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ちょこっと! ~異世界パティシエ交流記~  作者: 笹桔梗
第6章 町の外への挑戦編
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第356話 コロネ、パスタ作りを手伝う

「はーい、ここで取り出したのは、こちらの缶詰ねー」


「ああ。こっちも、乾燥パスタと同様、商品販売の計画中だな。味とか、再チェックした上で、冒険者ギルドとかで、そっち向けに販売してもらう予定さ。まあ、最初のうちは、いつものように、町の外への持ち出しに関しては条件を付けさせてもらうが」


「今、使うのは、オサムんが作ったミートソースの缶詰なのにゃ。これを、フライパンとか、鍋とかに入れて温めて、後はゆでた麺にからめるだけなのにゃ」


「ちょっとアノイントの油とか、ガーリックとか、鷹の爪とか、持ってたら、それを炒めてから、ミートソースを加えて温めると、店のソースの味に近くなるな。ポイントとしては、パスタのゆで汁を少し加えて、ソースを整える。それだけで、大分違ってくるはずさ。まあ、もっとも、ソース自体にも油はあるから、アノイントとかなくても、そのまま、火にかけても大丈夫ではあるがな」


「この町以外だと、アノイントの油って、高いしにゃー。麺をゆでるお鍋に水を入れて、火魔法で、一度熱湯にしちゃえば、そのまま、麺をゆでるだけってのも、アリなのにゃ。後は、ゆであがった麺に、そのままソースをからめるのにゃ」


「まあ、火魔法を使えるなら、缶詰を開けて、先にソースだけ温めておくのも手だな。その辺は、自分の能力と相談して工夫してくれ。一応、ゆでた麺が熱々のうちに冷たいソースをからめるだけでも、悪いとは言わないが。その辺は、状況が許すなら、ソースもちゃんと温めてくれよ?」


「それじゃあ、簡単に続きをやっていくよー」


 ステージ上では、オサムさんたちによる『十分クッキング』が続いているね。

 ちょうど、乾燥パスタがゆであがって、って感じかな。

 それにしても、缶詰か。

 今日は、ミートソースの缶詰を使うって感じらしい。


 と、横の方でも、アノンたちが、せっせと、乾麺をゆでているのに気付く。

 あ、そっか。

 この『十分クッキング』って、味見も兼ねているんだっけ。


「うん、そうだよ。あ、コロネもパスタとかは大丈夫だったでしょ? せっかくだから、ちょっと手伝ってよ。リリックとか、マリィもね」


「はい、いいですよ。さっき、アノンさんたちがやっていた工程からですものね」


 ゆでた麺とソースをからめる感じの工程だね。

 一からソースとか作るわけじゃないから、そのくらいは問題ないよ。

 さっきも、手順とかはしっかり目にしてたしね。

 それに、今回の缶詰ミートソースは、素人でも簡単ってのが売りだから、お店で提供できる味レベルは求められてないし。

 それだったら、畑違いのコロネが手を出しても大丈夫だよね。


「あの、アノンさん、私たちもやらせてもらってもいいんですか?」


「もちろん。リリックたちも、お菓子以外にも色々と覚えた方がいいでしょ? 特にマリィは、かな? たぶん、ムーサの町に帰ったら、色々と大変だろうから」


 そう言って、アノンが笑う。

 ちょこちょこ、こっちのふたりにも他の調理法を仕込んでいこう、って感じらしい。

 たぶん、困った時のお手伝い要員を確保するためだろうね。

 うん。


「あのあのぉ、ちなみに、どうすればいいんですかぁ?」


「さっき、オサムがステージ上で言ってたまんまだよ。まあ、見てて。まず、熱したフライパンにアノイントの油と、ガーリックと鷹の爪ね。これを弱火で炒めて……こんな感じでガーリックが色づいたら、缶詰のミートソースを入れて、ここでゆで汁、っと。あ、そうそう、コロネは『ぐるぐる混ぜ』って知ってるよね?」


「あ、はい。ソースを乳化させる工程ですよね?」


 パスタの仕上げの工程だね。

 人によって、表現は違うけど、ソースの中の水分と油分を調和させる、ってやつだ。


「そうそう。じゃ、ここからはスピーディーに行くよ。ゆであがった麺をソースの入ったフライパンに入れて、強めの中火でさっとからめて……ゆで汁、塩、アノイントの油を加えて、そして、ぐるぐる混ぜる、っと!」


 さっきも見ていたけど、やっぱり、アノンの手際っていいよね。

 一応、この感覚とかもオサムさんの技術なのかな?

 それとも、色々と手伝っているおかげで、アノン本人の能力も高くなってるのかな?

 その辺は、ドッペルゲンガーってどういう感じなのかわからないので、何とも言えないんだけど。

 それにしても、鮮やかなものだよね。

 瞬く間に、ミートソースと綺麗にからんで、つやつやになった麺が仕上がる。

 ちなみに、アノイントの油ってのは、オリーブオイルのことだね。

 この町でも、バターの他によく使われている油って、このアノイントか、ゴマ油か、ひまわりとかが原料になっている油だし。

 うん、そうだね。

 油のことについても、そろそろ、ミケ長老のところに相談に行った方がいいかも知れないね。

 今のところ、バターとかで事足りていたけど、薄力粉とお砂糖の問題が解決した後なら、それ以外にも入り用になってくるだろうし。


「はい、完成。ね? そんなに難しくないでしょ?」


「いや、あの、アノンさん。私たちって、コロネ先生と違って、パスタ作りの工程なんて、今日初めて目にしたばかりなんですけど。お手伝いしちゃって大丈夫なんですか?」


 一生懸命、手順通りには頑張りますけど、とリリックが少し困った顔をする。

 見た感じは、そんなに難しくなさそうに見えるけど、今のアノンにしても、ゆで汁とか、オリーブオイルの分量は、ほぼ目分量で、さささっとやってたから、そっちが心配なのだとか。

 まあ、確かにそうだよね。


「大丈夫大丈夫。別に、オサムの味を再現しろって話じゃないし。そういう意味では、お菓子作りとは違って、今日に関しては、数をこなすことを意識してもらえば、問題ないって。目分量で、成功の感覚をつかんでもらうって感じかな? そもそも、この手順だけで、そこまで破壊的な味にするのって、その方が難しいし」


 ミートソースの味がいいから、そこまで心配しないで、とアノンが苦笑する。

 要は、お店ほどじゃないけど、そこそこ美味しいってのが大事、と。

 手軽に、パスタを作れるんじゃないかって、そうお客さんに感じてもらうためのものだから。


「別に、お金取ってないもので、そこまで文句言ってくるお客さんっていないから。少なくとも、リリックやマリィのお菓子作りを見ている限りだと、味覚が壊滅って感じじゃないし。できあがったパスタを味見して、ダメだったら、それは自分で食べると良いよ」


「あー、味覚壊滅って、グラフ姉さんみたいな人ですよねぇ?」


「うん、そうそう。そうなると、いくら料理を教えても、そもそも『美味しい』って感覚が違うから、そっちはどうしようもないから」


 へえ、そんな人がいるんだ。

 そのグラフさんというのは、マリィのお姉さんのひとりらしい。

 ただ、やっぱり、そういうケースもあるんだね。

 アノン曰く、種族差ってわけじゃないけど、こっちの世界でも、本当に、美味しいって感覚が人間種と隔絶している場合も一定数はあるのだそうだ。

 さすがに、そういう人を相手にするときは、味に関しては、そちらに合わせないと満足してもらえるかどうかは難しい、と。

 なるほど。

 まあ、それはそうかもだよね。

 この町で、色んな人にプリンが美味しいとか、言ってもらえたけど、そもそも、ドラゴンさんとか、モンスターさんとかも、人と同じ味覚って、それはそれで、不思議ではあったしね。

 やっぱり、合わない味は合わないってことか。


「まあ、それでも、果物系とか甘いものは比較的マシだけどね。ま、そもそも、およそ、普通の人間種じゃ、食材と言えないものを食べる種族もいるわけだしね。ほら、この缶詰を作ってくれている工場のみんなとかね」


「缶詰を作っている人、ですか?」


「うん。さっき、話は聞かせてもらったけど、コロネ、明日は職人街を巡るんでしょ?」


「いや、アノンさん、いつの間に聞いてたんですか?」


 確か、その話をしてた時って、調理場でパスタを延々と作ってたよね?

 しかもそれ、ついさっきの話だし。


「まあ、その辺は、調理の手伝いをしながらも、取材もしてるからね。そんなことより、職人街に行くんなら、今のコロネだったら、缶詰工場とかも案内してもらえるだろうからね。そっちでも話を聞いてくるのもいいんじゃないかな、って」


「あ、やっぱり、職人街に缶詰を作っている場所があるんですね」


 前にオサムさんもそんなことを言ってたしね。

 そういえば、前に作ってたツナ缶ってどうなったんだろ?

 たぶん、もう完売しちゃったんだろうけど。

 あれ?

 そもそも、町中で、缶詰を売っているところってどこなんだろ?

 今まで行ったことがある場所では、あんまり見かけたことがないよね。


「うん。あそこ、『ドリファンランド』の出身者が多いから。だから、基本はシークレットのひとつだからね。ま、今のコロネなら大丈夫だけど」


「えっ!? そうなんですか!?」


 うわ、知らなかったよ!?

 この町にも、いたんだね。

 つまり、缶詰を作っているのって、お人形さんたちなんだ。

 なるほどね。

 そういえば、あのお人形さんたちって、サーカスの時も、塔で食事をしてなかったものね。

 確か、エドガーさんとかが持ち込んでくれた、被服系の素材を食べてたし。

 さすがに、そっちのものは、味とか言われてもどうしようもないよね。

 コロネも、布とか金属とか消化できないし。


「まあ、方法としては、錬金術系統を使うとか、かな。比較的、お酒を媒介にすると、そっちの種族でも食べられるものは作れるみたいだけど。そっちは、アビーとかの専門だね。もし、お菓子の味を、その手の素材で再現できれば、コロネの作ったものを彼らに食べてもらえるかもしれないよ?」


 なるほど。

 錬金術、か。

 さすがに、錬金術でお菓子を作るって発想はなかったよね。

 でも、それも面白いかな。

 もし可能なら、お人形さんたちに食べてもらえるお菓子ってのは、いいかもしれない。

 今度、アビーさんのところに行ったら、相談してみよう。

 ムーサチェリーの件でも相談があったし、ちょうどいいしね。


「あ、そろそろ、ステージ上の実演が終わるかな? ほらほら、パスタをどんどん作っていかないとね。冷めたら美味しくないから、こればっかりは、人海戦術だよ」


「「「はい!」」」


 コロネたちの他にも、周りでは、他の料理人さんたちがせっせとミートソースをからめているしね。

 うん、頑張ろう。

 そんなこんなで、パスタの調理を手伝うコロネたちなのだった。

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