われたけど、普段はあんまりそういう意識はないんだよね。

 術師と召喚獣っていうより、普通に家族みたいな感じだし。

 どこに行くにも、一緒についてきてくれる、可愛い家族って感じかな。


「うん、だからね。ほら、コロネがいつもやってる、『ショコラ、おいで』ってのでいいんだよ。あれも、一応は、召喚術が発動している感じだから」


「えっ!? そうだったんですか!?」


 いやいや、それはちょっと初耳なんですけど。

 え? それじゃあ、普段はあんまり意識してなかったけど、あれって、ショコラに対して、強制みたいな感じになってたの?

 それはそれで、かなりショックなんだけど。


「ぷるるーん? ぷるるっ!」


「あれ? ショコラが、そんなことはない、って感じなんですけど」


「いや、だから。便宜上そんな感じだってだけだよ。おんなじ要領でやればいいってだけだって。とりあえず、ボクでもこの『匣』は発動できたから。たぶん、ショコラの場合は、ちょっと普通の召喚獣とは違うとは思うし」


 そもそも、式神使いじゃない者にも使いやすくはしてあるみたいだし、とアノンが苦笑して。


「まあ、それでも、多少は召喚術の適性は必要みたいだけどね。でも、そっちの方は、コロネはすでにクリアしてるから。だから、トライもこのアイテムを渡してくれたんでしょ。普通の魔道具とかよりも使いやすいだろうから」


 なるほど。

 そういうものなのかな。

 相変わらず、コロネ単独だと、地下へのエレベーターも使えないから、そういう意味では、普通の魔道具を使うのも、ちょっと難しいかも、って感じらしい。

 塔の調理器具というか、設備の場合は、そもそも、魔法が苦手な人でも使えるようになっているらしく、どっちかと言えば、向こうの世界の機械的な仕組みになっているそうだ。

 あれ?

 ということは、ちょっと待って?


「だったら、アノンさん。この『匣』もそういう感じじゃダメなんですか?」


「うん? 魔法とか、召喚術が使えない人でも使えるような、ってこと?」


「はい。そういう風には作れないんですか?」


「まあね。噂ネットワークにつなげるって機能に関しては、さすがに魔法由来か、何らかの術式由来じゃないと難しいよ。何せ、機械とか、機構だけで、『仮想空間』に直つなぎするのって、まだシステム的には厳しいじゃない。せめて、コロネがその手の技術職としての知識とか持ってれば別だろうけど」


 あー、なるほどね。

 塔の設備の場合は、向こうにあった機械と、こっちの魔法技術の融合って感じだものね。

 そもそもが、メカニズムがはっきりしていない部分に関しては、魔法とかの融合部分が大きくなるわけで、その分、ブラックボックスも大きくなっちゃうって感じなのか。


「こっちだと、自分と違う存在の中に入るというか、精神をつなげるって感じの術式もあるからね。そっちを応用してるんだよ」


 ほら、ボクの記憶共有もそんな感じでしょ、とアノン。

 そう言われればそうだよね。

 というか、だれかと意識を共有するとかできるんだね。

 そう、感心していると。


「いや、コロネはもう覚えているでしょ? 『同調』系の魔法がまさしくそれだってば」


「あ、そうですよね。あー、つまり、噂ネットワークに入るっていうのは、その『仮想空間』に『同調』を使っているって感じなんですね?」


「うん、そういうこと。ただ、まあ、ほら、具体的なターゲットがあるわけじゃないから、その補正として、魔道具とかが必要ってだけでね。本当に、噂ネットワークの仕組みを理解していれば、別に道具なしでも接続可能だからね。もちろん、禁則事項のつなぎ方をしようとすれば、中のナビとかが、弾いちゃうけど」


 だから、魔道具の使うってのは認証の意味もあるんだよ、とアノン。

 なるほどね。

 色々と中に入る方法はあるみたいだけど、向こうで言う、ハッカーみたいな入り方をしようとすると、弾かれてしまうシステムにはなっているらしい。

 

「ね? 拒否すれば、弾くことができるってのも、『同調』とおんなじでしょ? ざっくりと説明すると、そんな感じなんだよ。噂ネットワークって。じゃあ、まあ、説明はこのくらいにしておこうか。コロネ、ショコラ、もうちょっとボクに近づいてもらっていい?」


「え? 今より更に、ってことですか?」


 今の時点でも、コロネたちとアノンさんの距離ってかなり近いんだけど。


「うん。できれば、密着するくらいの方がいいかな。この『霧箱』って、一応は、範囲系の術式なんだけど、どうも、包み込むための霧の範囲が狭いみたいでさ。ある程度、密着してないとダメっぽいんだよね」


 さっきから、もうちょっと範囲を広げようとしているんだけど、うまくいかないし、とアノンが苦笑する。

 あ、話しながら、そんなことを試していたんだ?


「たぶん、これ、コロネ用だからだね。コロネとショコラが入る程度までしか広げられないというか。まあ、でも、もうひとり分くらいは何とかなりそうだから、ボクも一緒に入ってみるけどね」


「あ、霧で包み込まれた人はまとめて、噂ネットに入ることができるんですね?」


 なるほど。

 それで、トライさんが『ショコラも』って言っていたのか。


「そういうこと。それじゃあ、わかってくれたところで、もうちょっと近づいてもらってもいいかな?」


「はい、わかりました」


「ぷるるーん!」


 一応、ショコラを抱きかかえる感じで、それで、アノンさんと密着して。

 これで、準備オッケーなのかな?


「うん。それじゃあ、ちゃんと『匣』を発動するからね。いきなり、立っている場所が変わったような感じになるから、びっくりしないでね? それじゃあ、行くよ?」


「はい!」


 そう、コロネが返事をするのと同時に、三人の身体に『匣』から生み出された霧がまとわりついてきて。

 そのまま、霧に包まれるのを感じたまま。

 コロネの意識は暗転した。

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